独占欲の前兆?
『あー、何熱くなってんだ俺は……』
自室への通路を歩きながらぼやくレーレ。
今日は何だが妙な気分になってばかりだ。悠理に置いていかれて寂しくなったり、彼の行き着く先に興味をそそられたり……。
果てにはノーレへの宣戦布告、そんなつもりはなかった――と言うのは嘘か。
少なくとも、彼女に対して引っ掛かりを覚えたのは確かで、いつか悠理とって脅威になる気がしたのは本当だ。今はまだ直感の域を出ないが。
(そう言えば結局、アレは何だったんだろうな……)
アレとは勿論、昼間の一件。
住民達を跪かせたあの威圧。レーレはあの時の光景を目に焼き付けていた。今でも目の前で起こった出来事の様に思い浮かぶ。
あの時、虹色の光は出ていなかった。
彼が能力を使用する際には必ずあの光が出る。力の大小関係なく、だ。
しかし、昼間のアレには全く見えなかった。勿論、昨日の今日で彼の力の総てを把握した訳ではない。
第三者に認識させず、能力を発揮させる方法を会得したという可能性もある。
だが、レーレは不思議と確信していた。――アレはまた別の能力だ……と。
だからこそ、底の知れない彼の力に可能性を見出して、レーレは付いて行こうと決心したのだから。
『――ただいまー』
色々と思索に耽っていたらいつの間にか部屋の前。中の気配を探り、悠理がまだ眠っているのを察して静かにドアを開ける。
――なんでこんな気遣いしてんだろうな俺……
数百年生きてきた中で、誰かと行動するなんて滅多に無かった。だからか、どうもその辺りの接し方で戸惑う。必要以上に気を使う相手でもないのに。
『……カエッテキタ』
『オカエリー』
一応、自分が不在中の護衛として召喚した眷属姉妹が出迎えてくれた。
レーレの眷属とあって、お揃いの死神ローブで深くフードを被っている。その性で顔を窺い知ることは出来ない。
『ユーリに何もなかったか?』
『……カワリナイ』
『ジュクスイー』
コクコクと言葉少なに頷く姉、妹も同じく口数は多くないものの声音にどこか楽しさを漂わせている。
『そうか、ならもう戻っても良いぞ? 後は俺が看ておくから』
椅子を引き寄せてベッドの脇へ、何をする訳でもなく悠理の寝顔を眺めていると……。
『……イヤ』
『ヤダー!』
何故か姉妹が猛講義し始めた、姉はそっぽを向いて、妹は両腕を上げながら身体を左右に揺らして拒否の意を示す。
『は? 何でだよ?』
珍しいこともあるものだ。本来、彼女達眷属は召喚主の命令には絶対服従。
その内容が契約に反する事がない限りは逆らったりはしないハズ。しかし、今の内容に何か問題点があっただろうか?
『オナハシ……』
『シヨー!』
どうやら単純に会話に興じたかったらしい。時々、眷属はこうして召喚主に要求をする場合がある。
これはお互いの関係が円満に続くようにとの一種の儀式だ。
『別に良いけどよ……』
『――ナラ』
『ユーリノハナシシヨー!』
『……はぁ?』
――――どうして話題がコイツなんだ?
突っ込もうかと思ったが、よくよく考えれば理由は解りきっている。
召喚主であるレーレが興味を持ってる相手だから。
使役される眷属としては気になるのだろう。ましてや、彼女達は洞窟で悠理と戦った際にも召喚している。得体の知れない力で強制送還されるなんて二人にとっても初めての経験。
興味を惹く対象となるには十分過ぎる程である。
『――例えば……何だよ?』
『……ソウネ』
『レーレ、ユーリノコトスキナノカー?』
『――――面白れぇ冗談だな?』
どうして自分の周りは誰も彼もそういう結論に達するヤツが多いんだろうか……。
レーレは頭を抱えたくなった。もしかして、普通の女の子ならそんなものなのだろうか?
そう考えてしまうと、普通と縁のない自分には結論を出すのが難しそうだ。
『ダッタラ……』
『キライナノカー?』
――どう……なのだろうか?
正直言って、祝福を改竄されたことに対しては大いに不服がある。
こうして勝手に部屋割りを決められたこともハッキリ言えば迷惑だ。
でも……。
『――嫌いだったら』
――もしそうなら、昼間グレフの工房に置いてけぼりを喰らったのを、寂しいと感じるだろうか?
大嫌いなら、これからずっと付いていこうなんて決意するだろうか?
『――嫌いじゃあ、ねぇ……。多分だけど……』
きっとそうなんだろう。気に食わない部分は確かにある。悪態を吐きたくなるのなんて、これからしょっちゅうあるに違いない。
それでも付いて行こうと思うのは――。
『俺がコイツに惹かれ始めてるって事か?』
『……ウン』
『タブンネー』
我が意を得たりと、眷属達はしきりに頷く。フードが邪魔でハッキリと確認出来ないが、どこか嬉しそうな顔をしている。
姉妹はレーレと初めて会った頃――かれこれ約470年前を思い出す。
初めて召喚されて以来、時々こうして彼女の話相手になっていた。
彼女達の関係は唯の主と眷属には収まらない。気の置ける幼馴染とでも言うべき間柄……。
だから、二人はやはりどこか嬉しさを隠し切れずにいた。
――だって、レーレ・ヴァスキンが普通の女の子みたいだから。
『――惚れるならもっとカッコイイ相手が良かったんだが……』
『アラ、ケッコウハンサムヨ?』
『アハハー、サンゾクガオー!』
そうして三人で彼の寝顔を眺める。ゆったりとした時間。
こんな時間も悪くない、むしろ心地よくさえ感じるのは――。
『それも、お前のお陰か?』
安らかな表情で寝息を立てる悠理に問いかける。
「…………」
やはり、答えはない。だがそれでも――。
『――ありがとな?』
それはやっぱりお前のお陰なんだと、感謝を込めて頬に軽くキスをする。
――ああ、やっぱ惚れてんのかな俺?
そんな風に意識しつつ、ポッと頬を朱に染めた。
死神ではなく、普通の女の子としての淡い恋心で。
――彼の傍に居たいと……願う。
すっごく眠い……。
修正や何やらはまた後日……。
あっ、眷属姉妹の名前を絶賛募集中です。
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