激震、グレッセ王都!・獣は自由を、騎士は誇りを胸に生きるその二
ちっくしょう! 更新直前にみたらブクマ減ってるじゃねぇか!
クソッタレがぁぁぁぁぁ!!(←べ○ータのマネ)
明日は夜に用事があるんで、午前中に更新しちゃうかもです。
「このバカ野郎がぁぁぁぁ!」
「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」
互いに得物を捨て、怒りを剥き出しにして駆け出す。悠理とカーネスが同時に拳を振りかぶって、綺麗に見事なまでにそれがクロスした。
何の遠慮も手心もなしの全力。防御など微塵も考えずに顔面で受け止める二人。
骨を殴りつけた鈍い音と、硬い金属音が主亡き玉座の間に響く。
双方そのままの勢いで拳を振りぬいて、受けたダメージと共に後退。
「ぐっ……ぺっ!」
悠理は口の中に溢れた血を唾と共に飛ばす。ここが何処であるか考えれば無礼な行為だとは思ったが、口の中にあった不快感を、殴られた事への怒りを自然と吐き出してしまっていた。要するに無意識での行為だ。
「チッ……!」
カーネスは彼と違って頭部を兜で覆っていたから負傷はない。しかし、脳を揺らす特大の衝撃とひしゃげた兜が、悠理の一撃が如何に凄まじかったかを物語っていた。
変型した黒い兜に手をかけそのまま投げ捨てる。やや長めで灰色の髪と、凛々しさと男らしさを併せ持った美形と称していい顔立ちが晒された。
だがその表情は怒りで歪み、瞳には真っ赤に燃えがった炎の如く苛烈。
そんな視線と悠理の視線が交差し、睨み合いを続けながら、準備は整ったと言わんばかりに再び床を蹴る。
カーネスが先だったのかそれとも悠理か。はたまた同時だったのか。
「うおぉぉぉぉぉ、カァァァァネェェェェェス!」
「ユーリィィィィィィィィッ!」
目の前に現れた敵を呼びながら、お互いに射程距離に入る。悠理はカーネスが自分の名を呼んでいた事に違和感を覚えなかった。きっと、ヨーハがそう呼んでいたから彼もそうしたんだろう。
攻撃態勢を整えながらもそんな事を頭の隅っこでぼんやりと考えていた。その間にも身体は動き続けている。
「ストロング・バレル!」
「剛脚・鉄槍!」
肥大化し強化された悠理の右腕にカーネスの回し蹴りが叩き込まれ――――拮抗する。
“ストロング・バレル”は言うまでもなく、腕の筋力を一時的に跳ね上げて攻撃する技。それはグレフの“剛腕”に近い。
そしてカーネスの“剛脚・鉄槍”は、それと対を成すと言っていい技である。今は亡きグレッセ王――――彼から奪った祝福はカーネスの中で生きていた。使う資格がないと解っていながらそれでも尚、悠理を前にして使わざるを得なかった。
脚力を大幅に底上げした鋼鉄を纏いし左足は、その名の如く鉄槍となって剛腕と衝突。激しいまでの衝撃となって互いの身体を襲う。
だが、禁じた能力を使いながらも自由の獣と騎士の力は一歩退かず、勝らず――――。
「ぐっ!? おぉぉぉぉぉぉッ!」
「がっ!? あぁぁぁぁぁぁッ!」
――――結果、二人は右腕と左足をきしませながら大きく弾かれる。
退いた距離は殴り合いを始めたスタート地点にまで戻されていた。それだけ彼らの攻撃が凄まじい威力を秘めていたと言うこと。故に、それを繰り出した二者の消耗もまた大きい。
「はぁ……はぁっ…………クソッタレ…………! それ程の力があって…………!」
「ぜぇっ…………ぜぇっ、短期間でここまで強くなるとは…………だが!」
両者とも荒く息を吐き出し、対敵を睨む。荒れる息を整えようとするよりも前に否定の言葉が溢れでて、最初に放り投げた武器を各々が掴み――――再び衝突が始まる。
先程の交戦で脚に少なからずダメージを受けたカーネスよりも、今回は悠理が速い。
先手を取って大戦鎚ヘレンツァを振り上げ、一撃必殺を狙い振りかぶった。
カーネスは避けようともせず、長剣でそれを受けとめ暫し鍔迫り合い。
「どうして自分自身に負けた!」
――――それほどの力があったのなら、王の意志を継ぎ、この国を守れただろうに!
戦鎚と共に己の感情を叩き付ける悠理。どうして、何故、諦めなければならかったのか? 贖罪の道しか残されていなかったとは言わせない。答えろカーネス!
「技術がなっていない!」
その感情に任せた物言いと戦鎚をカーネスは技術――――もしくは理性で受け流す。
――誰もが獣の様に、野生だけでシンプルに生きられる訳ではない。何かに縛られ、悩み、戸惑う事もあるだろう。贖罪の道しかなかったのだ。少なくとも彼本人がそう思う以上は、それ以外に道は――――ない。
カーネスの技術は力任せで攻める悠理の一撃を逸らす。彼と同様、腕にダメージを残す悠理ではそれをカバーできず、隙を作ってしまう。
「チィィィッ、流され――――」
「貰った!」
「させるかって、のっ!」
――――しかし、カバーは出来ずとも何とかしてしまうのが廣瀬悠理とい言う男。受け流されたヘレンツァから、逆らわずに手を離して自由になると、左足でカーネスの胴を蹴りつけたのだ。
「ぐっ!? この、獣がぁぁぁぁぁぁッ!」
「うるせぇ! このダメ人間ッ!!」
姿勢を崩され、尚も剣を振りぬこうと動く騎士だが、それを自由の獣が許さない。
「ぐっ、お、おぉぉぉぉっ」
剣よりも速く伸ばされた手が鎧を掴んで引き寄せ、顔面へ頭突きをかます。それで完全に気勢を削がれたカーネスは、鎧を掴まれたまま力任せに放り投げられてしまう――――が、彼もまた成すがままにされ続ける男ではない。空中で姿勢を整えて綺麗に着地し、再び悠理へと向り、こう叫んだ。
「お前に何が解る! 王を喪った私の、この国の――――何よりセレイナとヨーハにどう顔向けすればいい!!」
他ならぬ彼の本心、苦悩。先程まで理性で押さえつけていた感情を吐露しぶつける。それが独りよがりだと、自己満足だとしりながらも、真っ直ぐにぶつかり合った相手だからこそ、その思いを正面から叩き付けた。それを悠理は――――。
「――――んな事知るかぁッ!」
――まるで漫才の突っ込みの様なテンションでぶつけられた本心も苦悩も、ジャーマンスープレックスばりの勢いでどこかで投げ捨ててしまった。これにはカーネスも驚いてポカーンとするしかない。
そして、放心状態の彼に悠理は真面目な顔でこう告げた。
「唯なぁ、テメェは思考停止してるだけだってのはよく解ったぜ」
「思考、停止…………だと?」
「ああ、そうさ。お前は何もかもから逃げ出したいだけの臆病風に吹かれちまったんだよ」
「違――――!」
――――違う! 告げられた言葉を否定しようとするが、それが出来ない。思いあたる節が多少なりとでもあれば、理性で感情を律するような性格の持ち主では否定できる訳がないのだ。
言葉を発せなくなって俯くカーネス。その無防備な姿に更に言葉が降りかかった。
「そもそも答えなんてものはな――――」
悠理の手にはヘレンツァ。足音を響かせながらカーネスへと近付くが、先程の言葉にショックを受けた様で迎撃姿勢を取ろうともしない。それに対して遠慮をする男でもない訳で、彼はヘレンツァを腰だめに構えて――――。
「――――テメェの胸ん中にしかねぇだろうが!」
「ッ!? う、ぐっ――――」
――――放心状態でがら空きのカーネスの胴へ、容赦なく振りぬく!
自身へと戦鎚が振りぬかれてからようやく彼は気付いたが、対抗手段があっても間に合うハズもない。
だから、咄嗟に両手で受け止めたのは奇跡に等しく、思考しての行動では決して出来ぬ芸当だった。
身体がミシミシと音を立てて軋んで、ズリズリと後退していくが、ヘレンツァの勢いは何とかそこで止ま――――。
「唸れヘレンツァ! セレイナとヨーハの思いを乗せて――――」
――――るハズもない。悠理は柄を力強く握って、カーネスの身を案じる二人の女性を思いながら叫ぶ。
どうか、どうか、彼女達の想いが、亡き王の想いが、この道を間違えた騎士に…………!
「と・ど・けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
――――届きます様に。
「うっ、があぁぁぁぁぁぁぁあッ!?」
殺した勢いが有り得ない威力となって振りぬかれる。腕が弾かれて胴体へ、鎧へ突き刺さって、カーネスの身体は宙を舞い。遥か玉座の場所まで飛んでいく。
(王よ、私は…………私は…………)
――――どうすれば良かったのでしょうか?
間違っている事は解っていた。それでも、尊敬する王に危害を加えた己が意志を継ぐなんて許せなくて…………。だから、こうしてせめて王を殺した裏切りの騎士としてセレイナ達に討たれようと、そう思ったのに。
問いかけても答えは返ってこない。――――唯、その身体が玉座へとぶち当たる瞬間…………。
『迷ってもよい、間違えてもよい。だが、必ず立ち上がって前を向けカーネス』
幼い頃にかけられた声をカーネスは聞いた気がして――――。
かつて誇りを胸に抱いていた騎士は――――失墜して行く……。
その際にキラリと光る何かが宙を舞った気がしたが、果たしてそれは何だったのだろうか?
次回、馬鹿な男達。