番外編・覇王の行き先
食事に誘われた為に帰りが遅くなったので、今日は番外編で。
何かブクマが増えてたのに申し訳ねぇ!
――悠理とカーネスがグレッセ城玉座の間にて戦闘を開始した頃……。
大陸西方と北方の境界線、アウディロ砦にて一つの戦いが終局へと向かっていた。
「まさか御身の手を煩わせる事になろうとは――――申し訳ございません……!」
「良い、我が四姫“鉄仮面グリキルナ”」
砦から西方方面を見渡せる高台にて、鉄の仮面で素顔を隠した女性が逞しい風貌の男に跪いている。
それに対して男――――コルヴェイ王は臣下に許しを与えた。確かに“四姫”としては敵軍相手にてこずっていた様だが、ラスベリア帝国の精兵“七本槍”が勢揃いともなればそれも仕方がないこと。
むしろ、彼等を敵に回して砦を守り切った事は賞賛に値した。しかし、グリキルナにはその自覚もなければそう思う余裕もない。主の前で醜態を見せてしまったと、内心で焦り、恐怖していた。
コルヴェイ王の四姫を纏める者として、また一人の臣下として彼女はとことん王に心酔している。
故にその期待に応えられないのは死よりも重く、見捨てられることは死と同様。鉄仮面の下で冷や汗を流し、王の反応を待つ。
――――あまりの焦りに許しを与えられた事に気付いていない様だった。
「あー、コホン。グリキルナ? 王はアナタに許しを与えておりますのよ? いつまでも膝を着いているのは失礼ではなくて?」
「――――ッ! も、申し訳ございません!!」
見かねて王の傍に控えていたフードの女、四姫の“神出鬼没のルシアン”が助け舟を出す。
するとグリキルナは正気に戻って直ぐに佇まいを直し、優雅に礼をして非礼を詫びる。
「構わぬ、少し用が出来てな。城を空けねばならぬゆえ、後顧の憂いを断ちに来たのだ」
「ご用――――でございますか?」
「アルフレド様がいらっしゃいましたの。異世界召喚された勇者が、グレッセ王国で解放軍を率いて王都へやって来るらしいですわ。何でもシャンシィの力を使ったあの方を退けたとか」
王が自ら前線に来てまで果たせねばならない用事とは? 興味を引かれたグリキルナが問いかければ、ルシアンが変わりにかいつまんで説明した。実に的確で解り易い説明である。
――――が、不備などなさそうなその説明にグリキルナは考え込むようにして……。
「グレッセ王国――――異世界召喚者…………もしかして…………」
「――――グリキルナ?」
ぶつぶつと言いながら仮面に手を当てる。これは彼女が思考を整理している時の仕草だ。戦場で指揮を担当する事が多いグリキルナは、状況を常に把握し最善を尽くす為に時々こうして考え込む。
しかし、ルシアンはそんな姿に違和感を感じた。――――何を感じたのか、と聴かれれば上手く答えられないのだけれど……。
「心辺りがあるのかグリキルナよ?」
「――はい、私の人形が近くに居るかもしれません……。調べさせますか?」
王の言葉に確りと頷く、彼女の言う人形とはグリキルナが有する諜報部隊だ。
大陸の各地に数人が存在し、常に情報を送り続けている。
「いや、構わん。どうせこれから会いに行くのだ。それに――――」
グリキルナの提案を王は断った。戦いにおいての情報集は基本であり重要ではあるが、アルフレドからの依頼は緊急を要するもの。到底間に合うまい、それに本音としては――――。
「これから死ぬ者の情報などあっても意味がなかろう」
――――と言う事だ。相手が誰であろうとコルヴェイ王は負ける気など微塵も持ち合わせておらず、アルフレドとの“計画”を邪魔するのであれば死を与えるのみ。容赦など有り得ない。
「ハッ、解りました……。これから直ぐお出向かいに?」
「いや――――少しだけ休む。ルシア、用意せい」
「ハッ、かしこまりましてございます」
ルシアンは王の望みを叶える為にその姿を消した。一足先に部屋へと赴き、主を休ませる準備を整える為だ。
「ではグリキルナよ。後の事は任せる――――良いな?」
「勿論でございます。我が王よ…………」
主の問いかけにグリキルナが静かに応えると、王は高台を降りていく。その後ろ姿が見えなくなるまで頭を垂れて見送る彼女――――であったが、その姿が完全に見えなくなった瞬間。
「――フフッ、私の可愛いお人形ちゃん…………立派に役目を果たしたのね? 素晴らしいわぁ、アハッ、アハハハッ!」
――――狂気に歪んだ笑い声が響いた事を、誰も感知できなかった。そう、誰も…………。
次回、悠理とカーネスの激闘!