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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
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激震、グレッセ王都!・獣達の優劣と矜持その三

頭がぼーっとする…………。

ここ最近、朝が冷え込むのに、窓全開、扇風機中風、は流石に不味かったかもな…………。

『ぐ、ぐげ…………!?』


 自身の角があっさりと折れた事に思わず愕然とする。実はアズマの角はとっくの当に限界を迎えていた。

 ディーノスの王であるエスタラ、その証とも言える二本角は強度に優れており、“角折りの双角”の異名を持つ。同族の角付きを幾度も再起不能に陥れたエスタラの凶器。


 異名に恥じない威力を持ったそれは、アズマにも確実に届いていた。そもそも、一度折られた時点で既に角の強度はゼロ。


 ――であるにも関わらず、エスタラを負傷させ、ここまで追い詰める事が出来たのは奇跡に等しい。だがしかし、速かった。速すぎた。もう少し、もうちょっとだけ持ってくれれば…………!


『ギアァァァァァァァ!!』

『ぐ――――げっ』


 決死の猛攻が止まったことでエスタラが動き出す。雄叫びを上げ、頭突きを脳天に叩き込む。怯んで後退した所を間髪要れずに銅へと再度頭突き。

 角に渾身の力を込めた突進はアズマを軽々と吹き飛す。直前に首筋に刺さっていた爪がズルリと抜け、赤い糸を引く。爪の中ほどまで赤く染まったそれはアズマの負傷が深い事を如実に示していた。


『ぐげ…………げ……』


 地面に横たわり苦悶の声を上げるアズマ。最早、万事休す。

 先程の頭突きで頭蓋にヒビが入り、肋骨は枯れ枝か何かみたいに易々と折られた。


 首筋の裂傷も深刻だ。吹き飛んだ際の勢いで軽く千切れてしまい、状況は悪化している。

 後一回でも首に爪を叩き込まれたらあっさりと首が飛ぶ。もう既にエスタラも、角付き同士の戦いにおける条件など無視してくるだろう。


 さっき爪を使ったのは故意でないと思うが、もう一度使ってしまったのだ。あと何度使おうが変わらないだろうとも。問題は――――ここからどう切り抜けるか、だ。


 立ち上がる事は――――可能だ。頭突きは不可能かも知れないが、爪と牙は使える。だが、角ほどの殺傷能力は期待できない。

 それではダメだ。アズマがこの状況を打破する為には、エスタラを一撃で仕留める必要がある。


 ――が、その為に必要な武器はもうなに一つない。手詰まりだった。諦めたくはない、屈したくはない、まけたくは――――ない。けれども勝つ為に、負けない為に必要な手段はもう…………。


『ぐ――――げ?』


 悔しさに呻こうとして身体を震わせると――――背中に何かが触れた。ゴツゴツとした感触。何かが床に突き刺さって――――床? 


『ぐ、ぐげげ……!』


 ――――あった。勝つ為の手段、そこへと辿り着く武器…………!

 エスタラに背を向けるような形で立ち上がり、その四つの爪と指であるものを拾いあげる。勿論、これをエスタラに見せてはならない。

 ヨロヨロと力なく揺れる、実際に脳がぐらぐらと揺れてふらつくが、少し大げさな方が油断を誘えるハズだ。その証拠に…………。


『ギギッ! アァァァァァァアアッ!!』


 その場で立ち止まって己の勝利を確信したのか、ご満悦に叫ぶエスタラ。アズマの負傷が深刻なのは彼にも解っている。こちらを仕留める決定打が足りないことも。


 心臓に角を突き立てられた際は焦ったが、それも届かず無様に折れた。もうこれ以上の反撃はない。あったとしてもこちらを仕留め切れない。勝った! やはり王たる己が通常種に負けることなど有り得なかった!


 ――そう思っているのだろう。いや、思いたいの間違いかも知れない。これ以上はない、あったら――――負けるかも知れない? その可能性を万が一にも想像しない。王者として、強者として生まれた者の傲慢。

 結局は最後までその傲慢が脚を引っ張った。


『ぐ――――げげっ!』


 再び無防備な姿を晒したエスタラへと瞬時に向きを合わせ、アズマは突進を仕掛ける!


『ギアッ! ギィィィィ!!』


 しかし、最初とは違ってエスタラは用心していた。最後の最後に悪あがきを、小細工を仕掛けてくるんじゃないかと。だから、この突進には対応可能だ――――可能だが、それが唯の突進だと思っていたのが失敗だった。


『ぐげげぇっ!』


 頭突きの射程圏内に入る直前、アズマが――――反転。突進ではなく、長い尾での攻撃を実行。

 鞭の様にしなりながら、アズマの尻尾はエスタラの顔面へ。


『ギ、ギギィ!?』


 予想だにしなかった一撃に怯んだエスタラは思わず頭突きを繰り出してしまうが…………それが不味いことだと気付くのに遅れた。


『ぐ…………げぇぇぇ!』


 王者の証たる双角にぶつかったアズマの尾は、まるでバターの様にあっさりと肉を断たれる。時に岩をも貫き、切りつける力を持つディーノスの尾。それが王ともなれば威力は段違いだ。

 こうなる事を望んでいたから痛みは耐える事が出来た。だが――――――――エスタラは違う。


『ギィッ、ギギッ! ギギィッ!』


 尾を切り飛ばした際に飛んだ血と透明な液体。それらが目に入り、エスタラを苦しめる。

 血と主に飛び散ったのは――――癒着液…………。平たく言えば接着剤の様なもの。


 ディーノスの尻尾はトカゲの様に生え変わったりはしない。だがその代わり、切り飛ばされてから数時間以内であればくっつけられる。その際に役立つのが、何を隠そう尻尾の皮膚表面から出るこの癒着液。


 尻尾に傷がつけば自然と流れて傷口を覆い、傷の修復促進となる。そして、接着力にも優れたこの液体が顔に降りかかったりしたらどうなるか――――。


『ギィィィ、ギアッ、アッ、アッ!?』


 モロに液体を浴びたエスタラの視界は封じられ、パニックを起こす。アズマが襲ってくるんじゃないかと警戒し、あらぬ方向を爪を、尻尾を、頭突きを繰り出す。――――が、どれも空回るばかり。

 王として、力こそ優秀なエスタラ。足りなかったのは――――経験と想定外への対処能力。


 それさえ備わっていたならアズマは一方的にやられ、エスタラに傷一つ付けられなかったかも知れない。


『ぐげぇぇぇぇぇっ』


 視覚を封じられたエスタラが、闇雲に攻撃し続ける間に準備完了。アズマは全身全霊を込めた突撃を敢行する!

 疾走をする中で額には何やら煌くもの、いつの間にか――――角が出来ていた。いや、何か無理矢理()()()()()様な歪な形。


 そう、ついさっき折られたハズのアズマの角だ。尻尾をわざと切らせて癒着液を出し、それを使って回収した角を取り付けた。その場しのぎ、急ごしらえもいいところだ。

 恐らくたった一度でも打ち合えば簡単に砕ける――――が、短い距離を走るだけなら取れることもない。


『ぐげぇぇぇぇぇぇッ!』


 ――ましてや、打ち合いなどは望んでいない。狙うは唯一点。心臓に突き刺さった――――己の角!


『ギッ! ギギギィィィィア!』


 声の聞こえた方へエスタラが振り向き。爪を、頭突きを繰り出す。

 後者は避けた。だが爪が再び首に喰いこみ肉を裂く。目と鼻の先でその動きは止められ――――。


『ぐ、ぐぐげげぇぇぇぇぇぇッ!』


 ――ない! 無理矢理進んだ所為で更に首の肉を裂かれるが、その代わりに一歩、一歩進んだ。

 そして、その角は――――。


『ギ? ギ――――』


 エスタラの胸に喰いこんでいる。先程と全く同じ箇所、血肉の中に埋もれていアズマの角を押す。

 折れた角分、届かなかった距離が埋まる。血肉の中で何かがズッと動き――――王の心臓を貫いた。


『ギ――――――――ァ、アァア…………?』


 何が起こったのか解らぬエスタラは首を傾げ、その場に倒れ込む。

 ディーノスを統べる王だった一匹の獣は――――――――そうしてあっけなく最期を迎えた。


『ぐ、げ――――――――!』


 対するアズマも勝利したとは言い難い。何せ今しがたの頭突きと、喰い込んだ爪によって更に肉体に負荷をかけた。先に倒れたエスタラに多い被さる形で倒れ込む。


『――――げ――――ぇ――――』


 力尽きてアズマもその目を閉じる。尻尾の癒着液を使って首の止血をする余裕もない。

 だがまぁ、少なくとも負ける事はなかった。その点において満足し、意識は暗闇の中へと静かに落ち込んでいく…………。


 二体の獣が倒れれば訪れるのは唯ひたすら静寂。


 獣達の優劣も矜持も最早何処にもない。決着が着けばそこには唯ありのまま――――誰にも知られざる激闘が、そこには確かにあったのだと言う破壊と血の後が残されたのみである。

次回から、今度こそ悠理対カーネス編!

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