激震、グレッセ王都!・獣達の優劣と矜持その一
ちくしょー! 頭働かねぇし、帰りに転んで膝を負傷したり、ブクマは減ってるしで今日は最悪だな!
後日、加筆修正予定!
『ぐげぐげ!』
『ギィィ!』
走り去っていく主達を鳴き声で見送り、二体の獣は再度突進の構え。角付きディーノス同士の戦いでは爪や牙の使用は御法度。
何故なら、角付きの戦いは基本的に優劣を競うもの。彼等が同族と争うのはどちらか群れの長に相応しいか。唯その一点のみ。
これはディーノスと言う種がノレッセアに産まれてから本能レベルで染み着いている風習であった。故にアズマとエスタラは本能に倣って角を――――。
『ぐげぇぇぇぇぇぇ!』
『ギィィィィィィィ!』
ぶつけ合う。大地を確りと踏み締めて、短い距離を全力で駆け抜ける。真っ直ぐに頭を振りかぶるエスタラに対し、アズマはやや首を斜めにして迎え撃つ。
これはエスタラの角が二本あるのにアズマが一本しかない事が原因。一で二を受け止め様と思ったら、こうして角を斜線にするしかない。
いや、そもそも二本角のディーノスなど聴いた事がない。
だからアズマは攻めあぐねている。刻み込まれた本能でさえ対処できないこの相手をどうすればいい?
『ギギィィィィア』
『ぐ、ぐげげ……』
どうしたって数の差や、姿勢の不利はアズマを追い込む要素でしかない。エスタラは遠慮なく、容赦もなく自分の有利を生かして力任せに角をグイグイと押し込む。角から斜めにした首へ負担が増す。
ミシミシと鳴るのは角か、それとも首か。いずれにしても、これには堪らずアズマもたたらを踏み後退。
――されどそれは相手の思う壷。
『ギィィィッ!』
――貰った! そう言わんばかりにエスタラが距離を詰めて畳み掛ける。二本ある角を生かして左右交互にアズマへと連撃を見舞う!
『ぐ、げげげっ…………』
エスタラを怒涛の攻撃を受けながら、時に受け流しながら、アズマは思う。
――――違う。エスタラは確かに違う、と。
ずっと引っ掛かっていた。ディーノスの二本角。リーダーの証たるこの角が何故二本あるのか?
アズマはこの世に生を受けて三年とちょっと。しかし、それなりの敵と戦ったし、角付き同士の戦いも数度経験済み。故にこの戦いにおける異質さに闘争本能が推理を働かせる。
コイツは――――――――――――リーダーなんかじゃないのでは?、と。
群れを治める長? そんな程度の器ではない。力量ではない。もっと、もっと上の何かだ。
『ギギッ、アァァァァァア!』
『ぐ、げぇぇぇぇぇぇっ!』
大きく振りかぶった隙を突き、アズマが先手を取って突撃。しかし――――。
『ギィィッ、ギィィィア!』
渾身の一撃を放ったつもりが、あっさりと受け止められる。そして――――迎えるは最悪の事態。
エスタラがアズマの角を受け止めたまま強引に押し切って――――。
バキィッ!
そんな短い音が鳴って。次にザクっ、と何かが床に突き刺さった音。黒く鋭い――――獣の矜持。
『ぐ、ぐげぇぇぇぇぇぇぇ!?』
悲鳴を上げるアズマ。落ちたのは―――アズマの角だった。彼のリーダーたる証は半分辺りから折れ飛んでしまっていた。時に自分の数倍はあろうかと言う獣を持上げ、時に岩にすら貫くとされる頑丈な角が、だ。
痛みと言うものは殆どない。だがショックは計り知れないほどに大きく、プライドにつけられた傷は深い。
『ギィィィッ!』
『――――ぐげっ…………!?』
絶叫し、ショックのあまり苦しむアズマへ、間髪要れずの頭突き。
それはモロに脳天へ直撃し、意識を暗転させる。ゆっくりと倒れて行く身体をかろうじて認識しながら、アズマは未だに考えていた。
『ギィィィアッ、ギィィィィ!』
――――コイツは一体何者なのだ?
――――――
――――
――
昔話をしよう。昔と言っても“ノレッセアの審判”や、更にその五百年前まで遡った御伽話ではない。
つい、四、五年前の出来事だ。――――ただし、事の発端は“ノレッセアの審判”に大いに関わりがある訳だが…………。その点も踏まえて説明しよう。
先ずは四、五年前の話から。大陸東方“ラスベリア”周辺にある凍土“ルヴァッヘア”にて天然の氷壁が溶け出す――――――と言う事件が発生した。
“ノレッセアの審判”の所為で、その犠牲になったとも言うべきその場所は、数百年間ずっと雪が降り続ける厳しく険しい大地となっていた。
その中でも“ルヴァッヘアの氷壁”と呼ばれるそれは、“ノレッセアの審判”に参加していた多くの兵士を生きながらにして閉じ込めている。そうそれは今この時も。
だが、そん氷壁が一部とは言え溶け始めたのだ。本来なら重大な事件だ。しかし、このことを知っているものは殆ど居なかった。
かなり奇妙な出来事であるにも関わらず、世間に公にされた形跡もない。
それもそのハズ。時間さえ閉じ込める氷壁から抜け出た生物はたったの一体。しかも、その一体は気まぐれで世界を見回っていたとある男によって保護されてしまったのだから。
地獄耳でお馴染みのラスベリア女帝“ジェミカ”にも察知されず、大陸東方を離れられたのは天空に浮かぶ城に住まうあの男くらいのもの。彼はこう言った。
「もうこの世界に君の同族はいない。全て死に絶えてしまったんだ」
それを知った過去の戦士たる一体――――エスタラは途方に暮れた。遥か遠い時代にて蘇りしも、守るべき仲間も居ない世界で自分が目覚める意味はあったのか、と。
しかし、その嘆きを察したのか、男――――アルフレド・デディロッソは続けた。
「もう誰も居ないのであれば、君が種族の名を世界に轟かせたらどうかな――――――ディーノスの王よ」
遥か遠い昔に存在していたというディーノス達の王――――その因子を引き継ぐ決闘種足るのがエスタラ、それが身に宿した器の正体。
アズマの感じた違和感はこれだ。エスタラにとっての二本角はリーダーの証ではない。
――――それらを統べる絶対的支配者のシンボルだったのだ。
こうして、アルフレドの話に乗ったエスタラは後にカーネスの元へ配属され――――今に至る。
次回、エスタラの勘違い。