激突、グレッセ王都!・巨人達の咆哮その三
――――あー、あまりに眠すぎて後半ぐちゃぐちゃだわこれ…………。
こ、この手直しの機会は何れまたって事で、今日はもう勘弁していただきたい!
――ルンバの救援から数分後。形成は逆転……とまではいかなかったが、良い方向へ流れ始めていた。
エミリーが仕掛け、危うくなればルンバがグレプァレンを撹乱し、攻撃の隙を作る。付け焼刃のコンビネーション。しかし、単純だからこそ連携の意味合いは大きい。
グレプァレンは息の合い始めた二人の動きに翻弄され、無駄な攻撃をし、貰わなくてもいい攻撃を受け、次第に焦りと疲弊が際立つ。
『ごぉぉぉぉぉぉぉ!』
『バァァァァァァァ!?』
腕の振りが鈍った一瞬を狙ってエミリーが背後を取り、グレプァレンの身体にしがみ付いた。残った左腕で確りと首を固定。暴れる鋼鉄の巨人、しかしこう近くてはロクに攻撃も仕掛けれない。
「エミリー、そのまま動きを止めていろ!」
『ごっ!』
『バァ!?』
飛んできた指示に対する返答を頼もしく感じながら、ルンバは――――。
「――ぬ、ぬぬぬ……」
その場で何やら力んでいた。筋肉が膨らみ、鎧の下で服がブチブチと千切れる音。身体中の血管が浮き、尋常でない程に力を入れているルンバ。
「ぐぬぬぬ――――」
更に力を入れれば、鎧の繋ぎ目も切れ、ゴトリと音を立てながら地面に突き刺さる。ルンバはそこから更に力を練り上げ行く――――レイフォミアに教えられた助言を信じて。
――――――
――――
――
『ルンバ隊長、少しお話が……』
それは決戦前夜のこと。得物の手入れをしていたルンバの元にレイフォミアが尋ねてきたのだ。
「こ、これはレイフォミア様! 私の様な者に何用でございましょうか……!」
得物を慌てて地面に置き、レイフォミアに傅くルンバ。その姿は部下の命を預かる隊長として、常に威厳と責任を背負う普段の彼とは何処と無く違っていた。心なしか体格の良い身体が小さく見えるかの様だ。
『そんなに畏まらないで下さいルンバ隊長。ワタシ達は共に戦う同志ではありませんか』
「――このままで居させてください。故郷を守れなかった私には、大陸の守護者であらせられる御身に合わせる顔がありませぬ……」
ルンバの真摯な言葉に面食らうレイフォミア。自分を大陸の守護神として認識し、尚且つその名を用いて自身の過ちを恥じる姿に何を言っていいのか解らない。
きっと、彼には彼なりの信条があり、それに背いたことを悔いているのだろう。その行為はきっと尊いもので、尊重しなければならないと感じた。
『……解りました。貴方の意志を汲みましょう』
「ハッ、かたじけない……」
深く頭を垂れるルンバを不思議そうに、ほんの少しだけその真っ直ぐな姿勢に羨ましさを覚えつつ本題に移る。
『実はファルールの能力についてなのですが……大体は知っていますね?』
「はい、なんでもその者達の身体能力、祝福を向上させるものだとか。実に今作戦の為にある力と言えましょう」
『はい、頼もしい限りです。ですが――――』
――一瞬だけ、レイフォミアは迷いを見せた。この話を本当にして良いものか?、と。
この一件を伝える事が果たしてルンバの為になるのか…………正直言って解らなかったからだ。
けれど――――伝えよう。これが間違いか否かは彼が決めること。責任は自身が負うべきだが、判断は本人に委ねるべきだろう。それに――――。
『――――あの祝福にはもう一つ効果があるのですよ』
「なんと? それは一体……」
『それは――――』
――――自身の過ちを悔いる事が出来るルンバならば、決して悪い方向へは行くまいと信じて……レイフォミアは託す。どうか、彼が今度こそ己の信条を貫き通せますように。
――――――
――――
――
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
ルンバが雄叫びを上げる。それと同時に肉体に変化の兆し、皮膚は青く変色しながら、身体は次第に大きくなっていく。肥大化に伴ってズボンがバリッと派手に破け飛ぶ。
しかし、下着――――青い褌の様な下着だけは破けない。後に明らかになるが、彼の下着は伸縮性に優れた特注品であるという事だった。巨大化していく身体の大きさに下着も追いついていく。
『ご、ごー……』
『バ、バァァ……?』
鋼鉄と岩石の巨人は唖然としてその様子を見続ける他なかった。自分達よりも小さかったハズの人間が、己達をも追い越して真の巨人となる様を。
『フハハハッ、この感覚! 久しいな……』
約十メートルまで成長した巨人が笑う。そう言えば、彼には二つ名があった。確か――――“蒼き巨兵”。
なるほど、この光景を見れば文句なし。というよりもあまりにそのまんま。
つまり、ファルールの祝福に隠された能力とは――――祝福の一時的な復活。
これは本人でさえ知らなかった能力。ファルールの“魂に眠る英雄”を受けた“祝福喪失者”は、ほんの少しの間だけ、喪った能力を再現可能になるのだ。
勿論、誰にでもは無理だ。これにはかなりコツが必要で、今の所はルンバにしか出来ない技だろう。
『フンッ、フンッ!』
『……ご?』
『バァ……?』
『おっと、懐かしくてつい……』
大きくなった身体で、思わずボディビルダーさながらのポーズを取ったルンバに巨人達は呆けてしまう。
あまりに唐突な事件が続いたもので、警戒心と緊張感は何処かへ逃げ出してしまったらしい。
『さて、グレプァレンとやら? 時間もないので手短に行くぞ?』
そう言って巨大化したルンバは、掌を巨人達の上に翳す。
『ご、ごー!』
『バ――――――バァァァァァァァッ!』
意図を理解したエミリーが、グレプァレンの拘束を解いてその場から全力で逃れる。
――――が鋼鉄の巨人だけはそうはしない。嫌な予感はエミリーと同じ。だがしかし、グレプァレンはここで退くわけにはいかない。
ここで退けば自身の名にも、プライドにも傷がつくというもの。絶対に退けなかった。
『成程、お前にはお前の意地と誇りがあるようだ。ならば私の全力――――』
同じ男同士だからなのか、ルンバにはグレプァレンの覚悟が見えたような気がした。
――だからこそ、ここで手を抜く事はできない。ルンバは虫を叩き落すかの如く…………。
『受け止めて見せるが良い!』
グレプァレンの上空にあった巨人の手が振り下ろされた。二メートル級のグレプァレンやエミリーでも軽々と持上げそうな巨大な手が――――降ってくる!
『バァァァァァァァ! ッ!?』
一歩も退く事無くその掌を受け止め――――たが、身体に襲いかかってくる衝撃に耐え切れずに呻くグレプァレン――――だが。
『バァァ……バ……バァァ……!』
驚くことに、彼は巨大なルンバの手を支えたまま、少しずつ持上げていく。大きさがあまりに違う二人の間では、それがそのまま力の差として生まれる。
純粋な力だけならグレプァレンの方が上だ。しかし、ルンバはこの姿で居られる時間が少ない。この一撃にすべてを賭けていると言っていい。
その決意がルンバに本来以上の力を出せている。――――が、それはグレプァレンも同じ。
押し潰されまいと抵抗し、力が尽きる前に倒さねばと足掻く。
『ぬおぉぉぉぉっ!』
『バァァァァァッ!』
故にここからは唯の意地の張り合い。男同士の我慢比べ。
結局、この戦いに勝ったのは――――。
次回、女神が微笑んだのはどっち?