開幕、女子トーク?
「あー、久々のベッドだわー!」
喜び勇んで飛び込み、布団の柔らかさを思う存分堪能するカーニャ。
あれから、本隊の位置をファルールから聞き出し、グレフ達と今後の対応について語り合った――が、直ぐに有力な対抗策が浮かぶハズもなく、一旦お開きとなった。
現在は屋敷の一室を与えられ、くつろいでいるところ。
「お風呂も気持ちよかったね」
姉妹は先程浴場から帰ってきたばかり、いつもはツインテールのカーニャも今は髪を下ろしている。
濡れそぼった髪は何とも扇情的、おまけに事実上自室とあって二人とも薄着だ。
長旅の性で中々服や下着も常に綺麗にとはいかなかった。グレフの好意もあり、彼のメイドに洗濯を頼んでいる。そしてここからが重要だ、今――――二人は下着を着けていない。
何故って、自分に合う下着がこの屋敷にないからである。ここにはメイドが一人しか雇われておらず、二人とは体型も微妙に違う。しっくりこない上にやはり他人の物を借りるというのは心地が悪い。それが下着ならば尚更と言うもの。
メイドさんが下着を買いに行ってくれているので、帰ってくるまでの辛抱だ。
しかし、繰り返して言うが、薄着の向こうは着けていな《・》い。
――と言う事は、服の上からノーレのふくよかな胸と丸いぽっちまで確認できるということ。
対照的にカーニャだが――――見えない。丸い膨らみも、ぽっちも、何も。そこにあるのは絶壁、効果音で言うならストーン……。
ちなみに、この話を後に知った悠理が悔し涙を流し、一日中行方不明になった事件が起きるのは随分先の話である。
「うんうん――――ところで」
枕を抱きしめつつ、部屋に置いてあるテーブルを見る。その上にはメイドさんが用意して置いてくれたお茶とお菓子。自分達の為に用意されたそれらは、来訪者の手によって既に手をつけらてしまっていた。
『あん?』
「うん?」
さも、ここに居るのが当然とでも言うようにレーレとファルールがお茶を飲んでまったりしている。
「何でアンタ達がここに居るのよ! ここはアタシとノーレの部屋って事になったでしょうが!」
ベッドの上に立ち上がってうがーと叫ぶ。姉妹水入らずの空間を邪魔するのは無粋と言うものだろう。
『ユーリが早々に寝ちまったから逃げ出してきたんだよ』
部屋割りを決める際、悠理は『ペットはご主人様と一緒の部屋に決まってるだろう?』と狂気を覗かせるような笑顔でレーレに迫った。結果、全力で嫌がる彼女を問答無用でドナドナして行った訳だ。
「無理もない。聞けば、召喚されて昨日の今日――。それでアレほどの戦闘をこなせば疲れない方がおかしいと言うもの」
ファルールは未来の主君の安否を気遣う、普段から鍛錬を怠らぬ自分でも今日の戦いは堪えた。
いくら強力な力を有していようとも、負担がまったくかからないハズもない。
純粋に彼の事を心配する。胸の内で大事無いようにと祈るばかりだ。
(まぁ、実際は気絶しちまったんだけどな……)
これはレーレだけが知っていること。部屋に着いた瞬間に悠理が倒れ、流石にビックリしてベッドまで運んで暫く付き添っていた。――――が、疲労で気絶しただけだと知って一安心し、する事もないので姉妹の所へ遊びに来たのだ。
ただ、悠理を一人にするのは何だか嫌だったので、眷属達を召喚して護衛させている。
「レーレは解ったけどアンタは?」
『ああ、俺が連れて来た』
「は? 何で?」
如何にも意外そうな顔、出会ってばかりで話に興じる仲でもないだろうに。
まぁ、それは昨日あったばかりの自分達にも言えることだが。
『ちょっとお前等に言っておきたい事があってな』
「ふーん、何よ?」
どうせ大したことでもないだろう――とカーニャは気を抜いている。
だから、レーレが真剣な面持ちをしているのに気付かなかった。
ノーレとファルールはその辺りを察し、姿勢を正して彼女の口が開くのをじっと待つ。
『俺はこれから何があってもユーリに付いていく。それだけ言っておこうと思ってな』
この発言に姉妹は揃って驚いた表情をして、事情を知らないファルールは言葉通りの意味を受け取って納得している様子。
「レーレ、アンタ――ついに自分の気持ちに素直に……!」
『――何がって聴くと面倒だから聴かねぇぞ?』
「ちえー」
わざと茶化しつつ、未だ驚く気持ちを整理しようとするカーニャ。
昨夜、彼女は『改竄された祝福を元に戻す為』だと付いて行く理由を述べた。聞いた本人もそれだけが目的ではないと思ったが、ここまで断言するとは予想も出来なかった。
一体、レーレにどの様な心境の変化があったのだろうか?
「それであの……どういう意味ですか?」
姉の変わりに尋ねる妹。態々このメンバーの前でそう宣言するということは何かしら意味があるハズだ。
そして、何故かノーレにはレーレの言葉がまるで宣戦布告みたいに思えた。だから余計に発言の意図が掴めない。
『ああ、今日のアレを見て、ここに居る奴等は各々違う感情を抱いたみたいだからな』
“アレ”とは最早言うまでもない。悠理が住民を威圧したあの一件だ。
『カーニャは“怒り”』
彼にコルヴェイ王の幻影を感じたから。
『ファルールは“憧れ・魅了”』
その未知の強さにどうしようもなく惹かれ、己が全てを捧げることを望んだから。
『俺は――――“可能性”』
アイツの強さには果てがない、彼が何を成すのか見届けたいと思っている。
『そしてノーレ――――――お前は何を思った?』
「え?」
唐突にレーレの雰囲気が攻撃的になるのをノーレは感じ取った。
これは経験上から判断するに――――自分にだけ向けられたもの。
自分は今、彼女に敵として認識されている。そう本能が警鐘を鳴らす。
『お前だけはどんな感情を抱いたのか読み取れないんだよ。アレが起きた昼間も、そして今も』
「私は――」
咄嗟に答えが浮かばない、自身があの時何を感じたか、唯それだけの事がどうしても思い出せない。
いや、思い出せないのではなく――――もしかして……。
「ちょっと、おかしなこと言ってノーレを困らせないでよ!」
もう少しで何かに手が届く――と思った瞬間にぎゅっと姉に抱きつかれて、掴みかけた何かが手から零れ落ちていく……。
惜しいと思う反面、ノーレは思い至らなくて良かったと安堵した。
――もし、その答えを掴んでいたら私は……。
『――まぁ、良いさ。俺も問い詰めたかった訳じゃねぇ』
いつもの調子に戻りながら席を立ち上がり、レーレはドアまで歩いていく。
『――だけどな』
ドアノブに手をかけたまま振り向かずに――宣戦布告。
『もし、お前が抱いた感情がいつかアイツの邪魔をするなら――』
――――その時は俺が容赦しねぇ……。
一体何が自分をそこまで動かすのかも解らないまま、レーレは部屋から立ち去ってゆく。
その後姿をノーレは唖然と、あるいは羨ましそうに見つめることしか出来なかった……。
うおー、今日も時間が無くて中途半端に……。
次回はレーレと悠理がイチャイチャ……してたら良いね!