激突、グレッセ王都!・巨人達の咆哮その二
ぬぉぉぉ、ダメだ。頭がぁぁぁぁががが!
何かブクマも増えてラッキー!
でもこれって明日には減ってるパターンじゃね!
『バァァァァァァァッ、ババッ!』
『ごごごぉぉぉぉぉぉ、ごー!』
鋼鉄の両腕が飛び出し、岩石の拳が迎え撃つ。
エミリーはその精神力とも意志力とも言える強靭な力で、先程よりも更なる強化を施していた。故に……。
『ババッ――――!?』
弾かれたのはやはり鉄の巨腕。
力負けしたグレプァレンが後ずされば、エミリーは迷わず迎撃を選択。身を低くし、右肩を前方に押し出して――――突貫!
『ごおぉお!』
『バアッ、ァァァァァァァン……!』
落石の如き勢いと威力を秘めたタックルを何とか受け止めるグレプァレン。攻撃を受ける度、防がれる度に身を焦がす程の怒りを抱く。
――――こんな所で、こんな程度で……。エミリーが、己が憎い。憎くてたまらない。
『バ――――』
この様な醜態を晒したままで良い訳が――――。
『バァァァァァァァァァァァァッ!』
――――ない。
――――――
――――
――
少し昔話をしよう。グレプァレンはゴーレムの中では珍しく集団生活を営む一族に拾われ、育てられた。
基本的にゴーレムは生まれが様々なので、己のみを頼りにして生きる事が必要となる。
エミリーやグレプァレンの様に、同族と家族形体を築くのは極めて稀。ある意味で二人は恵まれていたとも言えるだろう。
――だがしかし、故に二人は家族を喪うという辛い経験をしてしまったのだが。
グレプァレンもそうだが、彼の同族が肉体として形成する鉄は非常に希少価値が高く、加工材料としても優秀。加えて人の身では行けない地域にのみ生まれる鉱石だったのだ。
ゴーレム達にとっても、生まれた場所は常に危険が伴う地域。自然災害や、凶悪な生物。
それらから身を守る為に彼等は別の土地へと移り住み、穏やかに暮らしていた。日がな一日ひなったぼっこに興じ、同族と身体の磨き合い、力比べなどをして平和に過ごしていた。
……しかし、その平和は突如破られる。――“ノレッセアの審判”と言う最悪の事態によって。
ただし、彼らは戦いに巻き込まれた訳でも、負けた訳でもなかった。――人間によって狩られたのだ。
正しい情報の元に真実を明かすのならばこうである。
“ノレッセアの審判”は突如勃発した訳ではない。その前兆は確実にあったのだ。……であれば、知恵ある者なら備えようとする。滅ぼされて堪るか、絶対に生き残ってやる!
だから、彼等は生存性を高める為に武器と防具を生み出そうした。これまでに無い程に頑丈で、長持ちし、破壊力のある道具を。
そうして始まったのは鍛治士達による“競争”。己の誇りを賭けてより強い剣を、より頑強な鎧を!
彼等は命よりも名を惜しんだのかも知れない。明日の生よりも、明日の名誉を求め、武器と防具を生み出し続けていた。
――そんなある日のこと。とある冒険者が一つの鉱石で剣の製作を依頼した。それこそがグレプァレン達が身体として纏っている鉄鉱石“ロージィス”。
ロージィスで造られた剣の性能は凄いものだった。岩や鉄板もものともせず両断する切れ味、刃こぼれしない耐久力。そして手入れを殆ど必要としないほどの便利性。
人気に火が着くのは当たり前。そうして始まったのは――――ゴーレム狩り。
冒険者があっさりと口を割ったのが運の尽き、本来ならば到底手に入らないようなレアアイテムが手に入る好機をハイエナ達は逃すハズもない。
勿論、ゴーレム達だって黙ってはいない。当然、応戦したとも。
――だが、人間や亜人達と比べれば彼等はあまりにその個体数が少なすぎた。
時は“ノレッセアの審判”が近付く弱肉強食の時代。手練の冒険者、名のある兵士、王族直属騎士…………。
か弱き小動物は、生にしがみ付こうとする飢狼に食い尽くされるが定め。
身体を形成するロージィスどころか、ゴーレムの核である精霊石でさえ奪い取る人間達の浅ましさを、グレプァレンは絶対に忘れまいと誓った。
当時、唯一生き残ったグレプァレンは今でも思う。
――自分達の存在理由とはなんなのだろう、と。
唯、稀少な鉱石を身に纏っていて、その所為で悪戯に命を奪われるのが存在理由だとでも言うのか?
それは――――いくらなんでもあんまりじゃないか。自分達だって穏やかに、緩やかに時を過ごしたかったのだ。仲間たちと共に苦楽を共にする事が何よりの喜びで、それ以上は何も望んでなど居なかったのに……。
『(我は“それ”を見つけなければならない)』
グレプァレンは己の誇りである“ロージィス”に賭けて誓う。
――自分が仲間たちの分まで生き抜いて、その存在に意味があったと世界に知らしめる、と。
“ノレッセアの審判”後は各地で冒険者狩りを続け、その結果としてレイフォミア達に出会い今に至る。結局のところ、彼が辿り着いた存在証明の方法とは――――戦い続けて自身が最強である事を示す。…………と言うものだった。
――――――
――――
――
『――――バアアアアアアアアアアアッ!!』
『ごっ、ごご…………』
――グレプァレンに芯が戻ってきた。或いは闘志が湧いてきたと言うのか。その証拠にエミリーを力ずくで押し返し始めている。ジリジリと、鋼鉄の巨人が岩石の巨人との差を詰めてきている。
エミリーが何とか作った僅かな猶予が徐々になくなっていく。
『バッ!』
『ごっ!?』
ここでグレプァレンがエミリーを突き飛ばす。姿勢が崩れ、無防備な姿が晒される。
『バァァァバアアアアバァッ!』
『ごっ、ごごごごぉぉぉぉぉ……!』
遂に能力で埋めていた差は消え去り同等――――いいや、エミリーの劣勢が濃厚。
拳を数度打ち合わせても、ヒビが入り砕けっていくのは岩石の腕。
――それでも、エミリーは拳を繰り出し続け…………。
『ごー、ごごっ…………』
遂には限界。度重なる拳の衝突に耐え切れなくなった腕が――――肘からバラける。
ごとっ、と重量感のある音を響かせ、エミリーの右腕が地面に突き刺さった。強固な身体を形成するゴーレムであるが、一度パーツを欠損するとその修復には長い長い月日が必要になる。
エミリーは残った左腕だけでグレプァレンを相手にしなければならなくなった訳だ。
『バァァァァァァッ!』
無慈悲に止めを刺すべくグレプァレンが近付いてくる。勝利を確信しているのか、それとも負けない自負がるのか……。どちらにせよピンチなのは決して動かせない事実。
『ご、ごー…………!』
それでも諦めずに左腕でファイティングポーズ。この五体全て砕け散るまでは戦ってやるとも!
そう意気込んで先手を打つべく、動こうとしたその時――――。
「おおぉぉぉぉぉぉぉッ!」
『バッ!? バ!?』
何者かが雄叫びを上げながらグレプァレンの頭部に飛び乗り、斧をその鋼鉄に叩き込んでいた。
ガキィン、ガキィンと鳴り響く音から察するに大したダメージはあるまい。だがその音が気に障るのか、
鉄の巨人は凄く嫌そうに身体を激しく振る。
「ぬぉおっ!?」
身体を襲う揺れに耐え切れず、頭から飛び降りる何者か。その体格の良い古参兵地味た背中がエミリーに向けられ、そのままの状態で彼は高らかに宣言した。
「エミリー! こちらはあらかたカタがついた!! このルンバ・ララが助太刀しよう!」
――意外な、いや…………頼もしい援軍の登場だった!
次回、ルンバ大活躍!