激突、グレッセ王都!・似た者同士の孤独その四
あ、頭は働いてないが、とりあえずは書けた、ぞ?
『何もかも奪い取れ! 究極闇技“虚無の闇”!』
レーレが作り上げた純粋なる闇のエネルギー。その究極系――“虚無”。
それはメノラがアルレインに放った“虚空”とは対を成す関係にある。
どちらもあらゆるモノを無に帰す力だが、方向性が異なるのだ。
まず“虚空”だが、これは七つの属性をを互いに反発させあう事で生まれる“破壊のエネルギー”。“虚空”の無に帰するとは即ち――――“破壊”。あらゆるモノを破壊して無を生み出すチカラ。
それに対して“虚無”は、闇という一つの属性だけを使って“無”を表現する方法。対を成すとは言ったが、他の属性でも力を極限まで高めれば同じ事が可能だ。
つまり“虚無”は闇属性だけで“虚空”を再現したモノと言えるだろう。
大きく違う点は唯一つ。この“虚無”には威力が無いということ。
しかし、その代わりにこの力は全てを飲み込んでゼロにする。あらゆるエネルギー、感情、気力。
それらを吸い込んで相手を“破滅”させる。無気力、無生産、無価値、無感動…………。
――――それこそが“虚無”の効力。
『ウゥゥゥゥッ、ウオォォォォォン……!』
金色に輝きながら白炎を纏い、暗闇に抵抗する神獣・九尾の狐。危険であると解っていたのに“虚無”を避ける事が出来ない。先程の虹色結界の効果が今になって身体の自由を一瞬だけ奪ったのだ。
それが――――運の尽き。輝かしさを象徴する金と白を纏いし神獣は真っ黒な闇に穢されていく。
『ウオォォォォォォアァァァァァァァァッ!!』
『無駄だ。それは俺一人で造り上げたもんじゃねぇ』
闇に包まれそうになるのを必死に逃れようと足掻く九尾。けれど闇はますます身体に巻きついて、飲み込もうとする。抵抗を止めない神獣へレーレは穏やかさえ覗かせながら宣告する。
――無理だ。諦めろ、と。
『俺を助けてくれ大事な家族……それと――――』
この力はレーレだけでは決して届かぬ領域。それを手助けしたのは己の眷属であった12人の精霊と――――あの男……。ぼさぼさの髪と無精髭、山賊の様な悪人面。けれど、どこか子供っぽくて、どこか純粋で……。
何より、どこまでも自由なあの男によるものだった。
『――――アイツの力をありったけ注ぎ込んだんだ。負けるわけねぇよ!』
脳裏に描くは愛おしい男。死に行く自分を繋ぎとめてくれた能力――――“生命神秘の気”。
“虚無”の創製を成しえたのはあの虹色に輝くエネルギーを使ったからに他ならない。闇属性だけだと言ったが、純粋にエネルギーとして利用するだけならば問題はない様だった。
“生命神秘の気”が足りない部分の力を補い、神獣を圧倒し呑みこむほどの“虚無”を生み出した。
『ウオォォォォォアァァァァッ! ウオォォォォォンッ!』
『足掻くな、受け入ろ。闇は等しく――――誰にでも訪れる』
『ウオォォォ………………コォォォォォォン……』
暴れども暴れども、闇は消えず。解っていても暴れ続ける神獣に仄かな哀れみさえ抱き、レーレはその姿を見つめ続ける。最早、攻撃などしなくとも勝敗は決したのだから。
『……オォ…………コ……ォ……ォン………………!』
やがてその身体全体を闇が包みきると、神獣はか細い鳴声を残し、徐々にその巨体が小さくなっていく。
神獣の持つエネルギーを“虚無”が喰らい尽くしているのだ。止める術などなし。
『――終ったな』
――呟かれた一言は唯一つの真実を射抜いていたのだった。
――――――
――――
――
「う……うぅ…………」
神獣の力を奪い取った“虚無”が縮小していくと、中からは人の姿へと戻ったギニュレアが居た。
――――が、力を吸われた影響で、あの金色だった髪の毛は白髪へと変わっている。時間をかければ力が回復し、元通りの輝きを放つだろう。けれどこの戦いにおいては回復は見込めまい。
『よぉ、気分はどうだい?』
「最悪よ……何か凄くダルいしね……」
お互い既に戦う気は無いのか、軽口を叩ける程度には雰囲気が和らいでいる。
ギニュレアは言葉通り、気だるさを漂わせていた。彼女から戦意が感じられないのは“虚無”によってそれを奪われたからか、或いは己の負けを認めたが故の殊勝さなのか。
『奥の手を使ったんだ。これで倒せなかったら俺が死んでた』
「――でしょうね。どうして負けたのか未だに見当がつかないわ……」
レーレに勝っている自信はあった。実際負ける要素が無かったのだ。
なのにどうして負けたのか? 彼女は勝利を諦めなかった。彼女は持てる全て能力で全力を尽くした。――――それは認めよう……。
しかし、世の中にはそこまで強い意志で立ち向かおうとも最悪の結果を避けられない事がある。
では何故、レーレはそれを回避できたのだろうか? 既に戦意喪失したギニュレアが考えたのはそんな疑問。悩むような戸惑っているような彼女にレーレは笑みを浮かべる。
どこか誇らしげで、どこか悪戯好きの子供っぽさを含んだ笑みだ。
『解らないか?』
「……えぇ」
『それは――――愛さ!』
大きな声で。この勝利は愛の力がもたらしたと胸を張るレーレ。
それは何処か廣瀬悠理を彷彿とさせるもの。なるほど、確かに彼がこの場に居ればそんな事を言ってたかもしれない。
――――と、レーレはどこか他人事の様にそう思った。自分があの男の様な振る舞いをしたのはきっと、己の中にその生命エネルギーが息づいているからだ。それがどこか嬉しく――――誇らしい。
「あ、愛? ――――アハっ……あははっ」
あまりにも抽象的な、それでいえ予想外の解答を出され、ギニュレアは思わず噴出した。
彼女もまた――――どこか嬉しそうであった。納得したか、もしくは諦めがついたのかも知れない。
「そ、そっか、愛か……あはははっ……!」
『わ、笑うんじゃねぇ! 俺だって恥ずかしいんだよ!』
「それじゃあ…………わたしは勝てないわよねぇ…………」
笑い続けるギニュレアに顔を真っ赤にして抗議するレーレ。後から恥ずかしさが込み上げてきたらしい。
白髪の狐は憑き物が取れたような爽やかな笑みを浮かべて――――グラリ、空中でその身体が揺れた。
「な……っとく……だわ…………」
――限界が来たのだ。“虚無”によって“力”、“戦意”、“気力”を吸われた彼女には、もう戦うだけの意志が湧いてこない。それに神獣化に伴い、体力も大幅に低下している。
従ってギニュレアは落下を開始した。何の抵抗も出来ずに失墜していく……。
『――勝った…………なんて、喜ぶ気にはなれねぇな…………』
レーレは助ける風も無く、その様子を見ていた。――いや、それは違う。何故なら、口の端を一筋の血が流れていったからだ。ダメージを負ったのはギニュレアだけなハズがない。
『チッ、やっぱ…………負担が大きいか』
悠理から“生命維持”の為に分け与えられた“生命神秘の気”。それを体外に放出し過ぎた所為だ。
新たな祝福はレーレの身体に完全定着した――――とは言え、移植した祝福が上手く馴染んだのは間違いなく“生命神秘の気”のお陰……。
それを大量に消失した事でバランスが崩れた。生死に関わる問題にはならないが、その手前位までは肉体に変調をきたしている可能性も考えられる。
『悪いな、ユー……リィ……。手助けには……行け……ね…………』
無念を口から吐き出す。それが最後の力だったのか、彼女もまた失墜を始める。
墜ち行く最中に思うのはやはり悠理のこと。手助けにいけない事が何よりも悔しい。
そうしてグレッセ王都内にて戦っている彼に思いを馳せ、レーレは地面へと直撃――――しなかった。
「――――無茶をし過ぎだ。馬鹿者…………」
『――――へっ…………』
地面直撃寸前に高速で走り抜ける影が彼女を助け出したのだ。影の主は――――ファルール。
ディーノスを駆って何とかレーレの救出に成功した。咎める様な口調をレーレは鼻で笑い飛ばすと、ファルールの腕で気を喪う。
「まさか――――ギニュレアを倒すとはね」
その様子を見ていた第三者がそう呟く。まさか、と思い振り向く。セレイナ達が応対しているはずじゃないのか?、と。
「私を追ってきたか…………神速のアイザック?」
背後に立つは神の右腕アルフレド・デディロッソが腹心“神速のアイザック”。
どうやら二つ名に恥じない動きで、ファルールを追跡してきたらしい。セレイナ達は捲かれたと思って良さそうだった。こちらの救援は――――間に合うまい。
「どうやらアルレインは殺られたみたいだね……。ギニュレアも戦闘続行不可能――――やれやれ、僕とグレプァレンだけになるとは」
「――――いいや、違うな」
「…………何がだい?」
「この戦いはお前達の負けだ。お前もあのゴーレムも、無事では済まさない」
肩を竦めるアイザックにファルールはアウクリッドを向けて宣戦布告。
――――お前はここで……倒す…………!
「――――ほう、大きく出たね?」
「我が主の邪魔をさせるわけにはいかんからな…………」
レーレをディーノスに乗せたまま、ファルールが地面に降り立ち、獲物を正眼に構える。
気力は十分、相手の戦力把握も問題ない。今度はあの速度にも対応して見せる。だから――――――――。
「――さぁ、存分に戦おうじゃないか!」
次回から、ファルール対アイザック編。