激突、グレッセ王都!・似た者同士の孤独その三
良し、相変わらず頭はぼーっとしちまうが、何とか更新できたよ。
所で明日なんですが…………、本編は更新できないかもです。
部屋の改装に必要な家具やらを見繕うと思ってるもので……。
本編更新はそれが早目に終わったら――――と言う事で。
『まさか神獣化するとはな……』
『ウゥゥゥゥッ!』
大地に雄々しく立つは巨大な金色の九尾の狐。大口を開けなくても人一人は余裕で飲み込むであろう巨体。それは紛うこと無き神獣。
先程までギニュレアと言う名の少女だったもの。神獣の足元には彼女の胸から流れでた血痕がぽつぽつと名残の様に存在していた。
『しかもテメー……、理性を失ってやがるな? チッ、何がお前をそうさせてんのか知らねぇが……』
目の前に立つ金色の獣を睨み据えてレーレは毒づく。気配が人のそれとは違う。完全に獣のソレに成り代わっている。つまり、今はもう彼女はギニュレアとは程遠い何かだと言うことだ。
どうしてだかレーレにはそれが――――。
『――大馬鹿野郎が……!』
――――許せなかった。一体何がそこまで彼女を動かすのかは解らない。けれど自分を見失ってまで果たす事に何の意義があるというのか? 目的を優先して個を踏み潰したギニュレアに怒りが湧く。
もっと……、もっと自分を大切すれば良いだろうに……! 何故だかレーレはそう叫びたくて仕方がなかった。
『ウゥゥゥゥ……ウォア!!』
獣に言葉は通じぬ。レーレの怒りに反応した九尾の狐は身体中から白炎を噴出す。そうして彼女を飲み込まんとした。敵は排除すべし――――如何にも獣らしいシンプルな思想がギラついた瞳から見えた気がした。
『チィ……! う、うぉぉぉぉお!?』
『コォォォォォォン!』
立ち込める熱気と襲い掛かる白炎に堪らずレーレが空中へと逃げ出す。しかし当然の如く、それを追う九尾。しかもその速度は驚く暇もない位に速い。
何せ、一瞬の内にレーレを追い越して空中で待ち構えるように顎を開いていたのだから!
その大口からは白炎がチロチロとその姿を見せ始めている。
『クソッ、“キリャンカ”!』
『ウオォォォォォアッ!』
眷属精霊メシィの所有物、宝具“キリャンカ”を召喚するのと同時。九尾の口から白炎が放たれる!
それは真っ直ぐにレーレの身体を焼き尽くそうとして――――半透明のガラスの様なキリャンカに阻まれた。
――キリャンカは相手の攻撃を受け止め跳ね返す能力を持つ。しかし、神獣の攻撃を跳ね返すどころか受け止めるのもやっと……。いや、数秒とは言え受け止める事が出来た時点で奇跡。
レーレは稼いだ数秒を使って白炎の軌道から逃れる。その直後、キリャンカを焼き溶かした白炎が地面へと消え行き……大爆発を起こした!
周囲に人がいなかった事が幸い。これが解放軍と正規騎士達との上空で起こっていたら思うと……。
そんな嫌な想像をしながらレーレは再び九尾へと警戒を向ける。地面で起きた爆発の余波で熱風を叩きつけられるが、構ってなどいられない。
『や、やっぱ無理か……。能力に差が有りすぎる……!』
『コォォォォォォン!』
あまりの戦力差につい口をつく弱音。非常に彼女らしくないその言動を気に留める訳も無く、九尾は再び白炎を吐き出そうとして――――。
『――――なーんてな!』
『ウォォォォォン!?』
突如、九尾の動きが止まった。空中でピタリ、と。
金縛りに合った様にワナワナと震えている。神獣の周囲に煌くは――――虹の光。
『ウゥゥッ!』
『――ユーリ、ちょっとだけ力を貸してくれよな!』
恨めしそうに唸りを上げてレーレを睨む神獣。その光――――そう、“生命神秘の気”を放ったのは彼女であろうと獣の直感が囁く。事実、確かにそれを操っているのはレーレだった。
『さぁ、来いよ! 英雄の寵愛ってやつを――――見せてやるぜ?』
『コオォォォォォォンッ!』
かかって来いと手招きすれば、あっさりと“生命神秘の気”による束縛を抜け出て白炎を発射する神獣――――だが…………。
『へっ、喰らうかっての!』
『ッ!? ウゥゥゥッ!』
レーレへ直撃するする瞬間に、それは虹の光に包まれて跡形も無く消えて言ったのだ。
その様子に神獣が低く唸り、怒りを露にしていく……!
『――流石にユーリの様には扱えねぇが……攻撃を防ぐだけなら……!』
掌から虹の光を放出して九尾の動きに注視するレーレ。
だが、ここで彼女が何故“生命神秘の気”を扱えるようになったのか…………その説明をしなければなるまい。アルフトレーンで九死に一生を得た彼女だが、その時に使われたのは高濃度の“生命神秘の気”。
それ以前にも、レーレは悠理の身体からこっそり生命エネルギーを拝借していた訳で……。
既に彼女の身体にはあるハズのない“生命神秘の気”が大量に蓄積していた事になる。それは通常、彼女を生かす為に使われるモノであるが、彼女自身がそれを好き勝手使う事は出来ない。
だから、彼女の肉体が損傷でもしない限り、与えられた“生命神秘の気”はその効果を発揮しない。何しろ、本来の使い手である悠理にプログラムされたのは“レーレの生命維持”のみだからだ。
――とは言っても、レーレはとっくに肉体にあるその力を使う術を編み出していた。
それは――――放出だ。悠理の様に肉体強化や、相手の精神への干渉。そう言った複雑な操作・命令は彼女では行えない。だが体内にある余剰な“生命神秘の気”を排出する事は可能だったのだ。
放出された虹の光は命令を与えられていない為に何かしらの動きは起こせない。
だがしかし、レーレの体内にあった“生命神秘の気”は“彼女の生命維持”を命じられており、彼女に害を成す攻撃に対しては自動で対処する事になる。
先程の金縛りも、白炎を分解させたのもそれが理由。強力な“生命神秘の気”の力を借りれるのは今の彼女にとっては数少ないアドバンテージだ、
――――ただし、問題が一つ。
レーレの“生命維持”を命じている“生命神秘の気”を大量に放出した場合、どんな負荷がかかるか解らないと言うこと。そんなモノは承知の上でレーレはやっている。だから性質が悪い。
死を恐れず己の命を浪費する。それはまるで――――悠理そのものではないか。
ふとそんな考えが脳裏を過ぎってレーレは微笑んで――――それと同時に九尾が動いた!
『コンッ、コォォォォォォン!』
『チッ、“ムルキムテラ”、“ロロアシアン”!』
甲高い鳴声を発しながら、複数の白炎を飛ばす。レーレは眷属精霊チーシャの“ムルキムテラ”と、マスパーの“ロロアシアン”を召喚し、それを迎え討つ!
ムルキムテラは巨大なムササビの様な姿をしたまん丸の風船、もしくは布袋のような外見。
口に当たる部分で白炎を吸収しようと吸い込むが――――神獣の力はその中に収まりきるものではない。
『吸収……は無理か。なら――――特攻爆散!』
限界を感じ取ったレーレは指示を飛ばす。ムルキムテラは敵の攻撃を吸収し、無効化するもの。しかし、その中身には吸収したエネルギーが渦巻いている為に非常に優秀な爆弾となりうる。
『ウオォォォォォアァァァァッ!』
『包み込め! “虹の霧”!!』
主の指示通りに特攻を敢行したムルキムテラが爆炎に包まれる。白炎自体は九尾の生み出したもの故にダメージは殆どないだろうが、その衝撃は特大だろうとも。
爆発の余波で動きが鈍った所でレーレはすかさず、神獣を覆い隠す様に“生命神秘の気”を放出した。
『ウオォォォォォン……』
虹の結界に閉じ込められ、心なしか弱まった鳴声を上げる九尾。レーレは思わずガッツポーズだ。
『おしっ! これで暫くは時間が――――』
『コォォォォォォン!』
『――――あんま持ちそうにねぇな!』
『ウォォォォォォッ!』
『チッ、そうがっつくんじゃねぇよ!』
雄叫びを上げながら虹の結界を叩き割ろうと、白炎を纏って突進を繰り返す。
レーレは小さな杖――――宝具ロロアシアンを握りながら、虹の結界を操ろうとする。
それが……、ロロアシアンの効果。あらゆるエネルギーの操作補助を行う宝具である。
悠理の様には使えずとも、放出した“生命神秘の気”の収束、方向指示くらいはこれで可能だ。
『コン、コォォォン! コォォォォォン!』
『もう――――ちょい!』
何度も何度も結界にぶつかる神獣。その度に負けまいとレーレはロロアシアンを強く握り、虹の光の一点に集中させ、結界の強度を高め様とする。
――あと少し、ほんの少しだけ時間が稼げればいいのだ。だからもう少し…………。
『ウオォォォォォォォォォォォォォォォンッ!』
『おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
互いに気合を入れて絶叫・咆哮。渾身の力を突進と結界維持に傾ける。そして…………。
『ぐっ…………』
『コォォォォォォン!』
パリィィン――破れたのは結界。敗れたのはレーレ。
虹の光からん抜け出た神獣は勝利を確信でもしたのか、周囲一帯に響く様に一際大きな声で鳴く。
『チクショウ――――勝ち誇りやがって……!』
『ウオッ、ウオォォォォォォンッ!』
憎らしげにレーレが睨めば、彼女の言葉通り勝ち誇る様に雄叫びを九尾は上げ続ける。
しかし、それは油断と言うものだ。レーレが時間稼ぎをしていた事に、この金色の獣は気付いていないようだった。
『勝ち誇るのは――――』
――そしてその時間稼ぎに大きな意味があることも…………。
『――――俺の方だぁぁぁぁぁぁぁッ!』
『ウ、ウォォォォン!?』
自分ではなくレーレが雄叫びを上げたことで、神獣はやっと彼女の手にあったモノに気付く。
黒い、黒い渦だ。黒い渦がその手に納まっている。それは巨大な力の奔流。精霊の――――いや、闇属性の集大成とも言えるナニカ。
レーレはそれを――――神獣目掛けて力一杯ブン投げた!
『何もかも奪い取れ! 究極闇技“虚無の闇”!』
時間が取れれば本編更新、時間がなければ人物紹介。