心境変化、その先は……
「――――と言う訳なんです」
場は依然客間、悠理一行の状態をノーレが説明し終わるのに10分もかからない。
意図的に三つの情報を伏せた事も関係している。
一つ、廣瀬悠理が持つ謎の能力、これはこのまま祝福と思わせておくのが妥当であり、詳しい説明は避けた。
二つ、レーレ・ヴァスキンが死神であると言うこと。バレると色々とマズイ。宗教的に崇拝する人間、敵視する人間など居るだろう。公表したところで混乱を招くだけだと判断する。
三つ、これは悠理やレーレにも隠している情報、最重要機密。
――――――ノーレとカーニャの過去と本名。
以上の三つを追求されないように会話に工夫を施しながら説明を行う……。ノーレにとっては容易いこと、伊達に頭脳労働担当と称してはいない。
「ふむ、成程な……」
「あ、あの、この事は――」
如何にも困っている体をごく自然に演出する。
自分達の事だけは知られる訳にはいかない、今はまだ。
「解っておる。胸の内に留めておく事にしよう、皆もそれで良いな?」
グレフの言葉に鎧達やファルールも一様に頷く。公表するにしてもタイミングというものがある。今はその時ではないだろう。
「ありがとうございます……」
乗り切れた事に心から安堵するノーレ。同時に隠し事をしている事実が胸を締め付ける。
――――まだ打ち明ける訳にはいかない……見極めなきゃ……。
姉もきっと同じ痛みに耐えているだろう。なら、自分も凛としていなくては。
「……これじゃどっちが姉ちゃんだか解らんな」
「どういう意味よ!」
『いや、そのまんまの意味だろ』
「……うー」
そんなノーレの気持ちを知ってか知らずか、カーニャは悠理達にいじられて不貞腐れていた。
だが、何処か今の状況を愉しんでいるようにも見える。
「――ふふっ」
今はそれで良いのだろう。姉も重たい荷物を背負っているのだから。時に休息も必要だ。
「――――ミスター」
黙って説明を聞いていたファルールがここで口を開く。まるで、意を決したように。
「今までの非礼をお詫びすると共に、我等を救ってもらった事に対して感謝を」
深く一礼、騎士団を束ねる長らしい綺麗で真っ直ぐな立ち振る舞い。
悠理が思わずその姿に見惚れていると、レーレに太腿を抓られ我に返る。
「別に気にすんなって、偶々手に届く距離にお前等が居て、俺の手も何とか届いたってだけの話さ」
これは本心、実際手の届かない誰かを助けることなんて出来ない。それを望む人は大勢居るが、実行できる力の持主はそう居ないだろう。
――自分が出来るかどうかは別として、な。
「――――一つ願いがあるのだが……」
「断る」
「ま、まだ何も言っていないぞ!」
真剣な表情のファルールを速攻の一言で片付ける悠理。一連の流れに隙が無い。
それもそのはず、何を考えているかのかは予測済み。
ましてや、あれほどに綺麗な一礼をする相手、それはそのまま良くも悪くも性格に反映している。
「いや、どうせ『我等も共に戦わせてくれ!』とか言うんだろ?」
「な、何故解った? ――いや、なら話は早い。我等を――」
「だから却下」
「な、何故だ!」
ふぅ、と溜息をつき、頭を掻く。少しばかり、自分の行動が彼女にはカッコ良く映り過ぎたらしい。
今現在、彼女に行った精神攻撃は解除済みで、冷静な判断が可能なハズなのだが……。
勇者とか救世主なんてイメージがファルールの中で増大し、廣瀬悠理がとても大きな存在に見えている――のではないだろうか、と本人は推測する。
言わば陶酔の一歩手前、もしくは白馬の王子様に出会って一目惚れ――それに似た心境なのかも知れない。
「やっと自由の身になれたのに、今度は俺に縛られてどうするんだ。あと、お前は部隊を預かる身なんだから、ちゃんと部下達と話し合ってから決めなさい。故郷の再興とか、やりたい事は沢山あるんだろうが」
「確かに、仰る通りだが……」
――言われた所でこの気持ちは動かない。
貴方に付いて行けば、この流れに乗る事こそが、自分達の未来を切り開くことになる。
彼と刃を交えて、彼の腕に抱かれて確信した。腕の中で目にしたあの光景……跪く人々。
あれは如何なる力を持ってして造り上げたものなのか見当が付かない。だが、一つだけ断言出来ることがある。
――あれはコルヴェイ王とは違う類の力だ。
カーニャは彼が『コルヴェイ王と同じ』だと評したが、そうは思わない。
あの力が世界を変えるモノであるのは間違いない。良き未来を迎えるか、破滅へと導くのかはファルールに量りきれることではないが……。
「――解った。彼等とちゃんと話合うことにする」
ここは一旦引き下がる、彼の意見にも一理ある。個人の気持ちも大事ではあるが、今まで共に苦渋を舐めて来た仲間達もまたかけがえのない存在。
今は騎士団の気持ちを確かめ、それがどんなものであっても受け止める。それが、白風騎士団団長ファルール・クレンティアの今成すべきこと。
「だが、私個人の気持ちは変わらない。貴方に私の剣を捧げたいと思っていること――――覚えていて欲しい……」
少しばかり気恥ずかしい。今まで剣術を鍛え上げることに多くの時間を費やしてきたのだから。
最早、ファルールにとって剣を捧げるというのは自分を捧げると告白しているに等しい。
「応、考えに考えた末に出した結論がそうなら俺は歓迎すっからさ」
今度は否定されない、それどころか手を差し出される。
「ああ、楽しみにしているといいさミスター」
差し出された手を握り返す。
――ああ、私はこの手に助けて貰ったんだな。
コルヴェイ王に植えつけられたトラウマから解き放ってくれた。恐怖はまだあるが前ほどじゃない。
いつか、いつか必ず一生をかけて恩は返すとも。
力強い握手を交わしながら少しばかり大げさに――誓う。
なんか凄く眠くていつも以上に文章を書けないんで今日はここまでで……。
明日こそ女子トーク(?)編なるか?