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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
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激突、グレッセ王都!・似た者同士の孤独その二

よっしゃ! 何かスゲェ脳が疲れまくっててヤバいんだが……何とか間に合ったぜぇい!

『行くぜ!』

「迎え撃つわ!」


 一時の穏やかな会話を終え、再び始まる似たもの同士による戦い。


『オラァッ!』


 先に動いたのはレーレ。鎖鎌“フルトヴァイシ”の分銅を投擲。小刻みに軌道を変えながらギニュレアに迫るが……。彼女は一度その攻撃を体感し、射出した分銅が軌道変化を可能とするのを知っている。

 故に二度目ならば良く見て対処すればいいだけのこと。十分に引きつけてからその攻撃をかわせば良い。

 実際にギニュレアはそうする。完全にその動きを見切り、予測し、分銅を回避しようとする。


「もうそれには当たらな――――えっ?」


 ――――がしかし、行動を予測できるのはレーレも同じ事。回避される事が解っていながら、分銅を投げたりはしない。通り過ぎた分銅から糸の様なモノが放たれ一瞬の内にそれは全身へと張り巡らされ、ギニュレアは空中で拘束される。


「こ、これは別の宝具? あんたまだ隠し持ってたのね!」


 レーレの手元に戻っていく分銅に何かが括りつけられている。それは蜘蛛の様な形をしたオブジェクト。

 ――“エンタメイト”。アルフトレーンにおいて消滅したレーレの眷属精霊の形見……。


 ウルテラと言う中級闇精霊が持っていた宝具である。オブジェクトの内部で無尽蔵に特殊な糸を生成するアイテム。敵の拘束や、トラップになど多岐に渡る使用が可能な糸。

 それがギニュレアを拘束しているものの正体であった。では、どうしてレーレはその宝具を行使できるのか? と言う問題であるが――――。


 ――それは当然のこと。何故なら彼女はグレイスのフルトヴァイシも、テオのグルフニグフだって召喚して見せた。ならば、アルフトレーンで彼女達を生かした十人の宝具も受け継がれていておかしい事があるだろうか?

 いや、全く無いとも。レーレは既に死神にあらず、十二人の精霊を受け継ぎし亜精霊――――精霊の巫女なのだから。


『小細工で悪いがこっちも格上相手に必死なんでね!』


 蜘蛛のオブジェクトを右手で回収しつつ念を込めると、蜘蛛の目が赤く光ってギニュレアを拘束している糸を更に縛り上げた。遠隔操作だ。


「良いわよ、これくらいハンデ――――」


 締め上げられ、悲鳴を上げる肉体をものともせず、ギニュレアは笑う。

 こんなものでは足りない――――と。そう言うかの様に、彼女の身体が赤い光に包まれる。

 ゆらゆらと大気がたわんでいく……。それに同調するかのように九つの尾も揺れ動いている。


「――――ないのと同じだもの」


 キッとレーレを睨み付けると同時に、金色の九尾の身体が白炎に包まれ、燃えがっていく。 

 現在、唯一判明している攻撃方法……。当たれば一撃必殺を誇るその炎に包まれても使い手は当然無事。

 エンタメイトの糸だけが一瞬にして灰になって消えて行く……。レーレはそれを溜息を吐きながら見送った。


『流石は神獣の血を引いてるだけあるな……。中位精霊の宝具でも頑丈・便利・高性能で定評のある武器なんだが……』

「そんな城下町の酒場みたいに言うとありがたみ薄れない?」


 鋭いツッコミに『確かに』と頷きつつも、やはり驚愕。あれは普通の糸ではない。精霊界でのみ生成、採取可能な素材を使用して造られるモノ。

 神獣の力が如何に強大でも、一瞬の内に灰に出来るとは恐ろしいものだと思う。


 精霊界とは人間界と違って属性に対する耐性が高い生物や植物、鉱物などが取れる。属性とは物理攻撃以外の、炎、水と氷、風、雷、土と石、闇、光の七つを指す。

 中でも闇精霊が住まう地域では光以外の全てに耐性を持った“闇属性素材”が豊富な土地。故にそこで採取されたアイテムで加工したこの糸――――――炎に対する耐性もかなりあったハズだ。


 だからこその驚愕。耐性を無視するほどの圧倒的な暴力(チカラ)。それを確かに見てしまった気がした。――けれど、怯んでばかり居られない。


『――――仕方ねぇ、他も試すとするか!』


 一度瞑った瞼の裏に悠理の笑顔を思い浮かべて己を鼓舞。その手に眷属精霊シーパの宝具を召喚。

 手に顕現したのは掌大の輪っか。レーレは指先でクルクルと回転させながら右腕を大きく後ろに逸らす!


「うっそ、まだ出てくるわけ?」

『飛びな! “カンディザ”ッ!』


 新たに出現した宝具を警戒する様にギニュレアは身構えるが、レーレは迷う事無くそれを投げつけた。

 カンディザは高速回転を始めギュルギュルと大気を切り裂きながら金色の少女へと飛来する!


「そんなものッ!」


 動きは早いが自分へと一直線。単純な軌道に冷静さを持って白炎を投げつければ、実にあっけなく命中し爆発。周囲に煙が立ち込める


「なんだ、あっけないじゃ――――」

『……どうかな?』

『えっ?』


 警戒し過ぎたかと己をの見る目の無さを疑うも、レーレはそれを否定する。

 忠告に耳を澄ませば――――爆煙の中からギュルギュルと音が聴こえた。


「ッ!? チッ……!」


 目に映った光景に思わず舌打ち。爆煙から、破壊したハズのカンディザが()()に飛んできたからだ! これがカンディザの能力。


 この宝具は攻撃力も低く、投擲しても単純な軌道でしか飛んでいかない。しかし、それを補うに相応しい能力がある。カンディザは敵の攻撃を受けて破壊されると、その破損度合いで分裂する仕組みになっていた。

 ギニュレアの白炎を受けてその数はゆうに500以上まで増殖している。無論、一つ、一つは大した事の無い威力。彼女であれば一瞬で破壊できる。


 だが、500は多い。いくらなんでも。一度に落とせる数には限度がある。

 その場を後退しつつ、白炎をカンディザへと投げつけるが……。


『逃がすかよ! “ロダ・ロア”!!』


 ここで更に宝具を召喚するレーレ。眷属精霊レスタの所有物であるボウガンがその手に納まっている。

 闇の凝縮したような黒い矢をセットし、引き金を引く。放たれた闇はカンディザを器用に回避し、白炎をも幾つか避け、ギニュレアへと迫る。


「くっ、一体いくつ宝具を……」


 直撃する直前に白炎を命中させ、事なきを得るが、再び爆煙で視界が遮られる。

 やはり爆煙を突き抜けてきたカンディザを残らず破壊するが、その一瞬、僅かにレーレから注意が逸れてしまった。


『まだまだぁッ!!』

「これは――――痛ッ!」


 注意がレーレから逸れた内に彼女は新たに宝具を召喚。眷属精霊アルネの茨鞭“フロ・ンメリル”でギニュレを拘束する。迷わず燃やそうとする金色の狐は、しかし肉体に伝わる鋭い痛みに行動が中断されてしまう。


 精霊界に生えるこの茨は生物に絡みつくと、棘で突き刺す。更にこの棘が厄介で肉体に刺さると抜けない様になっている。無理に引き抜こうとすれば肉はグチャグチャになり、激痛に悶える事になるだろう。

 ――ちなみにスパイクロッドであるグルフニグフに付いているスパイク部分はこれを加工したものである。


『――貰ったぜ!』

「こんなものぉっ!!」


 動きが止まった今がチャンスだといわんばかりに、レーレが肉薄する。――が、ギニュレアは今度こそ白炎を纏ってフロ・ンメリルを燃やし尽くす。それと同時に周囲一帯を巻き込むように白炎が広がっていく。

 当然、レーレはバッチリと範囲内に居るわけで……。


「近距離でもわたしには――――ってまた宝具!?」


 接近してきた彼女を迎撃するハズの攻撃は、目の前に出現していた宝具が身代わりになる事で防がれていた。花の蕾の如き盾の名は“ロホ”。眷属精霊チョノの宝具。

 殆どが植物であるこの宝具は主の身代わりに攻撃を肩代わりする能力を持つ。では、難を逃れた主は一体何処に?


「あ、あの子は?」

『おうらぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』


 咆哮が聴こえたのは背後。レーレは既に拳を振りかぶっており、その手には新たな宝具――――手甲が纏われている。直撃を受けるまで数秒しかない。これ以上ないタイミング。

 普通なら防御も迎撃も間に合わない。しかし、半神獣とも呼ぶべきギニュレアには可能だ。


「それでもわたしの炎は――――ッ!?」


 白炎を再度纏おうとして――――――――目の前に霧が立ち込めているのを見て驚愕する。その霧が白炎の発動タイミングを僅かにだがズラしているものだとは――――彼女も気付けてはいないだろう。


 ――――“ラメンシェール”。この霧も眷属精霊であるコルチェが使用していた立派な宝具。

 敵の能力発動を遅延させ、所持者がこの霧を纏えばそれは相手の威力を軽減することに成り得る。


『ぶち抜くぜ! “グリオンファー”ッ!!』

「くぅぅぅぅぅぅっ!?」


 眷属精霊ジェルの愛用品である手甲の名を叫びながら拳を打ち込む。白炎の発動が間に合わなかったギニュレアの肋骨に突き刺さり、そのままきりもみしながら失墜していく。


『――手ごたえはあった。あったが……』


 地面へと激突したギニュレアを見ながら己の拳へ目を向ける。――と、そこには……。


『“ラメンシェール”で威力を軽減してもこれかよ……』


 しゅうしゅうと音を立て、熱気を放ちつつ煙を上げるグリオンファー。

 ――――恐るべきはギニュレアの執念とでも言うべきか、ほんの少しだけでも能力展開に成功していた様で、手甲はものの無残に溶けかけていた。


『だが――――役目は果たせたな』

「うっ、うぅぅ……、これ……は?」

『精霊界の毒だ。人間界には解毒の方法はないハズ。安心しろ、死にはしねぇよ』

「あ、んた……やるじゃ……ない……」


 今はもう溶けてしまったが、グリオンファーの拳には突起があり、そこには精霊界の毒薬をたっぷりと塗ってあったのだ。

 それを受けてしまったギニュレアは諤々と注入された麻痺毒で身体を震わせ、笑いながらレーレを睨む。


『あんまり動かない方が良ーぜ? 動かなきゃ痺れるだけで済むが、無理矢理逆らおうとすると――――』

「あぁッ! く、急に……痛みが……?」

『精霊界には人間界にない不思議なものが沢山あるのさ。解ったら大人しくしてな』


 尚も戦うとするギニュレアを不可思議な毒が蝕む。麻痺毒であったハズの毒は、突如彼女に激痛を与え始めた。この毒は精霊界にあってもかなり特殊なモノで、抵抗する相手には効果を切り替えて攻撃するのだ。


 いかに神獣の血を引いていようと、未知のモノに対抗する術はない。

 故にギニュレアはこれ以上の戦闘続行は不可能である。


「あ、あはは……何だか知恵と言うか……絆――――みたいなものが、勝ったのか、しら……ね?」

『――――そうかもな』


 レーレがギニュレアを追って地面に降りれば、彼女はそんな事を言ったのだった。

 ――絆。確かに、それは言い得て妙だと思う。この身には眷属闇精霊12人の力が宿っているのだ。


 一人ぼっちだが強大な力を振るって戦う神獣の少女を勝った部分と言ったら、きっとそれだけだっただろうとも。


「――――でもさ、わたしも負けられない……のよッ!」

『ッ! お前何をっ!!』


 ギニュレアは強い意志を持ってそう叫ぶと、右手に輝く鋭利な爪を震えながらもその身に突き立てた。

 レーレが止める暇など全くなかった。赤い血がブシュッと地面に撒き散らされると同時――――――――彼女の変化が始まった。


「あっ……、あ…………ああ…………」


 胎児の如く、蹲る様に彼女は己の身体を抱き締めて――――。


「アァァァァァァァァァァァァアッ!」


 ――――天へと向かって仰け反りつつ、咆哮した時には全てが遅かった。


『おいおい、神獣化出来るのかよ…………!』


 事の成り行きを唖然と見ているしか出来なかったレーレはその姿を見て苦笑せざるを得なかった。

 目の前に立っていたのは金色の――――九尾の狐!

次回、九尾の狐との戦い。

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