見出だす者、見定める者
――廣瀬悠理がスルハの街の住人を跪かせてから約一時間後……。
一行は捕縛した白風騎士団と共に、スルハの郊外にあるグレフ・ベントナーの屋敷に来ていた。
他にこの大人数を隔離しておける様な場所が無かった為だ。ちなみに鎧三兄弟が居た、街中の地下工房は彼の作業場であって、自宅はこちらであるらしい。
白風騎士団の面々は、男は地下倉庫へ、女は普段使うことのない遊戯部屋へ移され、今はモブアーマー達がその監視にあたっている。
一方、悠理達は屋敷の客間へ通されたのだが……。
「うおぉぉぉぉっ、やっちまったぁぁぁぁぁッ!」
廣瀬悠理が頭を抱え、やたら高級感溢れるふかふか絨毯の上をごろごろと転がっていた。
勿論、やっちまったと言うのは一時間前の住民への威圧。流石に頭にきたとは言え、同士を募りに来たと言う当初の目的から考えればこれはマズイ。
白風騎士団の襲撃とその撃退――その二つを巧く使えば少なからずの賛同者は得ることが出来ただろう。
しかし、それも総てパー。結果はやってみないと解らないとは言え、あの出来事はまず尾を引く。
『えぇい、鬱陶しい! 止ま、止まれーッ!』
転がり続ける様子にイラっときたらしく、レーレが先回りして止めようとする――が、その直前でピタッと止まり、反対側へ。避けられてムキになり彼女がそれを追う。
――――が、部屋と言う空間である以上、必ず壁に突き当たる。追いかけっこは長くは続かない。
「ついイラッと来て……俺は何て事を……」
部屋の隅っこへと追い込まれ、そのまま膝を抱えて落ち込む。自分の言い分に間違いがあったとは思わない――が、逆にそれが正しいとも考えてはいない。
言動には裏表があるもの。見方と立場を変えれば良し悪しなんて簡単に変わる。
知っていて尚……いいや、むしろ、だからこそ……。
廣瀬悠理は心底落ち込む。もっとやりようはあったハズだ、と。そして、反省点を次に生かす決意も忘れない。
『――まぁ、仕方ねえんじゃねぇの? 自分じゃ何もしない癖に要求だけいっちょ前なんて典型的なクズだし』
彼女の言葉は彼へのフォローか、それとも自身の胸の内か。
「お前…………容赦ねーな」
計りかねて茶化す、前者なら素直に喜ぶが後者が濃厚だろう。
『お前が言うなお前がッ!』
ツッコミのつもりなのか、背中に蹴りを入れられる。あくまでつま先で突く程度。
――――フォローしてくれていたのか……。
彼女なりの優しさと配慮だったのだろう。気付いて心の中で深く感謝した。
「ねぇ、ユーリ――」
だが対称に、カーニャは賛同しないだろう。確かな直感が囁く。
「今度もし同じ様な事があっても、あんな事は二度としないで」
――そらきた、彼女の真剣な口調に対して、返事は用意済み。
「反省はしてるが後悔はしてねぇ。約束は出来ねぇな」
人によっては悠理の求める“他のやりよう”が“後悔”にあたるかも知れない。――が、それはそれ。感性の違いは仕方が無い。
「あんなのコルヴェイ王と変わらないじゃない! アナタはこの世界を変える為に呼んだ勇者なの、自覚して!」
感情のままにテーブルに手を叩きつけるカーニャ。
――アタシが貴方を呼んだのはこんな事の為じゃない……。
もっと、もっと高い志を成す為だ。人々に恐怖を撒き散らし、混乱を与える為なんかじゃない。
「――なら、だ。カーニャ」
悠理が立ち上がり、テーブルへ歩いていく。些かの迷いも淀みもない。そうして彼女の正面に立つ。
視線が交わる、見据える、あるいは睨み付ける。お互い目を逸らさない。
「もし、今度があるならお前が俺を止めて見せろ。でなきゃ話にならない」
「――――ッ!? 上等じゃない……!」
つまり、廣瀬悠理はこう言いたい訳だ。
――――何も出来ない癖に要求だけいっちょ前なんて事はないよな?
先程のレーレが言ったことが頭を過ぎる――――お前もそんなクズと一緒か?
違うのならば証明して見せろ、そんな彼からの挑戦状。
――受けて立つ、ああ、受けてやろうじゃない……!
燃え上がるカーニャの闘志――――とは裏腹に客間がざわめき立つ。
彼女がうっかり溢したある単語によって。
この場には居るのは悠理一行と、グレフ、鎧三兄弟、情報を聞き出す為に連れて来たファル―ル――――とその監視役のモブアーマー。
以上の10名。
『今、ミスターが勇者だと聴こえた気がするぞシルバ』
『ええ、それにこの世界に呼んだ、とも聴こえた様な気が……なぁ、ブロン?』
『応、ハッキリ聴こえたえぜゴルド兄、シルバ兄!』
『――と言う事は、スルハの街を……いや、大陸全土を覆うコルヴェイ王の野望を砕く為に神様が送り込んでくれた使者なのでは!?』
最初に大きな反応を見せたのは鎧達。各々、聴こえた情報から好き勝手に推測している。
――そのやり取りに悠理の顔が少し引き攣った。
「成程、今や廃れた召喚儀式で呼ばれた召喚者と言うヤツか。通りで――」
次にグレフ、口にした内容は的確で、本人も腑に落ちたと言う顔。
そして最後のファルールに至っては――――。
「………………」
驚きで声も出ないのか、ポカーンと口を開けている。
レーレが彼女の元まで近づき二、三度顔の前で手を振っても反応なし。
完全な放心状態。
「ね、姉さん……」
がっくりとノーレが項垂れた。うっかりにも程がある。
既に隠していても意味が無いことは確かだが、重要な情報を口から滑らせてしまったのは大問題だ。
中でも一番の問題が……。
「え、な、何? 皆どうしたの?」
――当の本人に自覚がないという点だ……。
「お前……馬鹿なのか天然なのかハッキリしといた方がいいぞ?」
この後、ノーレがこれまでの経緯を彼等に説明する事になったのは言うまでもない……。
ア○ギが……面白過ぎたんだ……。
ああ、気付いたら執筆に回す時間がなくなってたのさ!
それでも何とか書いたが――――遅々として進まんな……。
次回、女子トーク(?)編に入れるかどうか……。