潜入、グレッセ王都!・英雄の片鱗
あーうー、頭が働いてないよぉ……。
追記(2015年8月20日)
前頁にて、ヨーハの姿がセレイナに見えている理由が抜けていたので追加しました。お手数ですが確認頂ければと思います。
「カーネス! その女からレイフォミア様の力を取り出せ!」
「――ハッ!」
住民達に取り押さえられ、尚且つ遠隔操作でその命を握られている状態。悠理達は成す術も無く、レイフォミアへ近づいて行くカーネスを見ているしかない……。
「くっ、このまま黙って見ているしか出来ないのですかっ!?」
『動こうにも、住民を傷付けるわけにはいかず……!』
『一かバチかに賭け様にもその命を握られては――!』
『――チックショウ、打つ手ナシか!? ここまで来てよぉっ!!』
ヨーハが鎧三兄弟が悲痛な声を上げる。油断していた訳でもなく、慢心していたという訳でもない。
強いて言うならアルフレドの邪悪さを見誤っていた。住民を操って襲わせる位は平気でやって来るとなぜ予測できなかったのだろうか?
彼は自分達を『甘い』と言った。確かにそうだ。その甘さが命取りとなってこの状況を作り出している。
だがしかし、レイフォミアはアルフレドの行いは責めても、内に秘めた邪悪さについては全く話をしなかった。それが原因――――だと言うつもりは無い。
彼女は唯――――信じただけだ。こんな卑劣な真似はしないと、真正面からぶつかり合えば自分の気持ちも通じるハズだと愚直にそう信じていた。
――無残にもそれは最悪の結果として自分を追い詰める事になってしまった……。
『……っ、うぅ……』
悔しさよりも先ず悲しみがあり、自分がもっと確りしていればこうならずに済んだと、もっと力があればこうはならなかった――――と、レイフォミアはひたすら己を責めた。
涙がボロボロと止め処なく流れ、グレッセ王都のタイルを濡らす。カーネスがこちらへ近付いて来るのを感じ、観念した様に彼女は瞳を閉じ――――。
「――――?」
――後一歩、と言う所でカーネスの足が止まった。何かが聴こえた様な気がしたのだ。その方向に目を向ければ……。
「――――ぎぎぎ……」
――廣瀬悠理がそこに居る。住民達に頭を押さえつけられ、額をタイルにこすりつけられていた。
聴こえてきたのは彼の歯軋りの音。ぎりぎりと、大きくはないがやたらとハッキリ彼の耳に残った。
「どうしたカーネス?」
どうやらアルフレドには聴こえなかったのか、何故彼が立ち止まっているのか解らなかった様だ。
しかし、次の瞬間、彼も立ち止まった理由を悟る。悠理がこの中央広場に響き渡る大音量で雄たけびを上げたのだから。
「――ふざけやがって、ふざけやがって、ふざけやがって、ふざけ――――やがってぇぇぇぇぇッ!!」
――怒りの咆哮。口から迸ったのはそれだ。その場に居た誰をも一瞬、彼の声に動きを止めた。レイフォミア、ヨーハと鎧三兄弟、アルフレドとカーネス、操られた住民や騎士達……。
皆、呆気に取られ、次いで驚愕。叫び声に呼応するかの如く、悠理の身体が力強く発光していく!
それはクヴォリアで、天空幻想城で発現させたあの光。眩い閃光。
「こ、これは、天空幻想城で“神獣の炎”を消した……ハッ? カーネス! 今すぐ彼を殺――――」
もしも――――もしも悠理達をピンチに追い込んだのが油断なら、アルフレドの対応が遅れたのも油断と言えた。一度、彼はその身で受けたハズだ。あの一撃で敗北したハズだ。
――なのに、この力を警戒していなかった。住民を盾にすれば何も出来なくなるとなぜか錯覚していた。
このチカラは不味い。何としても止めなければとカーネスに指示を飛ばす――――が。
「俺を――――本気で怒らせやがったなぁぁぁぁぁッ!」
悠理の身体から迸る光が一層輝きを増し、住民達をはね飛ばして立ち上がり――――吠える。
――ある意味、悠理はこのとき匙を投げたのだ。燃え尽きてしまってもいい、そう考えた。このまま反吐の出るような邪悪に屈してしまう位なら、いっそ、と。
救うと決めた世界も、背負うと決めたグレッセの命運も投げ飛ばし、自分の命を燃やす。
気に食わない。ああ、気に食わないとも。ならばこの状況を打ち破れ。
理不尽を、不条理を許すな。汝は自由の使者、何よりも誰よりも自由を愛するならば、眼前の絶望を――――ぶち壊せ!
そう心が叫ぶ。そうしろと魂が囁く。故に従う。
レイフォミアが涙し、絶叫した時、彼は激昂し、己の限界を超えて能力を引き出す決断を下した。
即ちこの力が――――“祝福”。今、悠理は邪悪に対しての怒りだけでその力を無理矢理引き出しているのだ。
「ハァァァァァッ!」
カーネスが臆する事無く突っ込んでいく。両手には既に剣が握られている。
短剣と長剣の二刀流。×点を描くように剣を振りぬく。
「邪魔だぁぁぁぁぁ!」
対する悠理は徒手空拳だ。グランディアーレはセレイナに貸し、リバティーアは現在ゴルドの腰に納まっている為だ。
しかし、何を恐れる風も無く彼は光輝くその拳をカーネスの剣へと叩きつける!
「ウオォォォォォッ!」
拳が光を放ち――。
「ハァァァァァァッ!」
ガントレットにぶつかった剣が火花を散らす。
「――ォォォォォォォォォォォォォォォォオッ!!」
「――ァァァァァァァァァァァァァァァァアッ!!」
両者一歩も譲らぬまま互いの腕に力を込め――――そして、悠理の周囲に光が満ちて――――。
――――そこに居る全員の視界が閃光によって喪失した。
――――――
――――
――
「――何て、出鱈目な……!」
悠理が放った閃光によって未だチカチカする目を瞬かせながらアルフレドが忌々し気に呟く。
天空幻想城の時と全く同じだ。“神獣の炎”の時と同じく、祝福を無効化された。住民を操っていた水色の糸は光によって引きちぎられたと彼は感じた。
しかも、水色の糸自体が今は出せない。どういう理屈かは解らないが、改めてミスターフリーダムの持つ能力が危険だと判断。対処法を模索……。
「グッ……!」
ズザザザと激しく後退りながら、カーネスが膝を付いた。先程の激突においての敗者は彼だ。
あの眩い光が秘めた力に圧倒され、弾き飛ばされた。まだまだ戦えるが、アルフレドと同じく対処法を考えなければならない。
「ハァ……ハァッ……!」
「ユ、ユーリ様! ご無事ですか!?」
一方、肩で大きく息をしている悠理の姿は勝者とは言い難いもの。汗はしとど、息は荒く、表情には濃い疲れの色。心配して寄ってきたヨーハに対しても、掌を向けて『大丈夫』とサインを送るのが精一杯と言う有様。
そんな状態になる程の疲れ――――あの光が生み出した光景にゴルド達から愕然とした声が上がった。
『住民達や他の騎士までもが――――』
『気絶している……、のか?』
ゴルドとシルバが周囲を見渡せば、操られていた住民達だけでなく、周囲を取り囲んでいた騎士達全員までもが地面に突っ伏していたのだ。
『みたいだぜ……けどよ、今の光は……』
近くに倒れていた住民の様子をブロンが確認すると、息があるのは確か。同じ様に騎士の方も確認したがやはり気絶しているだけであった。
しかし、この光景を生んだであろうあの光に疑問を禁じえない。けれどその答えはレイフォミアの口から語られる事となる。
『――――“英雄”』
噛み締めるように、確かめるように、そう望んでいるように、レイフォミアは光の正体に名を付け、存在を確定させた。
『あらゆる困難を討ち果たし、世界を救う希望……ワタシの流れ星……あの光こそがきっと……』
英雄の力、即ち――――“悠久に輝く英雄”……。
世界を包まんとする暗闇を切り裂く、流星の如き英雄譚。レイフォミアの頬を悲しみではない涙が伝う。
彼女が求めた存在が今――――ここに居る。それは200年越しの希望がようやく現れた事への喜び。
――英雄譚の始まりを確かに彼女は目撃した。
「ゼェゼェ…………スゥゥゥ――――残念だったなアルフレド……。俺が居る限り好きにはさせ――――あれ?」
息を整えて再びアルフレドへ中指をおったてる悠理――――だったが、ぐらりと突然膝をつく。更に口からはつぅーっと赤い線が一本、唇から顎へと伝ってボトリとタイルへ落ちる。
たちまちタイルには赤黒い染みが出来上がる。血だ――――紛れも無く。
「ユーリ様!」
『ユーリさん!』
レイフォミアが駆け寄り、ヨーハは屈み込んで彼の身体を気遣う。当の本人は何処か驚いた様子でボーっと血痕を眺めていたが、二人の声にハッとして立ち上がった。
「あー、大丈夫、大丈夫だって! んな事より! アルフレド達をぶっ倒すのが先だぜ!」
左手の親指で乱暴に血を拭い、ヨーハとレイフォミアを庇うように前に出てファイティングポーズ。
悠理には確信があった。先程の光で、もう住人や騎士達が操られる心配はない、と。彼は理解しつつある。己に与えられた祝福の特性を。
自身の願いや想いが明確であればあるほどに、あの光はそれに特化する。
先程の悠理は怒り狂っていた。何の罪もない者達を無理矢理操り戦わせる不条理に、理不尽に、圧倒的な暴力に。故に光はそれらを弾劾し、断罪する。
あの光を浴びた時点で身は清められた。だから彼等はもう縛られる心配はないのだ。
――――が、にも関わらず。一つだけ問題点があった。
それはカーネス・ゴートライだけが気絶しなかったと言う点にある。
洗脳状態や操り人形化を問答無用で解く技で、何故、洗脳状態にあるハズの彼が気絶しない?
誤魔化しきれないその疑問から、悠理はアルフレドよりもカーネスへの警戒レベルを引き上げた。嫌な予感が――――する。
「――良いねその力……。カーネス、あの力も奪い取れ」
流石にアルフレドは既に立ち直っている。光の特性が掴めているかは解らないが、解っていようといまいと特に不利にはならないと判断したらしい。
そして悠理の力に、敵意よりも興味を抱いた様で、カーネスに奪取を命じた。しかし――――。
「…………」
――彼は動かない。まったくと言っていい程に、ビクともしない。
「カーネス、どうし――――」
不審に思ったアルフレドが一歩足を踏み出し、カーネスに触れようと右手を伸ばす――――それが大きな油断。
「――シッ!」
素早い動きで振り返ったカーネスが、アルフレドの身体に短剣を埋め込むのに2秒もかからなかった。
その光景を人はこう称するのだ。油断大敵、と。
「なっ、何っ?」
流石にこれには悠理も面食らった。ここに来て脳内がパニックを起こす。つまりは完全な無防備。
この瞬間を狙われたら彼はあっさりと死んでいたかも知れないが、その隙を狙う敵は何処にもいなかった。
『――――え?』
レイフォミアも硬直した。先程まで怒りをぶつけていた相手だと言う事も忘れ、ひたすらにアルフレドの身を心配する気持ちが心に湧き上がっていくのを感じた。
「カ、カーネス? 貴方、もしかして――――」
真実に気付いたヨーハは恐る恐る尋ねようとした。
――貴方の洗脳はもう解けて居るんじゃないか――――って……。
「――芝居はここまでだアルフレド。これは奪わせてもらう」
――ヨーハの言いかけた問いに答えたのかは解らないが、カーネスはそう言ってアルフレドの胸元から宝石の様なモノを強奪した。
「カーネス……! 貴様ァッ!!」
怒りで顔を歪ませて、アルフレドが“神獣の炎”を上半身に纏おうとする――――が、煌く黄金の炎が彼を包むよりも速く――――。
「――失せろッ!」
短剣から手を離し、長剣に持ち替えていたカーネスの腕が一閃!
――――アルフレドの身体を薙ぎ払った!
次回、カーネスの狙いと混沌化する戦場。