潜入、グレッセ王都!・姫と鎧は地下を抜け、決戦の舞台へと上がる
――あー、今日は残業だったせいか疲れて頭が全く働いてないや……。
いつも以上に滅茶苦茶になってたらゴメンネ?
まぁ、毎日書いてたらこんな日もありますよ。
包み隠さず未熟なところも見せて、俺を知ってもらわないと読者も増えないだろう。
悪い所も受け止めてくれた人はきっと最後まで付き合ってくれるだろうしね。
――時は少々遡り、舞台はグレッセ王都へと続く地下道に移る……。
横幅は大人二人が何とか通れる程度の狭い道を、ディーノスに乗った一人と三体が駆け抜けていく。
「どうやら始まったみてぇだな……」
一番先頭を走るのはセレイナ。頭上から地響きで戦闘が激化してきた事を悟る。
『我々も急がねばなりませんねセレイナ様』
『しかし、グレッセ王都からこんな地下道が伸びているとは……』
『まぁ、そのお陰で姫様達は逃げられたって事だし、こうして潜入に役立ってるんだからありがてぇよな!』
彼女の後ろに続くのは、黄金騎士ゴルド、白銀剣士シルバ、青銅戦士ブロンの順。奇妙な組み合わせである上に、ブロンに至っては悠理の愛騎であるアズマを拝借していた。
セレイナ達が何故、こんな道を通っているか? それは王都の住民を救出する為に他ならない。
王都へ到着する直前、ヨーハの祝福で王都内の情報を探ろうとしたが、殆ど集める事は出来なかった。
それにアルフレドが居る限り、この作戦自体が看破されている可能性が高い――――それでも強行した理由は唯一点。成功させる為の算段がある、と言う事だ。
先ず、セレイナが選ばれた理由は王都内に詳しいということ。鎧三兄弟が同行しているのは住民の保護と警護、完全な戦闘要員として。
彼等三体はレイフォミアによって能力を極限にまで底上げされている。精霊石の許容量限界ギリギリまでだ。
今の彼等はスルハでファルールに遅れを取っていた時とは比べ物にならない性能を発揮できる。流石にカーネスや神の私兵と比べれば見劣りするが、一般兵クラスなら百や二百程度であれば圧勝可能なレベルだ。
そして鎧三兄弟にはもう一つ、重要な役目があった。今回においては戦闘要員としてよりもこちらの方が大切なことである。何しろ、これの成否によって戦いの命運が決まるといっても過言ではないのだから……。
「―――良しッ、そろそろ地下道を抜けるぞ! いきなり敵がいる事も覚悟しておけ!!」
『了解ッ!』
『了解です!』
『応よ!』
障害物の無い状況で唯ひたすらに前を向き、前進を続けていれば目指すべき所へはあっと言う間。
この道は王都の中央広場、そこにある巨大な球体のオブジェへと続いている。そもそも、この道は王都に何かあった場合に住民の避難を考えて造られた秘密通路。
秘密であるが故にあまり大規模なものは作れなかったが……。幸いにしてこの道を住民が使った事は未だかつて無い。しかし、かつてセレイナとヨーハが逃走経路に使い、こうして住民の救出の為にここを通るとは何たる皮肉なのだろう?
「――さぁ、どう出る?」
皮肉と悔しさを胸いっぱいに噛み締めながら、セレイナはディーノスでオブジェクトの壁に体当たりを行った!
――ゴゴゴと古めかしくも重々しい音を立てながら……扉が開く。
――――――
――――
――
――一番最初にセレイナが感じたの強烈な日の光。そしてその次に……。
「アッハッハッ、ご苦労様!」
勝ち誇ったようなアルフレドの高笑いと――――。
「――――――」
その傍に控える黒い騎士、カーネス・ゴートと、オブジェクトを囲む様に配置された騎士達の姿だった……
。――やはり、読まれていたのだ。
「チッ、やっぱりか……」
『むっ、それに背後に居る者達は――』
『――王都の住民か!』
『テメェッ! 神の側近の癖に卑怯だぞ!!』
セレイナが舌打ちし、鎧三兄弟は激昂する。中央広場に居たのは操られた騎士達だけではない。彼女達が救出すべき王都の住民が捕縛され、人質になっていたのだった。
「ハッハッハッ、なんとでも言い給えよ。負け犬の遠吠えってヤツは実に心地良いねぇ……」
アルフレドは実に堂に入った悪役の態度で再度高笑い。彼からすると正々堂々と言う気など元より無く、戦うつもりも無く。如何に効率よく相手を無力化できるか、その一点に尽きると言えた。
『――セレイナ様……』
『如何致しましょう?』
『オレ達は既に覚悟は出来てるぜ!』
鎧の騎士達は姫に指示を仰ぐ。こうなる事は予測済みであったとも。後は彼女の合図次第で作戦は最終段階に入れる。いつでも大丈夫だと、三兄弟は意気軒昂に叫ぶ。
「おっと、言うまでもないと思うけど、君達が暴れたら住人の命は無いよ?」
「――――まぁ、そうだろうよ……」
念を押されなくても解っているとも。そう、解っていたとも。だがそうして余裕ぶっていられるのも今の内だ。セレイナは冷静にタイミングを見計らう。ここまで来て失敗は許されないのだから。
「――しかし、君達も馬鹿と言うか愚かと言うか……」
不意に沈黙を作戦の失敗、自分達の勝利と断定したのか、アルフレドが上機嫌に、もしくは呆れるように口を開く。
「こっちにミスターとレイフォミア様を振り分ければ、対抗する手段だってあっただろうに……」
――掛かった! とセレイナは心の中でほくそ笑む。
「――そうか、やっぱり向こうにアイツ等が居るのはバレてたか……」
その一言が欲しかった。その確定情報が欲しかった。これでいつでも作戦は始動可能となったのだ。
「そりゃあ、ボクの感知に引っかからないなんて彼等くらいのものさ。アイザックが今、二人と戦っているしね」
ニヤリとアルフレドが嫌な笑みを浮かべる。過信だそれは。彼にしては読みが甘い。見通す力を持って居ながら、何たる詰めの甘さか。
――今は亡き彼の師匠が見て居たなら一日中説教コース確定のミスだ。
「――へぇ、そうか……なら――――」
――丁度良いな……。ポツリと、誰にも聴こえない位の囁き。それが作戦が完全に機能したことを示す合図だとアルフレドが知る由もない。
「さぁ、返答は? 降伏してくれたら命は助けてあげるよ? 洗脳して人質にするけどね……ハハッ」
――笑っていられるものもここまでだ。今度こそ彼女は――――彼女達は今まで耐えてきた笑みを浮かべた。
そうしてアルフレドの前で遂に――――手の内を晒した!
「洗脳ねぇ――――ユーリ様ならともかく、貴方なんて願い下げに決まってるじゃないですかー! べーーーっだ!!」
唐突に……、セレイナが皮肉をたっぷり込めてあっかんべーをする。それだけじゃない、口調が凛々しいものから一変、テンション高めなものに切り替わった。まるで――――ここには居ない彼女の侍女を髣髴とさせるものだ。
「……? 気でも触れましたかセレイナひ――――」
面白い事に、アルフレドはその変化についていけていない。その様子は彼女の胸を幾分かスカッとさせた。だが本番は――――ここからだ!
「さぁて、手筈通りやっちゃいましょうか! ユーリ様、レイフォミア様!」
セレイナが王都の外で戦っているハズの二人の名を呼ぶ。アルフレドは一瞬怪訝な顔をするが、もうとっくの当に手遅れ。
この場でその名を呼ぶ意味に気付けて居ないのが既に致命傷。故に――――。
『応よ!』
『解りました!』
何処からか聞こえてきた悠理とレイフォミアの、やる気溢れる声っを聴いた時、アルフレドの顔が驚愕に染まって行くのをセレイナは『ザマァ見ろ!』と重いながら楽しそうに見ていた。
「――っ、ま、まさか! カーネス!!」
「ハッ!」
――ようやく、彼は二人がこの場に居ると言う事実に辿り着いたらしい。慌ててカーネスに命令し、セレイナ達を捕縛させようとする――――が。
『遅いぜ!』
――声を合図に虹の光が吹き荒れる。
『能力制限――――展開!』
――発せられた言葉がアルフレドの持つ全能力を低下させる。
「しま――――ッ!?」
カーネスの手が届く寸前、嵐となった虹の光が更に輝きを増して、視界を混濁させた。
その場に居た騎士達全員も、ほんの数秒間、セレイナ達を視界から逃していた。
「――――さぁて」
次に声が聞こえた時、その人物達は包囲網を潜り抜け、人質にされていた住民達をその背に庇っていた。人質の見張りとして周りに居た騎士達は一瞬で昏倒させられている。
「――やれやれ……、冗談だろう?」
視界が回復したアルフレドはそこに居た面子を見て顔をしかめた。
鎧三兄弟は依然としてそこに居る。住民達を守る騎士らしい姿で。
しかし、先程まで居たハズのセレイナの姿が無く、代わりにヨーハがそこに居た。アルフレドへあっかんべーをしている。
その隣には――――レイフォミア。キッと自分の部下へ非難する視線を送っていた。どうやら自分は完全に嫌われてしまったらしいと、何処か他人事の様にそう思った。
そして、彼女達の先頭に立っていたのは間違いなく――――。
「こっからは反撃と行かせてもらうぜ!」
――見紛う事無く廣瀬悠理である! さぁ、反逆の狼煙を上げよう! 天高く!
次回、トリックの説明回。