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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
204/3922

決戦、グレッセ王都!・神速と倒壊、騎士と巨石兵と人形遣い

あ、危なかったぜ……。

今日もギリギリとはな……。


投稿後にちょっとだけ加筆するかもです。

「――始まっていたか!」

 メノラとレーレが仕掛けたのだろう。前方からは大きな物音や呻き声が聞こえ始めていた。

 部隊の先頭に立って全力疾走中のエミリー。――その影に隠れたファルールが意識を臨戦態勢から戦闘態勢へと切り替える。既に右手はアウクリッドを抜き放っており、今この瞬間、唐突に敵が襲ってきても対応可能だ。


「むっ? どうやら先行した二人は舞台を移す様だぞ?」

 ファルールの直ぐ後ろに控えていたルンバが隻眼で空を睨んでいた。その隻眼に映った光景は言葉にした通り。メノラはアルレインを引連れて、レーレはギニュレアを引連れて、急速にこの場を離脱していく。


「――――こちらはこちらでやるしかないか……」

 想定内のことである――――とは言っても、やはり彼女達のサポートが受けられないのは些か心許ない。

 アーキダインやヴェンディガヴ達をその場に残してくれただけでも良しとしよう。それに――――。

 ――頼ってばかりでは格好わるいし、騎士の沽券に関わるからな……! そんな意地も今は心強い味方だ。


『ごっ、ごぉぉぉぉぉっ!』

 今尚全力で走り続け周囲に轟音を響かせているエミリーが慌てた様に叫んでいた。彼女の声にふと空を見上げれば――――無数の矢。雨の様に降り注ぎファルール達を貫かんとしている。


「遠距離攻撃が始まったか! ノーレどのぉッ!」

 これも想定内、故に対処法は対策班に丸投げするに限る!

 ――不慣れな様子で戦場をディーノスで駆け抜ける少女がその声に応じた。


「はいっ! ――――私は王、私は人形遣い……」

 迫り来る矢にノーレが手を翳して詠唱する。言葉によって自身が如何なる者か宣言すること――――これが重要だ。彼女は気が弱いから、自身の能力を戦いに使用するのは不本意であり、堪らなく恐ろしい。

 だから、例え守る為であってもノーレにはそうする事が必要なのだ。己は王と言う名の強者であり、そして人形遣いと言う名の――――。


「――我が前に平伏せ、我に身を委ねよ、我は――――支配者なりッ!」

 ――――絶対的支配者である、と。今、彼女の精神はそういう者で在らんと強固な、強烈な思い込みによってその力を解放した。王の宣言を前にして、萎縮しない者などごく僅か。――それは王を超える強者のみ。

 何の意志も、暴力も持たぬ唯の矢如きが彼女に刃向かえるハズもなく……。


「お、おぉっ! 矢の大群が真っ二つに避けおった!」

 ルンバが発した感嘆通りに、矢はノーレ達に降り注がんと落下を開始した所で、モーゼが海を割った神話の如く二つに割れ、誰も居ない地面へと降り注いだ。


 ――ノーレの祝福は特定の条件を満たした生物や無生物、果ては有機物、無機物に至るまで――――あらゆるものを()()する能力。

 その名を “操り(パペット)人形達(ドールズ)の宴(キングダム)”。

 もしも、彼女が心優しい少女でなければこれほど強力な能力は無かっただろう。――――その気になれば、自身の手を汚さずに大量虐殺だって可能なのだから……。


「飛び道具や武器を奪うのは私に任せてください! 皆さんは接近戦を!!」

 再び取り戻したこの力を戦いに使うのはとても怖い……けれど――――。

 ――少しでもユーリさんの力に成らなきゃ! その想いが彼女を奮い立たせていた。

 今は仲間を全力で守る、その役目を――――全うする!


「任された! 皆、手筈通り()()()()()()()!」

「彼等は操られておるだけだ! ある程度無力化すれば淫魔達とノーレ殿が捕縛してくれる!」


 再三に渡り言い聞かせた無茶を二人は再度部下に言い渡す。見ればアーキダインやヴェンディガヴ達も騎士を一人たりとて殺めてはいない。

 そもそも、殺す気でやるならば始めから勝負になどならなかった。メノラやレーレと言う強力な個人戦力がその気であれば先制攻撃の時点で半分近くの騎士を惨殺可能であったのに……。


 それをしなかった理由は、悠理がセレイナとヨーハの気持ちを汲んでのこと。そして全ては今後の為。

 この戦いを終えても世界を救うまで戦いは終わらない。だからこそ、未来を見据えて戦力を集めておかねばならない。それに誰一人として殺めずグレッセを解放に導いた方が――――英雄譚にハクがつくだろう?

 ――そんな下心もあるにはあったからだった。


「さぁ、行くぞ! アウクリッド!」

 エミリーの影からバッと飛び出したファルールが最前線へと突撃する!

 キラキラと光を帯びたその剣は彼女の心の強さが力となって現れた証。


「ハァァァァァァァッ!!」

 跨っていたディーノスの背から跳躍し、宙に跳んだままの態勢でその剣を真っ直ぐに振り下ろす。

 ごぉっと、剣風が暴風と化し、凄まじい衝撃波が騎士達を飲み込み吹き飛ばしていく。そのたった一撃で、ひしめいていた騎士達の列がごっそりと半円状に削られた。凡そ八十から百に近い人数を打ち倒す。

 吹き飛ばされた騎士はメノラの眷属淫魔やアーキダイン達か能力を使って器用にキャッチし、同じ様に衝撃波で飛ばされた武器や盾などはノーレが戦闘エリア外に弾き飛ばしていく。


『ごぉぉぉぉッ!』

 遅れてやってきたエミリーが大地にその拳を叩きつければ、地面が隆起し、騎士達を次から次へと空へ打ち上げていった。その後ろから兵士達が飛び出し、怯んだ敵に追い討ちをかけていく。


「散らばりすぎるな! 囲まれたら終わりだぞ!!」

「了解です隊長!」

 ルンバと悠理がお世話になったあの兵士が、お互いをカバーしつつ、徐々にしかし確実に敵を昏倒させていき、他の兵士達も連携を密にし、効率よく、被害を最小限に抑えながら次々と敵を撃破していった。 


「ここまでは良い流れだけど――――ッ!?」

 解放軍の快進撃を離れた場所で見ていたノーレは、良い流れを感じると共にこのままなハズがない、と不安に駆られた。そしてそれは見事に的中する。距離が離れていた為に、彼女には鮮明にそれが見えたのだ。


「何か降って来ます!! エミリーッ!!」

 信じられない光景だった。エミリーと同じくらいの巨大な黒い塊が、彼方から降ってきたのだ!

『ッ!? ごぉぁぁぁぁぁぁぁッッ!!』

 ノーレの忠告を耳にしたエミリーが空を見上げ、咄嗟に両手を掲げてそれを受け止めた!


『バァァァァァァッ!』

 黒い塊はその巨体故の重さを武器にしてエミリーの身体を押し潰さんとする。丁度、お腹と言える部分にエミリーの手があり敵を支え、その相手の両腕はフリーの状態……。黒い塊――――アイアンゴレム“倒壊のグレプァレン”は両手でエミリーの愛らしく丸っこい顔をガシッと万力もかくやという勢いでギリギリと押し潰そうとする。


「!? アイアンゴレムかッ! エミリー、助太刀――――」

 仲間の危機にファルールが一瞬慌てながらも、助けに向かおうとして――――。

「――避けろファルールッ! ぐぅっ……!」

 意識がエミリーに向き、無防備になったファルールをルンバが突き飛ばした。一瞬、ぶあっと風が通り抜け、その背にはうっすらと斬り付けられた痕が浮かぶ。


「ルンバどの!? 目に見えなかった――――という事は……」

 いくら仲間のピンチに気が逸れたと言ってもファルールは警戒を怠ってはいなかった。しかし、それは無意識レベルで肉体の反射で警戒していただけで、理性でその手綱を握っていた訳ではない。

 ――だから、騎士として染み付いた無意識の直感を凌駕する速度には追いつけなかったのだ。

 つまり、その相手は――――。


「――やぁ、初めまして」

 そこに佇んで居たのは少年だった。この場には酷く不釣合いな存在だと言えた。

「“神速のアイザック”――――だな?」

 けれど、ルンバは既にその容姿を、能力を聞かされている。それが何者かを既に知っている。警戒心を込めて彼の敵を隻眼で油断無く睨みつけた。


「如何にもそうだよ“蒼き巨兵”ルンバ・ララ」

「神の側近に名を知られているとは――――いやはや……」

 会話を交わしながらも、ルンバには一切の余裕は無く、その一挙手一投足を見逃さないようにするので精一杯だ。


「さて、悪いけど君たちはここで殲滅する。一人も生きては返さない――――グレプァレン!」

『バァァァァァッ!』

 何の悪気もなく、一方的に宣言して黒き巨体に呼びかければ。エミリーへの攻撃は一段とその力強さを増す。

 ――――だが。


『ご、ごごご――――ごぉっ!』

『バァッ!?』

 ここでエミリーが根性を見せる。掴んでいたグレプァレンの身体ごと地面に向けて勢い良く降ろしたのだ。黒き巨体は強制的に地面に直立する形となり、エミリーは深々と頭を下げた姿勢となる。

 その瞬間、エミリーは頭で相手の身体を猛牛の様に突き飛ばす。無理矢理立たされた状態のグレプァレンは無様にその一撃喰らって仰向けとなって倒れた。

 ずぅぅぅん、と巨体が倒れる音が鮮明に鳴り響く。


「――流石は500年前の戦いで生き残ったゴーレムだ……。グレプァレン、相手は任せたよ!」

 アイザックはエミリーの実力を流石だと賞賛し、相手をグレプァレンに一任した。黒い巨体は返事しなかったが即座に立ち上がって迎撃態勢を整えていた。


「――――さて、僕は君達を相手をしようか? 指揮官を潰すのは定石だからね」

 改めて倒れたファルールとルンバに向き直るアイザック。どうやら初対面であるのに情報を把握しているのはこちらだけではないらしい。

 ――まぁ、それはアルフレドを敵に回す時点で予想されて然るべき事だったので驚きはないが。


「悪く思わないでくれ――――」

「――へぇ、一回俺にやられた癖に懲りずにまた来たのか?」

 倒れた二人にじりじりと近付くアイザックに不敵な声が呼びかけた。


「――――っ! 君は!」

 ――――その声の方へとアイザックが顔を向ける。たった一度しか会っていないが忘れるハズも無い。


 何故ならその男は“敵”だ、“障害物”だ。ファルール達は道端にあって偶々蹴飛ばした石ころ程度だが、彼だけは違う。紛れも無く自身に、アイザックの上に立つ男に害を成す存在!

 その名をファルールが安堵した様に呼ぶ。彼の名は――。


「――遅かったじゃないかミスター……」

 ――ミスターフリーダムと呼ばれる男……廣瀬悠理である。 


「悪かったな()()()()()。だが作戦は――――成功したぜ?」

 ニヤリと笑って詫びるのと同時に彼は合図を送った。この合図に関してはいくらアルフレドと言っても見抜けていないはずだ。


「まさか――――君がこっちに居るとは思わなかったよ。王都へ侵入したものとばかり思ってた……」

「――やっぱり気付いていやがったか……」

 悠理が前線へ赴くのに遅れたのは理由があった。王都の住民を助け出す為の潜入班の手伝いをしていた為だ。最も、アルフレドには知られているのは承知の上だったので細工をしてきたワケだが……。


「でも大丈夫かい? 向うにはカーネスとチーフが居るんだよ? 君無しじゃ――――」

 皮肉をたっぷり込め、悠理を嘲笑おうとしたアイザック――――だったが。

『――ワタシ達の心配より、自分の心配をしたらどうですか?』

 ――その声を聞いた瞬間、アイザックは文字通り凍りついた様に表情をピタリと止めた。 

 そんなまさか有り得ない。思考はそんな風にパニックを起こしかけたほど。


「――――ッ!? ま、まさか、アナタまでどうしてここに!」

『…………』

 声の主を見間違うハズがない。だってその相手は紛れも無く――――。

「――神レイフォミア!」

 ――500年に渡って仕えてきた主その人だったのだから。

次回、アイザックと悠理の戦い。

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