決戦、グレッセ王都!・一個師団に立ち向かう蛮勇
うおー、今日はテンションが乗らないと思ったけど何とか間に合ったか……。
あ、そう言えば『タイトル変えますー詳細は後ほどー』って宣伝しといて全然その話してないな……。
一章が終わる頃までには記事の方でお知らせする予定です。
「――いよいよ来たか……。ファルール殿、指揮をお願いする」
解放軍が動き出したと同時、敵勢力も進軍を開始した。ルンバはその戦場独特の間を感じ取り、ファルールへと手綱を渡す。
本来は経験豊富なルンバが指揮を執るのに相応しいが――――いや、それ以前に悠理が指揮を執るのが一番良いのだが……彼は現在作戦の最後の仕込み中で不在だ。
――という訳なのだが、王都に到着するまでの間に訓練は欠かさず行ってたので、ルンバ隊と白風騎士団の連携はバッチリであり、例えどちらが指揮に回っても問題ないと言えば、無い。
それにファルールならば部下と自分の命を預けられる、との判断によってルンバは完全に彼女のサポートに徹すると決意したらしい。
「解った――――皆の者、良く聴け! 我等はこれよりグレッセ王国正規騎士団とコルヴェイ軍、及び神の私兵を組み込んだ連合軍に立ち向かう事になる!」
ルンバの思いを受け取り、跨ったディーノスを反転させ、自分が命を預かる事になった仲間の心に強く響け、と勇ましい声を上げるファルール。
声を張り上げるその姿はまさに戦乙女と呼ぶに相応しい。
「――良く付いて来てくれた! 良く、彼らを目の前にして逃げないでくれた!! 私は心の底から諸君を――――誇りに思う!」
響き渡る凛とした声には、戦乙女と称した様な力強さがる、気高さがある、美しさがある。
兵士達は唯々、その姿を見逃すまいと、その声を聞き逃すまいと意識を集中させていた。
そうしている間にも敵は迫ってきている。しかし誰一人怯え、慌てる者などいない。勇敢なる兵士達は次の言葉をじっと――――待つ。
「――故に! 神レイフォミアによって取り戻した我が祝福が皆を守るだろう! 決して恐れるな、我等一人一人が――――英雄だ!」
――ファルールがその単語を発した時、変化が起きた。
その場に居る全員の身体から金色の光が漏れ、各々の身体を包み込んだ。――これぞ、かつてコルヴェイ王に奪われた彼女の祝福その名を――――“魂に眠る英雄”。
効果は至極単純。身体能力と祝福能力の底上げである。祝福を奪われた大多数で構成されたこの部隊では効果は半減であるが、それでもこれによって通常よりは遥かな戦力アップは間違いない。
少なくとも、七千越えの敵兵士達にあっと言う間に殲滅される心配はこれでなくなっと言ってもいい。それほどに彼等の身体能力は大幅に上昇しているのだ。
その事は祝福の効果を受けた兵士達本人にもハッキリ伝わっていた。彼等は口々に驚きの声を上げており、『これが神のご加護か!』、『良し、いっちょ派手にやってやろうぜ!』、などと再度気合を入れ直している。
――良い雰囲気と流れだ。これで慢心しなければ良いが――――と思ったが、ここに居る多くの兵はコルヴェイの圧倒的力の前に敗北した者達……。あの絶望を知っていれば、そんなモノを抱く余裕などあるまい。
――コルヴェイ王の時に比べれば七千人の方が全然マシ……と思う者は大勢居るかもしれないが……。
『こいつは……スゲェじゃねぇかファルール!』
「本当に凄い……身体から――ううん、心の底から力が湧き上がってきます!」
レーレやノーレも彼女の祝福による恩恵を受けていた。兵士達と違って祝福を持つ彼女達はその効果をフルで受けている。
自分達の能力――――その限界と上限が上がった事を自覚する。事前に聞いた情報なら持続時間は長くて三十分……。その間は普段の二~三倍……上手く行けば更にその上を行けるかも知れない。
――この三十分間の内に決着――――は無理にしても、有力な敵の打倒はこなしておきたいところ。
「褒めるのはまだ早い。レイフォミアが私兵どもの能力を抑える間の時間稼ぎは頼んだぞ?」
激突前に浮かれてしまうのは油断の第一歩。故にファルールはここで気を引き締めながら指示を飛ばす。
レイフォミアは後方で神の私兵達の能力制限をする為の準備を行っている。恐らくそれほど時間はかからないだろうが……その僅かな時間は連中も低級ドラゴン並みの能力を発揮できるということだ。
下手をすると初手で全滅しかねない……。故に私兵の迎撃に当たるレーレ、メノラ、エミリーの三名に与えられた役目は重い。
『応よ! 俺とメノラとエミリーがバッチリやってやんよ!! なぁ、お前等?』
――だが実に頼もしいと言うべきか、レーレは課せられた役目も苦に感じていない様子で、いつもと変わらぬ自信満々な彼女のまま心強い返事をかえす。
『ごぉぉぉぉっ!!』
エミリーもやる気なのか、別行動中である主の元にも届くように雄叫びをあげた。
『任せなさい! ワタシが居れば千人力に決まって――――――っ』
こちらもレーレ同様に自信満々のメノラ。戦いを前にして普段と変わらぬテンションで高笑いを決めようとして――――その笑みが止まる。
前髪の所為で見える事はないが彼女はその瞳をスッと細めた。メノラがこうなる時、それは決まってある感覚を察した時だけ。それは――――。
『これは……同族の気配ね……――ワタシの可愛い眷族ちゃん達、こいつらを守ってあげてね?』
格上の同属が居る事を察したメノラがふわりと宙へ浮く。眷属の淫魔は声を発する事無く、黙ってその頭を下げた。僅か六名の彼女が呼んだ眷族淫魔……感情希薄でまるで人形の様だったが、実力は相当なものだと言う。
『お、おい、何処に行くんだよ?』
敵と接触するまでまだ猶予があり、仕掛けるには少し早いタイミング。だと言うのに、唐突に戦闘準備を整えたメノラにレーレも少し驚いていた。
――と言うのも、実はここ数日でレーレはメノラの性格を大体だが把握しており、実は彼女は意外と真面目な優等生である事が解った。なので打ち合わと違う勝手な行動は取らない相手だと断言できる。
勿論、ここは戦場であるのだから臨機応変に対応するべきだが……。今回はあまりに突然過ぎた。故にレーレは彼女に問うたのだ。
『向う側に淫魔が居るみたいなのよ。ちょっと先行して予防線張っておかないと――――アンタ達……全滅よ?』
冷徹な、いや、戦いの先にある当然の結果を見据えてメノラが不吉な事を言い放つ。
全滅――その言葉に何人かは事態を重く受け止め、部隊に緊張が走る……。
『――確かに……向うにも結構な力を持った奴が居るみてぇだな……まぁ、想定内だけどよ……。良しッ、俺も先行して連中を引っかきましておくぜ!!』
言うが早いか、レーレはその背中に蝶の様な形状の黒い羽根を生み出し、メノラに続き宙へ浮いた。
――いや、彼女場合はじっとしてられなかった、と言うのもあるかも知れないが。
だが、確かにここで力ある二人が前線に出て敵に混乱を振り撒くのは戦術としては正しい。
『ご、ごー?』
そして――――二人と違って空を飛ぶ術を持たないゴーレムが……一人。明らかに『ど、どうすれば?』と困っている様子が言葉などなくとも伝わってくる様だ。
『ああ、エミリーは先頭に立って皆を守ってやれ!』
『ごー!』
そう指示を残して、メノラとレーレは敵陣へと飛んでいく……。エミリーは『合点承知!』と言わんばかりに応えて、手を振って二人を見送った。
「い、行っちゃいましたね……」
こちらが何か言う前にさっさと行ってしまった二人に対してノーレはやや呆気に取られ気味で……。
「――やれやれ、負けるつもりも毛頭ないが……。思った以上に骨が折れそうだ……」
ファルールは二人の事を信頼している。故に彼女達が強敵と言う相手ならそれはまず間違い。
――どんな相手であろうと勝つ!、と言う気持ちは揺るがないが、苦労しそうな戦いだ――とも思い、苦笑する。
「ハッハッハッ、楽して勝てる戦いなどあるまい? これ位が丁度良かろう」
そんな彼女を見たルンバが豪快に笑う。確かに、その言葉は真理の一端に違いない。
――七千対七百(未満)が丁度良いかどうかは別として、だが。
「フッ、相手にとって不足なし、と考えれば良いか……。――良し、全軍、我に続けぇぇぇぇぇッ!」
――兎にも角にも先制攻撃を仕掛けに行ってしまった以上、成功した瞬間の隙を逃す手はない。失敗したとしても直ぐにフォローできるようにしなければ!
『ウォォォォォォォォォッ!』
そう思って進軍を告げれば兵は待ってましたと呼応する。彼等は七千に立ち向かう愚か者、さながら蛮勇と勇気を吐き違えたドンキホーテの群れ……。旗からみれば誰もがそう思っただろう。
――しかし、これが始まりだ。この七百人こそが、後にこの南方に伝説を築く事になるのだ。
――――英雄は、勇者はミスターフリーダムだけにあらず……。
これは伝説となった部隊の始まりの戦いであり、歴史と大陸を動かす決定的な物語なのである。
次回、レーレとメノラが大暴れしてたらアイツ等がやってきて……。




