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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
200/3922

英雄譚を始めるには・神とオッサンと英雄の話

うん――――ダメだ! やっぱり後半が頭働いてないぜ……。


でもブクマが二件増えていたので凄くテンションは高いです、ウヒヒャホロレヒィッ!!


あ、それと“英雄譚を始めるには一~四”のタイトルを変更しました。


今回の話を分割にしようかなって悩んで、これだけナンバリングがつかないタイトルになっちゃったんで。


まぁ、結局は分割しなかったわけですけど、どうせならと思って全部変えちゃいました。

 ――悠理が仲間達の元を巡り、グレッセ王都への進軍準備が滞りなく全て完了したその日の夜……。翌日の出発へ向けて早目に休むべく、悠理は風呂へと入りに来たのだが……。


「――何でアンタがここに居るんだ?」

 先回りしていたであろう珍客に顔をしかめる羽目になった。

『貴方と話したい事があって』

 そこに居たのはレイフォミアだ。身体はカーニャのそれなので身体つきはお察しだが……、髪を下ろし、湯浴み着をしている姿はやはり普段とは大きなギャップがある。

 どうやら、こんな場所で話をしたいと言う事は他の誰かに聴かれたくない話なのだろう。


「もしかして話ってのは……これの事か?」

 悠理が彼女に向けてその背中を晒した。そこに広がっているであろうヒビとも亀裂ともつかぬ痕にレイフォミアが愕然とした。

『――――ッ!? そんな……、もうここまで……』

 彼の背に浮かんだソレは、以前レーレが見た時よりも格段に悪化している。具体的の言えばヒビの拡大……。糸の様に薄く細長かったソレは毛糸ほどの大きさへと成長していたのだ。


「これは“生命神秘の気”による後遺症って事で良いんだよな?」

 レイフォミアからの反応から考えるに状況としては大分不味いらしいが……。本人には実感が薄い。何故なら――。

『――はい、あの、痛みとかは?』

「ない、今の所は何の支障も出ていない」

 ――何故ならここまでヒビが拡大しても、それに伴った障害は何一つ出てないのだ。


『そうですか……、ワタシはヒビがこれ位になった時は吐血したりしてましたけど……』

「――怖いこと言うなよ……」

 サラリと言われた情報に悠理の顔が引き攣った。――ただ、天空幻想城で彼女の身体を見た時はそんな痕跡は見当たらなかったが……。彼がそう問いただすと『あの液体のお陰で目立たなくなる程度には回復した』との事だった。


『やはり、“本物”を扱える貴方と“偽物”しか扱えないワタシでは過負荷にも違いがあるのでしょうね……』

 二人は話を続けながら風呂場の椅子に座り、レイフォミアが悠理の背中を洗い始めた。優しく、労わる様に丁寧に触れる。

「――なぁ、この能力は一体なんなんだ? アンタが与えたものじゃないんだろう?」

 洗われながらもやはり会話は続く。こうして彼女と一対一になれる機会など今まで無かったのだから、訊きたいことは今の内に訊いておくべきだ。


『ごめんなさい……。それについてはワタシにもサッパリ……でも、レディさんならば何か知っていると思いますよ?』

 申し訳なそうに――――彼女は一つの嘘と、一つの真実を告げた。


 嘘は前者、あくまで推測であるが世界の枠を超えた存在の干渉をレイフォミアは疑っている。今の所、確証はないのだが……。

 そして真実は後者、あの謎の女性では間違いなく悠理に絡んだ秘密を知っている。それだけは自信があった。何故なら彼女もまた“世界の枠から外れた存在”なのだから。


「あー、それはまぁ……確かに」

 悠理は嘘に気付いた様子もなく、レディの事について納得の意を示す。彼からしてみても明らかにあの謎の女性は胡散臭い。助けてくれた事から信用できる相手だとは思うが、それでも尚胡散臭いと言わざるを得なかった。

 間違いなく彼女は自分と関わりがあり、何かを隠しているのは彼も見抜いていた。

 ――最も、尋ねたところで答えてくれる様な人ではないだろうけれど。


『――唯、ワタシから言えるのはたった一つだけ。それは――使い続けていれば確実に死ぬ、と言うことです』

 ピタッと、背中を洗う手が止まる。死を宣告している様な気分に居たたまれなさがあったからだ。

「それについては覚悟の上だよ。祝福が使えない以上、俺にはこれしかない訳だし」

『覚醒する前に死なれては困ります! 貴方はワタシの……希望だから』

 背を洗っていた布をぎゅっと握り締めてレイフォミアが叫ぶ。それは彼女が悠理に対して初めて感情を爆発させた瞬間だった。――希望……。そうだ、彼は世界を救ってくれる希望なのだ。


「……どうして俺だった?」

 ずっと疑問に思っていた事が彼には二つあった。一つは『自分がここに来る時に何で殴られたんだろう?』と言う、この場において割りと相応しくないものだったので空気を読んで割愛。

 なので、もう一つの疑問――どうして自分が彼女の言う“英雄”として選ばれ、この世界に呼ばれたのか? 


 とてもじゃないが、そこまで彼女の感情を刺激する程の英雄に相応しい要素があるとは思えない。何せ、元の世界ではそこら辺の石ころに過ぎなかった訳だし。


『力を感じたんです。遠い遠い、遥か彼方の世界からでもハッキリとした力が……』

 そんな悠理の疑問にレイフォミアが小さく息を吐いてボツリと呟いた。その声には僅かながら羨望が混じっていた様な気がする。だって――。


『どこまでも真っ直ぐで、自由で、どんなものすらも跳ね除けるほど力強く――鋼以上に硬いキラキラとした意志が……確かにワタシには感じ取れたんです!』

 どこか興奮した様子で神と呼ばれた少女が語る。まるで御伽噺を一生懸命聞く子供の様な、ワクワクとした気持ちさえ抱いて。廣瀬悠理と言う存在を見付けた確かな喜びも抱きつつ、レイフォミアがこう続けた。

 

『そう、例えるのなら――――流れ星』

「俺が……流れ星?」

 大きな戸惑いを持って悠理が聴き返す。自分をそんな風に称されるのはくすぐったくてしょうがない。


『はい、星は何処にでもあり、何処にいても輝けるもの。けれど中にはその存在を主張できない弱い星もあるでしょう』

 ――夜空を見上げればそれは沢山の星が目に映るけれど、それでもその全てが人に気付いてもらえる訳じゃない。きっとより強く大きい光の方へと移ってしまうだろう。目立つと言うのはただそれだけで魅力を有すると言うことなのだから。

 ――勿論、悠理本人は自分の事を弱い星だと思っているとも。ありふれた社会の歯車にしか成れなかった男には相応しい表現だと自嘲した――だがレイフォミアはそうではない。


『貴方は自分がそうと知って、それでも尚輝こうと夜空を駆け抜ける一筋の光……。そんな姿に人々の目は釘付けになり、純粋な者はそこに願いをかけ、思いを託すのです』

 それはなんと言うか――もうべた褒めと言っていい評価だった。悠理を弱い星だと言いつつも、星としての意地を持って精一杯輝こうと自分なりの道を歩こうとしている――そう、そんな彼の生き方を肯定してくれた様なきがして、悠理にはそれが何よりも嬉しかった――――照れ臭いので必死に表に出ない様に我慢したが。


「――えぇと……、つまり、俺が人々の願いと思いを受け止め、“蝕み喰らう闇”を光で切り裂き、世界に平和と再生をもたらす存在――――“英雄”になれる資格がある……、とアンタは信じているのか?」

『――はい。確証はありません……。でも貴方ならきっと世界を救えるとワタシは信じ続けています』

 レイフォミアの声から伝わる本気具合に、流石の悠理も呆然とするしかない。確証はない、それでも――信じている。無責任に聴こえるかも知れないが、彼女が本当にそう願っている事だけは良く解る。

 背中に置かれその手が力強く握られていたから、それは十分に伝わっているとも。


「随分な過大評価だな……。元の世界では普通のオッサンだった俺には荷が重くないか?」

 本気の思いに応えて悠理はありのままの感想を告げた。嬉しい――とは思う。でも、だからと言って適任かどうかは本人には判断し難い。

 ましてや、彼は本当に何処にでも居る普通の社会人だったのだ。特筆すべき能力や功績があったわけじゃない。突出した才能があったと言う訳でもない。なのに――何故?


『そ、それはその――――ごめんなさい……。ワタシは貴方を巻き込んだ事を謝らなくちゃいけないのに……』

 荷が重い――そう言われてレイフォミアは先程までの勢いを喪う。自分の望みを他人に押し付けておいて未だに謝罪の一つもしていなかった。悠理には悠理の生活があり、家族も居て、やりたい事が沢山あっただろう。


 ――ワタシはソレを奪ってしまったんだ……と言う自覚が足りなかったのかも知れない。いくら世界を救いたいと言う願いを叶えたかったとはいえ、人一人の人生と命をその天秤にかける資格よ権利など、いくら大陸で神と呼ばれる自分でも持ち得はしないのに……。 

 レイフォミアが罪悪感と嫌悪感に襲われ口を閉ざす。それと入れ替わるように悠理は新たに浮かんだ疑問を口にする。


「ん? そう言えば、召喚儀式をしたのはカーニャなのに俺がアンタの求める相手だったってのはどう言う理屈なんだ?」

 おかしいではないか。召喚儀式がどの様な基準で人を選ぶかどうかは解らないが、偶然に一致したと言うのか? それはあまりに出来すぎているだろうに。


 その言葉を聞いて、先程のまで落ち込んでいた気分を一旦心の片隅に追いやり、レイフォミアは詳細を口にし始める。それは少々立て込んだ理由によるもので……。


『あ、はい。ご覧になったとは思いますが、ワタシの本体はあんな状態だったものでずっと分身体を精霊界で活動させていたんです』

 分身体は精霊界にて“英雄”の資質あるモノを探していたのだと言う。大陸中、更には異世界にまでその範囲を拡大して。

 しかし、その分身は力――――と言うよりは耐久性が弱く、精霊界から唯の一度でも観察以上の物理的な世界干渉を行えば消えてしまうとの事だった。


 直接、悠理を召喚可能かどうかも怪しかったが、そんな時カーニャ達が召喚儀式を行うのを感じ取り、儀式に干渉したらしい。

 レイフォミアがした事は、この世界に呼ぶ勇者の選択権を“奪った”と言っていいものらしい。或いは召喚者の変更とでも言えば良いだろうか。


「――んん? そうなると俺は本来なら召喚されなかった人間って事か?」

『――そう言う事になると思いますが……どうでしょう? 結果的に貴方が召喚されていた可能性もありますが……』

 だがそれは既に後の祭りだ。本来召喚されるハズだった人間を知る術などない。重要なのは今ここに確かに悠理が居ると言うことだけ。


「……ふむ、これは本来呼ばれる予定だった奴に悪いことしたかな……」

『――え?』

 言葉の意味を図りかねたレイフォミアが驚きの声を上げる。一旦心の隅に追いやった罪悪感と嫌悪感がぶり返して、彼女にネガティブな想像をさせるが――――直後、風呂場に響いた悠理の優しげな声がそんな悪い妄想を吹き飛ばす事になる。


「俺はこの世界に呼ばれて良かったと思ってるよレイフォミア。ここへ来れたから俺はこんなにも強くなれた。そしてその力で誰かを守り、望みを叶えてやる事が出来る」

 ――ずっと悠理は感謝していたとも。社会の歯車でしかなかった自分を勇者として頼ってくれたカーニャ達に。いや、それだけじゃない。


 レーレやファルール、白風騎士団、グレフにリリネット、鎧三兄弟、モブアーマーズ、アズマ、リスディア、マーリィ、メノラ、マルコー、ガルティ、ルガーナ、セレイナ、ヨーハ、ルンバとルンバ隊、そしてレイフォミア……。

 この世界に来て今まで出会った仲間のすべてに感謝している。だって――。


「誰かに必要としてもらえる――――それはとても幸せな事なんだよ。だから謝る必要なんて無いんだぜ? 俺はちゃんと納得してるからよ」

 換えの利く社会の歯車としてじゃない。この世界を“変える”為に“救う”為に必要としてくれた。人として生きていく上でそれに勝る喜びはないのではないだろうか?


 求められて嫌な気分になどならない。――一方的に利用されるのはゴメンだが。

 ――ともかく、廣瀬悠理は納得して今ここに居て、自ら望んでこれからも歩いていく――と言う事だ。


『――はい、ありがとうございます……』

 気に病む必要は無い。自由の使者を語るこの男はそう言ってくれた。彼にとっては異世界にあたるこの世界を既に彼は愛してくれている。そこに住む仲間たちを守りたいと思ってくれている――――大陸の守護者としてこれ程嬉しい事はないだろう。

 そんな彼が何処か誇らしく思えて、レイフォミアはいつの間にか満面の笑みを浮かべ、頬にはキラリと輝くものが流れていた。しかし、背中を向けている悠理にそれが見える事は無い。


「例を言うにはまだ早いさ。始まるのはこれからなんだぜ? 礼を言うのは世界が救われた時にしな」

『ふふっ、解りました。――では、報酬の前払いをさせて下さい』

 ややぶっきらぼうな言い方でおどけてみせる悠理にレイフォミアは一つ決意をした。

 ――正真正銘――――彼に全てを託そう……、と。


「は? 報酬って何の? お、おい、背中にくっついてどうするつも――――」

 突然話についていけなくなった悠理が、報酬の意味を問質そうとするも、レイフォミアは彼の背中にぴったりとその素肌を重ねて――――。

『――――えいっ!』

「アッ、アッーーーーーーー!」


 ――風呂場にそんな間抜けな声が響いて、悠理は意識を失った……。

 目覚めたのは翌日の事であるが、この時レイフォミアは一体彼に何をしたのか?

 ――それが判明するのはグレッセ王都での決戦――――その最中になる事を知るのは当の本人のみ。

 これより、大陸南方グレッセ王国における最後の戦いが――――――――――始まりを告げる。

次回、出発と旅の道中をすっ飛ばしてグレッセ王都に到着――――いざ、決戦!

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