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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
199/3920

英雄譚を始めるには・背負ったものがもたらすのは?

うん、後半頭働いてないね!

――そ、その内、加筆修正するかも?


あ、それと前のページで(※)の補足を書き忘れたので、後書きの方に追加しておきました。

お手数ですがご確認頂ければ幸いです。

「まったく……さっさと来ればもっと速く終わったのに何やってんだよオメェは!」

「だからあれは不可抗力だろ……」


 セレイナの荒っぽい声が客間に響く。

 結局、彼がセレイナとリスディアが待つこの部屋へ来たのは、ヨーハとマーリィが彼の元を訪れてから二時間後だった。何故そうなったかと言えば、あれから代わる代わる二人の侍女に抱きつかれたりして身動きが取れなかったからで。

 しかも、悠理が中々来ない事に痺れを切らしたセレイナがその光景を目撃すると言う割と最悪の事態に見舞われ、彼女の怒りはこうして作戦の再確認が終わった今でも続いている。


「はっはっはっ、獣面よ。マーリィになら手を出しても構わんのじゃぞ?」

 リスディアは自分の侍女が悠理とスキンシップを取っている事に対しては特に咎めたりはしなかった。それ所か今の様にGOサインを出す有様だ。元より彼女達がこうして行動を共にするのは彼を篭絡する為……。

 己の侍女に悠理が手を出せばそれは願ったり叶ったりだ。


「俺から出すつもりは特にないんだが――まぁ、不可抗力ってヤツはあるよな!」

 男と言うのは悲しいもので、合法的な許可が降りると直ぐに喰らいついてしまう。悠理は本当に手を出すつもりはないのだ――今の所は、だが。そう、何かの拍子に手を出してしまうことはあるかも知れない。

 いつもの様に親指を突き立ててそう宣言する悠理はとても良い笑顔だった。


「ヨーハに手を出したら――――潰すぜ?」

「う、ういっす……」

 ――が、その笑顔も一瞬で凍る。純度百%の殺気を身体の一部分――――主に股間に感じたような気がして、悠理が本能的に急所を庇う。セレイナの本気具合に股間を押さえて震えるしかない。


「――とまぁ、これで妾達の話は終わりじゃ……。それにしても、神様がくれたこれはとても便利なのじゃ」

 二人のやり取りを見ながら、リスディアが作戦の最終確認作業の終わりを告げ、テーブルに置かれていた四角く、細長い薄っぺらな石の様な物体をコツコツと指で叩く。

 ぬめっとした黒色のそれは、叩かれた部分が白く発光していた。


「まさかこの世界でケータイを見る事になろうとはな……」

 悠理が手元にあったリスディアと同じ物体を手に取る。これは言わば――――通信端末。


 そう携帯電話――いや、スマートフォンモドキと言える代物であった。正確には念話通信機であり、これがあれば声を出さずに同じ物を所持している相手へと思考を伝えられる。

 しかもこれはレイフォミアのお手製だ。故にこれを持っているだけでアルフレドの祝福を無効化出来るオマケ――と言うには強力すぎる能力付きである。


 大量に生産出来ないので今の所、悠理、リスディア、セレイナの三人分しかないが、今回の作戦を成功に導くにあたって頼りになるキーアイテムだ。


「後は本番で上手くやれば良いんだよな……」

 不意にセレイナが俯き、いつもよりも声のトーンが低くなる。その顔はどこか浮かないものだった。

「――セレイナ様も緊張してるのか?」

「どうかな……、失敗するとは思っちゃいねぇし、しくじるつもりねぇが……」


 今作戦の成否によってグレッセの未来――引いては世界を救う戦いの趨勢が決まると言っても過言ではない。それを考えればセレイナも緊張しているのかも知れない……。

 ――と、悠理は睨んだのがどうももっとモヤモヤした何かに苛まれている様だった。


「妾を見習うと良いのじゃ! ほれ、この通り!!」

 その妙な雰囲気に気付いていないのか、はたまた気付いていてあえてそうしているのか。

 リスディアが左手を自身の胸に当て、右掌を上にしてセレイナ達の方へ向けた。何だか良く解らないが、恐らく彼女なりに“堂々と落ち着き払っている”事を演出するポーズ――なのだろう。


「――お前手汗でびっしょりだぞ?」

 しかし、悠理がその手を除くと彼女もまた緊張していたのか、手は見て解るくらいに湿っていた。


「の、のじゃ?」

「あー、ほれ。これで拭けよ」

 自覚がなかったのか、手を見てその事実に驚愕するリスディア。悠理はスルハを出る際にグレフから貰ったハンカチを取り出して手渡してやると、彼女は慌てて手を拭き始めた――――なんと言うか台無しである。

 

「――オメェはどうなんだよ?」

「どう、って……緊張か?」

「ああ、全てはオメェに賭かってるんだぜ?」

「アンタが俺に圧力かけてどうすんだよ……」


 冷ややかとも言える態度でセレイナが悠理に問う。自分が感じているものが緊張なのかプレッシャーなのか、同じ境遇に立つ彼ならば解る気がしたからだ。


「獣面は緊張とは無縁だと思うぞ妾は」

「酷いなオイ! 俺だって人の子だぜ? 緊張の一つや二つ――」

 失礼だと言わんばかりに悠理がリスディアの言葉に反撃しようとするが……。

「――いや、してねぇな……」

 ――結局の所、自分は緊張していない、と言う結果に至った。



「何でだ? 俺様達や解放軍の兵士、グレッセの国民、操れた騎士達の命がオメェに圧し掛かってんだぜ? ――――いや、もう既にこの世界すらオメェは……」


 ――背負っている。いや、背負わされている。この世界を救う役割を持って唐突に呼ばれ、なし崩し的にこ

うして戦う羽目になったのだ。

 そこにはとてつもない重圧があるのではないか? 何故、そうも普段道りにしていられる?


 もしかしたらそれは苛立ちかも知れなかった。多くモノを背負う人物がどうしてそうもいつもと同じ様に振舞っているのか。もしかしたら、この世界や人々の事を軽く見ているんじゃないか――――そう邪推しそうになってしまう。

 悠理はその言葉に対して――。


「――――背負った荷物ってのは、自分で好んでそうしたモンだろ? それに押し潰されるってのは何か違くないか?」

 真面目な顔でそう言った。何でそう難しく考える必要がある? そんなニュアンスが込められていた。

 彼はそのまま続ける。

 

「俺が自分の意思でやり始めた事だ。スケール――あー……、規模は大きくなっちまったがな……」

 世界を救うと言う役割は確かに押し付けられたモノかも知れない。けれどそれでも今ここにこうして居るのは自分で決めたこと。


 最初はカーニャ達から奴隷解放の戦いを望まれ、グレッセを取り巻く神の側近とコルヴェイ王の結託を知り、彼等の野望から大陸を救うことになりかけ、最終的には神様に出会って己がこの世界に召喚された理由を明かされた。

 確かに、いつの間にか規模が大きくなってしまっていたが、それは自分で納得して背負うと決めたこと。

 彼がそう言うのなら、それが揺ぎ無いたった一つの真実だろう。


「――それによ、圧し掛かった重みが強さをくれる事もある。何も悪い事ばかりじゃない。むしろ、背負うってのは自分に力を与えてくれるもんじゃないか?」

「――言いたい事が解らない訳じゃねぇが……」

 悠理の言葉は酷く抽象的で感情的だ。伝わらないこともないが、実感できる訳でもない。だからセレイナはどうにも解答に納得できてないのだろう。

 それを見て悠理は更に言葉を重ねる。これならばきっと解るに違いない――と。


「重くて耐えられないなら、いっそグレッセを見捨ててみるか?」

「馬鹿野郎ッ! そんなの出来る訳ねぇだろッ!!」

 セレイナから怒りを引き出す言葉を彼はあえて口した。案の定、それは彼女の怒りを買い、先程までのさえない顔を一転させ、悠理へと牙を剥く。


「どうして?」

 恐れた風もなく彼女に問いかければ、その顔に王女としての風格が表れ、胸に誇りを抱いて叫ばせる。

「俺様はグレッセ王国の王女だ! 自国に住む民を守る責任と義務がある!! だから絶対に皆を見捨てねぇぞッ!!!」

 ――生まれに縛られている訳じゃない。自分がそうしたいと、そうでありたいと願っているからこそ、彼女を突き動かす原動力となる。

 きっと彼女は気付いていない。それは悠理が今ここでこうして居る理由と全く同じものであったことを……。


「――ふーむ、他しかに獣面の言う通りなのじゃ」

「――あん?」

 ――それに気付いたのはリスディアだった。セレイナは解らず、思わず彼女を睨みつけてしまう――が、特に気にした様子はなく、アルフトレーンで急激な精神的成長を遂げたお嬢様が言う。


「解らんのか? 守るべき民の存在が、たった今お主に力をくれたではないか」

「――――あ」

 ――そう言われてストンと、何かが腑に落ちた気分。自分を叫ばせたものの正体は、王族に生まれたからではなく、己が守りたいと願って背負うと決めた民であった――そんな当然の、あまりにありふれた理屈にようやく気付く。

 その様子を静観していた悠理が嬉しそうに笑って言う。


「ほらな? 背負うってのは元々正の力なんだよ。そこに悪い想像とかが加わって、自分を縛る負の力に変質させちまうんだ。要は気持ちの問題さ、上手くやるとかしくじらない様にとか、そんなの考えずに唯すべきことを全力でやれば良いんだよ」


 難しく考える必要はない。深く思い悩めば、守るべき存在が自分を苦しめるものに摩り替わってしまう。

 それだけは絶対にダメだ。そうなってしまったら、もうきっと戦うことなど出来まい。守るべき誰かとは、辛い時にそっと自分を支えてくれるものでなければならないのだから。


「――そっか、そうだな……」

 やっと解ったと満足げな笑みを浮かべるセレイナにもう緊張も重圧もない。王女として、セレイナ個人として成すべきを果たす。今はそれで良いはずだと、迷いを完全に断ち切ったようだった。


「――――のう、獣面よ……」

 そんなセレイナの姿を見てリスディアは何故か俯き、悠理の服をぎゅっと掴んでいた。

「どうした珍しく真剣な雰囲気で?」

「妾もいつかあんな風になれるのかの?」


 リスディアから出た意外な言葉に悠理が目を瞬かせた。あんな風――とは今のセレイナの事だろう。

 彼女は彼女で今まで悪事に手を染め、多くの人を契約系の祝福を駆使して苦しめてきた。そんなリスディアには民を思う心で迷いを振り切ったセレイナが眩しく見えたのかも知れない。

 ましてや、今のリスディアはグレイスとテオの件を経て格段に成長を遂げている。何か思うところがあったのだろう。


「さぁてね……、俺には未来を見通す力なんてねぇよ。唯――」

 彼女が何を思い、後悔しているかは解らない。ファルールからチラッと聴いたアシャリィ姫の事かも知れないが、おいそれと聴くものでもない。だから悠理はその手をリスディアの頭へ置いて――。


「人は案外やり直せるモンさ。お前が願うなら、いつかその日もやってくるさ」

 優しくその頭を撫でる。きっと大丈夫、何とかなるさ。無責任かも知れないが、そんな言葉が効果的な時もあるもので――。


「――そうか……。うむ、解った……」

 歳相応の無邪気な笑顔を浮かべ、リスディアは瞳を閉じる。

 自分は変われるだろうか、今までの悪行が無かった事になるとはこれっぽちも思わない。けれど変わって行く事で許される事もあるのだと思う。


 もしも、いつかそんな自分に成れたのなら……。

 ――それはきっと荒っぽい男装の王女様と、獣面をした自由の使者のお陰だろう。

次回―――は結構長くなっちゃうから分割にしようか悩んでいます。

内容は悠理と神様の会話です。

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