英雄譚を始めるには・集いしは淫魔と鋼
半額キャンペーンの商品を吟味していたら時間が……。
しかも頭働いてないなぁこれ……。
――そう言えばブクマ減ってたね……。
まぁ、心当たりはなくもないし仕方ないか。
「おーい、無事かお前等?」
レイフォミアを仲間に加え、グレッセ王国突入作戦の準備が始まってから早二日……。いよいよ明日には出発、と言う所で悠理は最期の確認をする為に仲間の元を尋ねていた。
――が、彼が一番始めに向かった屋敷の裏手――――そこには巨大なコンテナと思わぬ者達が……。
『――何とか……』
『酷い目にあったな……』
『あー……、まだ頭がガンガンするぜ……二日酔いってこんなんなんだろーな……』
何とそこに居たのはスルハを守る為に残ったハズの鎧三兄弟……。黄金騎士ゴルド、白銀剣士シルバ、青銅戦士ブロンであった。
実は彼らはずっとコンテナの中に詰め込まれていたのだ――スルハを出た時からずぅーっと。悠理達に付いて行きたい思いと、街を守りたいと言う思い……。その狭間で揺れていたのを見かねたモブアーマー達が、彼らを鉄製のコンテナに閉じ込め、そのまま物資の一つとして馬車に積まれたのである。
中は三人が入るとぎゅうぎゅうで身動きが取れず、防音処置が施されていたので助けを呼ぶことも出来なかった。故に誰にも気付かれることなく今に至る……。
「俺としてはモブアーマーに感謝したいけどな。お前らのお陰で作戦が固まった訳だし……。頼りにしてるぜ?」
そう、鎧三兄弟には今回の作戦では重要な位置についてもらう事になった。彼らが居るからこそ取れる奇襲作戦が可能になったのである。
恐らくこれがグレッセ解放軍を優位に立たせる唯一にして最大の作戦。失敗すれば危険が増してしまうが、成功しさえすれば後顧の憂いを立てるだろう。
『ハッ、ミスターにそう言って頂けるなら二週間馬車に揺られた甲斐があったと言うもの!』
『我等鎧三兄弟の名に恥じない働きを誓います!』
『任しといてくれミスター! 俺等も強くなった事だしな!!』
鎧の戦士たちが意気込みをみせると、各々の鎧がガチャガチャと音を鳴らす。
ちなみにブロンが言った『強くなった』と言う意味だが――――それはグレッセにて確認出来るだろう……。
『――ほんと、ワタシにも感謝しなさいよねミスター?』
金銀銅の兄弟達の頭上から声が響く。ふわり、と地面に降り立ったのはこの世界では珍しいゴスロリ服の少女――――クヴォリアで出会った淫魔のメノラであった。
「ああ、メノラもありがとな。お前に言われなかったらゴルド達に気付かなかったぜ……」
彼女は自らの眷属淫魔にクヴォリアを託し、こちらへ向かっているリスディア隊本隊よりも一足先にここアルフトレーンへ到着していた。
どうやらリリネットからの連絡でゴルド達の事を聴かされ、態々伝えに来てくれたらしい。――最も、それだけが理由ではないが……。
『それにしても驚いたわよ。お姫様達は兎も角、まさか神様まで仲間にしてるなんて……やるじゃない!』
メノラは嬉々とした表情で親指を突き立てて笑う。
ゴルド達や彼女、白風騎士団、ルンバ隊の面々には、既に神様のことや大陸の危機を伝えてある。
不必要に不安を煽る事になるかも……、と些か躊躇したが、悠理の『いつか知るなら速い方が良い』と言う意見によって公表されたのだ。
その事実を知った兵士達は動揺し、当然の事ながらどうすれば良いか解らず不安を抱いてしまった――が。
「逃げたいなら逃げれば良い、それで後悔しないのなら。少なくとも俺はお前達を責めたりはしない。皆の自由に任せる」
――たった一言。悠理のその言葉であっと言う間に動揺は鎮まって、兵士達はどこか穏やかな気持ちで今後の事について思案した。
その結果、ほぼ全員が今作戦に参加の意思を示したのである。今は各員が出発に向けて最期の詰めを行っいた。
今も耳を傾ければ兵士達の声が聞こえて――――と、悠理が回想に浸っているとは知らずにゴルド達の会話が続く……。
『まさか大陸の危機だけに止まらず、この世界そのものが危機に貧していようとは……』
『この地に生まれて十数年……大地の活力を得て生きてきたと言うのに、気付くことすら出来なかったとは無念だ……』
黄金の騎士と白銀の剣士が悔しさから項垂れる。表情がなくても落ち込んでいると言うのは見れば解ること。精霊石としてこの世に生まれ、大地の活力を感じ取りながら生きてきた彼等でも世界規模の異変に気付けなかった……。
そもそも、大陸の守護者であるレイフォミアさえ知りえなかったのだから、彼等が知らなかった事に恥じ入る必要などない。――とは思うが、これは気持ちの問題だ。故にゴルドとシルバは自分を責める。そんな事に意味などなくとも、自分を戒めると言う点では効果的だ。
『まぁまぁ、そんなに落ち込むなよ兄ぃ達。これから世界を救う戦いに沢山貢献すれば良いじゃねぇか! なぁ、ミスター?』
末弟のブロンはどこか気楽そうに、けれど落ち込む兄達を励ます為に明るく勤めてそう言った。
「ブロンの言う通りだな。グレッセを救っても戦いは続いていくんだ。それにはお前達の力が必要なんだぜ?」
振られて悠理も自分の胸の内を明かす。世界を救うのに一体いつまでかかるか正直言って解らない。
しかしそんな果ての無い戦いを続けて行くには仲間が必要だ。共に長い時を歩んでくれる心強い仲間が……。そんな存在にゴルド達がなってくれるのなら、悠理にとっては間違いなく嬉しいことなのだ。
『ミッ、ミスター! このゴルド、何処までも付いていく所存でございます!!』
『不詳、このシルバも同じく!』
『応、俺ブロンもだぜ!』
三色の眩い輝きを放つ鎧達が一斉に悠理の前に跪き頭を垂れる。それは忠誠を誓う神聖な儀式――――儀式としてはやや簡素ではあるが……。
「応、よろしく頼むぜ!」
この時より、大陸を救う英雄の剣として、盾として、彼らは生まれ変わったと言えた。
『――何か暑苦しくなって来たわね……』
それを見たメノラがボソッと呟く。確かにどこか体育会系の様な雰囲気が漂いつつあり、彼女はその中では酷く浮いている。
「そう言えば、グレッセを解放したらメノラはどうするんだ?」
ふとした疑問。メノラはあくまでリリネットから紹介による助っ人。仲間に加わってくれるのなら素直に喜ぶが、彼女がそうするとは限らない。どんな返答がこようと悠理はそれを尊重するだろう。
『ワタシ? 特に考えてないわ。強いて言うなら――』
「言うなら?」
『――カーネスの馬鹿をひっぱたいてやるわよ。ワタシ以外に洗脳されるなんて情けない!』
ちなみに悠理がカーネスに遅れを取ったと言うのは既に伝えてある。その時は何とも言えない複雑な顔をしていたので、何かあるのか?、と思ったのだが……どうやら気のせいだったらしい。
「――――どんな関係だよ……」
――返って来た言葉は予想斜め上。カーネスと因縁があるしいのは知っていたし、並々ならぬ想いがそこにあるだろうとも薄々気付いてはいたが……。
『アッハッハッハッ、待ってなさいよカーネス!』
結局、二人はどんな関係なのか? だがその問いは高笑いを始めたメノラに届きそうも無かったので、悠理は黙ってその場を後にすることにした。
鎧三兄弟も無言でそれを見送る中――。
『アッーハッハッハッ!』
――メノラの高笑いは止まる気配を見せなかったとさ。
次回は、特訓中のあの子達。