神の創りし物を偽りだと見抜けるか?
あー……、がっつり書いて疲れたぜ……。
おっ、更新する前に見たらブクマ増えテーラ!
ラッキー、今日は良い夢見れるかもな!
「すまないレイフォミアどの……もう一度言ってもらえないか?」
あり得ない言葉を聴いた気がしてファルールは大陸の守護者に問いかける。祝福を再び手に入れる――と言われてもそのまま鵜呑みには出来ない。生まれた時よりその身にあった力は、喪えば再び授かる事はない――――言うなればそれは常識。
奪われた祝福を取り戻す事は可能でも、一から作り出して与えるなんて見たことも無ければ聴いたこともない。二度と手に入れられないからこそ、背中に痣となって刻まれるのだ。――常人よりも劣る証として……。
『ワタシの能力を使えば“祝福”を創り出す事が可能です』
――しかし、大陸では神と呼ばれし少女レイフォミアは簡単にその常識を覆す。彼女の言葉に悠理以外の全員が絶句し、耳を疑った。有り得ない、今までの価値観を――世界をひっくり返された気分に誰も口を開けないでいる。
「さっ、さささ、流石は“全知全能”のしゅしゅ、祝福でででっ!」
そんな中、ノーレが一番に回復した――――と思ったら、動揺は完全に拭いきれておらず、目を回しながらガチガチと盛大に歯を鳴らす。情報通の彼女の事だ、大陸中の話を収集してもそんな話は聴かなかったのだろう。
ましてや、彼女は“祝福喪失者”だ。その手の祝福がないかはいの一番に調べたに違いない。だからこそ面子の中でもその動揺は一段と大きいかも知れなかった。
――そして、どうやらその様子に当てられた者も居る様で……。
「慌てすぎじゃノーレ。妾の様に堂々と……」
「お前も動揺してるじゃねーか!」
「そ、そんな事はないのじゃっ!」
口調こそ確りしていたがリスディアの座る椅子はガタガタと激しく揺れ、取り繕った平静さが虚偽だと暴く。すかさずセレイナの鋭いツッコミが飛べば、彼女はあっさりと必死に隠したものを曝け出してしまう。
しかし、まだレイフォミアは彼女達が驚く情報を持っている――とは予測していなかっただろう。
『“祝福”を“創作”する能力は珍しくもありませんよ?』
その一言に時間が凍った様な錯覚を受け、ノーレに至っては失神しかけてフラリと上体を揺らし、リスディアが慌てて支える始末だ。
「――――冗談だろ?」
『本当ですよ、ただしワタシも含めてあくまで“贋作”でしかありませんけど』
他のメンバーよりも落ち着き払っているセレイナだったが、流石に情報が情報だ。このノレッセアと言う世界において、祝福とは武力であり、政治的手段であり、生活手段の一種でもある。
それに何より、生まれながらにして持っているその力は最早“肉体の一部”と言って差し支えないモノ。
それを『手料理みたいに簡単に作れる』――みたいなノリで言われると――反応に困る……。
「アンタの能力でも本物を産み出せないのか?」
神と呼ばれる能力者でも生み出せないチカラ――――そんなものがあるのか?、と悠理が問う。
神様の定義なんて多岐に渡るだろうが、彼のイメージでは“創造主”と言う印象が強い。実際にレイフォミアは『祝福を創り出す』と宣言しているし、彼女には“創造の力”があるのだろうと睨んでの発言だ。
『祝福はこの世界そのものがワタシ達に授けた力です。この大陸で神と呼ばれる力はあっても世界を生み出すほどの力はありません』
悠理の疑問に対する返答は筋が通っていた。成程、レイフォミアが神と呼ばれる所以こそ祝福にあり、それを授けたのは世界そのもの……、であれば――。
『――よって、ワタシは世界を越える様な力を持ち得ません。そもそも、それが出来たら――――』
――――とっくに世界を救っています……。そんな悔しさを滲ませてレイフォミアは拳を握り締めた。
大陸の守護神として相応しい力を持ちながらも、決して真の意味での神になった訳ではないのだ。もしも彼女がそんな理想の存在へと成る事が出来たなら……。
間違いなく、その力を世界の為に捧げているに違いない。
「そうか……、話の腰を折って悪かった。続けてくれ」
レイフォミアが見せた世界を救う姿勢に、悠理は少なからず感動を覚えていた。また彼女の力になってやりたい、とも。既に最初に会った頃の敵意は微塵もなくなっている事にどこか心地良ささえ感じる程に。
『――はい、祝福を創ると言いましたが――――今回は従来とは違った方法を取ります』
「……? どう言う事だろうか?」
促されて続きを話し始めたレイフォミア。しかし従来の方法と言われても、祝福が創作可能である事実をついさっき知ったばかりの彼らには伝わらない。故にファルールが代表としてその疑問をぶつける。
『ワタシが“祝福”を造り上げて、それを移植するのが従来の方法。今回やろうとしているのは――――』
うーん……、と唸って適当な表現を探す。何しろ、彼女も初めて挑戦する作業だ。そう、例えるなら――。
『――言うなれば、祝福の“復元”ですね』
生み出すのではない。創り直すと言うのが適切だろうとレイフォミアは思った様だ。
「それは一体どう違うんだ? って言うか復元?」
『ユーリさんには馴染みがないと思いますが、祝福とは生まれ持った己の半身みたいなものなんです』
首を捻って疑問を表す悠理に彼女は懇切丁寧な解説を用いる。
『例え何らかの理由で喪ったとしても、身体は――――魂はその存在をずっと覚えている』
――これはあくまで例えですが、と付け加え、治ったハズの傷が突然痛みを訴える感覚に近いと説明する。
所謂、古傷が疼く――というヤツだ。それを聴いて考えると、完治したのに身体は、或いは心は当時の痛みを忘れてはいないのかも知れない。だから時折、戒めるように痛みを与えるのだろうか?
そんな事を悠理はぼんやりと考え、納得して頷けば話が再開する。
『――ですから、祝福を形成するエネルギーだけを与え、自分からそこに形を作る刺激を与えれば……』
先程の古傷の例えはネガティブな方向に力が働いたものだとすれば、こちらはポジティブな方向に働く力だと言えるだろう。
「――成程、身体や魂の記憶を頼りに自分で祝福を再現する訳か」
悠理は一つ頷いてそう表現する。その発言にレイフォミアは『我が意を得たり』と頷く。
しかし、彼女は驚いてもいた。自分の伝えたかったことを的確に、しかも要点を解り易く喩えたのは感心せざるを得ない。
こちらの方法を例えるのなら、記憶は喪ったが身体は覚えている――と言った所だろうか?
それをした記憶は失くしていても、幾度となく反復練習した動作、日々の癖や所作と言ったものはそう簡単に無くなるものではないだろう。
またそれらが記憶を呼び覚ますキッカケになる事もあるハズだ。
「あっ、そう言う事ですか! でもそれだと時間がかかりませんか?」
失神しかけるほど衝撃を受けたノーレが悠理の言葉でハッと我に返り、その意図を汲む。飲み込みと理解が早いのは伊達に一行の頭脳労働を担当していないからなのか。
だが彼女は理解したからこそ問題点にも一早く気付く。
それが――――時間。悠理の例えを借りるのなら、祝福の復元は言わば“治療行為”。
つまりはリハビリの様なモノが必要で、それにはどれ程の時間がかかるかも解らない。グレッセ王国までは早くて5日間の距離。それに間に合うかどうかは賭けとしか言えないだろう。
『そこはワタシが何とかします。ただし、これに関しては多少の危険もある事を忘れないで下さい』
ハイリスクハイリターン――短期間で結果を求めるならばそこには危険が付き纏う……。至極単純な事だが、それを受ける側――カーニャ、ノーレ、ファルールの三人にはキツイ事実だ。
「危険、ね……。具体的には?」
『いっそ殺して! と叫びたくなるほど、悶え苦しみます』
「も、悶え苦しむ!?」
「テメェは黙ってろ……」
「あ、あはは、は……」
悠理が問えばレイフォミアは実に簡素な――ともすれば砕け過ぎで実に単純明快な例えを出してくれた。
その内容にヨーハが素早く反応し、セレイナはそんな侍女を見て頭を抱え、ノーレは引きつった笑みを浮かべ乾いた笑い声を上げる。
余程の物好きでなければ激痛を伴う手段を取るものはいないだろう。けれどもこれは千載一遇のチャンス。このまま“祝福喪失者”として足でまといとなるか、激痛を乗り越え再び力を得るか……。
そもそもこれは破格の条件だ。この機会に巡り会えたのは一種の奇跡……。
――だがしかし、それを受けるか棒に振るかはあくまで当事者にしか選べないものだ。
『さぁ、どうしますか? ちなみにカーニャさんの了解は既に取ってあります。まぁ、この子の場合は体内にある精霊石の祝福を書き換えるだけで、貴女達ほど時間はかからないと思いますが』
迷える乙女達に守護神は返答を求める。汝は力を欲するか、否や?
「――フッ、やるさ」
笑みを浮かべてファルールは椅子から立ち上がった。真っ直ぐに姿勢を正し、レイフォミアの瞳を見る。そこに迷いや恐れは些かも映っていない。
自分の存在が今回の作戦において勝利を導く要となるのなら、それは騎士である彼女にとって名誉なこと。騎士の誇りがあればこそ、その話に乗らない手はなかった。
「わ、私も……やっ、やり……ます!」
対してノーレの方は迷いや恐れが多分にあった。ファルールに釣られて席を立つが、姿勢は前のめりで、歯切れの悪い返事には勢いなど皆無。それに痛いのは嫌だし怖い。やらなくても責められないのなら出来ればそうしたい……。
――だけど、それでも勇気を持って言葉にしたのは力に成りたいと思ったからだ。自分も皆と共に戦いたいと、そう思えたからだ。
「…………?」
チラリと悠理を見るノーレ。もう甘える事は許されない。彼は今まで自分と姉の為に苦しみ、傷ついてくれた。この世界に呼んで、自分達の気持ちに応じて勇者となり、ここまで戦ってくれた。
――そんな義理も理由も全くなかったハズなのに……。それでも悠理は戦ってくれたのだ。それを素直に嬉しいと感じるから――――恩を返したい。
そう強く思い、願う。再び力を手にしたい、と。
『――本当に良いんですね?』
「無論だ」
「はいっ!」
最終確認に応じる二人の言葉が部屋に強く響く。ノーレももう先程までの弱気な部分を捨てのか、キリッとした顔付きになっている。
『お二人の思い、このレイフォミア・エルルンシャードがしかと受け取りました。貴女達の事は必ずワタシが何とかしてみせます!』
大陸の守護者も彼女達の本気を受け止め力強く応えてくれる。その光景は各員の心に自然とやる気と活気を与える事となる。
「よっしゃ! じゃあ、ファルさん達の事はレイフォミアに任せて、俺達は諸々の準備を進めちまおうぜ!」
パンッ、と拳を掌に打ち付けて悠理がそう叫べば、皆がそれに笑顔で応じる。
『応よ! 派手にやってやろうぜ相棒!』
「うむ、やってやろうではないか獣面よ!」
「かしこまりましたミスター……」
「ユーリ様ぁ~♪ ヨーハが手取り足取りお手伝いを――」
「――テメェは俺様と一緒に作戦の纏めをすんだよ」
ガヤガヤと活気付く部屋の中、そこに生まれた光景を見てレイフォミアは確信する。
(ワタシの勘は間違っていない。貴方こそ――)
――この世界を滅びから救う英雄に成り得る人だ……、と。
次回から、いきなり出発前夜編です。