一難去ったら定番の
「……う……うぅん……」
「おっ、起きたかファルさん」
頭上から降って来たその声に朦朧とする意識が急速に覚醒を開始。
顔を上げて視界に映りこんだのは―――自分を負かしたあの男の顔だった。輝く太陽の光が目を焼いてハッキリとは見えないが、笑っているような気がする。
「私は……どれ位……」
――意識を失っていたのか? 尋ねようとした所でハタと気付く。身体に感じる浮遊感。
本来の使い方とは違う言葉だが、文字通り地に足がついていない……。
所謂、お姫様抱っこ――と言う状態にある。
「ん? ほんの十数分って所だよ」
「そ、そうか……。そ、それよりも降ろしてくれないか? もう平気だから……」
現在の状況を妙に意識してしまい、ファルールはその頬を赤く染めてそっぽを向く。
まともに顔を合わせるのはちょっと出来そうにもない。こんな風にされるのを憧れる事があっても、所詮自分には叶わぬ夢物語だと諦めていた。
その夢物語が実現した嬉しさにファルールは少し――――いや、盛大に照れていた。
(…………あ)
しかし、そんな気持ちも目に映った周りの光景を見て消え失せる。悠理とファルールの戦闘で街は随分と滅茶苦茶な有様だった。
建物が倒壊していたりはしないが、露天や店頭の展示品は壊滅的な被害……。
自分の部下達は拘束されている――が、手荒な真似はされていないらしくホッと胸を撫で下ろす。
「暫くはこうしてなって、まだ回復はしてないんだから」
「い、いや、そう言う訳にも――――ミスター?」
先程までの気恥ずかしさは何処へやら、お姫様抱っこ継続発言に思わず悠理の顔を視界に捉えて――はて? と、首を傾げる。
「ん?」
「――いつの間に顔に負傷を?」
先程は日の光が眩しくて確認できなかったが、彼の右頬には真っ赤な手の跡、反対の左頬には抓った跡、そして額には恐らくデコピンをされたのか、かなり赤くなっている。
「あ、あははー、ツレに……ちょっと、ね……」
露骨に目を泳がせる悠理。
それは彼女が気絶した直後のこと――。
――――――
――――
――
「ふぅ……。あ、皆ー、終わったぞー!」
おーい、と手を振る。
しーん、と静寂が漂う。
スルハの住人も白風騎士団も、現状を把握できずに静まり返っていた。
「勝った、のか?」
『ええ、マスターグレフ! ミスターがやってくれました!』
グレフとゴルドの言葉に徐々に中央広場がざわめく、我々は勝ったのだ、と。
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!』
人々と鎧達の雄叫びが響き渡り、街を喜びで震わせる。家に立て篭もった住人達も、どうした事か? と窓から顔を出す。
そして、戦闘が終わり、自分達の街は守られたのだと理解すると、ある者はその場で喜び、ある者は外に出て戦っていた住人を労う。
「モブアーマーズ! 白ずくめの連中は拘束しておいてくれ! 手荒な真似はするな、アンタ達も今は従ってくれると助かる!」
悠理の言葉に一斉に動き始める鎧達。白風騎士団の皆も大人しく従っている。
街を滅茶苦茶にされた怒りで、住民が無抵抗の相手に暴行を加えないかが心配ではあったが今の所は大丈夫だろう。
――ふぅ、これで一段落。
そう息をつこうとして、こちらに駆けてくる人影を視界に捉えた。
「お? おーい! こっちこっち!」
カーニャ達が何かを叫びつつ彼の元を目指し、人混みを掻き分けて進んでくる。
久方振りに見た仲間の顔に彼は一仕事終わったんだな、と改めて一息つく。
この戦闘の間、彼女達は悠理によって身体の自由を奪われ、グレフの地下工房に閉じ込められていたのだ。
理由は二つ。彼が自分自身の力が何処まで通用するか試したかったのと、出来れば三人を戦闘に参加させたくないと言う自分勝手な都合から。
しかし、いつの間に能力が解除されたのだろう?
ファルールとの戦いで随分と力を使ったから、彼女達へかけた力の効果が下がってしまったのだと推測できるが――などと考えを巡らせていると、もう三人の姿が直ぐ目の前に――。
「おー、皆元気そうで良かっ――――――ぷらぁぁぁぁぁっ!?」
――――来た、と認識した瞬間に右頬を問答無用の全力ビンタが襲う、首が凄い勢いで直角まで達し、悠理の意識が一瞬遠のく。
見た目はほぼ無傷であっても、初めての本格的な戦闘に加え、能力と武器の性能にモノを言わせた滅茶苦茶な戦術。
自業自得と言われてもしょうがないが、そんな重労働をこなしたお陰で身体は疲労困憊――。
ゲームで例えると、HPはMAXを100だとして残り10から20程度。今のビンタで体感的には半分近く減らされた感じだ。
「ぜぇ……ぜぇ……アンタ! よくもやってくれたわね!」
『おいユーリ! 面白そ――厄介事なら俺も混ぜろよ! 聞・い・て・ん・の・かぁ?』
カーニャが来るなりビンタをしてきたと思ったら、今度は左頬をレーレに思いっきり引っ張られる。
――――やべぇ、やっぱ皆怒ってるよな……。
何せ彼女達の了承を得ず、無理矢理自由を奪って置いてけぼりにしたのだ。自分が逆の立場だと考えれば怒るのは自明の理。
出会ってまだ一日と少しだが、それでも仲間……。
――頼ってくれなきゃ寂しいじゃない。
「カーニャ、レーレ、すま――あだっ」
レーレはともかく、カーニャの心情を慮って謝罪――しようとした所をデコピンされる。
「私もすごく――心配しました……」
瞳に涙を浮かべ、拗ねた様にほっぺを膨らまして、恨めしそうに睨んできたのがノーレ。
私の事も忘れないでください、まるでそう主張するかのようなデコピンは思った以上に痛い。
「ノーレも御免な? なんつーか、これから運命を共にする以上、お前達を守れる位じゃなきゃカッコ悪いだろ? だから、自分の力で戦ってみたかったんだ……』
遅かれ早かれ、自分の力で立ち向かわなければならない時は必ず来る。覚悟を決めなければならない時が……。
なら、それは早い方が良い。いざって時に足が竦んでは意味が無いのだ。
――自分には彼女達を守れる力があると証明しよう。
そして、胸を張って一緒に肩を並べて戦うのだ。各々の望みを――――叶える為に。
――かくして、その目論見は一応の成功をみた訳ではあるが。
「心配かけて悪かった、もう大丈夫。今度からはちゃんとお前達をあてにさせてもらうからさ」
苦笑しつつそう答える悠理に、カーニャは思いっきり溜息を吐いて。
「どーだか……、今回の件でアンタが自由過ぎるってのが身に染みたからね」
「そんな――照れるぜ!」
「褒めてないわよ!」
二人のやり取りに微笑むノーレが、ふと気付くと面倒になるものを見てしまい、表情を凍らせる。
「――ユーリさん」
「んあ?」
「その女の人誰ですか? 何で抱き合って――」
その言葉に一瞬、カーニャとレーレが『何を言ってるんだ?』と頭を傾げ、改めて彼を見やる。
――――暫し沈黙が流れた、二人も気付いたのだろう。薄ら寒い笑顔を浮かべ始めていて、彼の顔も釣られて引き攣った。
「…………ねぇ、ユーリ」
『…………おい、ユーリ』
息ぴったりで声が重なった。ノーレの言う通り、見知らぬ女性と抱き合っている悠理……。
――何だコレは? お前は命懸けで戦っていたんじゃないのか?
見る見る内に険悪なムードになり、空気がピリピリと張り詰める。その様子に、周囲の者達が明らかに距離をとった。遠くでモブアーマーが右往左往しているのが見える。客観的に見てもこのマズさは伝わっているのだろう。
「――えーと、ひょっとして怒ってる?」
何で?、などと聞く様な愚は犯さない。好意があるないに関わらず、仲間を心配して来てみたら、見知らぬ異性と抱き合ってる―――――そんな場面に出くわしては面白くないだろう。
「――あー、言い訳はしないけど……お手柔らかに頼む……」
最早、諦めの境地で制裁を待つ。
女性陣はニッコリと笑って――。
「アッーーーーー!」
この後、滅茶苦茶ビンタされ、頬を抓られ、デコピンされまくった。
うぃーっす、今日は早目に投稿できた……。
続きも書いてますが、今日中に投稿は無理っぽいかなぁ……。
まぁ、やれるだけやってみます。
さぁ、次回はファルさんの秘密が明らかに!