英雄への道程、世界再生の棚上げ
だ、ダメだ……。
頭が働かない……。
あとブクマ減ってた……ちくせう、散々だなぁ。
「――――とまぁ、皆が納得してくれた所で今後の方針に移りたいが……良いか?」
“英雄”の祝福を発現させる為に必要であろう条件を割り出せたので、今後の行動についての会議に移ろうとする悠理。
本来なら先程まで会話の中心であったレイフォミアに任せたい所ではあったが――。
『――はい、お願いします……』
『いやいやいや、落ち込み過ぎだろ!』
――と言った具合に、本人は滅茶苦茶落ち込んでいたのであった。
どうやら“英雄”の発動条件を見抜けなかった事を引きずっているようだ。がっくりと肩を落として俯く彼女にレーレも突っ込みを入れてしまうほど、今のレイフォミアには覇気がない。
「つってもどうすんだミスター? 世界の危機を前にしたらグレッセの事は――――」
「セレイナ様、それ以上は……」
一旦、落ち込み気味の神様は放置してセレイナが会議を再開させた。だが、その口から出たのは何とも気弱なもの。それに気付いたヨーハは険しい顔と厳しい口調で彼女を諌める。
王女である彼女の口から自国奪還を諦める様な言葉は出させてはいけない。大事の前の小事、と割り切ってはならないのだ。
例え、グレッセを救おうとしている最中に世界が滅びることになろうとも。グレッセ王国の姫が、国民を見捨ててはならない。
ではどうするのか? 何か良い妙案があるかと訊かれればそれは――。
「どうするも何も、このままグレッセに突入するけど?」
――妙案は無かったが、既に悠理は方針を決めていた様だ。しかし、それで良いのだろうか?
「ほ、本当ですかユーリ様!?」
世界よりも生まれ育った国を取り戻す為に尽力してくれると言う悠理にヨーハはほっとした顔で心の底から喜ぶ。
「でもよ……時間がねぇんだろ?」
だがやはり、セレイナは複雑な表情だった。世界を救う為に召喚された人物を自国の奪還に参加させ、寄り道をさせて良いものなのだろうか、と。
しかし、そんな迷いを見切った様に彼は言う。
「何言ってんだ。グレッセだって世界の一部だろ? それを見捨てて世界が救えるかよ」
「ユ、ユーリ様……」
一片の淀みなく告げるその姿にヨーハは感動で胸が一杯になっていく様だった。悠理の言葉は力強く、何よりも心に響く。嘘偽りなく、彼はグレッセ奪還の為にその力を振るってくれるだろう。
ヨーハはそんな確信を抱くと共に、胸の高鳴りを抑えきれなくなっている自分気付く。
――嗚呼、私は本当にこの方を……。彼女が自分の思いを再確認している間にも悠理の言葉は続いていた。
「それに“英雄”にならなきゃ世界は救えないんだろ? だったらここから始めようぜ」
『ここから……ですか?』
「そうさレイフォミア。いつまで世界が持つか解らないって怯え焦るよりも、ここから世界再生を始めるんだ」
呆然とするレイフォミアに悠理はにかっと笑って自身の策を告げた。それはきっとここから始まっていく、長い長い英雄譚――――。
「グレッセの国民には最初の目撃者になってもらうのさ。英雄誕生の――――な?」
――その記念すべき一ページ目だ。
“英雄”として人々に認められなければその祝福は発動出来ない――のであれば、英雄になってしまえば良いだけのこと。そう、全てはここから始めるのだ。
「ここから始まり、大陸中を巡っていつかコルヴェイ王を倒し、チーフの野望を打ち砕けば――世界中が認めるだろう?」
気の長い話だ。レイフォミアの結界があとどれ位もつかも解らないと言うのに……。
だが、それが実現可能であるのなら確かに……認めるだろう。廣瀬悠理と言う名の――英雄を……!
「世界を救うのはきっとその後からでも遅くないさ」
何の確証もないのに何処か余裕を持って悠理は笑う。きっと出来る。そう信じて行動することが何よりも大事なこと。
そんな自信に満ちた表情に皆一様に唖然とする中……。
『――――ぷっ……くくっ、何だそりゃあ? 柄じゃないって割には乗り気じゃねぇか!』
愉快そうに吹いたのはレーレだった。無茶な道を笑って歩もうとする悠理の能天気な部分が眩しくも見える。けれどやはりそれは廣瀬悠理らしい答えだと納得した。
「そりゃあそうだろ? 何とかしなきゃお前らが死んじまうってんなら“英雄”だろうが何だろうが、なってやるよ!」
拳を力強く握り締め、気合を入れる。しかし、彼の真っ直ぐな姿勢に疑問を抱く者が居ると言うのを忘れてはならない。
「――ミスター、貴方はどうしてそこまでしてくださるのですか?」
今回のそんな人物は――マーリィだった。その綺麗な顔立ちには戸惑いが浮かび、何処か不安気。
初めて受けた誰かの優しさに、どう反応すればいいか解らない……そんな感じだ。
「ん? どうしてって?」
「貴方はこの世界の住人ではありません。まだここに来て一ヶ月に満たないのに……ミスターが身体を張る理由はないハズでしょう? どうしてですか?」
人は何かしらの目的、もしくは下心を少なからず持って行動するもの。けれど悠理にはそれが無い様に思えた。マーリィにはそこが不思議でならない。
何が彼をそこまで突き動かすのか? 想像できない故に彼女はその答えを知りたくなっていた。
「そんなの簡単さ、好きだからだよ」
しかし、返って来たのはそんなシンプルな感情論。好きだから、だから守りたい。その為に戦う、と。
「す、すすす、好きって何がですか! 誰がですか!?」
マーリィがその言葉の意味を問う前に興奮気味のヨーハが彼女の心を代弁していた。
悠理は顎に手を当て『ふむ……』と少しの間考え込むと――。
「――好きだぜヨーハ……!」
――きりっとした顔で、しかも普段聞かせないような良い声でヨーハに告白した!
「ブハッ!?」
それを受けたヨーハが口を押さえて卒倒した。ドサッと前のめりに倒れピクピクと痙攣している。どうやら心のツボにジャストミートしたらしい。
「おいぃぃぃっ!? ミスター、ヨーハで遊ぶんじゃねぇ!」
いきなりぶっ倒れた侍女を助け起こしつつ、悠理へと怒声を浴びせるセレイナ。主の腕に抱かれたヨーハは非常に幸せそうな微笑を浮かべてはいたが……。
「い、いや、好きって言うのは別に間違いじゃないんだが……まぁ、今まで出会った皆が好きだからさ」
弁解はするが撤回はしない。ヨーハに限った事ではなく、この世界に来て出会った人達が好きだ。何の臆面も無くそう言える。
「時間なんて関係ねぇよ。短い時間でも共に戦って、苦労して、一緒に傷ついて、笑って、飯食って――」
頭の中に浮かんでは切り替わっていく思い出。この世界で経験したその全てが新鮮だった。
「――そうした一瞬一瞬が、確かに嬉しくて愛おしくて、俺の中でキラキラ輝いてんだ……。だったら、それだけで十分だ」
胸に手を当てて目を瞑る。そうだ、好きだから、大切だってそう思えるから、理由はたったそれっぽっちで良いのだ。
「廣瀬悠理ことこの俺、ミスターフリーダムは誓う。愛する仲間の為に、皆が暮らすこの世界を――」
地球に居た頃では得られなかったワクワクやドキドキ。それをくれたこの世界を、そこに住む人々を……。
「――救ってみせるってな!」
英雄になる為の宣誓がここに告げられ、これよりようやく始まる……。
――世界を救う異人の英雄譚が!
折を見て加筆修正コースだねこりゃ……。
次回、グレッセ王国への突入準備開始!