世界を救う者が神では面白くない
あー、頭が働かないんじゃぁぁぁぁッ!!
――あっ、ブクマ増えてました。やったぜ!
「――なぁ、今俺に相応しくない単語が聞こえたんだが?」
異世界召喚者である廣瀬悠理に、ノレッセアの神レイフォミア・エルルンシャードが求めたモノが遂に明かされた。それは――英雄。
あまりに似つかわしくない言葉に当の本人は思わず眉間に皺を寄せた。
ありのままに本心をぶちまけるなら『うっわ、似合わねー……』、である。
「いやいや! ユーリ様に英雄――――相応しいと思いまっす!!」
「うむ、我が主であるのだからミスターにはそれ位の大物になってもらわねばな」
「――まぁ、グレッセを救おうとするその姿は英雄のそれだろうな」
「……英雄」
しかし、悠理自身が否定的なのにも関わらず、女性陣には好評の様子。
ヨーハは興奮し、ファルールはうんうんと頷き、セレイナは思ったままを口にして、マーリィは隻眼を瞑り噛み締めるように呟いてる。
皆が皆、腑に落ちような表情をしてる中、やはり悠理だけが渋い顔をしていた。
『“英雄”――ねぇ……。確かにそんな祝福があってもおかしくはねぇが……。どうしてそれが世界を救う力を持ってるって解るんだ?』
レーレは疑問を浮かべてレイフォミアに視線を送る。すると彼女は『待ってました!』と言わんばかりに胸を張って語り出す。どうやら彼女自身も思い入れのある話らしい。
その口には嬉しそうな笑みが生まれていた。
『レーレちゃんは500年前に流行った噂って覚えてる?』
『あん? どの噂だよ? “ノレッセアの審判”の時にゃあ、噂話なんていくらでもあっただろ?』
大昔の事を振られても咄嗟に思い出す事は難しい。いくらそれが激動の時代であった“ノレッセアの審判”であっても。
それにレーレの言う通り、当時は神魔入り乱れた大陸最大の戦争中……。噂話なんて腐るほどあった。デマとガセが多くて情報戦に支障が出たのを良く覚えている。
『一番有名なヤツだよ』
腕組して記憶を掘り返すレーレにレイフォミアが助け舟を出す。そう言われると確かに絞りやすくはなったが――。
『一番有名? ああ、神様は大人っぽくてばいんばいんの絶世の美女って話か?』
――出てきたのはガセネタの中で一番の情報だった!
「――まぁ、噂ってそんなもんだよな……」
――ばいんばいん、ねぇ……。と、訝しむ視線を向ける悠理――――いや、あくまで身体はカーニャのものなのだけれど。まぁ、似たようなものだろう。
『違うよ!? ワタシそんなの知らないんだけど!』
初めて聴いた噂なのだろう。驚きのあまりに彼女本来の口調らしきものに戻っている。噂は一人歩きするもの……とは良く言ったものだ。
『あぁん? じゃあ、救世主到来とかそんな噂しかねぇぞ?』
『それだよ! それ!!』
――恐らく、神様のこんなやり取りを拝めるのはここ限定なのだろう。
客間に集まった面々は貴重な瞬間に立ち会った事を――――何となく嬉しく思うのだった。
「レイフォミアど――さま、その噂とミスターはどう関係しているのだろうか?」
『今のワタシはカーニャさんに居候させてもらっている身ですし、神として扱わず仲間と思って接してくれませんか?』
「――努力してみよう」
慌てて言い直したファルールにレイフォミアはそうお願いをした。面食らった女騎士は曖昧に言葉を濁すが、驚いてどう返すべきか解らなかっただけで、嫌と言う事はない。
――唯、神様を仲間だと思えと言うのはやはり無茶振りだとは思ったけれど……。
『ありがとうございます。それで“英雄”の事ですが――』
500年前、丁度この時が最初の“異世界召喚者”が現れた時だ。人々の“救世主”を求める声に応じて世界が招き入れた存在――――それが召喚者。純粋な意味での“召喚者”は後にも先にも最初の一人だけ。以降は“召喚儀式”によって呼ばれた者達である。
唯、その当時求められたのは“救世主”だけではなかった。人々が望んだもう一つ可能性こそが――――“英雄”だと言う。
『“救世主の到来”は“異世界召喚”によって叶えられ、“英雄”を求める声は祝福となって叶えられたんです』
レイフォミアは人々の願いによって生まれたその祝福を偶然発見し、悪用されぬ様に保護していたのだと言う。ほんの少しだけ彼女はこの祝福を覗いてみたらしいが、それはあらゆる不可能を覆す可能性を秘めた強大な力を秘めている、とのこと。
「そんな特殊なモンが俺の中に……何でだ?」
純粋な疑問、結局、自分が英雄に相応しい理由は解らないまま……。スッキリしないのかやはり眉間に寄った皺は簡単に取れそうも無い。
『はい、実はこの“祝福”は使い手を限定するらしく……』
『選ばれたのがユーリだって事か?』
曰く、祝福自体が持ち主を選ぶ様な特殊なものであり、普通の人間では宿す事すら出来ない代物。それがどうして悠理なのか? それは神ですら解らない永遠の謎――迷宮入りになるかも知れない問いだった。
『うん、これはユーリさんにしかきっと使えないと思う』
解らないとは言ったが、レイフォミアなりに悠理こそが“英雄”に相応しい存在だと言う確信はある。
――言葉には表せない直感ではあるが……。
「でも、ミスターの祝福は未だ開花してねぇ……って事か……」
現在の問題点を挙げたのはセレイナだ。“英雄”の祝福を宿せたは良いが、使えないのでは話にならない。原因が解れば対処のしようもあるだろう――しかし。
『――そうなんです。どうしてなんでしょう?』
「えぇぇっ!? そんなのレイフォミア様が知らないのに私達に解る訳ないじゃないですか!」
――対処法見つからず。困った顔で首を傾げる神様に可愛らしさを覚えつつ、ヨーハはいつもの様にテンション高めで驚いている。まぁ、彼女言う通りお手上げ状態で、現状を打開するのは難しい。
「――あっ、俺解ったかも」
――と思われたが、悠理本人がその糸口を掴んだようだ。自分なりの解釈に納得がいったのか、妙にスッキリした顔だ。寄りに寄った眉間の皺も取れている。
「さっすが、ユーリ様ぁ~ん♪」
「――反応が迅速ですねヨーハ……」
くねくねと身体を揺らし、悠理を褒め称えるヨーハを見て、器用なものだとマーリィが感心した。どうやらここまで来ると逆に感心するしかない様だった。
『では推測を聞かせてもらえますか?』
その自信満々と言っていい態度に発言を促す神。正直、期待はしていない。神である自分も散々考えてみたがどうも思い浮かばなかった問題だ。そんな簡単に答えを導けるハズが――――。
「応、英雄ってのはさ、人々に功績を認められて呼ばれる存在だろ?」
『まぁ、早い話がそうなるな』
「つまり、だ。今の俺は人々に英雄として認められていない事になる訳で……」
レーレが相槌を打ち、キリの良い所まで言って一拍置く。短くスッと息を吸って、悠理は続きを紡ぐ。
「――口先だけの英雄には絶望も不条理も覆せない……って事じゃないか?」
『…………!』
その一言にレイフォミアはあんぐりと口を開けた。悠理の言葉はそのまま全員の心にストンと落ちて……。
『――問題は解決したみたいだな』
――満場一致で最も近い正しい答え、として認定された。
次回、じゃあ英雄になる為にはどうすんの?、ってお話。