番外編・何を持って悪人とし、何を持って善人とするのか?
ちょっとメイドを調教しながら借金返済してたら、時間がなくなってしまい……。
今回はチーフことアルフレドの番外編ですよ。
頭働いてなくて微妙かも知れませんが……。
「クッ……参ったね……身体が動かないよ……」
天空幻想城にある神の寝室……、その深奥で倒れ付す一人の男……。
悠理の一撃によってここまで飛ばされた神の側近ことアルフレド・デディロッソ。上半身は“神獣の炎”を使った所為で裸。
その胸にはクッキリと拳の痕。この一撃を放った悠理の怒りが見事形となって刻まれている。アルフレドは身体を動かそうとするが、既に悠理の“生命神秘の気”は彼の自由を奪っていた。
――が、“神獣の炎”は今の所、唯一あの虹の光に有効な攻撃である。それを纏っていた上半身は何とか、かろうじて動かせるのを確認した。所謂、相殺と言う形だ。――立ち上がるのは無理そうなので結局の所は意味がないのだが……。
「……チッ、最悪だね……あーあ……」
首を左右に動かしてここが何処なのか知る。ここに寝室の一番奥で壁の近くだ。アルフレドが意識して訪れなかった――来たくまかった場所……。できれば、世界を再生するその日まで。
「――キミにこんな格好悪い姿は見せたく無かったよ」
渋くなる表情を、出来るだけ普段と変わらぬニヤけ面になる様に意識しつつ、アルフレドがゴロンと身体を壁の方へ向けた。壁は天空幻想城内にある普通の、白くキラキラとした回路の様な模様が走っているあの壁だ。唯、一点だけ違いがあるとするなら――。
【―――――――――――――――――】
アルフレドが視線を向けた一箇所だけ――――人が埋め込まれていたと言う所だけだ。
「久しぶりだね、ルカ。18年振りかな?」
ルカと呼ばれた女性はらしきシルエットは何も答えない。――らしき、と言うのは、彼女の身体が殆ど壁に埋もれていて、顔と鎖骨辺りしか見えなかったからと、その肌さえも壁と同化していていたからだ。
【――――】
「アレ以来ここに立ち寄らなくてごめん。でもここに来ると、ボクは泣きそうだったからさ……」
そんな彼女に優しげな笑みを浮かべて語り掛けるアルフレド。悠理達と対峙した時の悪役然とした雰囲気はない。ひたすらに穏やかな声だった。
きっと彼女にはいつもそんな風に接して居たのだろう。明らかに特別な相手に向けられる感情がそこにある。
「計画は順調だよ。コルヴェイ王も力を貸してくれてる。相変わらずラスベリアのジェミカが元気に暴れ周ってて、それの対処に手を焼いてるみたいだけど」
近況報告を兼ねて、計画の進行具合と世界情勢を語る。例え彼女が何も言葉を返さなくても、アルフレドは一向に気にしない。
「あと少し……、あと少しなんだ……。もうちょっとでボク等の願いは叶えられるんだ……」
苦痛なのか焦りなのか、その表情が歪む。ギリギリと奥歯を噛み締め、拳を力一杯握りこむ。あまりの強さで血が流れたが、そんな事はどうでもいい。今は彼女と話す事しか、彼の頭にはないのだから。
【――】
「――アハハ、でも邪魔されてこのザマだよ。格好悪いなぁ……」
再びゴロンと身体を倒し、アルフレドは仰向けになる。右腕を持上げて両目を覆った。
「――――ゴメン……」
口元が悔しげに歪み、溢れ出たのは懺悔の言葉。
「ゴメンよ、ルカぁ……!」
――アルフレド・デディロッソが愛する者へと流した謝罪の涙……。
「ボクはッ……ボクはまだ世界を救えていないっ!」
子供が駄々をこねる様に感情論で、ボロボロと涙を零す。そして叫ぶ。
「キミを生贄に捧げたのに、キミをこうしたのはボクなのにッ!!」
大切なモノを引き換えにしてまで、その愚か者は世界を救おうとした。レイフォミア・エルルンシャードも知らないアルフレドの素顔がそこで晒された……。
「ボクはまだ…………」
涙が止まらない。ルカをこの壁に埋め込み、天空幻想城や生命維持装置を操るシステムとして組み込んだ事への悔恨。そんな事をしたのに未だに一歩も進むことが出来ていない自分の情けなさ……。
アルフレドは天才であるが故に――――時折弱くなるのだ。誰よりもその心は繊細、純真無垢なのだから……。
【――――――】
――世界を救ってよアル。アタシはあんたの為に命張ってあげるからさ。
――だから、いつか世界を救えたら……。
「ルカぁ……っ」
――アタシの事もちゃんと救ってよね? 約束だよチーフ……。
明日は本編更新できるかな?