果てのない潜在能力
――ダメだ、折角の休みで時間が有効に使えるハズだったのに、こんな時に限って頭が働かないとは……。
あと、本編の前回と、前々回のアイザックの様子で食い違う場面があったので、その内修正したいと思います。
「お疲れ様でした廣瀬さん」
アルフレドとの戦闘に辛勝した悠理はふらふらと虹の翼を羽ばたかせ、レーレ達が居る場所へと降り立つ。出迎えたレディは仕事終わりの挨拶をする様にそう言った。何だか懐かしい気持ちになる。つい一ヶ月前迄は『おはようございます』、『お疲れ様でした』程度の会話しかこなさない社会の歯車だったのに。
「レディさんも無事――――って、何か随分セクシーな格好になってるんですが……」
所々焼け焦げたライダースーツから見える肌は何とも魅惑的。特に悠理が最もエロスを感じる脇腹がピンポイントで見える状態だ。うっすらと浮き上がった肋骨が、マニアにしか解らないエロスを醸し出している。思わずゴクリ、と喉を鳴らす。
「――――エッチ……」
その視線に気付いたレディは相変わらず感情のない声で告げ、それから身を守る様に自分の身を抱きしめた。何故だろう、顔は隠れているし声に抑揚がないのはマイナスなハズなのにここまでくると返って可愛いらしく見えてしまうのは……。
『おう、ユーリ! 身体の方は大丈夫、かっ!!』
悠理の元に近寄ったレーレが、彼のいやらしい目つきに勘付いてその背中を思いっきり叩く。心配していた相手が他の女に見惚れているなんて嫉妬するしかないではないか、と言う行き場の無い彼女の想いがそこに込められている。祝福を奪われたレーレの一撃は蚊の刺す様なものだったのだけれど。
「お、おうよ、お前のお陰で助かったぜ……。ありがとな」
叩かれた事に戸惑う悠理はその意味に気付いた様子は無い。だが、レーレが対峙していた相手をアルフレドだと教えてくれたからこそ、何とか勝てたのだ。その事に感謝してグシグシと頭を撫でてやると、レーレはほんのりと頬を染めて押し黙った。
「ところで――――誰だテメェ?」
レーレの頭を撫でる手はそのままに悠理はカーニャ――――の姿をした何者かを睨み付ける。その目に敵意すら滲ませて。何故って、明らかに雰囲気が違う。場に居るだけで存在が浮く。間違いなく、自分達とは次元の違う相手と感じてしまう。
『初めましてユーリさん、ワタシはレイフォミア・エルルンシャード』
「おいおい、それって確か――」
『ああ、コイツがこの世界の神って奴だよ。色々あってカーニャがコイツを自分の中に取り込んだんだ』
聴こえてきた単語にぎょっとする悠理。そう言えば、彼は未だにここへ来た目的が神の誘拐である事は知らないのだった。そして今更、球体の中で液体に浸かったレイフォミアの存在に気付く。――が、レーレに話を聞こうにも『後で説明するよ』と言われ、先送りにされてしまう。
「これだけは訊かせてくれ、カーニャは無事なんだろうな?」
『大丈夫、今は眠っている状態だから』
「――なら良いんだが……」
神本人に尋ねてみると無事ではあるらしい。信頼できるかはともかく、確かにレイフォミアからは何か害を成す様な――平たく言えば悪意は感じられなかった。そもそも、悠理が彼女に好意的でないのは個人的に『神様って存在が嫌い』と言うだけだ。ここは大人げない自分を抑え、無理矢理にでも納得させておく事にする。
『ところで、ワタシの方から一つお願いがあるの。聞いてくれる?』
「内容次第だ」
――前言撤回。やはり、神に対しては友好的に振舞えなかった様だ。レイフォミアのお願いに棘のある即答がその証。それも悠理らしい、と考えれば確かにそうなのだが。
『ワタシの祝福を悪用出来なくする為に、アナタの手でワタシの身体を滅茶苦茶にしてほしいの』
「おいやめろ! その言い方は誤解を呼ぶだろうが!!」
返ってきたとんでもないお願いに悠理は頭を抱えたくなった。どう考えても語弊がある言い方だろう今の葉。
『誤解って?』
当の本人は理解できていないのか首を傾げている。見た目はカーニャなのに、彼女がしないような仕草をされると、こう……調子が狂う。
「廣瀬さんのエッチ……」
『成程、その言葉の意味が良く解ったぜ……ユーリのエッチ!』
「俺はエッチだがお前達の考えてる様なこたぁしねーよ!」
『???』
誤解は飛び火する様に広がり、レーレに至っては新たな単語を習得してしまっていた。レイフォミアは相変わらず頭上にハテナマークを浮かべていた。
「――あー、で? 神様よ、俺にナニを――何をやらせようってんだ?」
仕切り直そうとレイフォミアに改めて問う悠理だが、彼自身もどこかテンパって居たのかも知れない。うっかり一部の単語のイントネーションがずれた気がして慌てて言い直す。加えて言うに意図したものでは決してないのだ。
『何で言い直したんだ?』
「廣瀬さんはエッチだって事ですよ」
『むぅー……』
――しかし、レーレやレディからは訝しむ視線を送られるのであった。そんな彼等を余所に、レイフォミアはこう答える。
『アナタの能力でワタシの祝福を封印してほしいの。それも完全に機能停止するくらいに』
シーンと、その場が静まり返った。つまりそれは悠理に“祝福の改竄”を行えと言う事か? しかし機能停止させるというのはつまり――――。
『おいレイ、そんな事したらお前……』
悠理とレーレの頭にふと過ぎったのはつい昨日の出来事だ。それは言うまでも無く――――レーレと眷属達のこと。
『――そうだね、死ぬかも知れない。でもアルくんはワタシの祝福を奪うと宣言した。このままにしてはおけない』
冷静だった。神と呼ばれる少女はあまりにも冷静に自分が死ぬ可能性を口にする。自身の力が如何に危険かを知っているからこそ、誰かの手へは絶対に渡らせてはならない。特に今のアルフレドには……。
「――成程ね、一理あるわな」
ボリボリと頭を球体の前に悠理は立つ。今でさえ好き勝手暴れまわるアルフレドにこれ以上力を与えてはならない。それはきっとノレッセアに生きる人々から安らぎを奪うであろうから。
『おい、ユーリ……』
「安心しろって、上手くやるからさ」
不安げな表情を向けるレーレに優しく声をかけると悠理は球体に触れ、虹色の光を放出する。
「ん? こいつは、まさか……」
そうして初めて気付いた。球体を充たす緑色の液体がなんであるのかを。
「気付いた様ですね」
「はい、これならやれるかも知れないな……」
どうやらレディはこれが何であるかのを既に知っていたらしい。最早、この謎めいた女性には知らないことはないのではないか、と思い始めていた悠理は特に追及することも無かった。
しかし、これがアレだと言うのならば話は簡単。悠理に秘策アリ。
『二人で何通じ合ってんだよ!』
「まぁ、ちょっと見て、な!」
蚊帳の外であるレーレが拗ねるが、悠理はそれをやんわりと制し、球体全体を虹で包んだ――すると。
『おっ、おいおい!』
困惑するレーレの目の前で液体は緑色から白へと変色していく……。彼女はそれを唯ぽかーんとした顔で眺め事しか出来ないでいた……。
おっ、今確認したら減った分のブクマが戻っているじゃあないか!
うひょー、こいつはありがてぇぜ!