番外編・乙女に宿りし神が見た風景
最早恒例と化した職場の人との外食で書くのが遅くなりました。
間に合いそうにないので、完成版は24:30までには上げます。
――それはカーニャが宝玉を飲み込んだ直後の出来事。
「ここは――何処なの?」
精霊石にその精神と力の一部を移された神レイフォミアは困惑した。そこが宝玉を飲み込んだ少女の精神世界だというのは解る――――しかし……。
「熱い……どうして燃えてるのかな……」
視界一面が真っ赤に染まり、炎がゆらゆらと蠢く。周囲一帯が激しく燃え上がっていた。しかし、レイフォミアが疑問に思ったのは本当は別のことだ。
精神だけの存在になったとは言え、一部でも祝福の恩恵を持つ自分が他人の精神世界で影響受けて熱さを感じるとは……。
「きっと、貴女はとても辛い何かを抱えているんだろうね……」
今のレイフォミアは完全な部外者、神と言えど一個人の精神に入り込むには多少のリスクが必要らしい。何しろ精神世界は相手の裸を見る以上の行為。過去も罪も、抱えている苦しみすらも丸裸にしてしまう。それまで自分が生きてきた経験に基づいて構築されるているのだから、それは当然の事と言える。
だからカーニャの精神世界は彼女を攻撃対象と認識した。本来なら祝福を持たぬカーニャがレイフォミアの精神を異物として認識し、尚且つ攻撃を加えるような真似は出来ない。まず、祝福を持つレイフォミアと精霊石が優位に立つハズだ。
確かに彼女達は異物だが、その異物が相手を支配さえしてしまうのが祝福であり、精霊石なのである――――であるからして、こうしてカーニャの精神世界がその存在よりも有利であるハズのレイフォミア達に牙を剥くなんて異例中の異例である。
「なら私は――」
何かを決意した神が一歩踏み出した。脚が踏み入れた場所は――――炎の真っ只中。
「――私は貴女の敵じゃない。信じて!」
正気の沙汰ではない。自ら進んで彼女は燃え盛る炎で己が身を焼く。じゅうじゅうと服を焼き、髪を炙り身を焼く炎。しかしレイフォミアは言葉を紡ぐだけで抵抗はしない。彼女の力を持ってすればこの状況を一変させる事も可能だろうに……。
この炎はカーニャの精神を守ろうとする自衛機能。異物に対して容赦なくその効果を発揮し、排除しようとする。
(大丈夫、私はこの程度では死なない)
レイフォミアは何の計算もなしに飛び込んだ訳でない。別に彼女はここを侵略しようと言う訳ではないのだから、こうして敵でないことを証明さえすればいい。
それにこうした経験は遥か昔にもあった。ノレッセアの神として祝福を得た際に似た様な事があったのだ。その時の経験が生きるかどうかは解らないが、とにかく向こうがこちら側を受け入れるまで根気強く待つしかない。
「それにしても凄い子だね貴女は。きっと沢山の辛い思いをして、それでも前に進もうと思ったんだね」
身体を焼かれながら彼女は考える。宝玉を飲み込んだ時も驚いたが、こうして精神世界に飛び込んで更に驚く事になるとは。神であるレイフォミアが感心したのは内に秘める精神力の強さ。それは時に脆弱な部分を晒す事もあるだろうが、逆もまた然り。
きっと土壇場においては決して折れない鋼以上に硬い強靭な意思を持てる人物に違いない。
「貴女は強いね。私にもそんな強さがあったら、この世界を救えたのにね……」
自嘲気味に笑う。それは神ではなく、ノレッセアを愛する一人の少女としての脆弱さ。絶対に見せてはいけない神の弱さであった。心なしか気落ちしてくる。もっと自分は強くなきゃいけないのに、と。
気付かぬうちにどんどんとマイナス思考に嵌っていく彼女…………でも、それがきっかけ。
「炎が消えて行く……?」
何に反応したのかは解らない。しかし間違いなく炎は消え去っていき、真っ赤な世界は色を失って黒く染まって行く。その時、レイフォミアは森の中に佇む一軒家を見た気がした――――が、それは直ぐに暗闇へと飲み込まれていった……。
「急に暗くなったけど……これは私の所為ね……」
カーニャの精神世界は彼女を世界の一部として認めた。けれどそれが指す所の意味は、“意識の共有関係”だ。レイフォミアがカーニャの一部になったとなれば、神が持つ精神の一部もまた彼女と共有する事になる。
しかしそうなると世界のあり方は今まで通りとは行かない。混ざった部分を交えて新たな世界に生まれ変わる為に、一時的にその色は失われた。
おそらくは暫くこのままだろう。いずれカーニャとレイフォミアの二人が、この場で話し合い、良い関係になっていく事で光が射して色も付き始めるはずだ。
「さて、こうして私がここに溶け込めたと言う事は――もう表に出られるハズね?」
強く念じて意思を肉体に反映させる――――解る、動かせる。カーニャの身体を確かに自分のものの様に動かせると自覚し、この暗闇の世界から彼女は飛び出す己をイメージした。
すると身体が淡い光に包まれて、徐々にその輪郭を崩していく。
「カーニャさん、聴こえますか?」
レイフォミアの姿が消えて行くのと同時に、暗闇の世界にもう一つ光が生まれる。徐々に光が少女の姿に形を変えていけば、それはやはりカーニャとなった。
『ごめんなさい、少し身体を貸してください。私の部下と話をつけてきます』
完全に姿を消して暗闇には声が響くのみ。こうしてレイフォミアはカーニャの肉体で覚醒し、アルフレド達と200年振りの再会を果たすわけだが……。
――悲しいかな、それが決して良い結果にはならない事を彼女は想像できなかったのだから……。
――はぁ……、二日連続でブクマが減ってしまった……。
何があっても小説を書くことは辞めないと思うけど、やっぱりこう言う事があるとそれなりに凹むぜ……。