番外編・神に仕えし者達は悟る
眠いし、頭働かないので今回も番外編で。
時は悠理一行が天空幻想城に侵入した直後……。
「~~~~♪」
アルフレド・デディロッソは上機嫌に鼻歌を交えながら、キーボードに良く似た文字盤を叩く。その度に目の前に浮かぶ巨大な水槽は反応を示した。
赤、オレンジ、黄色、緑、水色、青、紫……。水槽を満たす液体は七色に次々と明滅を繰り返す。そう、それはまるで虹の様に……。
「フフーン、良い反応だ! やっぱり、長い時を生きた死神の祝福は格別だねぇ」
上機嫌の理由は彼の右掌……そこに握られた精霊石。これはつい先ほど帰還したカーネスより届けられた物である。つまりレーレ・ヴァスキンから奪った祝福……それがもう彼の手に渡っていた。
「いやぁ、良いね良いね! 大分研究が進んだよ――後は邪魔をする連中を蹴散らすだけだけど……」
今回はカーネスに祝福の強奪を最優先させた為、今後の障害になるであろう人物達は今も健在。だからと言って何も焦る事は無い。彼等もアルフレドの祝福について気付いている頃だろう。
そうなればここグレッセ王都は攻めづらくなるハズだ。何せ情報が筒抜けなのだから、どうやったって彼等には分が悪い。そうやって焦れに焦れて隙が生まれた時が最大の好機。敵と戦う以上は一回の戦闘で撃滅するのがアルフレドのセオリーなのだ。
「チーフ、お茶を淹れてきましたよ?」
相手をどうやって潰してやろうかと楽しそうに表情を歪ませた時、アイザックがお盆にティーポットとカップを載せて入ってくる。
「ああ、ありがとうアイザック」
「随分と上機嫌ですね?」
「まぁね! やっぱりボクの推測は正しかったなぁ……」
アイザックの入れてきた真っ赤な――――紅茶に良く似た飲み物をすするアルフレド。淹れたての熱さなど気にも留めずぐいっと勢い良く飲み干す。これは彼の癖、と言うか特技見たいなもの。一気に味わいつくしたい……と言う欲求に従って彼はこの飲み方を好んでいる。
「さーて、お茶も満喫したし、そろそろ次の実験を――――」
『――――ド……』
「――――ッ!? ……ルカ?」
いざ次の研究へ移ろうと考えた所で、不意にびくっとアルフレドが何かに驚いた仕草をする。まるで、そう、まるで誰かに名を呼ばれた気がした様な……。それももう二度と聞く事の出来ない懐かしく優しい声に……。
「チーフ?」
当然の事ながらいきなり妙な動きをした事で、アイザックからは不思議な顔をされた。
「…………」
アイザックに反応を示さず、彼は考え込む。幻聴か? それとも誰かの精神攻撃を受けたか?
冷静に、クールに自分の体感した現象に対して分析を開始するアルフレド。答えを出すのに1分もかからなかった。
「――アイザック」
「何でしょう?」
一つ頷いて、彼は自分の部下に対して告げる。
「急いで天空幻想城に戻る。準備をしろ」
「――――は?」
「天空幻想城へ戻る」
「何をいきな――――解りました……」
どうしていきなり居城へと帰ると言い出したのか? それを問う前に殺気の込められた視線に射抜かれ、アイザックは有無を言わせぬ緊急事態である事を悟り、アルフレドの研究室を後にする。
「――直感に従うなんて……研究者としては失格かな?」
そう直感だ。天空幻想城への帰還を決めたのは自分を呼ぶ声がしたから、そしてそれは信用、信頼に値すると直感したのだ。
「……ルカ。ボクは――――」
――ボクは未だに君に守られているのだろうか?
20年前に断ち切ったハズのしがらみに惑わされながらアルフレドも部屋を後にしていく。神に仕えし男が背負う大罪の全てが許される日は果たして来るのだろうか……?
しまった……眠いとどうしても雑の王様になってしまうな……。