番外編・ミステリアスな女
猛烈な眠気に襲われているので今日は番外編でお茶を濁しまーす!
『では、ごきげんよう……』
そう言って彼女はスマートフォンの通話を切った。相手は今この世界に居らず、困っているようだったので助け舟を出す事にしたのだ。
ちなみに、かのノレッセアに電話などあるハズがない。スマートフォンを使ったのはこちらの声を向こう側へ届かせる為に必要なイメージを増幅させたかったからである。
「――ふぅ、いけませんね……。私がちょっかいを出すのはルール違反だと言うのに……」
言いながらレディ・ミステリアを名乗る事務員は机に突っ伏す。廣瀬悠理の冒険に水をさすのは何と言うかこう――――面白くない。彼の物語を穢している様で、進行の妨げをしている気分になる。
それに彼女には彼女の事情があり、こうして異世界に好き勝手干渉する事は禁じられているのだ。
「しかしまぁ……今回に関しては許されるでしょう」
確信をもった呟き、そうだ、今回は正当性がある。介入するに足る理由と因縁が……。
「あれからもう20年が過ぎましたか……」
15年前から彼女は時の流れに置き去りにされた身であるが、過ぎ去った年月の流れを感じずには居られない。もう自分の時が流れて行くことは無いにしても、人間であれば誰しもセンチメンタルな部分でそう感じる事だろう。
「――ルカ……」
ぼそっと、普段は無感情のレディの口調にノイズに似た何かが滲む。置き去りにしたハズの感情がチクチクと胸を刺す。それはきっとこう呼んでいた感情だ――悲しみ。
昔の出来事だ、と口で言うのは簡単ではあるがそう割り切れはしないという事なんだろう。
「――私、貴女が行った世界に行きます。そこで貴女ともう一度会って話がしたいです……」
誰も居ない事務室に一人、彼女の呟きが虚しく流れていく。願望を口に出すのは叶えたいから、それとも逆に叶って欲しくないからか?
「ルカ、貴女は満足でしたか? それとも不幸でしたか?」
呟く、答える者がこの場に居なくとも、例えどれだけ望んでも返事など来ないとしても。
レディ・ミステリアは遥か遠い世界に居る誰かの顔を思い浮かべつつ、午後の仕事に取り組んでいく。
――早く夜になりませんかね? 定時退社が出来る事を願って彼女はパソコンを立ち上げるのであった。
――おやす…………み……。