羽根が空に虹を駆ける
あとちょっとだけ足りないけど先に投稿!
完成版は24:30には出来てると思うので、その頃を目安にまた足を運んで頂ければと。
「何だこれは……」
「虹色の――羽根?」
アインツとドゥエンツは己が目を疑った。先程、確かに止めを刺したと確信した男が二人の攻撃を打ち破り、強大なエネルギーを纏いながら再び彼等の前に立つ。
背には虹色の羽根――いいや、羽根の大群が寄り添えばそれはもう翼……。不気味に輝く七色の翼はゆったりと静かな動作で羽ばたいている。翼が揺れるたびに飛び散る虹の光は何処か儚げで美しさすらある。
『よお、待たせたな』
悠理が兄弟と対峙する。しかし二人は直ぐに違和感を覚えた。言葉は確かに発せられたのに、その口は全く動いていない。それもそのハズ、悠理はまだ気絶状態。背中で輝く翼が肉体を支えているに過ぎないのだから。
「貴様……、一体……一体何をしたのだッ!」
理解不能。550年の時を生きながらも、目の前の男がした行動は解らない事だらけ。あの雷撃を全て吸収して虹の翼に変えたのだろうが、原理は不明だ。得体の知れないでは収まらない。
その異様さに耐え切れずアインツは焦ったように叫ぶが、悠理はまさに平然としてこう応える。
『さぁ? 俺にも良く解っちゃいないさ。けど、一つ言える事は――――』
「っ!? イカンッ、避けろ兄者ぁーッ!!」
『――もう、負ける気がしないって事かな!』
ドゥエンツが直感で危機を悟り、兄に注意を促すが既に遅し。悠理の背中から10枚以上もの羽根が飛び、銃弾もかくやの勢いでアインツに迫る!
「こんなこけ脅し我が雷で―――」
「――避けろと言っている!」
忠告を無視し、アインツは自分の周囲に雷による結界を敷く――が、自身に風のプロテクターを纏ったドゥエンツがタックルし、二人ともゴロゴロと床へ転がって行く。
「ぐっ、何をする弟――――弟者!?」
「間一髪間に合った様だが……」
邪魔をした弟を咎め様としたが直ぐにその言葉も止まる。先程の羽根が掠めたのだろう。鎧の如く身纏っていた風は虹色の光に分解され、瞬く間に消え去っていた。
何と言う脅威、少し触れただけでエネルギーそのものを分解するとは……。
『ドゥエンツ、どうやらアンタを先に何とかしないと駄目みたいだな』
今になってようやく悠理は把握する。兄の手綱を確りと握る弟こそが一番厄介なのだ、と。それは何処か、自分と地球に居る弟との関係に似ていて苦笑する。
どうやら、異世界にも似た様な兄弟の例は存在するらしい。
「おのれっ、小癪な!」
「兄者、どうやら我等は猛獣を目覚めさせてしまったらしい」
悠理の分析通り、ドゥエンツは冷静そのもの。非常に、実に厄介だ。冷静と言う壁を突き崩すのは容易じゃない。それに加え、相手側もこちらを分析しようとしている。
負ける気は毛頭ないが、余裕も微塵も無い。
「確かにこの雰囲気……唯事ではないな。――だが、我等兄弟の連携に敵うハズなし! 行くぞ弟者!」
「応よ兄者!」
双子の兄弟ならではの息の合った動きで悠理へと突進する二人。彼等は周囲にありったけの力で守りを固め、勢いに任せて突っ込んでくる!
『2対1のつもりかも知れんが――』
――しかし、だ。冷静なのは悠理も同じ。コンビネーションに対抗するのは同じくコンビネーションだ。
「ぬっ!?」
「こやつ!」
兄弟の目が驚きで見開かれる。先程まで悠理の身体は全く動いていなかったのは彼等も気づいていた。だから羽根にさえ注意して懐に潜れば有利だと考えたのだが……それはハズレ。
『――今の俺には関係ないぜ!』
悠理の身体全体に羽根が纏わりつき、身体を無理矢理動かしたのだ! そしてそのまま二人に全身全霊を込めたストレートを叩き込む。羽根は兄弟の纏ったバリアを分解し、拳は真っ直ぐに二人の頬へと突き刺さった。
「ぬぅぅぅ……くっ、何て命知らずな事を……」
「お主、命が惜しくないのか!」
直撃を喰らいつつ後退した彼等は悠理の行動を凶行だと叫んだ。殴られた時に確かに二人は感じた。相対する男の拳が筋肉が、骨が、悲鳴を上げながら動いている、と。
強制的に肉体を操作すると言うのは当然相応のリスクがある。全身に“生命神秘の気”を張り巡らせ、羽根によって精密な動きを可能にしていたとしても、通常の状態と全く同じ様には行かない。
拳は砕け、筋肉はブチブチと千切れ、骨は軋みひび割れていく。だがそれも瞬時に“生命神秘の気”によって回復されるが、それは肉体を直す代わりに命をすり減らす自殺行為……。兄弟の言うとおり命知らずも良い所である。
『――へっ、命を惜しむな、名を惜しめって言うだろうが!』
それでも――悠理は平然と笑う。――気絶したままなのであくまで楽しそうに笑っていると言う雰囲気だけだが。
「その言葉は――――!!」
『ああ、こっちの世界にはないかもな!』
「ッ!? まさかお主ルカ様と同じ……!」
『おお、その話もじっくり聞いてみたいが……今はこの戦いに決着を着けようぜ!』
――意外な所で情報とは拾えるもの。だが今はそれを詳しく聞きだすよりもやらねばならない事がある、と己に言い聞かせた悠理は転がっていたリバティーアとグランディアーレを拾って収納しつつ、ファイティングポーズを取りながら二人の出方を伺う。
「――弟者、まだやれそうか?」
「無論だ兄者、どうやって攻めるかはまだ決まっていないが……」
「仕方ない……天空幻想城が吹き飛ぶやも知れんが、全力を尽くす他あるまいな」
「本気か兄者!?」
兄弟の作戦会議が始まる中、ドゥエンツはアインツの提案に驚愕を示す。ここに至っても二人はまだ全力を出していないと言う。既に十分に強者の頂に位置する兄弟。ドラゴンの低級種が束になって掛かっても彼等には叶わないレベル。
しかしまだ先が――ある。アインツの言葉通り、この場を吹き飛ばしかねない禁じ手が。
「弟者よ、ここで出し惜しみしてはこの男は止められん。我等が負けると言う事はレイフォミア様とルカ様が危険に晒されると言う事だぞ!」
「――だが、いくら寝室から遠く離れて居るとは言え、ここで我等が全力を出したら……」
兄の言う事は門番の役目を思えば正しい……。しかしそれでもドゥエンツは渋る。万が一にも敵を倒す為に使った力で守るべき存在に害を加えてはならないからだ。
『なぁにゴチャゴチャ言ってんだ? 来ねぇならこっちから――――』
「――渇ッ!」
「兄者ッ!!」
『何だ……? ――――ッ!?』
その時、悠理の背中に怖気が走った。ここに居てはいけない……絶対に死ぬ!
確かな予感に虹の翼を使いながら大きく飛び退く。次の瞬間、極太の雷鳴が目の前に落ちて眼前の光景を真っ白に焼き、轟音が鼓膜を突き破る勢いで鳴り響いた。
『こ、こいつは……』
目の前に大きく穿たれた大穴……、上を見ると同じ様な穴がポッカリとそこに存在している。
――突き破って来たって言うのか? 天空幻想城の耐久力が如何ほどのモノかは知らないが、こうも易々と神の居城を破壊できるこの威力……これは一体……。
「我が雷は自然の猛威を模したもの、なれば本物を操る事も可能。ましてやここは天空幻想城なるぞ?」
「――くっ、兄者! 後先考えずに力を使いおってからに!!」
『――おいおい、マジかよ……』
天空幻想城は名が示す様に天空に存在する。だがその姿を隠す為、常に雲に隠れながら移動している故、決して万人には知れ渡ってはいない。アインツはその隠れ蓑たる雲を操り、莫大なエネルギーと破壊力を持つ雷を生み出したのだ。
それは天空幻想城に張り巡らされた結界内、そこにあったほんの少しの雲から生み出されたものであったがその威力は絶大。悠理の脳裏をクッキリと死のイメージが過ぎる程に……。それほどに自然の猛威とは強烈なモノだと思い知らされる。
「侵入者よ、これで解ったであろう? この場において地の利は圧倒的に我等にある!」
「――こうなったら仕方あるまい。ここまでして侵入者を防げなかったとあれば、アルフレド様達に合わせる顔がないわ」
兄の強行にドゥエンツは渋々だが従う。確かにここまでやって結果が伴わないのでは門番の名折れ。覚悟を決め自身も力を解き放てば、アインツに雷が空けた穴から空気が勢い良く流れ込み、周囲に荒々しく吹き荒れ幾つもの渦巻きが生まれる。
『さぁ、覚悟を決めてかかって来い! ここから先は死あるのみッ!!』
渦巻きに並ぶように天井を突き破って雷が次々と降り注ぐ。それは先程の一撃には及ばない威力ではあるが、こうも雨霰の如く降られたのであれば対処のしようがないだろう。
『――成程ね……』
眼前の世紀末を思わせる光景に溜息をついて、ふと肉体へと戻れる気配を感じた悠理は意識を肉体へと向けた。
「――うっ、ようやく身体に戻って来れたが……正直キツイぜこいつぁ……」
五体は満足であるものの、限界に継ぐ限界で今もこうして動ける事が不思議でならない。恐らく、後で盛大なツケが回ってくることを覚悟しつつ、悠理は気合を入れて叫ぶ。
「しゃあねぇ! こっちも全力――――その限界よりも上で行こうじゃねぇかッ!!」
叫びと共に羽根が一斉に飛び散って周囲の嵐や雷を喰らっていく――が、エネルギーが強すぎたのか、はたまた悠理の力が限界を迎えたのか、その幾つかの羽根は形を失って虹の光となって還っていく。
構わず再び羽根を生み出し、荒れ狂う自然の猛威に自身の力を突き立てる悠理。肉体に意識が戻った為か、羽根の操作精度が上がっている様に見える。
「貴様……底なしか?」
「本格的に狂人の類か貴様?」
その光景に最早呆れるしかない門番兄弟。人の身でここまで辿り着いた存在を彼等は知らない。
――余りに出鱈目過ぎる。それは廣瀬悠理に出会った者が必ず抱くお決まりの感想だ。
「さぁ、こっから先は他言無用に願いたい。これより始まるは廣瀬悠理一世一代の大~勝~負~ッ!」
突然、悠理は何処かで聞きかじった程度の口調でかぶく。周囲にはもう羽根は殆どなく、虹色の光が辺り一体に広がっているだけ。もうこれ以上の抵抗は出来ないハズだ。この状態でかぶく事に意味は――。
「今度は何をするつも――」
「ま、待て、何だそれは?」
――いや、ある。廣瀬悠理は大法螺吹きではない。言葉にした以上は策があり、手段があるのだ。
朽ちていった様に見えた羽根はまだ滅んではいない。周囲を染める虹の光、これは決して残滓ではない。
羽根はより大きな存在へと変化する為に、その姿を一度解放したのだ。
今、門番兄弟の目に見えているモノ。それは彼等が犯した二つの過ちによって生まれた化物。
一つ、餌となるエネルギーを悠理の前へとばら撒いたこと。彼等がやった事は自身の首を締める行為に他ならなかったのだ。
「さぁて、一気に決めるぜ?」
二つ、悠理を追い詰めたこと。逆境に追い込まれた時、廣瀬悠理はあっさりと命を賭けられる男。賭けた命で最大の反撃を狙う博徒……!
この二つの要因が悠理の力をかつて無い程に高めてしまったのだ。
――ここに彼の勝利は確定す。
「名付けて廣瀬流――」
名を付ける。二つの要因が重なってようやく生み出せる最大の技。
虹の光は今一つになり――。
「――“狂い咲き虹龍”ッ!!」
――巨大な龍となって天空幻想城へ叩きつけられた!
はーい、超中二技でーす(苦笑)
でもこれって賢者テ○が、自分のHP削ってメ○オ放つみたいなもんなのよね。
次回は門番兄弟との決着――――ではなく、寝室に侵入したレーレ達の話です。