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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
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悠理過去編~自由の所以~

だるくて昼寝をしたらあっと言う間に夕方だったでござる!


とりあえず、時間が無いので本編は後回しにして短編を――と思って急遽過去編に変更させて頂きました。

 これは廣瀬悠理が異世界ノレッセアに召喚される前日の話……。

「ねぇ、悠理?」

「何だいマイブラザー?」

 廣瀬家、その兄弟部屋での会話。兄の悠理と弟の悠陽は二人でオンラインゲームをやっている所。

 もうお互い成人しているにも関わらず、二人が相部屋なのには理由がある。父親が再婚した相手には二人の連れ子が居たのだ。それも年頃の女学生。

 元々、廣瀬家は大して広くはない。死んだ祖母の部屋が空いてはいたが、そこには義母の部屋となった。なので悠陽が姉妹に部屋を明け渡したのだ。

 故にむさ苦しい野郎二人の相部屋となってしまったが……これはこれで良いのかも知れない。少なくとも悠陽はこうして兄と面と向かって話す機会が増えた事に感謝している。

 歳を取れば兄弟と言うものは付き合いが悪くなるものだ。お互いに生活時間も違うわけだし……。

 だから嫌でも顔を付き合わせる相部屋にはそれなりの利点もある訳だ。こうして自然と会話できるのもその効果だろう。


「別に仕事を辞めるのは良い。貴方は貴方なりにこの家の為にやって来た。十分過ぎる程。――でも……、アテはあるのかい?」

「おいおい、人生と言う道において一々道標を探してたらキリがないぜ?」

 弟が抱いている微かな不安……、しかし兄は笑ってそれを吹き飛ばそうとする。

「それはまぁ……そうかも知れないけど……。でも暗闇には明かりが必要だろ?」

「俺の人生お先真っ暗っすか!?」

「似たようなもんじゃない? もうアラサーだよ?」

 この時、廣瀬悠理に恋人は居なかった。それもそうだろう、外見はイケメンには程遠く、この歳になっても特撮とか子供っぽいものが大好きな男だ。

 当然、彼にも魅力はある――あるが、それが万人にかつ女性にウケるかどうかと言うのは別問題。

 ――それに家庭を第一に働いて人付き合いもロクにせず、家族サービスばっかりしているのだから出会いなんてないし、恋人が居てもそこに時間を割いてあげられるかどうか……。

 けれどやはり、当の本人は気にして無いように笑う。

「――未だに伴侶も居ないしなぁ……。でもまぁ、星の灯りがあれば何とか歩いて行けるし、自分で火を起こして松明でも作ればいい。誰かが作った光をアテにするのは何と言うか――――疲れたかな?」

「――人生なんてそんなもんでしょ」

「そうかもな。けど――俺達何処でどう生まれれば良かったのかな?」

「どうって……」

 唐突な兄の質問に戸惑い、コントローラーを握る悠陽の手が一瞬だけ止まる。その一瞬の隙を突かれて彼の所属するチームの得点が下がる。しまったと思いつつも、ゲームに集中しようとするが、兄の質問が強烈に耳に残っていてそれどころではない。それにまだこの会話は続いている。


「俺は親父の息子として、お前は弟として生まれた。血は繋がってないけど優しい義母と可愛い妹も出来た。片方だけ血の繋がった幼い妹も生まれた。きっとこれは幸せに間違いないんだろう。不満なんてない、実に幸せな環境だ。でもな――」

 悠陽と違って悠理は会話を続けながらも、操作のキレは衰えない。淡々と、精密機械の様に、会話とゲームを器用にこなしている。

「――家族の為に毎日毎日働いて、給料もらって、それでゲーム買って、飯食って、家族や友達と皆で他愛も無い会話を愉しむ人生……それで良いのかね?」

「……兄さん」

 ――ゲームが終わる。悠理の画面には『WIN』の文字、悠陽の画面には『LOSE』の文字。

 けれども会話は続く、ゲームと違って簡単には決着や終わりは着かない。

「そう言うレールに乗って進むのも間違いじゃないだろうさ。むしろ、家族の為に生きると言う点だけ見れば美しいのは疑いようも無いよな?」

「そうだね、でも兄さんには他に何か見えてるのかい?」

 こうして会話をする時、悠陽は幼い頃の様に悠理を“兄さん”と呼ぶ事がある。こんな時はお互い嘘もなく、心から本音で向き合っている――そう感じられる。

 だから、悠理には自分にはヴィジョンが見えている様な気がした。悠陽には想像もつかないヴィジョンが。


「さぁねぇ……、それを見つける為に一度自由になってみるのかもな」

 けれど返って来たのは曖昧な答え。きっと答えはもう出ているのにはぐらかされている気分。

「――ねぇ、究極の自由って何だと思う?」

 こんな時は更に質問をぶつける限る。兄と言う人間を深く知る為には、家族と言えど自分から歩み寄って行かなくてならない。もう知っていると思って近付くのをやめたら、そこからもう発展はないのだ。

「何だよ藪からスティック?」

「それ――古くない?」

「えっ、嘘?」

 大げさリアクション――しかし、悠理は気に入ったモノをいつまでも使い続ける癖がる。それが一世代古いジョークであろうとも。温故知新、兄の良い所の一つはそれを体現している所にあると悠陽は思う。

「まぁ、それは置いておこうよ……。唯単に誰にも縛られず、好き勝手に行動するのが自由ってヤツなのかな?」

「それは違うな悠陽」

 ――力強く返ってきた来たのは否定の言葉。迷いなど一切無くそう言ってのけるのは既に自身の中にそう言えるだけの解があるからだ。

「――理由は?」

「自由には自由の責任がある。全ては自己責任、たった一人で全てを背負い込んで行く覚悟を持つ者だけが自由を与えられる。しかし、それが暴君であってはならない。自由を体現し名乗る者は、その素晴らしさとそれがもたらす影響の恐ろしさを知っていなければならない」

「それって……革命者とか英雄ってこと?」

 難解な兄の返答にそれなりの答えを持って対応する。言いたいこと全てを理解できたとは思えないが、無難と言える答えなら用意出来る――と思ったが、悠理は笑って首を振った。

「そう言う縛られた単語に収まってしまうようじゃ究極とは名乗れないと思うね」

 どこか楽しそうに、子供が悪戯した時の様な笑みを浮かべる悠理。

 そこに悠陽は兄の中に確かな“自由”を見た気がした。あまりにも眩しく、大きすぎてその全容は知れなかったが……。

「ふーん、何だか面倒くさいね」

「お前が聞いたんだろう?」

 理解するには時間がかかるだろう、と一時撤退する悠陽に兄は苦笑した。

「アハハ、とにかくまぁ……頑張ってよ。少なくとも僕は悠理の味方だからさ」

「応、ありがとな悠陽!」

 笑い合う兄弟。だがこの翌日、廣瀬悠理が異世界に旅立つ事になろうとは誰が予測できただろうか?

 地球では行方不明扱いになった悠理に家族の誰もが悲しみに暮れる中、廣瀬悠陽だけは兄を信じていた。

 何処に行っても兄は兄。きっと上手くやっているさ、と。

 そして今日も弟は信じている。あの日感じた兄の“自由”はどんなモノにも屈せず、必ず究極の位置に辿り着く事が出来ると……。

 ――廣瀬悠陽は廣瀬悠理の帰還をいつまでも待っている。それが弟の選んだ自由。

 悲しみに浸るのではなく、信じる事の自由を彼は間違いなく掴み取ったのだ。

 ――その信頼は遥か遠い彼の異世界にもきっと届くだろう。何故なら絆と、人を思う気持ちに距離などないのだから……。

明日こそは本編更新!

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