決着への道標・後編
※いつもの八割り増しで頭が働いていなかったので酷い有様です。
皆様の頭に内蔵されている翻訳機で何とか読破してください……。
『お困りの様ですね、廣瀬さん』
会議室に響いたのは抑揚のない、ともすれば機械的とも言える女性の声。感情を全く感じさせないその異質さもそうだが、この場に居る誰のものでもない発言に一同が戸惑う。
「ええ、そうなんですよ。一体どうしたも――――」
しかし名を呼ばれた悠理だけは声に対して自然に応答――しかけた。
「――――今の誰だ?」
つい反射的に会話しそうになったが、ちょっと待て、と理性がストップをかける。
その名前で呼ぶ者はここには――――この世界には居ないハズ。では何者だ?
「くっ、曲者か!?」
リスディア――慌てて左右をキョロキョロと見回す。しかし怪しい影はあらず。
「今の声……外から聴こえませんでしたか?」
「外って、エミリー位しか居ないわよ?」
ノーレの一言に一同は窓の外へ視線を向ける。カーニャが指摘した様に、そこにはエミリーがぼーっと突っ立っているのみだ。何も不審な事はない、そう何も――――。
『まぁ、そう警戒しないで下さい。私は味方ですよ、廣瀬さん個人の、ね』
――不審があった。異常事態が発生した。こともあろうに、エミリーが――。
「シャ、シャベッタァァァァァァッ!?」
場に居た全員の心を代弁するかの如く、ヨーハの叫びが会議室に木霊する。
誰も驚きを隠せないでいた。確かにエミリーの口から声が発せられているのを全員が確認したのだ。無理も無い。
『――成程、エミリーの身体を媒介にして喋ってるみたいだな』
このレーレの推測はほぼ間違いなくあたっているだろう。彼女の発言を受けて悠理は“虹色の視界”を発動させ、エミリーの姿を確認する。するとエミリーの姿とは別にぼんやりとした人型の影がゆらゆらと揺れているのが確認できた。
能力によって何処かから意識を転送しているのだろう。しかしこうして完全にエミリーの意識を抑えつけ、主導権を握っているのだから得体が知れない。
「誰かは知らないですけど――――いや、俺が反射的に敬語を使うって事も含めてノレッセアの人間じゃないのは確かか――――俺達ってどこかで会ってます?」
『感が鋭いのは相変わらずの様で。私、嬉しいです』
相変わらず感情が見えない平坦な言葉に悠理は戸惑うしかない。褒められているのだから、素直に喜ぶべきなのかも知れないが……どうも引っかかる。
相手は間違いなく地球人で、悠理と接触した事のある人間だ。だと言うのにその輪郭が見えてこない。こんな風に感情希薄な相手なら忘れたりなんて出来ないだろうに。
「は、はぁ? それでどちら様で――――」
『単刀直入に言います。グレッセ王都進軍に力を貸しましょう』
再び、彼女の一言で場の空気が支配された様にガラッと変わる。言葉通りシンプルな提案だ。態々聞き返す様な内容ではない。
――が、彼女を訝しむ気配は強まった。こちらの状況を完全に把握されている。正体不明で接触目的も不明、そんな相手の力を貸すなんて言葉を鵜呑みに出来やしない。
「お前、何か知ってんのか!? ――いや、知ってたとしてどうして俺様達に力を貸す?」
『勘違いしないで頂きたいですね。私は“廣瀬さんの味方”です』
疑心と警戒を隠すことなく真っ直ぐぶつけるセレイナに彼女は憮然と答えた。ここで初めて彼女の声に感情の色がうっすらと付く。
『私は個人的な好意で“廣瀬さんに”力を貸すだけで、貴女方を手助けする訳ではありません』
――そうだ、勘違いするな、と彼女は敵意すら込めて悠理以外の面々にその意思をぶつける。
私が興味がるのは彼だけ、私が手を貸すのは彼にだけ……。頑固過ぎるその意思はまるでチクチクと肌を刺してくるみたいだ。
『――――って言ってるが、どうすんだユーリ?』
「得体の知れない相手の言うことだしなぁ――――うん、受けよう!」
「ちょっと、どうしてそうなるのよ!」
『――――まさか即答されるとは思ってませんでした』
「相手から一本取るなんて流石はミスター……」
「うむ、それでこそ我が主だな」
「きゃぁ~ん♪ ユーリ様スゴい!」
「お前達はどうして感心しておるのじゃ……」
流石は自由の使者と言うべきなのか、得体が知れぬ――いや、自身を少なからず知っていると言う尚更不気味な相手にも悠理は物怖じしない。虎穴にいらずんば虎児を得ず、だ。
この話に乗って何を得られるかは解らずとも直感は既に答えを出しているのだ。ならそれに従えばいい。
――唯、彼の決断に案の定カーニャは否定的。マーリィ、ファルール、ヨーハはこんな状況でもブレない悠理の考えによって、相手の姿勢を若干とは言え崩した事に喜んでいた。リスディアには少し理解し難かった様だが。
「しかし、良いのですかなセレイナ様? 全体を巻き込んでする様な事ではありませんぞ」
「それはそうだがミスターが言ってんじゃなぁ……」
『一つ良い忘れてましたが、貴女方を巻き込むつもりはございません』
この言葉に三度場がかき回される。相手が何を目的としていて、こちらにどう協力するつもりなのか全く見えてこない。――そんな混乱を余所に彼女は続ける。
『代わりに――――廣瀬さんをちょっとお借りしますがよろしいですか?』
「いいわけないでしょ!」
カーニャは彼女の言葉に噛み付きっぱなしだ。何だが遊ばれている様な気さえする。しかし彼女にとっても悠理は大切な存在……おいそれと誰かに貸し出す訳には行かない。例え――――自分に彼を引き止める権利などないとしても。
そんなカーニャの心情とは裏腹に当の本人であるが……。
「良いですよ?」
即快諾の姿勢である。まさに自由人。
「――――アンタはもう少し考えて発言しなさい!」
「いふぁいじゃないか」
怒りに任せてカーニャが悠理の頬を力一杯引っ張る。鈍感過ぎる男には当然の罰だろうと、彼女は暫く自由にその頬をひっぱり続けるのであった。
そんな風に遊んでいる間に、エミリーを乗っ取った彼女と仲間の会話が続く。
『一つ聞きたい、ユーリをどうする気だ?』
『詳しくは言えませんが、悪いようにはしません。ただし、最悪死にます』
「なっ――――」
『――――ッ!』
「……ほぅ」
「騎士として主をそんな危険には晒す事はできんな」
「だ、ダメダメ! 絶対にダ~メ~ですっ!」
「ヨ、ヨーハ! 絞まってる、絞まっ……てるから!!」
「妾も反対じゃ、危険すぎるではないか! あとエミリーを速く解放せぬか!!」
「賛同致しかねます」
「潜入工作だったとは言え、一度でも部下になった者を死地と知って送り出す事は出来かねるな」
あっさりと悠理の“死の可能性”を告げた彼女にメンバーの殆どは猛反発。どうもその抑揚のない話し方が更に彼らの怒りに油を注いでいるようだ。あまりにも無責任に聞こえたかも知れない。
しかし彼女は否定もしなければ焦りもしていない様だ。その纏う機械的な雰囲気は乱れない。
『おや、思った以上に制止の声が多いですね。私、嫉妬してしまいそうです。でも――』
「――私達が止めてもユーリさんは行くつもりなんですよね?」
彼女の言葉を先回りしたのはノーレであった。確信した響きがあった。廣瀬悠理と言う人間を知っている情報から分析して予測して……ノーレなりに解析した結果至った結論。
「ああ、この人何だか知り合いっぽいし、つーか――――同族っぽい気がしてな」
『同族?』
首を傾げるレーレに悠理は特に答える事しなかった。まだ彼自身考えが纏まっていないと言うのが本音。でも確かに彼女に感じた気がしたのだ。
――自分と同じく“自由を体現する者”の片鱗を。
『――――廣瀬さん。貴方はここに来て予想以上に成長している。感の鋭さにも磨きがかかった様でなによりです』
「そりゃあどうも」
どこか嬉しそうな雰囲気を纏わせた彼女に苦笑気味に応じる悠理。もしも推測が正しく、彼女が同類だとすれば……それは悠理にとってはやりにくい相手に他ならない。
『では――そろそろ休憩時間が終わってしまうのでこれで失礼致します。廣瀬さん、今夜またお迎えにあがりますね?』
「解りました。何か用意しておく物はありますか?」
『完全武装で』
「了解です」
――休憩時間、と言う単語はこの際聞かなかったことにして、この先の対策を伺う。
恐らく、彼女未だに何をするか告げていないのは情報漏洩を防ぐ為。アルフレドが監視している可能性を考えれば当然の事。だがこの中でそれに気づけるほど冷静さを保って居た者は果たして何人居たか……。
『では、ごきげんよう……』
それを最後に悠理の“虹色の視界”から揺らめいていた影が消える。ふっと、それはもう幽霊の如く。最初から何も無かったかの様に。完全に痕跡を消している節すらある。
「――行ったか……。大丈夫かエミリー?」
『――ご、ごー?』
どうやらエミリーには乗っ取られていたと言う自覚は無いらしい。突然声をかけられて何が何だが把握出来ずにいるみたいだ。
「大丈夫そうだな。さぁて、じゃあ夜までのんびりします――」
『おい、ユーリ』
「ユーリ、ちょっと話があるんだけど?」
「ユ・ウ・リ・さ・まぁ~?」
「――か? えっ、あれ、何で皆怒ってんだ?」
一先ず方針が決まり、夜までゆっくり羽を伸ばそうとした悠理が感知したのは――――乙女の憤怒。
自分達の忠告や心配を散々蹴った挙句に、結局彼一人で決めてしまった事への抑え切れない不満。
――その不満を受け止める義務が悠理にはある訳で……。
『うるせぇ! いいからこっち来い、説教してやらぁ!』
「お供するわ」
「ヨーハも行きますよ!」
「それではこのマーリィも……」
「え、え? おいちょっと、両脇固めてズルズル引っ張ってくの何で? なぁ、なんで? え、あちょ――――」
あっと言う間に女性陣に囲まれ強制連行、及び会議室からの強制退場……。
それから数分後――――。
「アッーーーー!」
――――妙に間抜けな悠理の悲鳴を聴き、会議室に残されたメンバーは溜息をつくしかなかった。
「――結局、まともな会議にはならなかったな……」
「全くですね……。とにかく、我々は何があっても大丈夫なように準備だけは抜かりなくしておきましょ
う」
「はい、では荷造りと補給の手配をしておきますね」
嘆くセレイナに深く同意するファルール。結果として重要な所を悠理に押し付ける形になってしまった。
――けれども、自分達にも出来る事があるハズと前向きに行動しなくてはならない。腐っていても何も始まらないのだから……。ノーレも同じ様に感じているのか、積極的に仕事をこなす姿勢を見せる。
「よし、ルンバ爺、エミリー! 妾に続くのじゃ~!」
『ごー!』
「じ、爺ですと? リスディア嬢、私はまだ35――――」
元気な声を上げてリスディアが部屋を飛び出して行く。エミリーは玄関の方へ出迎えに向かい、名指しされたルンバは戸惑いつつもその後ろを付いていった。
――皆、各々が出来る事を探し、それを成そうとしている。その姿を見てノーレが嬉しそうに口の端を緩ませたが、目撃したものは居なかった。
(今回の事はきっと大きな意味がある……。ユーリさん、ノーレは貴方の無事と武運を祈っていますね?)
このグレッセ王国解放軍を勝利へ導く驚異の作戦開始は――――――――今夜、である!
あー、書いたけど、書きたいことの半分も書けなかった気がするぞ……。
これも要書き直しページですな、反省。