復活の少女は何者と化したのか?
あー、粗はいっぱいあると思うけど、久々にゆったり書けた気がするわ……。
毎日こう出来たら良かったのにね!
カーニャがレーレと悠理の元へ訪れて約2時間が経過。もう少しで日付も変わろうと言う時間帯。
「あー、カーニャ? 非常に嬉しいのは確かだが……いつまでそうしてるつもりだ?」
――だと言うのに、彼女は未だに悠理の背中に張り付いたまま。いくら安心できるからと言って長時間されると落ち着かなくなってくる。彼女が身じろぎする度に、ツインテールが揺れて首や頬をくすぐるし、控えめなその胸が触れ――ている様で実は胸骨の方が当たってる面積が多いのだが、それはそれでゴツゴツとした他では味わえないカーニャならではの感触……。
そう割り切って考えてみると中々にドキドキ――しなくもない。ゆったりと首に回された腕の感触も柔らかく温かくてほっこりとする。頭上から零れてくるカーニャの吐息が頭や耳に当たってこそばゆい。――いや、正直言ってこんなに長時間密着されていたら気がどうにかなりそうだ。
しかし、そこは廣瀬悠理。持ち前のタフさで何とか堪えていた。常人だったらここまでされれば襲いかかっても不思議ではないが。――もしかしたら俺って枯れてる?、と少し心配になった悠理である。
「――アンタがレーレから離れるまで……」
言いながら更にカーニャは身体を悠理の背中へ密着させた。彼女は意地でこの状態を維持している。
ここまで身体を張っていると言うのに、この男は全くレーレから離れない。何だが自分に魅力が無いと言われている気がして離れるまで続けてやろうと思って――――既に二時間。もういい加減足は棒で、さっきからプルプルと震え続けている。
――いや、それだけではない。悠理からは確認出来ないが、彼女は今内股でモジモジと太腿を擦り合わせている。そう、今彼女が感じているものはズバリ――尿意。
折角ここまで悠理の背中へと抱きついたままだったのに、尿意如きに負ける訳にはいかず、ずっと我慢しているのだ。
「そうなるとレーレが目覚めるまでこのまんまだなー……。俺は良いけど誰かに見られたらどうすんだお前は」
ファルール達は気を使っているのか、誰一人ここへは足を運んでいない。もしかしたら街で何かあったのか? そう考えもしたが、悠理はレーレの傍に居ながらも周囲への警戒は怠っていない。
異変を察知すれば直ぐに動ける様にはしてある。ハッキリ言えば、この状態が解除されるので出来れば御免被りたいが。
「べ、別にどーって事ないわよ!」
――と言いつつ、尿意は先程から高まりつつある。額には脂汗が滲みっぱなしだ。
「カーニャは甘えん坊だなぁ。なぁ、レーレ?」
からかう様に眠り姫へと声を掛ける悠理。当然の如く、本人から返事が来る事はなくて――。
『――――気付いてたんならさっさと離れろ……』
――うっすらと目を開けて抗議したのは果たして誰だったか?
「ほら、レーレもこう言ってるぜカーニャ?」
「……まぁ、本人がそう言うんじゃ――――え?」
「あ? どうし――――ん、んんっ!?」
『――よぉ、間抜け面共……』
「ぬおぉぉぉぉぉっ!?」
「うえぇぇぇぇぇぇっ!?」
――こうして、レーレの目覚めによって悠理とカーニャの二人きりの時間は終わりを告げたのであった。
ちなみに、カーニャは無事トイレに間に合った事を報告しておく。かしこ。
――――――
――――
――
『……ったく、人が死に掛けてる最中にイチャつきやがって……あーん!』
「いや、イチャついてたと言うか、イチャつかれてた?」
「あー、あーっ! どっちも違うから!!」
レーレが目覚めた後……カーニャがトイレに行くついでに、ファルール達には既にこの事を伝えた。
その上で、今は悠理と二人っきりにさせて欲しいとお願いして来たのだ。今、ここにカーニャが居るのは二人に食事を持ってきたからで、決してお邪魔虫と言う訳ではない。
そしてレーレだが――――実は30分位前から起きていたらしい。だが起きて直ぐ悠理達が近くでイチャついている事に気付き寝たフリをしていた様だ。今はその件を毒づきながらも悠理にご飯を食べさせて貰っているところ。
「えー、だってお前見られても構わないって言ってたじゃないかよ」
『そーだそーだ! てめー、俺が瀕死の状態で抜け駆けしやがって!』
ファルール達に断っておいて正解だったとカーニャは思う。だってレーレと悠理がとても幸せそうに笑っているから……。この光景が失われなくて良かった本当に。素直にそう、思える。
「ほら、どうどう。病み上がりなんだからもうちょい大人しく――抜け駆け?」
『ッ!? あ、あーん!』
「と、とにかく、この話は終わりよ! お・わ・り!」
『チッ、確かにこのままじゃお互いボロだしてもおかしくねぇしな……むぐむぐ』
瀕死の状態から帰って来たレーレはレーレのままだった。悠理への気持ちは増した様に思えるし、その性でボロを出しやすくなった様にも見える。それに何より、カーニャへの嫉妬と言うか敵対心が表面化していた。
どうやらやはり悠理は鈍感らしく、その辺りに関しては気付いていない様だ。しかし、同姓――いや、レーレにライバル視されているカーニャにはその変化が明確に感じられる。
「――んで、身体の調子はどーよ? 見た感じは大丈夫そうだが……」
頭の先からつま先までくまなく悠理が視線を巡らせる。外見上は以前より肌が白くなって髪の色素が少し薄くなった程度。でも恐らくそれは精霊特有の性質を身体に宿したからだと考えられ、悪い影響はないと思われる――――とはノーレの見解だ。
それは大凡当たっているだろう。何せ今レーレがピンピンしているのがその証拠。
『――あぁ、アイツ等のお陰で命拾いした……。しかし、まさか俺が狙われるとは思ってなかったぜ』
油断していた――――と言う訳でもない。カーネスに襲われたあの時、警戒は全く怠っていなかった。
確かにレーレクラスの死神となれば命を狙われるような状況には滅多にならない。恨みは数多く買っていても簡単に手を出せる相手ではないからだ。ただその事で、命の危険を感じる直感とも呼ぶべき機能が衰えていたのかも知れない。
「それで、アンタは新しく得た祝福で何者になったの?」
この場に居る二人が――――いいや、この屋敷に居るメンバー全員が知りたいであろう話題にカーニャが切り込んでいく。レーレは『とうとう来たか……』と言う表情。悠理も普段通りとしていながらも佇まいを直していた。
『それなんだが――――まだ良く解らん』
頭を掻きながら複雑な思いを顔に浮かび上がらせるレーレ。本人も朧気ながらその輪郭を掴んではいる――いるのだが、確証には至っていない。
「命に関わる様な事はないんだろ?」
『そこは全然問題ねぇ、すこぶる健康体だ。唯――――戦闘に関しちゃ足手まといになるだろうな……』
500年と言うレーレが生きた歳月を受け止めきった身体。そこまでの肉体に変質させた祝福ならば生命維持活動には何ら支障は無いだろう。だが彼女には自身の肉体から戦う力が欠けている、と感じたのだ。
そもそも、悠理が改竄した祝福は“レーレの生命活動維持”に重きを置いたもの。――であれば、彼女が感じている違和感は正しいもののハズ。しかし、悠理の改竄だって万能と言う訳ではない。
“改竄”は新たな項目の“付加”を可能にする能力であって、祝福そのものを“根こそぎ書き換える”力ではないのだ。
だから、祝福がレーレの生命維持に特化していても元々あった戦闘能力が失われる訳ではない――ハズだ、理論上は。
しかし現に戦う力が無いと言うのはレーレにとっては歯がゆさを覚えるばかりだ。こうして生き残ったのに悠理と共に戦えない。彼の為に何かする事が出来ない。歯がゆいに決まっている!
レーレはベットの上、悠理達からは見えない右手を力一杯握りこんで悔しさを露にした。
――何の為に生き残ったんだ俺は……! 足で纏いに何かなりたくねぇぞ!
焦燥が知らず知らずの内に心を焦がす――が、悠理はそんなレーレの心情を一瞬で吹き飛ばす。
「んなの全然構わねぇよ。俺が絶対に守るから」
『なっ!? バカ言ってんじゃ――――』
いつの間にか左手を両手で包まれ、真っ直ぐに瞳を見つめられて真面目な顔で告げる悠理。
ともすれば愛の告白とも受け取れそうな言葉にレーレは当然の如く照れる。照れていつもの様に照れ隠しの暴言を吐こうとするが――。
「――レーレ」
――ゆっくりと首を振るカーニャに止められる。そうじゃない、違うのだ。悲しそうに歪む彼女の瞳が語る。
残念ながらこれは愛の告白などと言う綺麗なものではない。これは悠理の――――後悔。
「もう二度と、お前を危険な目に合わせたりしねぇ……。俺がいつでも傍に居て、危機が迫ったなら何をしてでもお前を絶対に守るんだ……!」
あの時、悠理は何度でも死ねる程に後悔をした。いつも近くに居た大切な存在を守ることが出来なった事を。今はこうして救う事こそ出来たものの、そんなのは結果論もいいところだ。
今度こそと彼は誓う。今度はしくじらない。もう二度と誰にも負けない。
あんな思いは二度としてなるものか、もう二度と彼女を傷付けさせるものか!
思いは口から、気迫から、目力となって迸っていた。
『ユーリ……』
握こんだ右手を思わず緩め、握られた左手をぎゅっと握り返す。
――すまねぇ、ありがとう。俺はここに居るから、だから心配しなくても良いんだぜ?
何故か言葉には出来なかったら行動で示す。奇しくも彼女が目覚める前、カーニャがそうした様に。
「――アンタが羨ましいわ。ちょっとだけ、ね」
そんな二人を見てカーニャは淋しそうに笑う。
――あぁ、アタシもそんな風に強く想われていたら……。
そんな“もし”を考えるほどに羨ましさを覚えながらカーニャは二人に背を向けた。
ここからは悠理達の時間だ。やっとお互い安心して話が出来る様になったのだから。
(そんな二人を邪魔する無粋者にはなれないわよね?)
淋しさと羨望、そして僅かながらの嫉妬心を抱いて彼女はこの場を去る。
――ああどうか、これが嵐の前の静けさならば、せめて残された僅かな時間は二人に安らぎを与え給えと、そう願いながら……。
次回、街の状況と今後の方針。