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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
141/3921

自由を背負う者に安らぎはあるのだろうか?

今回もギリギリの更新になってしまった……。


時間に押されて後半は割愛のオンパレードに――――ごめんなさい!

 リスディア達に背中(強引に)を押され、カーニャはレーレが休んでい部屋の前へ来ていた。

「ユーリ、入るわよ?」

 ノックをしようかとも思ったが、彼女は声を掛けてそのまま部屋へ入る。

 外からでも解る程に部屋が静かだったからだ。きっと彼は聖職者が神に祈りを捧げる様に一心にレーレの身を案じているのだろう。その証拠に扉を開けて見えて来たのは予想通りの光景だった。

「ん、カーニャ? 何かあったのか?」

 ベットの傍らで椅子に座りもせず膝を着き、レーレの左手を両手で包み込む悠理。その姿は先程カーニャが想像したとおりに聖職者そのもの。神秘的、或いは幻想的と言ってもいい雰囲気を纏っている。

 ――いずれにしても、髭面の男に似合うものではない。あくまでその後姿だけだった様だ。

「別にそんなんじゃないわ。唯――心配だっただけよ……」

「そっか、ありがとな」

 悠理の横へ座り、カーニャはベットに背を預けて体育座り。お互い言葉は交わしても顔を合わせることない。彼女はこんな時、どんな風に接すれば良いか解らなくて、悠理はファルールの言った通りにレーレの事が心配すぎて視線を外さない。いっそ過保護と称していい位に。

 ――それでも、感謝の言葉は条件反射で言ったものではなくて、ちゃんと感情が篭っていた。これもファルールの言葉通りだ。


「べ、別にアタシは――」

 この場に来たのは悠理を心配したが為、けれどそれをそのまま言うのは気恥ずかしく、カーニャは言葉を濁そうとする――――が。

「やっぱり、成功したとは言えレーレの事は心配だよな……」

「そ、そうよ! ――って、え?」

 素直にならなくても悠理が曲解した事で彼女の意思は伝わらなかった。どうやらこれは重症か?

 そう思うほどに今の彼にはレーレの事しか考えられなくなっているらしい。

「俺も心配だ。何せ、グレイスとテオ――――10の精霊達が命を賭けてくれたんだ……。これでレーレに何かあったら、カーネスもチーフも唯じゃおか――――」

「ちょ、ちょっと待ちなさいってば!」

「あん? どうしたんだよ?」

「え、えっと、ちょっと待って……スーハー……スーハー……」

 レーレへの想いが熱暴走していく悠理にスットプを掛けるカーニャだが、心の準備と言うものが出来ていなかった。掛ける言葉を捜す為、もしくは素直になる覚悟を決める為に深呼吸……。

 普通に考えたら難しい事ではないのだが、彼女は一度悠理に襲われている。その事は既に割り切ってはいたが、こうしてレーレが居るとは言え二人きりに等しい状況だ。

 カーニャも年頃の女の子……あんな出来事があれば緊張位はする。

「――アタシが心配してたのは……、あ、アンタの事よ!」

 緊張をどうにか抑えつけ、意を決して告げる。少しだけ顔が赤らみ、やはり顔を合わせ辛いので視線で悠理の顔を盗み見る。


「…………俺の?」

 ここで初めて悠理がカーニャへ顔を向けた。向けたのだが……。

「――何よ、意外そうな顔して」

 その表情には驚きや呆れ、戸惑いと言ったモノが同居していた。どうしてこの状況で自分が心配されているのかまるで解っていないのかも知れない。

「まさにその通りなんだが……」

 そしてこの男もそれを隠そうともしない。肯定する。

「屋敷に来てからずっとレーレに付きっきりでさ……。そりゃあ、レーレが大事なのは解るわよ? でもだからって、ええと――――」

「……? おい、どうした?」

「――どうしよう、上手く言葉に出来ない……」

 ここでカーニャの弱さが露呈する。いや、彼女なりにちゃんと言葉を捜しはしたのだが……。

 如何せん、悠理の反応が予想外すぎて何を言えばいいか解らなくなってしまった。単純にレーレを心配してばかりでは、その姿を見た皆に心配をかける――――と良いたかったのだが、テンパった彼女にはそれだけの言葉を伝えるのにも一苦労なのである。

 カーニャの言葉が止まった為に部屋には静寂が訪れる。レーレの安らかな寝息だけが場に静かに流れた……。この状況を打開しようとカーニャは更に内心でパニックを起こすのだが――――。


「――ぷっ、アハハっ! 何だよそれ?」

 しかし、その沈黙を破ったのは悠理の笑い声であった。部屋に響き渡る程に豪快な笑いっぷりである。

 その光景に暫し唖然とするカーニャだったが、笑われたのが自分であると気付き食って掛かった。

「わ、笑わないでよ! これでも一生懸命なんだから!!」

「プッ、クク……、わ、悪い。バカにする気はねぇんだ」

「うー……」

 顔を真っ赤に染めて反抗するカーニャに笑いを堪えつつ、悠理はこそばゆい気持ちを感じていた。

 心がふっと軽くなった様な気がする。誰かに気に掛けてもらえるというのはこうも気持ちを楽にしてくれるものなのか。

 それを気付かせてくれた事が嬉しくて、悠理はカーニャへアドバイスを一つ。

「大体、お前って考えるのが苦手な肉体労働担当だろ? だったら言葉じゃなくて、行動で示せば良いじゃないか」

「――って、言われてもどうすりゃ良いのよ?」

「そこは自分で考えろ。お前の感情だろうが」

「う、うーん……。あ、あのさ、ユーリは人にどんな事をしてもらったら安心する?」

「――結局俺に聞くのかよ……」

「どうせならその人が一番喜ぶ事をしてあげたいじゃない」

「む、妙に正論を突くじゃねぇか……。んー、そうだなぁ……」

 悠理は『俺は昔――』と前置きして、自身が安心を覚えたエピソードを語り始めた。


 ――廣瀬悠理と言う男は父親と折り合いが悪い。

 成人した今となってはお互い歳を取った事もあって、諍いに発展する事は滅多になくなったが。しかし、昔は多いに反発した時期があった。

 あれは10歳の時だっただろうか? 夏休み、父親と盛大な喧嘩をした悠理は今亡き母親の手引きによってひと夏を遠い親戚の家で過ごす事となったのだが……。

 そこは女系一家だったのだ。夫は既に他界し、女で一つで娘三人を育てた年齢不詳の母親に、何を考えているか解らない糸目の長女、直情的で男勝りな次女、大人くて優しい三女。

 ――と実に個性的な一家だったのだが……。もう一つ、その家には特徴があった。

 皆――――巨乳だったのだ。

「……何それ自慢?」

「安心しろカーニャ。俺はレーレやお前みたいに小さい方が好きだ」

「バババ、バカ言ってんじゃないわよ!」

「はははっ、何か肩叩きされてるみたいだな」

 小さい胸の方が好きと言われてあからさまに動揺したカーニャが悠理の肩をポカポカと叩き始める。

 威力のない優しい攻撃に彼はにっ笑みをふかくするばかりだ。


「――で、だ。まぁ、この話は長くなるから割愛して要点だけ喋るとだな……」

 悠理はその女系一家との生活で少しずつ父親との喧嘩で出来た傷を癒していく。それは少年だった頃の彼に多大な影響を与える出来事。――ちなみに、彼が貧乳好きになったのはこの件が深く関わっているのだが割愛。

 ――とまぁ、悠理が遠い地で一人淋しく過ごしている時、三女が良く背中から抱きしめてくれたと言う。

 それが一番安心した記憶。誰かに支えられている、支えようとしてくれる存在が確かに居る。

 そう思える事、そう思わせてくれる誰かが居る事。安心とはきっとそういうもの。

「――とまぁ、参考になったか?」

「ふーん……えっと、これで、良い?」

 話を聴き終えたカーニャが立ち上がり、そのまま立った状態で悠理を背中から抱きしめた。

 両腕は首に回し、身体を密着させる。顔は横を向いて、そのまま悠理の頭に自分の頭をこつんとぶつける。やや不恰好ではあるが、カーニャに出来る精一杯がこれだ。

 後はもう――――とにかく、心配する気持ちよ伝われ!、と念を込める位しか出来なかった。

「――――まさか本当にするとは思わなかったぞ」

 背中から伝わってくる温もりと、微かな、けれど確かにそこにあって存在を主張する鼓動。

 悠理はびっくりして、けれど同時に嬉しさと気恥ずかしさを覚えた。

「うっさいわね……」

 カーニャもカーニャで凄まじく照れ臭い。何しろ、同性にならともかく異性に対して自分からこんな事をするなど彼女にとっては冒険みたいなものだ。とにかく勇気がいるし、これでいいのかと不安になったりもする。けれど――――。

「……ありがとな」

「――――うん」

 冒険とは乗り越えれば多くのモノを与えてくれる。

 悠理から返って来た感謝の言葉は間違いなく、その報酬。

 二人は同じ安心感に包まれながら、穏やかな時間を過ごす……。

 ――しかし、その時間は思わぬ人物によって破られる事になる。

 ――――のだが、彼等がそれに気付く様子はなかった……。

次回は待ちに待ったアイツの出番です!

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