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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
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道は繋がり、果てしなく続いていく

おうふ、色々あって時間が足りなかったが、何とか書けたか……。


いや、結果を書くつもりがレーレの精神世界での話になっちゃったんだけどさ。

 ――深い深い闇。どこまでも真っ黒で上も下も解らないような空間を、それでも確かに落下しているレーレ。

 そこは彼女の意識の中――いや、誰もが死に直面した際に漂う空間……死の淵。抵抗する気力もなく、レーレは唯真っ直ぐに堕ちていく。

『俺は……どう、なったんだっけ……』

 死へと近づくにつれて思考に靄がかかり始める。今まで自分が何をしていたか、どうしてこんな所に居るのか? 彼女にはそれが解らなくなっていた。

『暗い……今まで明るい場所に居た気がするのに……暗い、暗いぞユーリ……』

 深い闇へと堕ちていく中、レーレは自分の身体を抱きしめて丸くなる。まるで、口に出したその名前に縋るように。

 繰り返し『ユーリ、ユーリ……』と呟くレーレは普段とは間違いなく別人に見えることだろう。

 実際に死に直面して初めて曝け出される弱さもあると言う事だ。そうして何度目か呟きで、ふと悟る。

『――ああ、俺、死ぬのか……。まぁ、死神はお似合いの最期かな?』

 今まで自分がそうしてきた様に。自分の命も平等にあっけなく、あっさりと散る。

 何かを成した訳でもない。何かを誇れた訳でもない。誰かの道を切り開いた訳でも、誰かに命を託した訳でもない。

 唯々あっけなく死を迎える。死神である自分が、こうして自身の死神に出会う事になるとは考えもしなかったが。


『ユーリ、ユーリ……。俺は……もっと――』

 ――お前の傍に居たかった……。みっともないと思いつつも、どうせ誰も聞いていないのだからとレーレは心情を吐露し始める。

 ずっと暗闇の中で生きてきた。それは別にいい。与えられた能力で全てを失ったが、それで狂ったのは自分の責任。言い訳など……許されないと知っている。

 そんな自分が出会った光――――廣瀬悠理……。

 一緒に居れば何処であろうとそこが自分の陽だまりとなる――――そう思わせてくれる人。

 彼と離れ離れになる事だけがどうしても嫌だった。許されないと、今まで狩り続けてきた魂の怨念に叫ばれようともそれだけは……。それだけは手放せないのだ。

『――でも、もう終わりなんだよな……』

 どんなに願っても“死”は避けられない。“生命神秘の気”で生き長らえているのはレーレも感じていたが、それも遠くない内に限界が来る。それならいっそここで死んだ方が楽だ。

 きっとその方が悠理の為になる。

 ――弱った心はそんな馬鹿げた方向へ向かってしまう。

 弱った者はそれが間違いだと気付かず、盲目に正しいと信じて死んでいく……。

 レーレもまた然り、祝福を失い無力な少女に成り果て、死が間近に迫った身なればそれも当然。

 だから彼女はそのまま闇へと自分の意思で堕ちていく。

 ――だが……。


『……何を馬鹿なこと言ってるの』

『そうだぞバカー!』

『――えっ?』

 ――自暴自棄な人間が死へと向かおうとするのが当然なら、それを助けようと手を差し伸べるのもまた当然の行為。

『グレイス、テオ? どうしてこんな所に……』

 暗闇に堕ち行く自分を引き上げる見慣れた二人の姿にレーレは唯驚くばかり。

 二人はいつもとは違ってハキハキと喋っているが、そこは気にしない。人間界で彼女達の言葉がカタコト気味なのは、人間の言葉で喋るのが不慣れだからだ。精霊界出身者は普段精霊語を多用する。

 今、こうしてグレイスとテオが普通に喋れているのは、人間でも精霊でも死は死でしないからなのか?

 ――レーレはぼんやりとそんな事を考えた。

『……どうしてって言ったでしょう?』

『ねーちゃんとあっちと、ユーリで助けるってなー!』

『――助ける? ああ、でも俺はもう――』

『……生きなさいレーレ』

『皆もそれを望んでんだぞー?』

『皆?』

 テオの言葉に首を傾げ辺りを見回す。そう言えば、暗闇だと言うのに自分や姉妹の姿がはっきりと見える事にレーレはようやく気付く。それに気付いたなら、言葉の意味を察するのにも時間は掛からない。


『――お前等……』

 そこに居た皆――それは彼女がアルフトレーンにて召喚した10人の眷属。人間界で自分との契約が強制破棄された為に、精霊界への帰り道を絶たれ消滅を余儀なくされた者達……。

 例外なく、彼女達は笑っていた。姉妹と同じくその顔はフードに隠れていたけれど。

『……皆が私達に力を貸してくれたから』

『ここまで来れたんだー』

『俺は――生きても良いのか?』

 我知らずの内に問う。そうまでして自分を生かそうとする者達に。

 解っている、自分達は家族のようなものだ。血に濡れ、幾度も断末魔と怨嗟の声を浴びた仲ではあったけども。

 だがそんな呪われた道でも育まれた絆は確かにある。

 だから、願う。

『……生きてレーレ』

『ユーリもお前を助けたがってんだぞー?』

『けど、そしたらお前達は――』

 ――解っていた。いや、全部思い出したと言うべきか。

 自分が気絶する前に、ノーレや悠理が話していた事を繋ぎ合せれば、自分が生き残る可能性など一つだけ。

 ――グレイスとテオを犠牲に自分だけが生き残る。そう言う事だ。


『俺っ、俺は――――ッ!!』

 ――ユーリと一緒に居たい。でもそれとお前達を天秤にかける事なんて……。

『……ふふふ、馬鹿ね。勘違いしてるわ』

『そうだ、勘違いしてる』

『勘違い……?』

『……そうよ。私達は死なない』

『あっち達はレーレの中で生き続ける。これからも一緒……』

 そっとレーレはその身体をグレイスとテオに抱きしめられる。こんな風に二人から抱きしめられたのは何百年ぶりだろうか?

 久しく味わっていなかった感覚に何故か瞳が熱くなる。これもどれ位久しぶりの感覚なのだろう……。

『――本当に一緒か?』

『……ええ、本当よ。例え意識は残らなくても』

『レーレの身に宿る新しい祝福がその証! だからずっと一緒!!』

『そうか――――なら良いのかな?』

『……良いのよレーレ。アナタがユーリさんと結婚して幸せになってくれたら、私も嬉しいもの』

『子供は二人くらい産めよな!』

『バババッ、バカ言ってんじゃねーよ! 結婚とか、こ、子供とか……何言ってんだよ!?』

『……ふふっ』

『プククッ!』

『――――ハハハッ!!』

 随分と懐かしいやり取り、いつもの三人の姿、最期の会話。

 笑ってお別れ――否、これからも一緒。言葉を交わす機会はもう永遠にないのだろうけど。


『――グレイス、テオ、皆……』

『……なぁに?』

『なんだー?』

『ありがとう、俺はお前達と居れて――――これからも一緒に居れて幸せだ』

『……こちらこそ』

『へへっ、ありがとなー』

 最期にもう一度抱擁を交わす。レーレの頬を熱い何かが流れた気がするが、彼女はそれに気付かないフリをした。これからも彼女達は共に居る、なら悲しいことなんて何もないハズだ。

 グレイスとテオ、残りの眷属達もそれに気付かないフリをして、満足したような笑みを浮かべ光の粒になっていく。

 その光が闇を解き、更に光を広げていき……そこに虹色の光球が降りてくる。

『――ああ、ユーリ。今帰るぜ――――皆と一緒にな!』

 一目でそれが誰が作り上げた物か見抜いたレーレは、乱暴に頬を拭って光球を手に取った。

 するとそこから溢れ出た光が一瞬で闇を飲み込み、黒一つだった世界が白だけの世界に生まれ変わる。

 だがそれで終わりではない、光球から生まれた光はレーレ自身をも呑みこみ、その身体を包む。

(皆、俺は――――頑張って幸せになってみるよ……)

 自分を生かしてくれた存在にそう誓いを立てるとレーレの意識が途切れていく。

 ――ここに死神レーレ・ヴァスキンは死んだのだ……。

 次に彼女が目を開けた時、どんな存在になっているのか……。

 ――それは彼女自身が決めることだ。

えー、どうでもいい報告ですが。


今日で私こと、暮川燦は26歳にタイーヤコウカーン!――しました。


これからもよろしくね?

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