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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
134/3921

嗚呼、決意とはかくも儚く、残酷で、美しいものと知る

おあー! 時間かかったくせに妙に中途半端だー!


でも投稿しちゃう!

『……ワタシタチヲ』

『ツカエー!』

「確かに条件は揃ってますけど……」

 ――――危険すぎる。確かに精霊は長寿だ。しかも闇を司る彼女達の祝福なら死神レーレの身体にも馴染むだろう。だが精霊は元々肉体を得る事が出来なかった命――――つまりはこの世界に生を受けること叶わず、消えるハズだった魂に祝福が宿った存在……。

 彼等にも血肉はあれど、それが人間と、それをベースした死神と同じモノのハズもない。

 それにこんな事は過去の例にもあるまい。殆んど賭けのようなものだ。移植に成功したとてレーレの肉体にどんな影響をもたらすか……。

「お前達を使えって――――っ、他の奴等はどうした? 確かあと10人――――」

『……キエタワ』

『ココニクルマデニナー……』

「消えた? ――って、お前らその身体!」

 気づくのが遅かった。二人のその身体は徐々に光の粒と化し、キラキラと儚げに宙を漂う。それが消えた10人と同じ現象であろう事は想像に難くない。しかし何故?


『……マヨッテルヒマハ』

『ネーゾー!』

 自分達の身体が消えかかっているのにも関わらず、姉妹は普段と変わらない態度。悠理は若干呆気に取られていたが、ノーレは表情を更に険しくしていた。

「ユーリさん……、彼女達の言う通り迷ってる余裕はないと思います」

 彼女は『簡単に説明しますね?』と前置きして語り始める。

 精霊は人間達とは違う次元、ここノレッセアの裏側、もしくは隣に寄り添う世界の住人。この人間界とも言うべき場所に彼女達が具現化していられるのは、眷属として契約を交わし、活動する為のエネルギーを供給されているからである。

 エネルギーが底を尽きるか、悠理の様な能力よって力づくでゼロにされれば強制送還。精霊側も身の危険を感じれば自分から精霊界に逃げ込める――――この場合、状況によっては契約違反と見なされ、ペナルティーを支払う必要があるが……それはまた別の話。

 ともかく、そう言う事情もあって精霊と言うのは非常に殺しづらい存在なのだ。人間界に住み着いた“土地精霊”ならば倒すのは難しくない。

 ――が、眷属契約で精霊界からやってくる者についてはさっき述べた通り。では、どうしたら眷属精霊を殺せるか? と言う話になるが……。

 方法は二つ。一瞬の内に仕留めるか、眷属精霊が表に出ている状態で契約者を打ち倒し、その契約を無効化するかである。

 つまり今、レーレの眷属である姉妹は消滅の危機にあると言うこと。

 むしろ、ここまでもっている事が不思議な位だ。同じく召喚された10人が二人に力を託さなければここまで来れなかったろう。


「…………っ」

 悠理はノーレの説明と眷属姉妹の言葉から一つの結論に達し、歯軋りをした。ギリギリと、歯を剥き出しながら感情をあらん限り露にして。

 レーレを助ける為には――――道は一つ。

「他に――――他に方法はねぇのか!」

 認められない、認めたくない。接した時間は少なくとも眷属姉妹だって彼の仲間。スルハを旅立つ時にした“誓い”……、仲間を誰一人死なせたくないと。

 その誓いを破ってしまう事の抵抗。いや、それ以上に共にいた時間が、レーレと一緒にじゃれあった温もりと柔らかさ……、その他諸々の感情が――――。

「――死なせたくねぇんだ!」

 彼を叫ばせる。原始的な、あまりにも原始的な思いが唯そこにあった。

 しかし、その思いに応えられる者はここには居らず。皆一応に俯き、悠理と目を合わせることすら出来ない。

 ならば、と彼は自分自身で考える事にする。

 姉妹の契約が破棄されたと言うのなら、自分と再契約を結べば良いのではないか? “生命神秘の気”を供給すれば二人は消滅を免れるはず。

 ――――ダメだ、レーレはどうする? 彼女を助ける術がない。

 レーレの祝福を取り戻せば良い!

 ――――馬鹿が、それが絶望的だからこそ手段が一つしかないんだろうが!


「――クソッ……!」

 何と愚かな事だろうか? 彼の案など所詮その程度。

 それ以上の良い方法など浮かぶはずもない。どちらかを立てれば必ずどちらかが失われる。今この状況において生まれる矛盾を覆せなどしない。

 覆そうなどと考えればどちらをも失う。即ち、完全消失。何一つ残らない、何一つ救えない。そんな最悪の未来。

 けれども、廣瀬悠理は感情的な人間だ。少しでも感情があるのなら、自分と触れ合った者達を遍く助けたいと思うし、そう願う。

 だから、選択を突きつけられても悠理は決められないでいた。そんな時間などもう無いと言うのに……。

「俺は何も――何も出来ねぇってのか……何も……」

 悔しさに唇を噛み締めれば簡単に流れる一筋の血。命を生かす為の赤い輝きが無為に流れて行く。

 嗚呼、この血を、この魂を引きちぎって分け与えられたら……等とバカな事を考える。

 ――この世界に来て、多少は強くなったつもりでいた。でもそれで慢心しない様にも心掛けていた。

 己の慢心で大切な何かが失われぬように。――――だが、そう心掛けていても失われるものがある。

 それは、それはきっと自分が無力だからだ――と悠理は自分を責め、不甲斐なさから拳を振り上げ、地面に叩きつけようと――した。

『――ユーリ、サン』

『――ユーリ!』

「お前等……」

 しかし、その手は眷属姉妹の手に包まれ、止められる。暖かな、これから消え行く命の存在感と重み……それを救う手立てのない悠理は一層自分の無力に苛まれる気がした。

「俺はレーレを助けたい、お前等の事だって……。でも……、俺には出来ねぇ、俺はむ――――」

 ――無力だ。ノレッセアに召喚されてから今まで吐かなかった弱音は、やはり彼の口から漏れる事はなかった。

『……ンッ』

『チューッ!』

 眷属姉妹がその唇を塞いだからだ。二人は頬にキスする要領で、横から二人同時で悠理の唇を奪っていた。

 姉は右から、妹は左から。互いの唇も触れ、悠理を交えて丁度唇で三角形が出来ている。

 流れ出た悠理の血を二人が舐め取り、二人の唇を赤く染めていた。


「お、お前等? 何――」

 唇を襲った柔らかな感触に戸惑うが、それも次の瞬間に流れ込んで来た“何か”によって遮られる。

(……レーレを助けてあげて)

(大事な友達なんだー!)

 それは――――想い。唇を通して直接悠理の心へ流れ込んだ二人の感情。

 だからなのか、普段の拙いカタコト喋りではなく、熱い――とてつもなく熱く激しい力強さを感じたのは。

 そして、流れ込んで来たのは感情だけではない。微かだが、レーレと過ごした二人の記憶も一緒になって悠理の心へ染み渡る。

 ――初めて会った時のこと、最初はレーレと妹の仲が最悪だったこと、レーレは姉の方に時々甘えて居たこと。

 共に戦った日々、共に笑い、傷つき、乗り越えて生きた450年と少しの歳月……。

 絆と言う名前の輝かしい思い出。その断片を彼は確かに感じ取っていた。

 これは無意識ではあったのだが、“侵入”の効果である。

 人間には“感情”と“理性”が存在し、どちらか片方という事はない。廣瀬悠理もまた、然り。

 彼は感情で現状を打破する案を考える一方で、頭の片隅、心の奥底では理性が確りと働いていた。

 理性は――――既に覚悟を決めていた。どちらをも生かすワガママが貫き通せないのならば、せめて、せめて姉妹の想いだけでも届かせたい、と。

 その想いが無意識で能力を発動させ、唇が触れ合った瞬間に二人の願いを受け取っていたのだ。

 

「――良いのか?」

 悠理は眷属姉妹の肩を掴み、表情を伺う。相変わらずフードでその目元は隠れ、未だに素顔を見た事はない。

『……オネガイ』

『キエルマエニヤクニタテテクレー!』

 しかし、それでも彼には確固たる決意を秘めた瞳が見えた気がした。

 ならば――もう言う事はない。悠理も自分の理性が既に結論を出している、その事実に従う事とする。

 それが……、それがきっとレーレ達三人の絆を色褪せないものにする唯一の方法だと信じて……。

『……ダイジョウブヨレーレ』

『イマネーチャントアッチトユーリデタスケルカラナー!』

『……ぁ……っ……』

 二人は苦しみから倒れたままのレーレに近寄るとその頭を優しく撫でる。

 意識が朦朧としているのか、レーレはうわ言で何かを呟いたが、姉妹に撫でられた事で安心した様な笑みを浮かべてそのまま気を失ってしまった。

「ユーリさん……」

「ミスター……」

 事の成り行きを見守っていたノーレとファルール――いや、その場の全員が悠理へ視線を送る。

 それで良いのか?――と。

「ああ、もう決めた。もう迷わない――レーレを助ける」

 その言葉に確かに迷いはなかったが、悠理は黙って首を横に振っていた。良い訳がない。

 これが最良の選択だなんて何度問われようとも答えはノーだ。

 でも、時にそうする事でしか救えないものがある。このままではレーレの命も、姉妹の想いも無残に消えてしまう。ダメだ、それだけは絶対に。

 だからせめて、道を潰えさせないことを悠理は選ぶ。二つの道と可能性を一つの道を救う為に使う。選んだのは自分だ。誰かに責任を負わせたりなどしない。責任も罪も、自由の名の元に全て俺が背負うとも。


『……ジャアヨロシクネ?』

『タノンダゼユーリ!』

 名残惜しそうにレーレの頭から手を離した二人が悠理と向かい合う。どちらも普段と変わらない、姉はいつものダウナーな口調で、妹もやはりいつも通り元気一杯で別れとも言えないような言葉を残す。

「任せろ! その前に……」

 あえて彼もそれに合わせ、普段通りの――自由の使者を名乗る大胆不敵な笑みを浮かべて二人を抱きしめる。その身体がほんの少し震えていたのは姉妹にしか気付けなかったはずだ。

「――最期に、お前達の名前を教えてくれ」

 これは先程の無意識な“侵入”で知ったこと。彼女達にもちゃんと名前があったのだ。普段レーレが呼ばないから悠理は知らなかっただけで。でも流れ込んだ情報はそれだけで、二人の名前は解らなかった。

 聴いておかねばならない。心に刻みつけておかねばならないのだ。

 何故なら二人は――――悠理が初めて選択して切り捨てようとしている“命”なのだから……。

 例えそれが本人達の希望で、必要に迫られたからだと言っても、事実は事実。

 そこから逃げ出さない様に聴いておかなくては。でないと、悠理自身も納得できないだろう。


『――ワタシハ“グレイス”ヨ』

『アッチハ“テオ”ダゾー!』

「グレイス、テオ――――すまねぇ……。けど、絶対に届かせる。お前達の想いは、命は――――レーレに必ず……!」

 名を受け取り、心に、記憶に刻み込む。身体には彼女達の温かさと柔らかさも覚えさせた。

 そうしたらもう――――お別れだ。

 既に悠理の“侵入”は起動し、“書き込み”が始まっている。グレイスとテオの祝福を“レーレ・ヴァスキンの生命補助・延命に特化”に改竄した。

 後は微かに残っている姉妹とレーレの繋がり――――契約の残り香が道を作ってくれるはずだ。

 無論、その道作りには悠理も全身全霊を賭ける。“生命神秘の気”を身体から限界以上に放出し、力を練り上げ収束し、一つの球体を作り上げた。

 名付けて“生命神秘の光球”。これがレーレを救う為の切り札。

『……アリガトウ』

『アリガトナー!』

 笑ったまま二人の身体は光となって解け、“生命神秘の気”と混ざり合い徐々に球体へと吸い込まれていく。

「――よせよ、礼なんて」

 きっと自分は今、酷い顔をしているに違いない。こんな状況で礼を言われれば複雑な思いになるのは必定。笑って見送るなんて無理だ。

『……フフ、ハンサムガダイナシヨ?』

『アハハ、ヘンナカオー!』

 グレイスとテオは一層顔を綻ばせ、愉快そうに笑う。

 それが眷属姉妹、上級闇精霊グレイスとテオの――――最期の姿だった。


「……馬鹿野郎。バラバラな意見言いやがって……」

 力なく悪態をついて宙に浮く球体を手に取る。本番はこれからだ。

 これを無事にレーレに移植できるか、全てはそれにかかっている。

「グレイス、テオ……力を貸してくれ!」

 ありったけの願いを込め球体をレーレの身体に押し当て、言葉を紡ぐ。

「閉ざされかけた三つの道よ、どうか一つの道となって再び輝け! 簡単に言うと――生きろレーレ!! グレイスとテオと俺が、それを望んでいるんだからッ」

 ぼうっと悠理の身体が真っ白な光を帯び始める。

「おい、何だってんだこの光は!?」

「ユ、ユーリ様?」

「これは――」

「クヴォリアで見たアレか!」

 周囲の仲間達がその変化に騒ぎ始めると同時にその光は際限なく輝きを増していく。

 頭上に輝く太陽がまるでそこにもう一つあるかのように!

「レーレ、受け取って戻って来い! でなきゃ、でなきゃ――――俺はお前を許さないからなぁぁぁぁぁッ!!」

 悠理の叫びと共に、ついにその光は昼間であるというのに周囲を飲み込む程となり、全員の視界を真っ白に染め上げた。

 ――これは再現だ。クヴォリアで起きた出来事の再現。

 この光が収まった時……奇跡はそこに――――――ある。

キンドル購入して弄ってたりしたのが不味かったかな……。


次回、結果や如何に?

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