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召喚者は究極自由人!  作者: 暮川 燦
第一章・召喚されし男とグレッセ王国編
13/3919

工房街の鋼の魂

 ――スルハの街、とある地下工房にて人知れずこんなやり取りがあった。

『聴こえたか?』

 声が響く。落ち着いた雰囲気の若い声が。

『ああ、聴こえたぞ兄者』

 それに答える凛々しさを伴った声。

『スルハにまで来やがったかコルヴェイの手先め!』

 最後に響いたのは熱い怒りを滾らせた叫び。

 三人の若者を思わせる声が工房内に響いている。

 本来なら炉に火がくべられて明るいハズだが、今は主が不在だ。

 では、()()()()()()()()

 主不在のこの暗い工房で話合いは続く。

『口惜しいな……我等が自由に動けるのならばこの街の人々を守る事が出来ると言うのに……』

 落ち着きのある声に悔しさが滲んだ。

 聴こえているのに。声が。街の人達の悲しみが、怒りが。

 この地下にまで伝わってきているのに……!

 自分達は動けない。動く事が出来ない。

 それを無力と言わずして何と言おうか?

『兄者……』

『大兄ぃ……』

 彼を兄と慕う彼らも気持ちは同じだ。我等も長い間この街で過ごしてきたのだから。

 ――唯、聴いている事しか出来ないのか?

 ――我等はこんなにも願っているのに。

 ――どれ程祈っても叶わぬと言うのか?

 己が宿命を悲しみ、呪い、怒りに身を震わせようとした――――――その時。


『――ッ!?』

 地下工房のドアを蹴破って転がり込んで来た男が――居た。

 突然の出来事に混乱している声の主をよそに。

「その願い、俺が叶えてやれるかも知れねぇぜ?」

 男が不敵に笑い、そう告げた。

『我等の声を聴けるとは――何者だッ!』

 警戒を強める声の主達。それもそのはず、男は髪もボザボサで髭も伸び放題。空巣と見間違えられても仕方ないような風体だった。

「通りすがりの自由の使者――――人呼んで……ミスターフリーダム!」

 男は実に堂々とした態度でサムズアップ。

 その姿に彼等は呆気に取られた。

『ミスター……』

『……フリーダム?』

 聴いた事のない言葉だ。一種の呪文か何かかと疑いすらした。

 だが、何故だろう?

 男が自信満々に自らをそう称した言葉がとても力強く感じたのは。

「ああ、そうさ。お前らに――」

 突如、虹色の光がミスターフリーダムから立ち昇った。

 その淡い光が暗い工房内、そこに居た声の主達を照らす。

 虹色の光を浴びて暗闇から浮かび上がるは、金、銀、銅。

 三色の眩い煌きを放つ()()()

「――――()()()()()()()()!!」

 男は高らかに宣言した……。


―――――――

――――

――


「降伏しろドレフ・ベントナー! 勝敗は明らかだろう!」

 剣撃が幾重にも響き渡る中央広場で女騎士が叫ぶ。

 状況はやはり白風騎士団の圧倒的優勢。幾多の戦いを生き抜いた兵士が一般人に遅れを取るなどありえないこと。

 スルハの住民は良くやっている方だ。一人で駄目なら複数でのコンビネーションを駆使し、騎士団の何名かを戦闘不能にしていた。加えて、祝福による攻撃もしてくる。

 白風騎士団は誰一人祝福を使()()()()()()

 純粋な身体能力と研鑽を重ねた剣術のみを頼りに、一人、また一人と、戦闘に参加した住民を戦闘不能にしていく。勿論、女騎士の言いつけを守り誰一人殺していない。

「覚悟も出来ておらぬのに戦いを仕掛けおったのか? 小娘が!」

 周りからは意固地になっているとも取れるドレフの言葉。だが、この戦いで彼等が降参するハズもない。

 それはもう、女騎士にも解っていように。最早、どちらかが倒れるまで戦いは終わらぬ、と。


「――ッ! 黙れぇぇぇぇッ!」

 ――覚悟が出来ていない、だと?

 違う! と反論する様に女騎士が剣を振るう。

 鋭く、速く、連撃を持って的確にドレフの急所を突かんとする。  

「くっ、流石に寄る年波には勝てんか……。――だが!」

 繰り出される演舞、隙のない連続攻撃を二丁鉈で何とかいなしながら、『良い騎士だ』と素直にドレフは思う。力の使いどころを間違えているのは嘆くべき事だが。

「祝福発動――“剛腕”ッ!」

 彼に与えられた祝福はいたって単純。腕力を強化する、ただそれだけ。

 ――だが侮ることなかれ。この剛腕で彼は英雄と呼ばれ、鍛冶師として鉄を打ち続けて来れたのだから。

 意外な話だが、ドレフは元々身体が丈夫ではない。彼自身のたゆまぬ努力と祝福を扱いこなす才が、今のドレフを作り上げているのだ。

 ミシミシッ、と音を立てて腕の筋肉が肥大する。

 たちまち丸太の様に太くなった腕の力で、剣撃を跳ね返し、反撃に転ずる。

 力一杯右手の鉈を横薙ぎにする。女騎士がバックステップで飛ぶ――が。

「――チッ」

 完全に避けたハズなのに甲冑を薄く裂かれていた。

「厄介な祝福だ……」

 流石はかつて英雄と呼ばれた男。単純にして強力無比。

 ――ならば。

 騎士が着地した瞬間をドレフが追撃を仕掛ける。


「そこだッ!」

 刃を返した鉈を振り下ろす。

 勝った――とは思わなかった。()()()()()()()()()()()()

 何故なら……。

「勝負あったな……」

 彼女は恐らく、勝つ為にあの剣を使うだろう。そう予想したからだ。

 結果は狙い違わず。時計塔を切り裂いたあの憎き剣がドレフの鉈を粉微塵に打ち砕いていた。

「フッ、フフフ……」

 首に剣を突きつけられてもドレフは動じないどころか笑みすら浮かべている。

 ――――あまりにも悲しい笑みを。

「――――何がおかしい」

 やめろ、と。喉から言葉が出そうになるのを押し留める。

 きっと、この男は自分の聴きたくないことを言おうとしている。

 それが解ったから。

「滑稽よな。私に勝つ為に結局その剣を使うとは」

「――――――――」

 戦闘を始める際に、彼女は自分の言葉に激昂しつつもその剣だけは使わなかった。

 騎士としての誇りが少しは残っているのか?、と期待すらした。

 だが……結果はこれだ。

 

「それがお前の本性だ……。どんなに繕おうとも力を誇示する事を抑えられぬ」

 別に彼女の取った行動は間違いではない。勝たねばならぬ事柄であれば、使える手は駆使し挑むべきだ。

 だが、結局だ。ほんの少し分が悪くなったから、結局、最初は渋った力を振るった。

 ――潔くないではないか、それでは。

 そう、唯の気持ちの問題だ。何を善しとして、何を悪しとするか。

 自分の行動に、信念に従えるか? 己の生き方に恥じぬ行動が出来るか?

 つまらない理屈、いや、屁理屈だと笑われても構わない。

 何の為にその剣を使わずにいたのか。抜いたその刃は正しき使い道をしているか?


「それとも――――――力に縋っていなければ怖くて仕方がないか?」

 ドレフは問う。貴様の信念は、正義は――どこにある?

 何の為に、誰の為に剣を手に取る? これは誰の為の戦いだ。己か? 貴様の従うコルヴェイ王か?

 それとも――――()()()()()

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 ――見透かした様なことをッ!

 剣を振り上げる。最早、理性など保ってはいられぬ。

 女騎士の弱さがここで露呈した。生真面目な彼女にとって正論ほど強く身に刺さる刃はない。

 ――結局は唯の自己満足だったのだろうか?

 街の象徴を破壊すれば恐怖に負けて従うと思った。――()()()()()()()()()()()

 例え恥と言われても生きてさえいれば、いつか必ず故郷の復興も叶うと信じてきた。

 ――彼等の為だと言い聞かせて、結局は自分が罪を背負いたくないだけの方便だったのか? だとしたら――――なんて浅ましい人間だ私は……ッ!

「――もう、いい……」

 生気の欠けた虚ろな瞳で彼女は呟く。

 ――どうせなら、とことん()()()行こうではないか。

 両手で強く剣を握り締める。自分の醜さから逃げ出すように――。

「隊長っ!? 何を――」

「こ、工商長ーーーーッ!」

 白風騎士団と、無力化された職人達が叫ぶなか……無常にも。

 その白刃がドレフを引き裂かんと動こうとした。

 ――――――しかし。


『――そこまでだッ!』

 突如、一陣の風となって体当たりをしてきた()()が居た。

「――何者だ」

 タックルをひらりと避けて剣を向ける。眼前には黄金の甲冑を纏った騎士。

 ――この町には戦力らしい戦力はなかったハズ。

 ましてや、黄金の騎士なんて目立つ存在の目撃例がない訳がない。

 情報にない未知の存在へ警戒心を強める。黄金騎士がランスを構え、ビシッと佇まいを直してこう名乗った。

『我が名は黄金騎士ゴルド! 自由の使者“ミスターフリーダム”より力を借りて、我が()()()マスターグレフの危機に馳せ参じた! 貴殿も騎士を名乗るのなら、いざ尋常に――――勝負ッ!』

 誰もがその言葉の意味を理解出来ずにいた。

 そんな中、一人の男の声が中央広場に響き渡り、視線を釘付けにする。

「良いねぇ! 盛り上がって来たぜ!」

 その背後に、白銀と青銅の甲冑――更に無数の鉄鋼鎧を引連れて……。

 ミスターフリーダム――その名を廣瀬悠理。

 彼が――――――――やって来た!

うー、時間が足りない!


睡眠時間を削るのにも限界が……。


とりあえず、毎日更新目指して頑張りまーす!

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