闇は直ぐそこにあると誰もが気付かない
頭が完全に働いてない……。
いつもの5倍以上は文章が滅茶苦茶かもです。
――時は遡り、悠理達がクヴォリアを出た翌日。
コルヴェイ軍によって占拠されたグレッセ城……。その地下にある研究室でひっそりと悪意の息吹が聞こえ始めていた……。
「チーフッ! 大変です!」
まだ歳若い薄紫髪の少年が研究室の扉をやや乱暴に開け放った。気が急いている……、と言う自覚はあったものの、だからと言って落ち着けるかどうかは別の話。特に今は緊急事態、この様な無作法を気にしている余裕も無い。
「なんだい……、騒がしいねアイザック?」
少年――アイザックに応じたのはこれまた年若く、伊達眼鏡をかけた美男子と言える翡翠髪の青年。
チーフこと――――アルフレド・デディロッソ……。悠理達が敵と見定めた神に仕えし男……。
その本人はこうして彼等が向かうべき場所にいたのである。
「……メレッセリアのバドレがやられました……」
その表情に浮かぶ苦汁さえ搾り出した様な声を放つアイザック。
対したアルフレドも真面目な表情を浮かべ――――。
「――――誰だっけそれ?」
――――盛大に笑う。まるで今始めてその存在を知りました、そう言わんばかりに。
「チーフ……」
ふざける主君に対して咎める様な視線を送る。こんな状況でもいつもの飄々とした態度を崩さない所は筋金入りだ。ある意味それこそが、アルフレドのカリスマ性なのかも知れないけれど。
「ハハッ、冗談だよ! ――で、調べはついてるのかい?」
「はい、潜入させた工作員からの最後の連絡では――――」
ミスターフリーダムと名乗る男がバドレの洗脳から街を解き放った事。
彼等はグレッセに起きた異変を嗅ぎ付けスルハからやってきた事。
悠理の力を危惧し、自分達からアルフレドの存在が露見する事を恐れた工作員達は、洗脳が解けたパニックで自殺したと見せかけて自害した事……。
アイザックはそれらの内容を淡々と語っていたが、アルフレドは終始笑っていた。
――興味深そうに、或いは嘲笑うように。その意図は腹心のアイザックですら解らない。
神の右腕、アルフレド・デディロッソとはそう言う人物。何もかを見渡す者であり、自身の本心は誰にも見せない秘匿主義者――――危険な男……。
「いやぁ、ボクの祝福に引っかからない男か……ワクワクするねぇ」
「――一大事なのでは?」
話を聴き終えたアルフレドはそのミスターと呼ばれる男を自身の能力で探ってみた――――が、結果は索敵不可能。仕える神に遠く及ばなくとも彼の持つ力は世界最高峰の域。それでも見つける事が出来ない……となれば、誰もがアイザックの様な反応をするだろう。
彼等が今までこうして表沙汰にならなかったのは偏に情報戦で大きなアドバンテージがあるからだ。
何せ大陸各地で起こった出来事が丸裸なのだから。情報さえ手にあればいくらでも先手が打てる。
だがミスターフリーダムの登場で、無敵だと思われていた鎧は鉄から皮へと成り下がった。今後も彼の姿を探れないのでは、今まで有利だった情報戦で後手に回ることを意味する。
「良いじゃないか、未知の力を持っているなら良い研究材料になるよ」
――事態は想像以上に深刻……のハズなのだが、やはりアルフレドは笑ったまま。
しかし直後、細めていた目を一瞬だけギラつかせて敵意を剥き出しにする。目だけが笑っていない、目だけが戦闘態勢に切り替わったのだ。
「――とは言えだ……、引っかき回されるのも癪だし、ちょっと調べてみようか?」
「探知できないのでは?」
「なぁに、探し方の問題だよアイザック。おっ、ソレっぽいの発見!」
早速、彼は能力を展開する。特別な事など何一つ必要ない。唯、思うだけ。
何処を、誰を、何を見たいのか? それを思うだけで脳裏にはその光景が映し出される。
何故なら、世界そのものが彼に情報を提供しているから。ヨーハの持つ能力はその場に居る精霊と交信して情報を得るもの。
それに対してアルフレドには制限が無い。言うなれば完全な上位互換の祝福である。
「どれどれ――――ほぅほぅ……リスディアくん、だっけ? 彼女の部隊以外にも実に面白い面子が揃っているじゃないか」
さっきはあくまで悠理を知覚しようとしての失敗。なら、今こちらに向かっていると言う軍勢を探ればいい。そしてそれはあっさりと成功する。これにより、知覚出来ないのは悠理本人だけであるのと確定した。
「何か面白い物でも見つけたのですか?」
「色々居るけど、死神が一匹纏わりついてる……しかも上位――――あー、何処かで見た事あると思ったらあの子じゃないか! ――良いね、研究材料としては最高だよ!」
色々――――と言いながら、彼はカーニャとノーレに視線を移しニヤリと笑った。その近くに居た死神の少女と、角付きディーノスに乗って移動する彼女の後ろにぽっかりと空いた空間。
恐らくはそれがミスターであるとアルフレドは見当をつける。これで自身の見渡す能力は完全に無効化されていると解った。
――が、既に彼は悠理の存在を頭の片隅に追いやっていた。何故なら――――獲物を見つけたから……。
「――お戯れになりますか?」
「そうだね――でも相手は上位死神だ。念には念を入れて彼を使おうじゃないか」
パチン、と指を鳴らすアルフレド。それに応えたのは……。
「――――ご命令を」
何処からともなく闇から這いずる様に出てきた黒い鎧の騎士だ……。
騎士は何の感情を見せる事無く、作業内容をプログラムされるのを待つ機械の様にじっとその場で立ち尽くす。唯、そこに居るだけだと言うのに強烈な存在感を見せるその男がアイザックは苦手だった。
だから、彼がそこに居る間、アイザックはずっと眉間に皺を寄せ続けるはめになる。――――威圧感で、だ。
「この子の祝福をかっぱらって来てくれないかな? 手段は問わない、確実に手に入れる為なら何でもしてよ」
近くにあった精霊石の水晶玉に自身の見た光景を入力する。すると、見る見るうちに水晶へ少女の姿が映し出される。
少女の名は――――レーレ・ヴァスキン。
「――――御意……」
水晶玉を受け取った騎士は現れた時と同じく、ぬるりと闇に音も無く溶け込んで消えていった。
「……過剰戦力では?」
騎士が居なくなった事でようやく威圧感から解放されたアイザックが呟く。
今この場において最高戦力と呼べるモノが彼だ。負ける要素なんて欠片も見当たらないが、もしもが起きたならこの戦いは自分達の負け――――と言う事になる。
いや、そのもしもの危惧以上にアイザックは彼の騎士が暴れた上で起こりえる被害を懸念してた。
しかもアルフレドは手段を問わないと言った――――枷が外れた獣が何をしでかすか……。
そう考えると再び眉間に皺が寄っても仕方ない事だった。
「うーん、そうかな? ボクの読みが正しければ、そのミスターフリーダムって奴にはどれだけ警戒しても足りないんじゃないかな?」
アルフレドは天才である。彼が神に仕える事を許されたのはその才能と、才能を乗りこなす力量がその地位に相応しかったからだ。
(ボクの視界から逃れられるのはレイフォミア様だけ……。つまりソイツに何かしたって事でしょう?)
ミスターフリーダムが、自らの仕える神が手を出した存在であると既に彼は見抜いていた。天才であれば至極当然だ。
「――抵抗するならすればいい、ボクはボクの望みをアナタに押し付ける為にソイツを打倒しますよ……!」
遥か彼方、天空に浮かぶ神の居城――――“天空幻想城”。
そこへ向けてアルフレドは天井へと手を伸ばし、不遜に、不気味に笑う。
これは挑戦……、天才であるが故に愚かな行為に走った男の夢物語……。
仕える神に否定されても尚、彼は己の望みを目指してひた走るのみ……。
――もう、そうするより道はないのだから……。
次回、アルフトレーン編開始です。