栄光を掴む手、忍び寄る破滅
あつくて執筆に集中できねー!
何とか書けたんだけどさ……。
本来書く予定だったシーンとかカットしちゃったんだよな(あまりにも暑さでだるくて)
まぁ、本編には影響ないから良いけどさ
「おいミスター、代表者へ話は通しておいたぜ」
「助かるよセレイナ様、ヨーハもご苦労様」
セレイナとヨーハが街の代表者へ事の次第を伝えに行って戻ってきたのはファルールと話を終えてから数分後の事。もう少し早かったら、ファルールに寄りかかられるシーンを目撃される所―-――間一髪。いや、見られた所で咎められる謂れもないハズなのだが……。
「は、はひ、もうクタクタれすぅ……」
言葉通りに疲れ切ってヘロヘロのヨーハがその場にしゃがみ込む。その際、ロングスカートが土で汚れない様にちょっぴりたくし上げたのは、ナイスと言うしかない。
侍女にとって侍女服はまさに命。その中でもスカートは乙女の下着を隠す大切な役割を持つ部分だ。決して疎かに扱ってはいけないモノである。そこをキチンと心得ている辺り、彼女は侍女の鑑と言えよう。
「――そんなにくたびれる程の仕事頼んだっけ?」
「お前等は知らねぇと思うがこいつは公に出る時は猫被ってるからな」
「ああ、流石に仕事中は真面目にやってんのか……」
猫を被っている――と言うのは些か語弊があるし、それを言うならセレイナだって公の場ではちゃんとした言葉遣いで話している。要は二人とも公私を上手く使い分けている訳だ。
――とは言っても、普段と違う態度と言葉遣いを使うというのは確かに疲れるものなのだろう。特に普段は非常にその――――アレなヨーハだ。堅苦しい態度を取るのは苦手だったりするのかも知れない。
――そんな彼女が王女の御付をやって行けてるのが不思議でならなかったりもする。
「あっ、今ヨーハのことバカにしましたねー!」
「何言ってんだ、感心してたんだよ。偉い偉いー」
しゃがみ込んだ状態からむぅっとむくれ、上目遣いで睨みつけてくるヨーハ。
それに対して悠理は“廣瀬流・撫で殺しの刑”で誤魔化しにかかる。
説明しておくと、この“撫で殺しの刑”であるが――――普通に頭を撫でるだけの技……。しかも、対猫用に開発された撫でテクニックであって人間用ではなかったりする。
「おいおい、そんなんで誤魔化される訳――――」
「エヘヘー、偉いですか、偉いですか? もっと撫でてくださーい!」
――意外にも好評なようであった。
「オイッ! 何でミスター相手だとそんな簡単になびいちまうんだお前は!!」
仮にもこの残念色ボケ侍女は王女に仕える身。それなりの訓練は受けているし、拷問にかけられても簡単には口を割らないと自慢出来る逸材。
実際、ルンバ達の尋問時にはふざけた態度を取りつつも決して情報を渡さなかった――――なのに。
何故か悠理に関してはそれが発揮されていないのだ。
「何でと言われましても――――あ、あんな事をされたら……ぽっ……」
ぽっと顔を赤らめてヨーハは顔を覆う。脳内で再生されるイメージ映像はアレ。“廣瀬流・足洗い拷問”を仕掛けられ時のアレ。
あの衝撃を言葉で表す事など彼女には出来ない。今でもその身体――――右足が鮮明にあの未曾有の快感を覚えている。言葉など最早――無粋。
「――――そうだったな、アレの性で骨抜きにされたんだったな……ミスター?」
「な、何かなセレイナ様?」
「この責任は必ず取ってもらうからな? ――――死んで逃げたりすんじゃねぇぞ……」
「――女の責任取れって脅迫じみてるよな……。まぁ、こんな所で死ぬ気はねーさ」
「――――カーネスは強ぇ……。元から強かったが、操られたアイツは普段の数倍以上だ。お前もそれなりに強いけど、アイツには……」
実際に二人の力を目の当たりにして感想を述べるセレイナ。
いや、そのどちらの本気も知らない彼女が言う事は所詮は予測。外れる可能性の方が高い。
――けれども乙女の直感、はたまたそれ以外の何か悪戯をしたのか……。
彼女の憶測とも言える評価は――――当たっている。悠理ではカーネスに一歩届かない。妙な確信がある。
それでももう、信じて送り出すしか手は――ない。
「――へっ、上等! 俺が一発キツいのかまして目ぇ覚まさせてやらぁッ!!」
微かな彼女の不安を読み取ったのか、やけに見栄を切って悠理は応じる。
行き当たりばったりはノレッセアに来てから日常茶飯事だ。どんな状況でも自分は出来る事をして乗り切ってきた。今回も同じ、それだけだ。
「――フンッ、カーネスがお前なんかにあっさり負けるとは思わねぇが……頼んだぜ?」
今は操られ敵に身を落としていても旧知の仲。簡単に負けて欲しくない――――と言う思いがセレイナの中にあって、思わずそう口にしていた。
「応よ、任されて! ――――ってあれ?」
大して気にした風もなく応じた悠理だが、ふと、この場に居るもう一人――ヨーハがさっきから静かになっている事に気付き、視線を落とせば――――。
「――きゅ~……」
――頭を延々と撫でられ続け、茹蛸みたいになって目を回したヨーハの姿が!
「うおっ!? 馬鹿、撫ですぎだ!」
「えぇっ、撫でんのにやり過ぎとかあんのかよ!」
セレイナの指摘に慌てて頭から手をどけるが…………時既に遅し。ヨーハそのままぐらぐらと盛大に揺れて悠理の胸へと倒れこんでしまう。
「ヨーハは優しくされ過ぎると茹で上がっちまうんだよ!」
「何だソレ!? と、とりあえずこれどうするよ!」
「良いか、こう言う時は――――」
突然の事態にてんやわんや。とりあえず、セレイナの指示でヨーハをテントで休ませる事にした悠理は彼女を背中に担ぐ。
「――うぅっ……、行っては……駄目……」
その時、微かにヨーハが魘されて何かを言っていた様な気がするが、彼女を運ぶ事を優先して悠理はその声に意識を向けていなかった。
「アル……レーンに……ったら……スー、スー」
そして、悠理はアルフトレーンで後悔する事になる。
そこで起きる――――初めての敗北と喪失を……。
次回、遂にあのキャラが登場?