数以上に増えていく責任
書けた……けど、いつも以上に筆が遅かったんだぜ。
――暑さの性だよな絶対……。
メレッセリアに到着した次の日の夜……。追いついて来た白風騎士団と街の郊外で合流し、今は野営の準備中である。
そんな中、悠理はファルールにメレッセリアで起きた事を説明していた。合流した際に騎士団全員へ簡単ながら詳細を伝えてある。――が、数日振りに会うファルールと交流を深めるべく、態々こうして時間を作ったのだった。
「――成程、それでこの大所帯な訳か……。しかしやるじゃないかミスター、あのルンバ・ララどのを説き伏せるとは」
結局、あの後ルンバ・ララは素直にもこちら側へ恭順を示した。彼なりに悠理の力を認めたと言う事なのだろう。部下達が反発するかと思ったが、すんなり従ってくれたのも助かった。折角、精鋭部隊が加わったと言うに関係が拗れていたらチームワークを乱す原因になりかねない。
そう言う不安要素が解消されたのは良いことだった。
「――あー、大変野蛮なコミュニケーションだったけどな……」
――拳で語るのを説得と言っても良いのだろうか? 少なからず悠理は疑問を抱かざるを得ない。
「こみゅに……? ――何だか解らないが、この戦力は数以上に頼もしいのは間違いないぞ?」
北方出身のファルールには、ルンバ・ララとその部隊がどれ程の実力を有しているか良く知っている。
最も、彼女が知っているのは彼等の故郷が滅びる前の頃で、現在は当時ほどの戦力がないのは重々承知の上だ。白風騎士団よりも実力は上だろうが、祝福を奪われている身では大差は殆どないと言って良い。
しかしながらルンバ隊の殆どは歴戦の雄、古参兵。集団戦闘での駆け引き、行動の迅速さ、連携、そのどれもが高い錬度であるのは間違いなく、仲間に加えるにあたり頼もしいことこの上ない。
「それには同意するんだけど……問題があってさ……」
ルンバ隊の加入を喜びつつも、悠理はこの先に待ち受ける問題に頭を悩ませていた。
スルハからグレッセ王都への最短ルートは三つの街を経由をする
最初に訪れたクヴォリア、現在地のメレッセリア、そして最後にアルフトレーン。
これはルンバ隊からもたらされた情報なのだが――――アルフトレーンは既に占拠状態にあるらしい。
逃走したセレイナ達を捕まえる為に敵が放った隊は二つ。一つはご存知ルンバ隊、もう一つはカリソ・メーと言う男が率いるカリソ隊。
このカリソと言う男がまた曲者なのである。卑怯、卑劣を厭わない悪漢で北方でも悪名高い事で知られているらしい。彼はセレイナ達がアルフトレーンを既に抜けた事を知ると、おびき寄せる為の餌として住民を人質に取ろうと画策したのだ。
ルンバ・ララの必死の説得により計画は未遂に終わったが、カリソ隊はアルフトレーンに残留し、ルンバ隊は説得の交換条件としてメレッセリアまで追う事になったのである。
もしも彼等が任務に失敗したとなれば、カリソは躊躇なく住民を人質に取るであろう。
「……ふむ、今度ばかりは大規模戦闘は避けられないと言う事か……」
ファルールもカリソの悪名は良く知っている――――が、恐らく約束はまだ守られているだろう。彼の男は人間としてはクズだが、人を殺める事に快楽を見出すタイプではない。
それに彼は面倒臭がり屋としても有名なのだ。街の住民を人質に取るなんて重労働、例え効率が良いとしても可能ならやらずに済ませたいだろう。だからこそルンバ隊に追跡を任せたのだから。
――だが、悠理達が敵として現れたのなら話は別。何の躊躇もなく人質作戦を敢行するだろう。
話を聴けば聴くほど、ファルールやリスディア、ルンバ達の様に説得が通じるとは思えない相手……。
今度ばかりは完全な敵として認識し、徹底的に潰しておく必要がある。――戦闘は避けられない。
「まぁ、部隊の指揮は隊長に任せるんだけどさ――――素人が指揮執るのなんて無茶にも程があるし」
「ミスターに求められているのは、指揮力ではなく一騎当千の戦闘力だろう。問題はあるまい」
「んー、でも戦場が広ければ俺が助けられる範囲なんて限られて来るからなぁ……」
ふとここでファルールは会話に妙な違和感を覚える。指揮をルンバに託し、悠理が単体で動くことは戦術としては好ましい。ましてや悠理やレーレほどずば抜けた戦力には集団戦も個人戦となんら変わらないだろう。だったら始めから個人で動いて貰う方が指揮を乱さずに済む。
――――のだが、悠理の発言はどうもニュアンスが違うように感じられたのだ。
「――もしやミスター、味方に損害を出さない為に敵を全員相手にしよう――――とは、考えてないだろうな?」
「えっ、何言ってんだ普通だろ?」
予感は的中、悠理は単体で動くつもりであったが、それは一人で勝手に突っ走ると言う訳ではなかった。出来る限り多くの敵を自分が相手にし、味方への被害を極力減らす為の囮……。
彼のやろうとしていた事はつまりそういう事だった。
この部隊の中心――ひいてはグレッセを救う人物とは思えない突飛な考えにファルールは呆れるしかなかった。
「……それじゃあ、何の為の部隊か解らないだろう……。我々の存在を蔑ろにするつもりか?」
仕えるべき主に守られいては自分達の存在意義とはなんのだろうか? 共に戦う事すら許されないと言うのか我々は?
一人の騎士として、兵士としての存在理由を否定されたも同じ行為。怒りよりも悲しみの方が先ず勝り、ファルールは何とも言えない苦い表情を晒してしまう。
しかし、その表情は悠理の一言によって晴れる。
「そう言う訳じゃねぇが――――守りたいだろ、どうせなら全部」
「……ミスター」
――守りたい。騎士や兵士の存在理由が主の為に戦う事ならば、主の役割はその全てを守り、生かす事にこそある。少なくとも悠理自身はそう思うのだ。であるなら正しくなくとも間違いでもないだろう。
「責任……つーかさ、こうして俺に付いて来る連中の命は、間違いなく俺が背負わなくちゃいけない訳で。そしたら、やっぱり誰一人欠けて欲しくないじゃねぇか」
恥ずかしげに頭をぼりぼりと掻きながら胸の内を明かす。上に立つものの責任なんて悠理にはまだ良く解っていない。
――いないが、いないなりに理想を持つことは可能だ。だからこうして理想を掲げる。
「でも、俺には的確な指示が出来る訳でも、生存率を上げる方法を編み出す知恵もない……。強いて言うなら、俺にあるのはこの出鱈目な力だけ……だったら、コイツを使うしかない。使って使って、使いまくって……多くの敵を倒す位しか、さ……」
自分に出来る事が限られているのなら迷う必要は無い。一心不乱に我武者羅にそれをやり通せば良い。
それが掲げた理想を叶える唯一の手段だと頑なまでに信じて……。
「――あまり気負い過ぎなくていいよミスター」
主の口から語られた想いに寄り添うように悠理へ身体を密着させるファルール。
彼の右肩に頭と体重をそっと預ける。突然の行動に悠理は驚いたみたいが、それも一瞬で……。
「ん……そうかな?」
ちょっとだけ恥ずかしそうにしつつもその行為を受け止めていた。
触れ合った身体から伝わるのは熱、だがそれ以上に悠理の身を気遣うファルールの想いが伝わってくる様な気がした。
「私やレーレだって居るじゃないか、ミスターが背負うものは私達が背負うものでもある……違うだろうか?」
主とその従者の関係は縦である事が多い。でもそれだけではダメだとファルールは最近思う様になっていた。
時に横の関係――対等な立場から接しなければ信頼関係や相手に対する想いは伝わらないもの。
特にこの廣瀬悠理と言う男は、仲間を大切にする癖に自分一人で突っ走ろうとする気質がある。
こうして自分から迫って行かなければこの鈍感すぎる主には解ってもらえまい。スルハを発って別行動が増えたから、彼の事を恋しく思う気持ちが行動に移させたのかも知れなかった。
「――――可愛い女の子達には出来るだけ背負わせたくねぇ荷物だよなぁ……。まぁ、こう言う時代なら普通の事かも知れないけど」
「お、女として扱ってくれるのは嬉しいんだが……やっぱり、頼ってくれると嬉しいものだよ」
「そっか、じゃあ少しは頼ってみるかな?」
そう言ってニッと悠理が笑う。そこに嘘を付いている様子は見られない。
彼の良い所はこうして本音でぶつかれば応えてくれる所にあるのだろう。
「ああ、任せておけ!」
――ならば今度はファルールが応える番。
この先に待つ戦いで悠理の力になるべく、彼女は密かに気合を入れるのだった。
久々にファルさん登場!
実はファルさんにだけは、イメージCVを勝手につけて執筆作業をしています。
(因みにイメージCVは日笠さん)
さて、気付いたらブクマ52、104ポイントに増えてたよ。
昨日一人増えて、執筆前に確認したら一人増えてたね。
これからも徐々に増えていくと良いなー。
まぁ、俺は増えることよりも減らない事を願ってるんだけどさ。
次回はセレイナ様とヨーハとの会話でござい。