反逆への道筋
うおー、書けないかも?って思ったけどなんとか書けたぞー。
――相変わらず頭は回ってない気もするが……。
「――成程! 神様とチーフの動きがチグハグって事ね!」
――30分の激闘は無駄にはならなかった様だ、と悠理は思う事にした。一同が1分と掛からず30分前に通った道を満面の笑みで語るカーニャ。少なくともその笑顔を見れば説明して損は無かったかなと思う。
――けれど、いつまでもそれに見惚れていては話は進まないもので……。
「ああ、同じ陣営なのに、チーフの手下であるバドレを邪魔しても何の横槍もねぇ。――と言うより、レーレの話からすると俺の存在に気付いていない事が既に妙なんだ」
チーフ――アルフレドは神様ことレイフォミアの側近。バドレはその側近の手下……。
悠理は神様によって力を与えられた可能性が濃厚――なのに何の接触もなく、バドレを倒した事に対する行動もみられない。明らかに妙、組織内での行動が一致していない。
力を与えた存在を導きもせず、側近の行動/計画を潰す事を良しとする理由が何処にあるのか?
考えれば考えるほど謎は深まるばかり。しかし、その謎を明かさねば状況を打破する妙案は生まれない。
――――その為に意見交換をしていたのが30分前のことである……。
『ああ、俺も詳しく知ってるわけじゃないが、アルフレドの能力がユーリを見逃すハズがねぇ。恐らく、レイの奴はそれも見越した上でユーリに力を与えたんだろう』
世界の監視者たる神の側近アルフレド。その力で存在を認識出来ないものはない――たった一つの例外を覗いては。
それは自らが使える神――――レイフォミアとその力を直接与えられた存在。
神たる者の恩恵を授かったなら、それは神の眷属に等しい。側近と言う位置に収まったアルフレドでは決して届かない領域。つまりは今の所、悠理をそう言う存在として推測するしかない。
――いや眷族と言うより、神の力を身に纏った放し飼いの狂犬……とでも称するのが妥当だろう。
「でも何で? 仲間なんでしょ?」
カーニャの質問は見事に話題の中心を突く。そう、誰もが気になっている事だ。仲間同士で突然足を引っ張り始めたのなら、何処かに動機があるハズなのだ。
「チーフって奴が裏切ったんじゃねぇのか?」
『そりゃねぇよ、奴はレイに心酔してっからな。――独断行動なのは間違いなさそうだがな』
セレイナの説を即行で切り捨てるレーレ。彼女が言うにはアルフレドはレイフォミアに忠誠を誓っており、500年以上もその傍で助けとなっていた男だ。
今更裏切るなんて理由がない上に馬鹿馬鹿しすぎる。そう言い切ってしまえる程に有り得ない話――と言うことだ。
「――まぁ、今向こうの状況を推測したって仕方ねぇさ。それにバドレを潰した事はもうとっくにバレてる頃だろ? 今度は間違いなく横槍を入れてくるだろうぜ」
拳を鳴らしながら来るなら来いという気合に満ちた表情の悠理。今まではアルフレドに直接関わる動きが無かったから、その目からは逃れられていた。――が、部下を潰したとなれば違う。彼が神様から力をもらった存在なのは直ぐに見当がつけられずとも、自身の計画――その一端を邪魔したのだから潰しに来るに決まっている。
「うえぇっ、か、神様の私兵と戦いになるんですか!?」
事の大きさに悲鳴を上げたのはヨーハだ。明らかに狼狽している。
『何だビビってんのか?』
「そりゃそうでしょ……やっぱり強いんでしょう?」
カーニャも気持ちは同じ、神と人間との争いなんて500年前の“ノレッセアの審判”以来起こっていない。――と言うより、人間には当時ほどの力は残っていないのだ。500年前と今では祝福の質が違う。
何が原因かは判明していないが――――劣化しているのだ。
今の世代が持つ祝福は500年前の人々からすると五分の一程度。
レーレはその当時の人間(元)であり、死神だから強いと言う訳じゃないのだ。現在だからこそ人にとって死神は恐れる存在ではあるが、昔はそれほどの脅威ではなかった。
極端な例だが、田舎町の腕自慢でも運が良ければ勝てたりする――それほどまでに祝福の質が高かった時代、それが500年前。
だからこそ、神魔を相手に戦争を仕掛けられたのだが……今となっては見る影もない。
同じ理由で神の私兵も当時の標準位の強さだが――――やはり、カーニャやヨーハからしたら脅威と言うしかない相手だ。
――まぁ、彼女達が知りえているのはあくまで御伽話の知識でしかいないが。
『ん? レイ以外なら大した事ねぇよ。そうだなぁ――』
そんな不安をよそにレーレは何でも無いと笑う――が、結果論だとしても彼女は強者。
所詮は弱者の位置からは物が見れないのだとカーニャ達は知ることになる。
『――例えるなら、一番雑魚がドラゴンの低級クラスってとこか』
勿論、今のドラゴンの低級だ。
「お、マジで? 是非とも戦ってみたい所だぜ! なぁ、セレイナ様?」
「――フッ、相手にとって不足はねぇな!」
何故か悠理のフリにノリノリなセレイナ。あんな巨大なハンマーを振るう訳だから、強者に挑む事への悦びは持っていて当然かも知れないが――――少なくともそれは一国のお姫様の言動だろうか?
「ちょっ、セレイナ様!?」
「ユーリも何言ってんのよ! ドラゴンよ? ド・ラ・ゴ・ン!」
張り切る二人に対して各々突っ込みが飛ぶ。ヨーハは『勘弁して下さい!』と言わんばかりの表情、流石にドMであっても次元の違う相手に蹂躙されるのは御免らしい。
カーニャも悠理に対して『アンタ馬鹿ァ?』と言いたげである。
「いやー、俺の世界だと作り話にしか居ないからさぁ……。憧れだったんだよね!」
「ユ、ユーリさん、ドラゴンって言うのは生物の中でも最強クラスで、低級ドラゴン一体討伐するのに国の一個師団が必要で――」
如何にも憧れで目が曇っている……そう感じたからこそノーレはドラゴンの脅威を精一杯説こうとしたのかも知れない。けれど悠理の一言でそれは間違いだと知る。
「――じゃあ、聴くけどよ。だったら黙ってやられるか?」
「それは――!」
放たれた一言にカーニャ達はぐぅの音も出ない。
相手が強大だから、自分達では勝ち目が無いないから……そう思うのは勝手だ。
――それで滅ぼされても良いのなら。
『色ボケ侍女もカーニャ達も覚悟決めろって……。連中が何で地上へ干渉し、コルヴェイ王と組んでるかなんて知らないけどよぉ、やるこた一つだろ?』
「ああ、一つっきゃねぇ」
「ああそうさ、俺様達のグレッセを取り戻す為、コルヴェイ軍の脅威から民を守る為には道は一つしかねぇ」
三人は既に覚悟を固めていた。この先は単純にグレッセとコルヴェイ軍――アムアレアとの戦いじゃない。
そこは神の使える男――その勢力が絡んでいる。即ち、神を相手取る戦いになりかねないのだ。
だからと言って彼等が尻込みするハズがない。レーレはレーレなりの考えで、悠理は自由を貫き通す為、セレイナは自国に平和を取り戻すことを胸に秘めている。
――その決意の前に立ち塞がるモノが何であれ……。
『やらなきゃ――――』
「――――やられる……!」
結果は非常にシンプルなモノ、弱肉強食……。その摂理に抗う為には徹底抗戦しか――強者に伸し上がるしかないのだ。
「ミスター、今の俺様にはグレッセ王女としての力なんて無いに等しい、だが――――」
セレイナが跪き悠理に頭を垂れる。本来ならあってはならないその行動に一同が驚愕するが、本人は気にした風もなく続ける。
「――――この国と、大陸の未来の為に、及ばずながら力を貸そう」
今の彼女の立場は非常にあやふやなもの。国を取り返さない限り、セレイナは唯のセレイナなのだ。
でもその心から国を思う王女としての気質が失われた訳ではない。むしろ、己が置かれた状況に悲観するのではなく、だからこそ前を向く姿勢にその気質は一層高まっている様に見える。
「……セレイナ様」
主の姿に驚きつつも何処か満足気なヨーハ。この時、彼女も重大な決意をしたのだが、その事は一旦置いておく。
「――ハハッ、俺の力だって連中に通用するかなんてまだ解らないさ。だから未熟なのは同じだし、そんなに畏まらないでくれよ」
自身も同様に膝をついてセレイナへ手を差し伸べる悠理。あくまで同じ位置、同じ高さから。
「一緒に戦ってくれよセレイナ、俺には自分の力を磨く以上に多くの仲間が必要だ。お前の人脈って言う力が、いつか俺の――――この世界を救う力になってくれるハズさ!」
悠理から出た言葉にセレイナは目を見開いた。何故って、彼はもう先を見ている。
既にグレッセを救った未来、そしてコルヴェイ軍と神の側近共……その脅威と決着を着ける未来を。
そして、その場にセレイナが、多くの戦力をかき集めて共に戦ってくれると信じて疑っていないのだ。
――これが彼の言う自由、なのだろうか?
器が大きいと言えばいいのか、夢想家と笑うべきなのか……。ともあれ、その言葉には確かに宿っている気がした。
何者にも縛られない強い意志――――自由が……!
「……ミスター――――ハッ、任せておけよ!」
差し出された手を強く握り返す。さぁ、共に始めよう。自由を取り戻す戦いを……!
(――ああ、託そう。お前ならこのグレッセを――カーネスを救ってくれると信じてな……)
――こうしてこの日、ミスター・フリーダムこと廣瀬悠理と、グレッセ王国王女セレイナとの間で同盟が結ばれた。
祝福されし暦1386年、ソゥガの月(地球で言うと2月頃)、その中旬頃の出来事である。
次回、グレッセ王都への中継地点、その最後の街への出立準備――の予定です。