もう、お姫様って単語に期待するな
久々に4000文字を超えたな……。
いや、出来栄えは相変わらずなんでもっと精進したいんだけどね……。
――ヨーハのテントに入ってから悠理は常に視界を“虹色”へ切り替えていた。
180人強を動員しての姫様探し……、どうして彼等は見つけられなかったのか?
見たところ、兵士一人一人の錬度は高いし、連携も取れている様に思えた。なのにどうして彼女達の影すら掴めなかっただろうか?
その疑問を解き明かす為に悠理が取った行動がこれだ。
彼女はきっと――――祝福で視界から逃れているのだ、と。
直感に従った結果は見事に大当たり。
お姫様は彼がテントに入ってきた時には既にそこに居た。悠理を警戒したのと、そして恐らくはヨーハをダシにして情報を掴ませようとしたのだろう。彼女は様子見に回ったのだ。
ヨーハを快楽で放心させた後、彼女はゆっくりと悠理の背後へ回って行く。
多分、この瞬間が警戒心がもっとも薄いと判断したのだろう。
だが――――見えている相手にそれは通じない。
何もかもお見通しだと、言わんばかりに悠理は振り返って――――。
「――そこにいるんだろ? お姫さ――――ぬおぁッ!?」
――脳天目掛けて振り下ろされた戦鎚を間一髪で受け止める。
右拳を咄嗟に打ち合わせたが、当たり所が悪かったのか、人間のそれと比べ物にならない悠理の腕がミシミシと軋む。
これは受け止める際に、一気に腕力を強化してしまった事も関係している。通常は腕を強化する際は十分に力を溜め込み、段階を踏んで徐々に強化していくのがセオリー。
だが、さっきは突然の事でその工程をすっ飛ばして丸太サイズまで腕を肥大化させてしまった。
――いいや、悠理はこの技でエミリーと力比べして勝ったのだ。それがたかが無茶をした程度で押される訳がない。単純に強力な一撃。喰らったのはそれだ。当の本人は『世界は広いなぁ……』と苦笑し途方に暮れたい気分……。
――が、そんな事は目の前の相手がさせないだろう。彼女は悠理の腕を見て一瞬ぎょっとした。
「これは――――グレフおじ様の剛腕、か? テメェッ、“祝福殺し”か!」
確かに、グレフ・ベントナーの“剛腕”と似てはいる――が、それと“祝福殺し”を関連付けるのは無理があると言うもの。――――もしかしたら、彼女の中では筋が通っているのかも知れないが……。
「いやいやっ、何か誤解してないか!? ――と言うか、お姫様、だよな?」
「あ゛ぁ? 何疑問符浮かべてやがる! 俺様が正真正銘のグレッセ王国第一王女――――“セレイナ”だ!!」
今更ながら目の前に居た人物に目を凝らす。ありのままで言うのなら男装の麗人――なのだろうか?
顔立ちは凛としていて美形ではあるが、雰囲気は何処となく粗野っぽさがある。
たなびく黄色のポニーテールがその粗野っぽさを一層引き立てている――――言うなればアウトロー的な。
「お、俺様? 何か想像してたよりも逞しいんだが……」
「――――ッ! テメェ、女の子に向かって逞しいとは何だゴラァッ!!」
悠理はどうやら失言をしてしまったらしく、切れたセレイナが戦鎚の力が増す。
外見も言動もそこら辺の男よりも男らしいのだが、内面は立派な女性であるらしい――――何ともややこしい事だ。
「そ、その言い方が、逞しいってんだ――――よッ!」
力比べで負けてなどいられない。多少の無茶は承知の上で右腕を瞬間的に限界突破も辞さない勢いで強化。そのまま勢いに任せて戦鎚を弾き――返す!
「――っ! ……へぇ、俺様の“ヘレンツァ”を押し返すなんてやるじゃねぇか?」
バックステップで距離をとりながら、不敵な笑みを零すセレイナ。
彼女の持つ“戦鎚ヘレンツァ”は言うまでも無く、精霊石を使用した武器。しかも製作者はグレフだ。
ひたすら破壊力のみに固執した結果、とんでもない化物が生まれた――それがこれ。
元々、王家への献上品と言う事だったのだが、あまりの威力にお蔵入りになってと言う悲しい経緯を持つ武器でもある――――が、どこでどう間違ったのか、現在はこうして国の第一王女の手に渡っている。
しかも、問題はそんな化物武器を軽々と扱う上に、容赦なく人に振り回すところ。
これがもし廣瀬悠理でなかったら――――ミンチになっていたのは間違いない訳で……。
「なら今度は全力でぇ――――!」
――今のは全力じゃなかったのか! 腕チョー痛いんですけど!?
そんな事を叫ぼうとするよりも早く、セレイナは襲い掛かってきそうだった。
「ちょ、ちょっと待った! とりあえず、これを見てくれっ!」
――だが、悠理の行動が早かった。懐から手紙を取り出すというただそれだけの動作なら、彼女が地面を踏みしめるよりも遥かに速い。
「あ゛ぁん? 手紙なんか出して一体な――――」
命乞いなんて聴かねぇぞ?、と言わんばかりの凄み。しかし、それも手紙に押してあるマークを見て驚愕で掻き消された。
「こ、これはスルハの刻印!? よ、寄越せオラァ!」
一瞬で悠理に近づいて手紙をふんだくると、ヒットアンドアウェイの要領で元の位置に戻っていくセレイナ。丁寧に手紙を開封するとそこに書かれている内容に目を走らせる。
「あー、聴いてたと思うが、俺はグレフの協力者だ。信じてもらえるならアンタ達に力を貸すつもりだが……」
手紙に目を落としたまま微動だにしない背中に声をかけるが反応はない――と思いきや、暫くするとセレイナがプルプルと震え始め……。
「――間違いねぇ……。これはグレフおじ様の字だ――――――う、ふぐっ……!」
「お、おい、どうしたんだ?」
――彼女が突然泣き出すと言う緊急事態に悠理も戸惑う。さっきまでの粗野っぽさや強気な態度は見る影もないからだ。
「良かっだぁ……、ぐしゅっ、スルハが……占拠ざれだっで……ここの連中が言っでだからぁっ……」
先程まであんなに勇ましかった表情をくしゃくしゃにして泣き出す。言葉は荒っぽいままだがそこに居たのはもう普通の少女……。
セレイナは――――ずっと不安だった。占拠された城から脱出し、スルハを目指して逃げたは良いが、追手の話を聴けばスルハも別働隊により占拠されたと言う。
そもそも、こんな手紙の内容を鵜呑みにして良いはずはないのだ。けれども、そこに書かれている字は間違いなく、父親であるグレッセ王の親友――グレフ・ベントナーのもの。
改竄された偽者可能性――――有り得ない。この字の癖は真似しようと思って出来るものではない。
洗脳、或いは脅されて書かされたものではないか?――――まさか。
彼がそんな柔な人ではないことは良く知っている。そんな事をする位なら戦って散ることを望む様な人だ。
だから――だからセレイナはこの手紙を信用する。そこに尊敬する人の想いと姿を見た気がしたから……。
「――安心しな、グレフはピンピンしてるし街の皆も無事だぜ!」
「あぁっ、信じりゅぜっ! ズビーッ!!」
そんな彼女の心中を察した悠理も、皆が無事である事を満面の笑みで伝える。
乱暴に涙をごしごしと袖で拭うセレイナ。元々は素直な性格なのだろう、グレフからの紹介である悠理を最早疑うような真似はしなかった。
「――とまぁ、そんな訳で俺と一緒に来てもらえるか? 仲間も直ぐに動いてくれるハズだから」
「とりあえず詳しい話は後でって事だな? 解った――――――おい、ヨーハ! テメェ、いつまで悶えてんだ!!」
あまりこの場に長居も出来ない、彼女もその事を察してくれたのか、放心状態のままのヨーハの頭をすぱこーん、とはたき正気に戻す。
「――あひぃぃぃん!? あ、あれ? セレイナ様? ご無事だったので――――あふん!」
どうやらあまりの気持ち良さに若干記憶が飛んでいるようだ。悠理が来る直前に軽いやり取りは交わしていただろうに……。
「良いからズラかるぞ! さっさと準備しろやっ!!」
そんな一味も二味も癖のある侍女の扱いはぞんざい。もう一発彼女の頭をはたきつつ、セレイナは拘束を解除していく。
「は、はい――――って、ひゃぁぁぁぁぁんっ!」
拘束を解かれ、立とうとした瞬間にヨーハがバランスを崩して倒れ込む!
「お、おい、大丈夫か?」
咄嗟に悠理が反応し、彼女を抱き止めたので怪我はなかったが――――一体どうした事だろうか?
「――――はぁ……はぁ……は、はい、実はあの……、ヨーハはですね……」
恥ずかしそうにもじもじしながら悠理の顔をチラチラと見るヨーハ。
それは単純に異性に抱き止められているこの状態に対してだけではない様に見える。
――いや、とっさの事だったので彼女は結構大胆に力強く抱きしめられているし、乙女であったら誰しも緊張して然るべき状況ではあるのだ……。
「……さ、さっき足をいやらしく撫で回された所為で、その――――敏感になってまして、ですね……」
「――え、うえぇぇぇッ!?」
あまりに恥ずかしい状況報告で真っ赤になった顔を両手で覆い隠す。その姿は“ザンネン系”だとばかり思っていた彼女の評価を“メッチャ可愛い”まで引き上げてしまうほどの破壊力。あまりにも可愛らしい仕草とカミングアウトに悠理も赤面してしまう。
――確かに、さっき倒れた時は右足が地面に着いた瞬間だったが、まさか“廣瀬流・足洗い拷問”にそこまでの効力があったとは……唯のマッサージのはずなのに……。
「――おい、テメェ、確かこの手紙だとミスターって名乗ってるらしいな? 俺様の所有物に手ぇ出した落とし前、つけてもらおうか、あぁん?」
さっき得たばっかりの信用はこの件の所為でパーになったらしい。セレイナの表情が最初以上に怖くなっているのがその証拠。
「――それは一先ず置いといて……、ヨーハさんは俺が運んでいくよ――――お姫様抱っこで」
あまり保留するのも良くない事だと思うのだが、こんな所で時間を食っている訳にも行かない。
ちなみにお姫様だっこを選択したのは、おんぶだと右足を直接鷲掴みにしてしまうからで他意はなかったのだ。
しかし、乙女はそう言う発言には敏感なものであるからして……。
「えぇっ!? ちょ、ちょっと待ってください! 流石のヨーハもお姫様抱っこと言うのは恥ずかしくてですね、こう言うのは愛し合う二人がやってこそだと思うのですよ!! あ、け、決して貴方に魅力を感じないと言う訳ではなくてっ、むしろさっきの足責めで虜にされてしまったと言いますか! もう身体は貴方に逆らえないかな――なーんて! でもですよ、だからと言って心まで易々と受け渡すのは淑女としてどうかと――――」
お姫様抱っこと言うのはどの世界においても共通言語にして乙女の憧れ。
ヨーハは照れたり、ニヤニヤしながらマシンガンもかくやと言わんばかりに喋り捲っていた。
どうやら満更でもなさそうなのだが――――さてどうしたものやら……。
「――面倒くせぇ……、やっていいぞ?」
「あいよー」
意外にも主人であるセレイナから許可が降りて(本当に面倒くさくなっただけだと思うが)、悠理もそれに従うのが得策と思ったのかヨーハをそのまま抱き上げる。
「あ、あぁぁぁぁぁぁんっ♪」
――――テントには何とも言えない艶やかで嬉しそうな悲鳴が響いたそうな……。
次回、テントを出たらそこは敵地でした!




