《4の国》のある会社の課長さんと職業旅人のお話
その後の課長さんです。
近くて遠い4つの世界のお話
世界の始まりはスープ皿に満たされた粘度のある命の水
天から落ちた滴りが水面を押し出し、それは王冠へ、王冠から神へと変化し
波紋は大地となった
波紋から成った大地は、大きな大きな輪の形をしていて
それを四柱の王冠の女神達が、それぞれ守護している
これはそんな世界の《4の国》の話
欲と機械の国、科学が発達した国
仕組みを理解できずとも使える”力”に溺れるかもしれない、危うい国
ある会社に勤める課長さんは敏腕女課長さんだが、男運が無いのが玉に瑕。部下であり友人でもある主任さんと、同期の専務との仲を取り持ったお礼に、専務の叔父を紹介されてしまう事となった。
しかしその叔父とは……
「いやぁ、まさか『職業旅人』と会う事になるとは……」
課長さんはトボトボ歩く、晴れ着を着て。ついて来たのは主任さん。これ完全にお見合いじゃ?と課長さんは思いつつ、2人は豪華ホテルに向かっていた。BGMはドナドナっぽい……と思いながら。
「義叔父さんは、私も何回か会ったことありますよ。とても穏やかで優しい……住所不定な、旅人だそうです」
「家もないのか……、専務んちは金持ちだろう?叔父っていう事は社長の弟だろう?会長の息子だろう?」
「そうですけど、確か課長の5こ上くらいだったとおもいますよ」
「若いな、会長!!」
孫より5こ上の息子ってスゲェ、パネェ、と思う課長さん。実際は社長が早婚だったと聞くと、課長さんは荒ぶった。しかし、会長(当時40代後半)が『職業旅人』を仕込んだ時、会長夫人(当時30代後半)も荒ぶったのだ
……何するんだ、このエロジジイ!!と。普段仲の良い夫婦なだけに、荒れ様は半端ではなかった。当時、社長(当時20代前半)お付き合いしていた現在の社長夫人(当時10代後半)との結婚のあいさつを、1年程見送ったほど会長夫人は荒ぶったのは今でも伝説となっていた。
とうとうお見合い会場へと到着してしまった課長さん、豪華ホテルのレストランにはすでに専務が待っていた。しかし例の『職業旅人』はまだのようだった。旅の途中なんだろうと思いつつ、専務の傍までトボトボと歩いて行った。
「俺の天使、可愛い服だね。とても似合っている……惚れ直すよ」
「専務君、お世辞でも今日の主役を褒めろよ。嫁は家に帰ってから存分に褒めろ!!」
専務の前に座る主任さんの手を取り、親指ですりすりと触りまくる。主任さんは慣れているのか、ほぼ無視でやりたいようにさせていた。変な夫婦である。
課長さんはドスリと主役席に座ると、駆けつけ一杯とばかりに飲み物を頼む。さすがに酒ではなく紅茶を。通常運転の専務を見て少々緊張が解けたようで、相手も来ていないのにメニューを吟味。フルーツたっぷりのミルフィーユにフォンダンショコラにナポレオンパイの3種類のケーキを頼み(専務のおごりである)、『職業旅人』の事を聞く。
「旅人はどうした?放浪中か?」
「まさか、ちゃんと来ているよ」
「……私には全然見えないが、透明人間か?」
専務の隣の空いている椅子をガン見する課長さん。目を眇めても、ごしごしとこすって見ても、瞬きしても空席だ。
課長さんの隣で同じようにぱちぱちと瞬きをした後、空席をガン見する主任さんを、とろけきった微笑みで見る専務にドン引きしながら待っていると、レストランはざわめきに包まれる。恐らく支配人と思われる紳士が、本日のサプライズゲストですと紹介すると若い演奏家がヴァイオリンを持って入店してきた。
演奏家は、これまた店内にあったグランドピアノの前でお辞儀をし、課長さんには解らなかったが、ムーディー(?)な曲を奏でだした。店内は上品な空気に包まれ、甘い曲調は課長さんの心に……
「CMの曲か?」
あまり、響かなかった。
謎のサプライズゲストは、一旦下がって再びレストランへ来て課長さんの前に座る。
「紹介しよう、『職業旅人』こと俺の叔父だ」
「叔父です、初めまして」
「名前を言えよ、……じゃなくて言ってください」
「紹介しますね、課長さんです」
「いや、名前言いましょうよ……」
こうしてやっと見合いが始まった。
のだが
「どうです、北の外国は。ベタでしょう?」
「ベタですね。菓子ウマ~!!」
気が付くと2人で旅行中だった。
正しくは、『職業旅人』の演奏旅行に連れていかれた上に、出張中。半分お仕事中の課長さん。1日目海外支所へ行って、2日目昼『職業旅人』に連れまわされ、夜仕事先のパーティーに出席した後、3日目『職業旅人』の演奏会に連れていかれる……『職業旅人』は結構有名な演奏家だったらしい。
「演奏家だって言えばいいではないですか……」
「僕的には旅人なんだよ、外国にばかり行っているからね。ほら、素敵だろう?王冠の生誕祭マーケットだよ」
「ベタですね、でも綺麗です」
「さて夕飯は豪華にホテルディナーと洒落込みましょう!!」
「割り勘ですよね?安いところにしましょう」
「おごります、演奏会をやった劇場の支配人が!!」
「うわぁ、公私混同だぁ!!」
ズルズルと引っ張られてご相伴にあずかる課長さんだった。
4日目またもや手をズルズルと引っ張っていかれる課長さん。いままで自分が引っ張ってばかりだったから、男と長く続かなかったのだろうか……?少しセンチな気分で『職業旅人』の後を付いていった。
「年末は中の外国へ行くのだけど、一緒に行かないかな?カウントダウンが見られるよ?」
「カウントダウンはコタツで蕎麦がいいですよ」
「じゃあ、年末は帰るとするかぁ~。取りあえず電車で隣の都市へ向かうよ!!」
「飛行機にしましょうよ!!時間がかかりますって!!」
そんな風に話ながらズルズルと引っ張られ過ぎながら寝台特急へ連れ込まれた5日目
「そろそろ寝ようか?」
「うっわぁ~、飲ませるだけ飲ませて酔わせて流れで致そうって言う魂胆だな、旅人めぇ……ひっく」
列車内バーで飲みまくり、ツインの部屋でさらに飲みまくった2人は、なだれ込むようにベッドへ沈む。生娘ならば恥じらいがあるかもしれない浪漫な場面で、課長さんはムード台無しなセリフを吐く。ばたばたと暴れる課長さんをあっさり押さえつけ、イイ笑顔で『職業旅人』は微笑む。
「飛行機じゃあできないからね……いや、頑張れば……」
「言っておきますけど、私にも羞恥心ってモンは残っている訳ですよ。飛行機は無いわ!!ひっく!!」
「本当にお酒強いよね……、さて体の相性はどうかなぁ?」
「しかたないなぁ~、避妊はしてくらさいよ~。おっしゃ、こ~い!!久々だ~、ひっく!!」
グダグダのまま、ベッドの上で(性的に)戯れていた。
6日目隣の都市で有名な一杯飲み屋をはしごして、7日目帰ると言った課長さんを『職業旅人』は(性的な)寝技で引き留め、8日目専務から有給のお知らせと追加の仕事が言い渡された課長さん。
『そのまま南の外国の鉱山まで行って、採掘権を……』
「ちょっと待て専務君、私はしがない課長だぞ?そんな凄い商談任せちゃっていいのか?」
『商談はすんでいるから、ブツの確認と発送を見届けてくれ。婚約と結婚指輪に使うのだから、きっちり見極めてくれよ』
「思いっきり私用かよッ!!」
飛行機の電子切符を受信し、南の外国へ飛ぶ。さすがにおとなしく飛行機に乗る課長さんと『職業旅人』。9日目、宝石を扱う商人と面会しドン引く程の宝石を目にしたり発送したり。これで国に帰れると思ったら、10日目主任さんから電話がかかってきた。
『課長様!!今、南の外国にいるんですよね?お菓子とお酒を買ってきてください!!』
「あ~、別にいいけど。これから空港行くから、お土産物屋で……」
『ついでに、そっちの支店がトラブっているようなので、現地の様子を見てきてください!!』
「え。そっちがついでなのか!?」
慌てて飛行機をキャンセルして支店へ向かう。そして何故か『職業旅人』も一緒だ、一体いつまで付いてくる気なんだと思いながらも課長さん、キビキビと状況把握、本社の専務に連絡を付けながらの調整して解決した。
夕日が沈む川沿いを歩きながら、本日の宿泊ホテルへと向かう。
「大ごとにならないでよかったね」
「おかげさまで。だがしかし1つ心残りが……」
「なんだい?」
「折角会長の息子がいたのだから、『このお方をどなたと心得る!!先の社長の息子さまであるぞ!!』とか言ってみたかったですね……残念」
「……南の外国では通じません。それに息子だけど、会社にはノータッチの住所不定な『職業旅人』だし」
そんな風に11日目は過ぎていった。
12日目、さすがに帰って来いよと言う理不尽な専務に憤慨しながら、飛行機のチケットを検索すると、年末の為空きがないと言う結果。仕方なくお高い寝台特急で帰ることとなったのだが、課長さんはすっかり忘れていた……前回の教訓を全く生かせないまま、『職業旅人』に酔わされて跨がれて(性的に)攻められながら
「課長さん、イかせてほしかったら婚姻届けにサインと血判をして?」
「うわぁ~、どこかで聞いたセリフッ!!いや、ちょっと、まって、うひゃぁ、あぁぁ……」
イく手前で焦らされまくり、震える手で婚姻届けにサインをしながら
(くっそ、アイツの入れ知恵だなぁ!!)
とまたもや専務に憤慨する課長さんだが、元はと言えば主任さんを手っ取り早く落とすために専務をそうけしかけたのは自分だった。因果応報。
そして
「年末はコタツで蕎麦で、歌合戦だねぇ」
「今はザッピングの時代ですよ、笑わない番組と100大ニュースを交互に見ますよ、そしてたまに歌合戦」
「100大ニュースって、多すぎない?」
「多いですねぇ」
課長さんの家に『職業旅人』が住み着いていた。家がないためひとまず課長さんの家にいるだけで、ヒモではないと思いたい……多分。コタツで蕎麦をすすりつつ、あっという間にできてしまった夫を、素直に喜べない課長さんだった。
課長さん、振り回されています。年上自由人には、かなわなかったようです(苦笑)。執筆中、思わずクリスマスマーケットと打ってしまって、あ、この世界は異世界の女神様の国だったわ~と訂正。
読んでくださってありがとうございます。