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私だけ  作者: snowman
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最後のページ

 

 新しいお店は人気のカフェで、スタッフも皆同年代だった。

職場の雰囲気もガラリと変わり、仲の良い男友達も出来ていた。

それでも私は彼を忘れられずに時間ばかり流れていた。


 そんな中、店長から「社員にならない?」と言われた。

いきなりだったし、私は社員になることに少し怯えていた。

「また体中に蕁麻疹が出来てしまったらどうしよう」

「今度は失敗出来ない」

そんなことばかり考えて足踏みしていた。

悩んでいればいるほど彼に会いたくなった。

あの電話から半年。

一切連絡は取らずにきた彼に、電話をしようと決めた。

社員になることが決まったと報告しよう。

そしたらもう彼と働きたいとか、そんな願望も捨てられる。

新しい職場で働いて半年。

バイトという立場から、彼の店に行ってしまえるという淡い期待を捨てきれずに此処まできてしまっていた。

「もしもし?ミノリかぁ〜どした?」

久しぶりに聞いた電話越しの彼の声。

「お久しぶりです。あのですね...今のバイト先で社員になることが決まって、高井さんにはちゃんと報告したくて。。」

少し緊張で声が震えてしまったように思う。

「そっかぁ…おめでとぉ。じゃあ今度飲みにでも行くか」

思いもしなかった誘いは、私の心をフラリと呑み込み約束を交わしてしまう。


 もうすぐ誕生日が近い彼に、プレゼントを買おうなどと考えていた。

バカみたいに私の決心など消え去ってしまっていた。

職場で仲の良い男友達を誘い、プレゼントを選びに行った。

そして言われた。

「どうなりたいの?」

その時やっと正気を取り戻した気がした。



 そして当日を迎えた。これで最後と心に決めて。


 彼の仕事終わり時間に合わせて、私は半年ぶりに銀座の街に着いた。

久しぶりに見る彼のコックコート姿に苦しくなって、口元が緩む。

「お久しぶりです。」

きっと私は今恥ずかしいくらい幸せそうに笑っているのだろう。


 仕事を終えて着替えを済ませた彼と銀座の街を歩く。

そしてプレゼントを手渡す。

「もうすぐ誕生日ですよね。プレゼント良かったら使ってください」

さんざん友達を連れまわして、やっとのことで決めた。

出来るだけ持ち歩いてもらえるもの。

アクセサリーだと重い気がしたし、彼は荷物は殆ど持たない人だった。

渡すとすぐに

「お前覚えてたの?開けていい?」

と紙袋を開けだした。中身はシルバーのジッポ。

すぐに使って欲しくて、オイルも買ってお店のお兄さんに入れてもらっていた。

そのことを伝えると、彼はお店に着いてすぐに私のあげたジッポを使ってくれた。

話す内容といえば、仕事の話・怪我の具合・最近気に入っている子の話・・・

そんなもの。

気に入っている子の話を聞くのは初めてでは無いけど、その立場に自分はなれないのだと思うと悲しかった。

そんな話の中「お前にとって俺ってどんな存在なの?」と聞かれた。

言葉に詰まってしまったが、変に間が空いてはバレてしまうかもしれない。

「えぇっと、歳の離れたお兄ちゃんみたいな感じですかね」

となんとか引き攣った笑顔で答えた。



 終電間際で、そろそろお別れの時間。

もう来ることもないであろう銀座の街を二人並んで歩いた。

少し会話が止まったその時。

私は口を開いてしまった。。

「今日は、高井さんに会うの最後しようと思って来たんです」

半年も連絡を取っていなかったのに、私はそんなことを言い出した。

「なんで?なんかあったんか?」

と不思議そうに答える彼に私は続ける。

「ずーっとね。好きだったんです。でもね、高井さん言ったら気を使って私に何か返さなきゃって思うでしょう?だから言えなかった。。」

彼は黙ったまま聞いていた。

「半年も経って新しい生活を送っているのに、ちっとも気持ちを新しくは出来なくて。だからね、すごく自分勝手なことしてる。伝えるだけ。これで最後。本当にね、大好きです高井さん。。」

少しの沈黙。

黙ったままだった彼が、私の手を引き抱きしめた。

「お前なぁ。俺がどれだけ我慢してきたと思ってるんだよ。。始めて会った時から危ないと思ってたんだ。

 あんまりにも無防備に笑顔を向けてくるから、俺なんかが手出したらお前を汚しちまうだろ」

そう一緒に働いていた時に話していた。

私は誰とも付き合ったことが無いこと。

「高井さんも私のこと好き・・・なの?」

静かに涙が流れてきた。

「あぁ・・・胸が潰れるくらい」

彼の声が震えていた。

「一緒ですね。。」

「そうだな。。」

泣きながら笑う。

そして私は続けた。

「それじゃあ…もし生まれ変わって、また私が女の子で高井さんが男の子だったら...彼女にしてくださいね…」


 両思いだったとしても、この別れは決まっていた。

来世に夢を託すしか私には術がなかった。

「おぅ。そのかわり巨乳で生まれて来いよ」

と言って、彼は私のオデコに小さくキスをした。

見つめ合い笑いながらも零れる涙。

彼の少し困ったように笑う笑顔が大好きだった。



 叶いはしなかった・・・


 それでもこんなに人を好きになることが出来たことを嬉しく思う。


 きっと彼に出会わなければ、知らずに終わっていただろう。


 無理やり結ばれることも可能だったかもしれない。


 お互いがお互いを大切に想ったから決めた別れ・・・


 次に合う時の為にとっておいた唇へのキスを、来世へ託して。


 私は新しい世界に踏み出す。


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