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私だけ  作者: snowman
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4ページ目

 

 それは突然。

あまりにも突然過ぎてなかなか受け入れられなかった事実。



 いつも通りの金曜日。

今日も一緒に仕事をして、新しい職場に移ることへの不安や行きたくないことを話そうと思っていた。

そんな仕込み中に急に電話が入った。

昨日の夜、バイクで事故にあったという。

忙しい金曜日の仕込み中。

上手く状況を飲み込めなくて、私はただただ手を動かし続けるしかなかった。



 命には別状はないが、仕事に復帰出来るかは分からない状態だった。

本当にもう会えなくなると思った。

恐くなって、仕事をしている以外の時間が苦しかった。仕事をしていても頭の中には彼がいた。

このままでは居られない。

休日朝起きて、衝動的にお見舞いに行くことにした。

実家に帰ろうと思っていたけど、もうそんなことは二の次だった。

駅の近くのデパートでプリンを手土産に買い、病院に向かう。

足を進めるスピードより心は先走る、彼の顔を見て安心したかった。

着いた病院の大きさに戸惑いながらも急ぎ足で向かう。

受付で病室の場所を聞き廊下を歩いていると、正面から少しだけやつれた彼が歩いて来た。

私を見て驚いた顔をして

「どうしたんだよ」

と言って戸惑った顔をして、その後小さく微笑んだ。

「お見舞いに来たんですよ」

と私は少しだけ泣きそうに笑った。


 そして談話室のような所に行き話し始めた。

事故までの経緯や怪我の具合・私の仕事の話。30分などあっという間過ぎていた。

時間のことなど忘れたように、私は彼しか見ていなかった。


 そこに現れてしまった。

一生会うことなど無いと思っていた相手。彼のパートナーと、その人との可愛い分身。

驚き・悲しみ・恐怖・・・

いろんな感情が一気に押し寄せて、私の時間は一瞬止まった。

「あぁ、来たんだ。嫁さんと息子。

 この子はいつも話してたミノリだよ」

奥さんは私の存在を知っていた。彼は「可愛がっている奴が居る」と話していたらしい。

其処から一刻も早く逃げ出したかった。

それでも、苦しくて痛くて仕方ない気持ちを押し殺して

「いつも高井さんにお世話になっております」

と声を絞り出した。

「こちらこそお世話になってます」


まさか奥さんに私の話をしていたなんて...


本当に私は彼にとって女では無かった。。



 パキッ・・・



何かが私の中で折れてしまった。



 その日を境に、私は見事なまでにボロボロと壊れ始めた。

精神状態からくるものなのか、体中に蕁麻疹のようなものが出てまったく下がらない微熱。

仕事を休むことは出来ない為、病院にもなかなか行けない。

顔中にまで出た蕁麻疹が、女として生きることを否定されているように感じて、どんどんと暗い底へと沈んで逝った。

やっと行くことが出来た病院でも、原因は分からず薬すら貰えなかった。

追い詰められることに終着点が見えなくて、家に帰り布団に入っても眠ることも出来ず涙を流すことしか出来なかった。


 そして、私が今の店で働く最後の日。

来週から違う店に移動することは決まっていた。

彼が私の店に挨拶に来た。

事故にあったことで、うちの店にも迷惑をかけたという詫びをいれに。

しかも、奥様と二人で・・・

チーフは表に出て二人と話をしていたが、私はキッチンから一歩も出ずに仕込みを続けた。

こんな顔を見られたくなかったし、二人が並んでいるところなど見られる程心に余裕など無かった。

キッチンまで私の顔を見に来た彼と目も合わせず、仕込みを忙しそうにし続けた。


 どうせならこのまま消えてしまいたい。


 もう浮き上がれないところまで、私は沈んでいた。


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