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彼の行動すべて、私の想いを強くするようなことばかりに思える。
誕生日が迫った金曜日。
「来週の月曜日。誕生日なんですよ〜」
と冗談交じりで彼に伝えると
「なんだ催促か?俺小遣い少ないから物なんてやれねぇぞ?」
とその場はサラリと流れた。
お小遣いが少ないのは知っていた。
バイクが大好きな彼は、維持費の為にうちの店にバイトとして手伝いに来ていたくらい。
自分の店ではチーフとして頭に立っているにも関わらず、うちの店に来ている時は
「俺はあくまでバイトでお前が社員なんだから、仕込みでも何でも俺に指示しろ」
と言って決して偉そうな態度をとったことなど無かった。
そんな態度が、余計彼を頼れる存在にしていた。
そして私の誕生日当日。
当然私は仕事で、月曜日だから彼に会うことは無いと思っていた。
開店前の午後4時。
仕込みや皆の賄いを作っている中に彼が現れた。
休憩中にわざわざ来てくれた彼の手には白い箱。
「何か買ったりしてやれねぇけど」
と言って手渡されたのは大きなバースデーケーキ。
当日の朝、早く出勤して自分の店で作ってきてくれたそうだ。
真っ白なケーキの真ん中に、私の名前とhappy birthday という文字。
胸が一杯になって、この気持ちをどう伝えていいか分からなくて
「凄く凄く嬉しいです。ありがとうございます」
とのぼせ上がったように言う事しか出来なかった。
仕事も終わり、一人の帰り道。
始めて過ごす一人きりの誕生日もちっとも淋しくなくて、彼が作ってくれたケーキをゆっくりゆっくり味わった。
この時感じた。もう止めよう。
好きなら好きでいい。
どうせならこのまま一生片思いでも構わない。
想い合うことは出来なくても、好きでいることは許されるはず。
それがどんなに切ないことか。
私は、底の見えない湖に沈んで往くことの辛さを分かってはいなかった。