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友人の意見を参考にする。

「キスで合うとか合わないとか、分かるモン?」


私の唐突な質問に、目の前に座る桂子は

飲んでいたジュースを吹き出しそうになり

咳き込んだ。


「ちょっ…なにその質問。」


イキナリやめてよーと笑いながら

桂子はタオルで口元を押さえる。


桂子は、付き合いこそ浅いが

物凄く気の合う友達で。

2年の時に仲良くなってからずっと

学校ではもちろん、部活のない放課後など

よく一緒につるんでいた。


私が部活を引退してから

より遊ぶ回数が増えた。


優子や直子、バスケ軍団から距離を置けたのも、桂子たちがいてくれたからだ。


どちらかというと、こっちにいるほうが

気が安らぐ。

ありのままの自分が出せる。


優子たち居るのも楽しいけど

最近は

どうしても『何か』ーーー

居心地の悪さとでもいうか

噛み合わない歯車の一部のような

もどかしい気持ちを持て余す。


「うーん、もちろん私の話じゃないんだけど。ちょっと聞いてさ、そんなモンなのかなぁと。」


放課後。

野々村の話が耳について離れないので

桂子に聞いてみる事にした。


彼女は部活も入っていないので

つかまえやすい。

帰宅する時間も惜しんで

直接、桂子の家に寄った。


そこで座るなりこの質問。

出されたジュースを飲む前につい聞いてしまった。


「まぁ、とりあえず飲みなよ……で、誰の話よそれ?」

私はジュースを一口飲んで、首を軽く横に振った。

「いやちょっとそこは触れないで欲しいトコ。」


桂子はかなり怪しんでいるが、まぁいいわと

それ以上は突っ込んでこなかった。


「……うーん、私としては納得かなぁ。」

桂子は少し宙を見て考えながら、そう答えた。

「そんなモンなの?」

私には分からない話だ。

素直に聞くしかない。


桂子は、物凄くモテる。


……なんだか私の周りはこんなのばっかりだ。


だけど、桂子の隣にいても

卑屈にはならない。

自分が彼女の引き立て役だとも思わない。


彼女は飾り気もなく、とっても気さくで

「キュート」という言葉が当てはまる。

私でも桂子の側にいると楽しいと思うし、

男子が退屈しないのも、分かる。

優子や直子とはまた違う、魅力があるのだ。



だから

この手の話は素直に聞きやすい。



「なんだろう、めっちゃカッコいい人とキスしてもさ。あれ、何か違うって思う事があるのよ。」


カッコいい人とキスできるだけで

私はもう充分じゃないかと思ってしまうが

どうやらそうではないらしい。


「……気持ちの問題?」


「そうなるんだろうねぇ。カッコいいって思うのと、好きは違うでしょ。」

「でもさ、好きだからカッコ良く見えたりするもんじゃないの?」

「いやそれはそうなんだけど……」


桂子は苦笑して。

「要は、好きって気持ちから入るのか、単なる興味だけで好きになったつもりになるか、って感じよ」


つもり。


うーん難しい。


「こればっかりは経験しないと分からないよー」

「だよね……残念。」


「そんな経験、しないほうがいいよ。悲しいじゃん。」

「そだね、どっちも悲しいのかなぁ。」

「……多分、どっちも悲しいよ。私は興味本位で踏み込んで後悔したってだけ。」


なるほど。


今の桂子の言葉。

野々村の雰囲気と重なった。


多分、そうなんだ。



「ありがと。なんか分かった気がする」

私は桂子の目を見た。

桂子はふふ、と笑って。

「ところで!みやちゃんはどうなのよー?私が思うに、その話、みやちゃんの片思い中の人の話でしょ」


ドキ。

なんて勘のいい子だ。


桂子も同じクラスなんだから

バレる訳にはいかない。

気まずいったらありゃしない。


ごめん、桂子。


「違うってば。あー私もいい人できないかなー」

サラッと流して。

私は桂子の部屋で漫画を物色した。



その後、なんとなく気になった漫画を数冊まとめて借りて。

家に帰った。




夜、ベッドに入って

借りた本を読もうにも

野々村の事が頭から離れない。

どうしたものか。


何、動揺してんだ私。



野々村と直子は付き合ってたんだから

キスするとか当たり前じゃん。


何、勝手に傷ついた感じになってるんだ私。



それで分かるモンなの?

好きとか、そうじゃないとか。

それまでに分からないの?


不思議。


好きだからそうするんだと思ってた。

違うのかな。



野々村は、どう思って

直子とそうしたんだろう。


やっぱ可愛いから、かな。



漫画のページがめくれない。

さっきからずっと同じ所を読んでる。

でも、全然頭に入ってこない。




私も。

可愛かったら

よかったのに、な。



今更。

何を考えてるんだ私。




野々村は絶対

私なんて見てやしない。



だから、毎日あんなくだらない事をやりとりできるんだ。

だから、平気で直子と別れた理由とか言うんだ。



勘違い、しない。

私は、野々村の眼中になんか、ない。



分かっているのに。

そう思えば思うほど。


くるしくなるのは、どうしてなんだろう。




気付かなきゃよかった。



こんな気持ち。

野々村の存在。

直子の気持ち。



何にも、知らなかったら

もっと楽しかったかも。


本当に?




分からない。




あの時

『乗れよ』

自転車の後ろ。


乗ってたら、どうなってたんだろう。



私は。

直子は。





そんな事、

今更考えたってしょうがない。


なのに。



ぐるぐると頭の中を渦巻いている。



夜は、長い。

もう、忘れて寝てしまいたいのに

眠れそうも、ない。



ずっと、答えのない問題と

モヤモヤを持て余して。



けれど。

不思議なもので

いつの間にか寝てしまって。


朝、起きたら

身体はダルさを残しているものの、

何故か気分はスッキリしていた。


私がどうこう悩む問題じゃない。

そう割り切った。

朝日のチカラって凄い。



だから今日も、

平気な顔して学校に行く。



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