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期待はしない。

翌日。

まだ、馴れない3年の教室。


覚えられない、新しいクラスのメンバー。


教室に足を踏み入れる時。少しだけ緊張する。

だけど今朝は。


「よー、みやのっち。おはよー!」

出た。


野々村、だ。


「……お、はよ」

今まで知らなかった人物に突然声をかけられると、びっくりする。


「んだよー何ビックリしてんだよー昨日会ったトコじゃん」

「そうだけど……」


私の中では、昨日が『初対面』だ。

コイツの中ではどうなのか知らないが。


とにかく馴れ馴れしい。

イケメンなのに残念だなコイツ。


私の肩をポンポンと叩き、それだけ挨拶すると

友達の所へ行ってしまった。



何なんだ全く。



もちろん、いつもの仲良しの友達に

「何なに?突然どうしたの?野々村と何かあった?」

などと詮索されたのは言うまでもない。


何もないってば。


「……偶然会っただけーしかも私の後ろには可愛い優子ちゃんと海原さんが居たし」

ノンノン、と手を振って、溜息まじりに説明する。

「なーるほど」

友達も頷く。


そりゃそうでしょ。


私に話しかける目的なんて決まってるじゃん。



分かっているけど

それがまた何となく居心地の悪い気分になる。



それから。

アイツーーーー野々村は

事あるごとに私に話しかけてきた。


「みやのっちーノート見せてー」

「なんで」

「オレさっきの授業、寝てた。」

「そんなバカに見せるノートはないっ」

「マージーでー?なぁー見せてくれよー」

「私の真面目な時間をタダで人にはやらん!」


「みやのっちー」

「今度は何」

「シャーペンの芯、ちょうだい」

「はぁ?」

「なくなったんだよーだから、ちょうだい」

「もー仕方ないなぁ」


「みやのっち。」

「もう!次は何さ!」

「……なぜそんなに怒る」

「別に。で、何?」

「呼んだだけ」


「みや…」

「何」

「反応、早」

「誰のせいだよ」

「一緒に帰ろうよ」


は?

今、何と申しました?


「どういう意味?」

眉間にシワを寄せて、確認する。

「今日。部活ねーだろ?」


確かに。

今日から一週間ほど、学校の都合で

部活はできない。

新学期は先生も忙しいのだ。


「だーかーらっ、皆で帰るべ」

野々村はそう言って、自分のカバンを引っ掴んで。

ついでに私のカバンもパクって

教室を出た。


「あっ、ちょっと待ってよ」

仲のいい友達と、放課後遊ぶ約束だけサクッと済ませて。

私はアイツの背中を追った。



野々村は、サクサクと廊下を歩く。

向かった先は、『3−8』と札のかかった教室。


ちなみに、私と野々村は、『3−1』


廊下にズラリと教室が並んでいるので

端から端へと歩く事になる。


私が野々村に追いつき、ヤツの手元から

自分のカバンを取り返した時。

ちょうど8組もホームルームが終わった所だった。


「あっ、みやのっちぃー!」

優子が私を見つけて可愛く手を上げる。

私も手を振る。


部活がなくても

帰る方向が同じなので

私と優子はたいてい、一緒に帰る。


優子の側に、直子がいた。

直子も私に気付いて手を振る。


昨日ハジメマシテってしたけど

これは仲良くなれそうだ。

そんな親近感を持った。


美人さんと仲良くなれるのは

男子じゃなくても嬉しいモンで。

この際自分の事はスルーしておく。


直子も帰宅方向は同じ。

今日は生徒会の活動もないらしい。

だから一緒に帰ろうと言う事で。


二人が廊下に出たタイミングで

隣のクラス『3−7』から、陽子が顔を出した。


「わお!グッドタイミーング♫」

陽子はチャームポイントの八重歯を覗かせて、ニッコリ笑った。


というワケで。

4人で玄関へ向かう。

その後ろ。


「今日この後どーするべー」

「オレんちでゲーム」

「何?新しいソフト買った?」

「今から買いに行く」

「っしゃ。つき合うか」


男子の声。

特別デカイ声で聞こえてくるのはもちろん

野々村の、声。


アイツ、背高いからか

声が通るんだよな。

煩い。


後ろだけは振り向かん。

そう思って。

ひたすら女子との会話に話をはずませ、校門を出た。


あのバスケ部メンバーも

家の方向は同じワケで。


野々村の「一緒に帰るべ」は

自然な流れと、なる。


私達がキャッキャと話しながら歩く後ろで、

グダグダと話をして男子共は歩いている。


他にも生徒はいるので、

ごく当たり前の、下校風景。

まぁ、部活が休みの間だけの

平和な日々とでも言うのだろうか。



数メートル歩いた所で

「おっ、ゴミ捨て場にチャリ発見!」

「マジ?」

「ホレ、2台あるべ」

「やったー」


何の話?と、頭の片隅で気にしながらも

振り向いたら負けだ。

巻き込まれる。


と、思って。

振り向かなかった。



そしてその間にチラッと小耳に挟んだのが。

「直子、野々村の事が好きなんだってさ」

という優子の声。


なーるーほーどー

私は頷いた。


昨日のテンションの高さは、何かあるとは思った。

いくらイケメン軍団と話せたからって

あそこまで喜ばんだろうと思っていたからだ。


「だからね、みやのっちに感謝してるんだって」

へ?

私は直子を見た。

彼女は頬を赤らめて、嬉しそうに

そして後ろに聞こえないようにそっと、話す。


「いつも話すキッカケがなかったんだけど、みやのっちのおかげでちょっと話せたし。

今日もこうして一緒に帰れるし。ホント嬉しいの。ありがとう」


そう言う彼女は、とっても可愛い。

美人だし可愛いし何これ。

羨ましい。


一緒に帰れるだけで嬉しいとか

乙女だね。

いいね。

と、彼女を可愛く思ったと同時に。

何かちょっと心がキュッとなった。


私の、おかげ

なのかな。


確かに野々村は、やけに私に絡んでくる。

意味が分からん。

でも、そのおかげで。

彼女が喜んでるのなら。

まぁそれも役に立ってるのか。


感謝されて、悪い気はしない。

だけど。


なんだろう。この胸のモヤモヤ。



落ち着け、私。

私は彼女ほど、美人じゃないし可愛くもない。

だから。何も期待しない。されない。

だからこうして

人の役に立てるなら本望じゃないか。


さぁ、自分の立場を思い出せ。




頭の片隅で、正体不明のモヤモヤを打ち消した時。

後ろから声がした。

油断して振り向いてしまった。


「おーいっ、乗れよー」

見ると後ろから、自転車に乗った男子が二名。


宮迫と野々村、だ。

「はぁ?何それ!」


もしかして、それ。

「そこのゴミ捨て場に放置されてた。だから乗ってきた」

おい。

いいのか、それ。


「まだ乗れるぜー乗れよー」

宮迫が優子の隣でスピードを緩めた。

「じゃ、乗るー」

優子はサッと、宮迫の後ろに飛び乗った。

上手い。


自転車の後輪の中心。ボルト部分に足をかけて

器用に後ろで立つ。


私には、できない。


優子は運動神経が良い。

身のこなしも、軽い。

私とは、正反対だ。


部活では、何とかそれをごまかせているけど

こういうのはダメだ。


そう思っている私の横で。

「みやのっち、乗れ」

野々村だ。

宮迫と同じように、スピードを緩めて乗れるようにしてくれる。


だけど。


「ヤだよ」

断ってしまった。


だって、私の隣には

直子がいる。


今、話を聞いてしまった所だ。

感謝された所、だ。


ここでホイホイ乗る訳には、いかんでしょ。


「いいから、乗れよ」

「いーやーだっ」

「何で」

「いいじゃん何でも」

「乗ってみ。オモシロイから」

「えー私重いし鈍いから絶対コケるし、いいよ。歩く。」

「黙って乗れって」


あまりにもしつこいので

野々村に耳打ちしてやった。


「私の隣に直子ちゃんいるっしょ。」

「だから何」

「気づけよバカ。オマエも少し気を使え」

「どーいう事だよ。訳分かんね」

「とにかく。私は重いから乗らん。女子乗せたけりゃ直子ちゃんをどうぞ」

「オレならオマエ乗せれるってば。……んだよせっかく乗せてやるってのに」


野々村はふてくされて、前へ行こうとした。

私はちょっと残念な気持ちを押し殺して。

直子の背中を押した。

「乗ってきなよ」

直子は私を見る。

気を使ってくれてるようだ。


遠慮?

そんなの、いらない。


「いいよ、私は乗れないから。直子行ってきなよ」

「でも……」

「野々村ー!直子ちゃん乗せろってば」

「はぁ?じゃ乗れよ」


ぶっきらぼうに野々村が言う。

直子はありがと、と私に小声で言って。

野々村の後ろへかけていった。


これで、いいんだ。

これで。


「……よかったの?」

陽子ちゃんが、そう聞いてきた。

何故そんな事を聞くのだろう。


「いいも何も。何もないって。」

私は笑った。

誤解されては、いけない。


私たちは、何もないから。


だって本当の事だし。



ちょっと、胃が痛くなった。

でも。

これで、いいんだ。


期待は、しない。




でも、この後。

正直なところ

あの時、あの後ろに乗っていたら。

どうなってたんだろうって

思う事になる。

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