報告
凌さんに結婚の承諾を貰えてから私の身も心も満たされて、毎日がフワフワと浮いたような軽やかさと、全ての物がキラキラと輝きを持って見えるようになっていた。
お父さんもお母さんも、おじ様もおば様も「おめでとう」と心から喜んで祝福してくれた。
義母になるおば様は「こんなに可愛い遥香ちゃんが私達の娘になるなんて・・何て幸せなことなの」と私をギュッと抱きしめてくれて。
おじ様もニコニコしながら「凌は幸せ者だな」と声をかけてくれた。さ
それが私も嬉しくて、大好きな人と結婚することがこんなにも幸せなんだって心から感じることができた。
そしてその喜びを大切な友人達にも伝えたくて、まずは一番仲のいい瑠璃ちゃんに連絡をとった。
「あのね、瑠璃ちゃん。凌さんとの結婚が決まったの!」
「えっ!嘘。この前ダメかもしれないって泣いていたじゃない」
瑠璃ちゃんは心底ビックリしているみたいで、それが携帯越しに伝わってくる。
そうだよね、お見合いの時はハッキリと拒絶されたことで焦って瑠璃ちゃんに泣きついたんだ。なんとかもう一度会って話を聞いてもらう約束をしたけど、どうしようか焦って落ち着かなくて。
「うん、あの時は落ち込んだけど、この前会った時に凌さんが結婚するって言ってくれたの」
「信じられない、だってかなり手強そうな人だったみたいじゃないの。遥香の許嫁って話なのに、どうしてよ!て思っていたんだから」
瑠璃ちゃんの戸惑いに、凌さんとの結婚の取引のことは話す事ができなかった。
自分でも分かっている・・話してしまったら喜んでもらえないって。
誰にも話せないけど、凌さんのそばにいられるなら、それでいいの。
どう話しても嘘になってしまうから、「えへへ」と笑ってごまかした。そんな私に、「でも大好きな人と結婚できるのだからお祝いしないとね。本当によかったね、遥香おめでとう」と笑顔でお祝いの言葉をくれた。
瑠璃ちゃんは幼稚舎の頃からの付き合いで、いつも凌さんの話を聞いてくれた大切な親友。
そしてひとしきり盛り上がった後、瑠璃ちゃんが「みんなにも報告しよう!」と言って連絡を取り始めた。
瑠璃ちゃんが連絡をしてくれたおかげで、学生時代にいつも一緒にいた6人で集まることができる。
予約したアクアダイニングのお店に仕事が終わり次第集合ということで、私は瑠璃ちゃんの就業時間に合わせて待ち合わせをしてお店に向かった。
「遥香ちゃん~!おめでとう!」
笑顔で抱きついてくれたのは祐実ちゃん。「ありがとう」と返すと、手をギュッと握って「幸せになってね!」と言ってくれて。
「遥香ちゃんさ~、本当に結婚するの?ショックだな~」
そう冗談ぽく悲しんで見せるのは真治くん。私が「うん!本当に結婚するの」と答えたら、真治くんは泣き真似をしながら私に抱きつこうとして、瑠璃ちゃんにパコンッと頭をぶたれてしまった。
「相原さん、幸せそうな顔だね」
そうスマートに爽やかな笑顔で言ってくれたのは、優馬くん。女の子の間ですごく人気があって紳士的な彼は、いつも優しく接してくれた。私が凌さんの話をした時はニコニコしながら聞いてくれて。瑠璃ちゃんが私の結婚の話を伝えてくれた後すぐに「おめでとう」って電話をくれた。
とりあえず私も瑠璃ちゃんもみんなに誘導されて席に着くと、並べられた料理に目が輝く。私が大好きなものばかり。そんな私に瑠璃ちゃんが笑顔を見せた。
「今日は遥香のお祝いだから、遥香の好きな物たくさん頼んであるわよ」
「みんな・・ありがとう」
胸がいっぱいになる位嬉しくて、涙腺が緩んでくる。
そんな私に「遥香~」「遥香ちゃん大丈夫か?」って心配そうに声をかけてくれたから、私も「う~」って顔をしかめて涙を堪えていると、この場の空気を壊すような声が割り込んできた。
「アホみたいな顔をしてどうした?」
そう言って私の前の席にドカッと座ったのは慶斗くんだ。仕事で少し遅れると言っていた彼は、めのまえで呆れた視線を私に向けてきた。その視線に私の涙も引っ込んでしまう。
「慶斗~お前来たそうそうそれはないだろう?」
真治くんがそう声をかけても慶斗くんは全く気にする様子はない。ネクタイを緩めながらこっちに
視線をよこす。
「それで?結婚するんだって?」
「うん!」
「お前が?笑えるな」
慶斗くんはグラスの水を一口飲んで、鼻を鳴らすように笑った。
「慶斗くんひどい!私だってちゃんと結婚できるもん!」
「バーカ、結婚できるもん!とか言ってる奴を笑って何が悪いんだ」
遥香が頬を膨らませて怒って見せても、慶斗はあしらうようにサラリと言葉を返す。
こんなやり取りは学生の頃もよくあった。
今日集まった6人の中で慶斗だけが大学受験で入学してきたのだが、真治や優馬と気が合い、遥香達も一緒に行動することが多かった。
真治や優馬とは雰囲気が違う慶斗だけど、浮き立たないクールさがみんなに違和感なく馴染んでいた。6人それぞれの個性が違い、それが上手く調和して居心地の良さを作る事ができていたようだ。
その中で、一番幼さを持つ遥香とクールな慶斗のやりとりを、4人は楽しんでいる機会もあった。
「まぁまぁその辺にして、とりあえず全員そろったのだからお祝いの乾杯しようよ」
優馬くんが冷やされたシャンパン手にして声をかけてくれる。そして栓を抜いて、6つのグラスに注ぐと瑠璃ちゃんがまず私に手渡してくれて、その後みんなにも手渡すと乾杯の準備が整った。
「おめでとう!遥香ちゃん!」
祐実ちゃんの掛け声に続いて、それぞれが「おめでとう」と祝福の賛辞をかけてくれてグラスを合わせた。
「ありがとう。ありがとう・・みんな・・」
みんなの気持ちが嬉しくて、笑顔だったその瞳からポロンと涙が落ちる。
「も~遥香ったら、嬉し涙は早いよ」
瑠璃ちゃんが私の涙をぬぐってくれたけど、一度流れた涙は止まらない。
「だって・・・っうれしくて・・。みんな優しいからぁ・・う~」
なんとか涙を堪えようと思って唇を噛んでも、震える唇は力が入らない。
私の結婚をこうしてみんなにお祝いしてもらえるなんて。本当にみんなの優しさが嬉しくて嬉しくて、こんなに全てが幸せでいいのかなって位に心がいっぱいになる。
「遥香ちゃんが幸せになって私も嬉しいよ」
祐実ちゃんが笑顔で言ってくれると、続いて真治くんも「そうだよ」と相槌を打ってくれて。優馬くんもうなづいてくれた。慶斗くんは・・シャンパンを飲んでる・・
そして瑠璃ちゃんが「しょうがないな~遥香は」と言いながら私の手にシャンパングラスを持たせてくれて、「おめでとう」と自分のグラスを少しだけ傾けた。
こんなみんなが大好き。凌さんも大好きだけど、同じようにみんなも大好き。
幸せな時間をみんなと過ごすことが出来て、胸が嬉しさでいっぱいになった。