表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋の温度  作者: 穂高胡桃
5/17

条件 ①

実質お断りされたお見合いから3日後、凌さんから連絡が来て、日曜日の午後2時、前回の同じ席で再会との運びとなった。


ーどうしたら凌さんが私を見てくれるのかな?ー


お母さんが言っていた通りに今回の対面で断られたら、本当に凌さんとの縁談の話は流れてしまうのかもしれない。今の時点で凌さんの答えは断る方向で固まっているみたいだし。

じゃあどうしたら凌さんの気持ちが変わるのだろう。

焦る気持ちと諦められない想いで、私の心はつぶれてしまいそう。

断られない方法・・・それって何なのだろう?と考え続けて約束の前日を迎えてしまった。

そして凌さんを想う気持ちしかない私には、1つの答えしか出すことしかできなかった。

自分の部屋から出てリビングへ往くとお父さんの姿はまだなく、お母さんが1人ティータイムを楽しんでいた。そんなお母さんの側まで往くと、柔らかい笑みを浮かべて私を迎えてくれる。


「遥香も一緒にどう?」


「うん、ありがとう」


私がそう答えて席に座ると、私の分のティーセットを用意してくれた。

目の前の紅茶を一口の飲んでからお母さんを見ると、微笑んで私を見ている瞳と視線が合った。

そして私が言葉を切り出す前に、イタズラっぽく微笑んで私に聞いてきた。


「どうしたの?明日のことが気になる?」


「うん・・気になる。明日だめだったら・・って考えると怖い」


今の素直な気落ちを口に出してみた。凌さんに伝わるように頑張ろうって気持ちと、だめかもしれないって気持ちがシーソーのように私の頭の中で揺れている。

そんな私の言葉にお母さんは小さく頷いた。


「そうね、遥香が凌さんを想う気持ちと同じ位今は不安もいっぱいよね?」


「うん」


「でも凌さんに自分の気持ちをもう一度伝えたいって気持ちの方がもっと大きいのでしょう?」


「うん」


その気持ちは確かなので大きく頷く。


「だったら今はいろんな事考えて頭悩まさないで、凌さんを想う気持ちのまま遥香らしくいけば大丈夫よ。お父さんもお母さんも一緒にいるんだから」


その言葉を聞いてハッとした。そうあれからずっと考えて、自分で出した答えを伝えにここへ来たことを今思い出した。

明日凌さんに断られない方法。これしかもう私の頭では考えることができなかった。

自由を求め、今付き合っている女性がいる凌さん。その凌さんのお嫁さんにどうしてもなりたい私。

『そしたらこの方法しかない!』もう一度頭の中で確認してからお母さんに言葉を返した。


「お母さん、明日凌さんと2人だけで会いたいの」


「えっ?」


お母さんは驚いた顔を見せて、言葉も途切れた。


「あのね、凌さんに私の気持ちをちゃんと伝えて、凌さんの気持ちもちゃんと聞きたいの。両親がいると凌さんも遠慮しちゃったりするかもしれないし」


そう伝えながら心臓がドキドキする。何故なら今お母さんに伝えていることは嘘だから。

私が明日やろうとしていることを両親に伝えることは避けたいから、なんとか思いつく言葉を並べる。

この前のことを考えれば、凌さんは今回両親達がいても遠慮せずハッキリ断ってくる。明日のことだって妥協して会ってくれる約束をしてくれただけなのだから。

だから明日は絶対に2人で会わなければいけない。


「2人きりで会うって・・遥香はそれで大丈夫?」


「うん、2人がいい」


こればかりは断言した。お母さんは暫く私の顔を見ていたけど、納得してくれたのか「わかったわ」と静かに言ってくれた。


「ありがとう」


安堵のため息が出る。とりあえず了承してもらえた。


「遥香がそう決めたならお母さんはいいわよ。お父さんにも伝えて凌さんのお宅に連絡してもらうわね」


「うん」


「でも遥香大丈夫?」


優しく私の心配をしてくれる。私の考えている事まで分かってはいないと思うけど、私がどれだけ不安を抱えているかは理解してくれている。私のことを心配してくれている事に胸が痛くなるけれど、その時できる精一杯の笑顔を見せてお母さんの気持ちに答える。


「うん、大丈夫」


私の言葉に心配そうな表情から安心した笑顔に変えて見せてくれた。

そうやって純粋に娘の言葉や笑顔を信じてくれるお母さんを見ていると、嘘をついていることが心苦しくなってしまって思わずつぶやいてしまった。


「ごめんね・・」


「ん?どうしたの?」


首を傾げて聞いてきたお母さんに、慌てて返す。


「ううん、何でもない。わがまま言ってごめんなさいってこと」


「ふふっ、そんなこと気にしないでいいのよ。余計なことは考えないで、いつもの遥香らしさを出して頑張ってらっしゃい」


そう言ってくれた。私も「うん、頑張る」と言いながら、声に出せない「ごめんなさい」をもう一度心の中で伝えた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ